ツインズ・リーフ   作:効果音

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融解

 あの日、星を見た。

 

 孤独だったあの場所で、自分を照らしてくれたのは優しくて薄暗いあの光だったから、その正体が知りたくて沢山調べた。

 名前が変わってしまったモノ、惑星として認められなかったモノ、星座になれなかったモノ。

 一つ一つ輝いているその星達の名前を忘れないように覚えた。

 

 だから、太陽は眩しくて焦がれて焦がされた。

 

(……また、同じ夢)

 

 ベッドの上で目を覚ました初華は重たい身体を起こして、カーテンを開いて日の光を浴びたると気持ちよく一日が始められる。

 

「よし、頑張ろう……!」

 

 自分に渇を入れて、その日の仕事に向けて家を出る。

 基本的にはsumimiだけの日か、Ave mujicaだけの日か、もしくは両方か。

 今日はその3パターンの内のAve mujicaだけの日だった。

 

「ごめん。少し遅れちゃった」

「問題ありませんわ。早速ですが──」

 

 学生かつ何かと掛け持ちをしているメンバーが多い都合で全員が集まれる日は少ない。

 今日も事務所に集合したメンバーは祥子と電車遅延で数分遅れてきた初華の二人だけだった。

 他の三人はそれぞれ個別の用事で来れず、本来であればやれることは少ないのだが、普段sumimiで抜けている分を埋め合わせるにはこのタイミングしかない。

 

「あ、ごめん。その前にちょっと話したいことがあるんだけど……良い?」

 

 立ち上がって移動の準備を始めた祥子の手を握る初華が上目遣いで引き留める。

 祥子はここでその手を振り払っても、その後にまた掘り返されるのだろうと思い、諦めて再び椅子に座った。

 

「……手短に」

「ありがとう。それでなんだけどね……湊音くんとは仲直りできそう?」

「藪から棒に何ですの?」

 

 幼少期に会った頃にも自分の事のように話していた湊音が睦の付き添いで事務所に顔を出しても、祥子の顔を見た瞬間にすぐに出ていったり、全体での打ち合わせの時にも一切会話をしないところを見れば、上手く行っていないことは初華にも理解できる。

 

「大事な武道館ライブ前に悩みごとがあるのは良くないよ」

「……前にも同じようなことを言いましたが、初華や他人にどうにかしてもらおうなどとは考えていませんので」

「で、でもさ! まだ湊音くんのことは好きなんだよね?」

 

 祥子にまだその気があるのであれば、いくらでもこの身を捧げる覚悟すら初華にはあった。

 そんなモノは彼女に伝えたところで困らせるだけで、そもそも伝えることすらできない、ただの初華の自己満足でしかない。

 

「仮にそうだったとして、の話ですが……初華ではなくて睦に頼みますわ」

 

 当たり前の話である。

 湊音とは赤の他人同士の初華を頼るよりか、双子の睦を頼った方が確実だ。

 祥子がそうしないのは、睦が一番嫌がることだということを知っていて、それを湊音がよしとしないだろう。

 

 故に仮の話。

 

「何にしても、初華に気にしていただかなくて結構ですわ。同い年の貴女に言うのもアレですが、わたくしの叔母ではないのですから、お節介を焼いていただく必要はありませんわ」

「──!?!?」

 

 初華の心臓が止まった気がした。

 誰にも知られてはいけない秘密を誰かに漏らした記憶はなく、本当にそうだとしたら終わりである。

 

「何をそんなに驚いていますの?」

「ご、ごめんね。何でもないよ」

 

 オーバーリアクションに呆れる祥子の様子を見るに、たまたま叔母というフレーズが出てきてしまっただけらしく、初華は軽く深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

 

「いい加減、始めますわよ」

「あ、うん。台本は覚えてきたから演技見てほしいかな」

 

 話が一段落したところで本題の武道館ライブで行う寸劇のチェックをしてもらう。

 大一番であるマスカレードの失敗は許されない。細かくディレクションを出すことで擦り合わせをしていく。

 

「……これなら、本番でも問題無いでしょう。初華、お疲れ様ですわ」

「ふー……さきちゃんもありがとう」

 

 一通りのチェックを終えて、後は解散という流れではあったのだが、やはり、ライブ前に心残りがあるのは良くない。

 

「……そういえばさ。さきちゃんと湊音くんってどこで出会ったの?」

「今日はしつこいですわね……」

 

 やたらと今日の初華は湊音、湊音と聞いてくる。

 直接誘っても、睦で釣ろうとしても、身体を使っても首を湊音は縦に振らなかった。

 未だに彼の勧誘を諦めてはいない。が、今は一度時間を開けているだけである。

 

 それはともかくとして、ここで断ると初華も引かなさそうな予感がするため、仕方なく出会った頃の話をする。

 

「劇的な出会いという訳ではありませんが、桜花嵐の講演を見に行ったわたくしが湊音に会いたいとワガママを言っただけですわ」

「その頃から湊音くんって……?」

 

 幼少期から自分のことを可愛い可愛い言ってる湊音は想像に難くないが、それこそ可愛らしく思えてしまう。

 

「最初は……いえ、初対面の時はまだ今の感じではありませんでしたわね」

「えっ、どんな感じだったの?」

「……そうですわね。普通の男の子でしたわ」

 

 祥子が知るよしはないものの、少しだけコンプレックスを抱えた年相応の男子というのが当時の湊音だった。

 それが急に自画自賛の激しい男の娘になったのだから、驚きはした。

 

「その頃から、お気に入りの服を買ったら見せに来たり、たまに睦と入れ替わってわたくしを騙そうといたずらをしてきたり、かと思えば出掛ける時は照れながら手を繋いでほしいと言ってきたり……何かと可愛いかったですわ」

「へー……そうなんだ」

 

 変わらない。

 あの夜に聞いた話と何一つ変わらない。

 なのに、あの頃より霞んで見える。

 

 許せない。

 

 許せない。許せない。許せない。

 

「やっぱりさ。仲直りした方がいいよ……それだけ好きならさ」

「何度も言いますが、余計なお世話ですわ……」

 

 好きなモノのことになると、つい語りすぎてしまうきらいがあることを自覚している祥子は初華の提案を照れ隠し込みで断る。

 

(許せない。私はああはなれないのに、隣に居ようとしないなんて、許せない)

 

 初華の頭の中で羨望と嫉妬がカフェオレみたいに混ざって頭がおかしくなりそうになる。

 湊音しか祥子を笑顔にできないのであれば、できない自分に代わって役目を果たしてほしい。

 

 ドロドロと心の根が腐っていく感覚がした。




別作品込みで今月投稿しすぎてちょっと疲れてきました。
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