ツインズ・リーフ   作:効果音

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Wilt

「またテレビ出たりするの?」

「モーティスって実は数回くらい湊音くんだったりした?」

「にゃむちとコラボとかすんの!?」

「実は若葉の双子(ツインズ・リーフ)のファンだったんだよね」

 

(まー、こうなるよなー)

 

 武道館ライブを終えた翌日、湊音は登校して数秒でクラスメイトに囲まれて質問攻めを受けていた。

 若葉湊音という存在はクラスメイトはただの日常の一欠片でしかないが、Ave mujicaのモーティスの仮面の下が若葉睦であれば、話が変わってくる。

 

「俺は睦の専属メイクしてただけだよ。顔出しは今は考えてないかな」

 

 それからは当たり障りのない解答で濁す時間が延々と続く、こういうことがあると昔を思い出す。

 

 別に、その頃のことが嫌な記憶というわけでもないし、普通ではできない経験で、それが回り回って祥子と出会えたことに繋がったのであれば、むしろ良いことだったと思っている。

 

(まぁ、だからって俺よりかは睦の方が大変だろうな……)

 

 今、ただでさえ睦の二重人格問題もあるというのに、これ以上問題を増やさないでほしいとも思う。

 そもそも、睦のそれが解決するしないの問題でもなく、こうなった以上は向き合い続けるしかない。

 

「……?」

 

 ポケットに入れたスマホが振動したのを感じて取り出すと見覚えのない電話番号から着信が入った。

 

「もしもし」

『もしもし、千早です。昨日のやつマジ?』

「マジだけどさ……俺の電話番号誰から聞いた?」

 

 電話の主は愛音だった。

 家族以外に電話番号を教えた覚えはない湊音は冷静に愛音を詰めるように問い質す。

 多少可愛くないが、それはそれ。個人情報の流出は普通に大問題である。

 

『いや、違うよ? 強いて言うなら……音楽室の亡霊?』

「誰だよ」

『そんなことよりさー。ちょっと羽沢珈琲来てくんない?』

「個人情報の流出をさらっと流すな! ……切れたし」

 

 目的も何も湊音には伝えないまま場所を指定してきた愛音が一方的に通話を切る。

 

 ところ変わって羽丘の音楽室で愛音は湊音に電話を掛けることになった原因に呆れた表情を向ける。

 

「これで良いんでしょ」

「……ありがとうございます。愛音さん」

 

 愛音の視線の先に居る祥子はバツの悪そうな表情で愛音の顔を見れないでいた。

 

「てかさー。電話まで着拒されてるって何したの? それくらいは教えてくれてもよくない?」

 

 定期的な付きまといをしたおかげか、二人の今の距離感について知ることに成功はしているが、祥子がAve mujicaのオブリビオニスだったとなると話は変わってくる。

 とは言え、それについてとやかく言うのは自分よりはその資格があるバンドメンバーのために取っておく。

 故に愛音は敢えてそこについては触れないでおいた。

 

「それは……」

「それは?」

「言えません」

 

 あの夜のことは決して誰にも話してはいけない。

 そうしてしまったら湊音を汚そうとして、二人を守ることもできなかった自分を曝したくないという自己防衛に過ぎなかった。

 

「……あっそう。それじゃ私、帰るね」

「はい……お気をつけて」

 

 愛音が音楽室から出ていこうとして、扉に手を掛けた瞬間に、言い忘れたことを思い出してあっと声をあげて立ち止まり振り返った。

 

「進展なかったら怒るから!」

「……余計なお世話ですわ」

(そうだね。湊音くんにお世話して貰いたそうだもんね)

 

 ぐっと言葉を飲み込みながら愛音は今度こそ音楽室から出ていく。

 祥子はそれから少ししてから羽沢珈琲店に向かった。

 

(なんだかんだでちゃんと来る辺り……)

 

 店の外の窓からちらりと中を覗くと湊音が顔をしかめながらバナナブレッドを食べている様子が見えた。

 二人の通話内容は愛音がスピーカーにしていたおかげで知っていたせいで、彼女に嫉妬すれば良いのか、湊音に怒れば良いのか。祥子の感情は迷子になっていた。

 

 愛音を利用して湊音を騙す形で呼び出したことに成功したのだから、もう一度話をするためにもこの機を逃す訳にもいかない。

 祥子は意を決して入店すると、意識しすぎて湊音の座る位置に目を向けてしまっていた祥子と、たまたま扉のベルに反応して目を向けてしまっていた。

 

 つまり、目と目が合ってしまった。

 

「「あっ……」」

 

(っすぅー、謀ったな愛音め……てか、音楽室の亡霊って呼ばれてるの何なんだよ……!)

(うっ、気取られる前に声を掛けようとしたのに、見つかってしまいましたわね……というか、地味に制服の時はポニーテールですのね……初めて見ましたわ)

 

 お互いに思わず声が漏れてしまって、一瞬が数分に引き伸ばされたような錯覚に陥る。

 

「アイスティーを一つ」

「流石にもっと言うことあるだろ!」

「そうですわね……」

 

 祥子が何食わぬ顔で対面に座り注文をしたせいで湊音は思わず声を上げる。

 湊音の言うことはもっともで、祥子もそのつもりで来ているはずなのに、今まで張っていた意地が邪魔をしてしまう。

 それを取り払うことが祥子にできるのなら、あの夜にあんな行動に出ることはなかっただろう。

 

「今後の活動で、湊音にも顔を出してもらうことがあると思います。

 ですので、申し訳ありませんが……」

「まぁ、そんな気はしてた」

 

 役者をやるかはともかくとして、いずれ芸能界に復帰させられるプランニングをしているだろうと湊音は覚悟していた。

 それでもやっぱりAve mujicaを肯定はできないし、睦のことを考えると良い顔はできない。

 

「心配しなくてもmujicaの邪魔はしない……それだけなら俺、もう行くから。お金、置いてくね」

 

 先に気不味さに音を上げた湊音が多めに財布から金を取り出して少し乱雑にテーブルの上に置く。

 

「……湊音」

「……何さ」

 

 湊音が店から出ていく直前に辛うじて祥子は彼の名前を呼ぶことができた。

 それに反応した湊音が振り返って最後耳を傾ける。

 あとはもう一言を音にするだけなのに、祥子は唇に重りがくくりつけられたように感じる。

 

「……わたくしのことは構いません。だから、睦だけは最後まで守ってあげて」

「そういうのは……違うでしょ」

 

 荒らげそうになる声を抑えながら吐き捨てて湊音は喫茶店から出て、帰りの電車で我ながら可愛いくないと自己嫌悪に陥りながらも帰宅した。

 

(今日は二人とも仕事だったっけ。睦は帰ってきてるっぽいけど、スタジオかな)

 

 両親が居ないということは、その日の夕飯は家事手伝いが作ることになっていて、大体そういう時は冷めても食べられるか、温め直すのが楽な料理が出てくることが多い。

 

 何故かと言えば、大体は睦がスタジオに籠って寝食を忘れてギターを弾いていることが原因であり、それを湊音が引っ張り出すのが日常だった。

 

「やっぱりここにいた。ただいま」

「──おかえり」

 

 スタジオに続く階段を降りると案の定ギターを触っている睦が居た。

 いつもより元気のない睦が湊音を視認するとギターストラップをしたまま彼に頭突きをする勢い近づいてくる。

 痛くも何ともないのだが、顔上げた睦が声を上げることもなく、声も出さずに目から涙を流していることに驚かされる。

 

「睦? 嫌なことあった?」

「……ぁ」

 

 湊音はハンカチを取り出して睦の涙を優しく拭う。

 そのおかげで睦はようやく自分が泣いていることに気が付いた。

 

「私、湊音のこと守れなくて……学校で皆に沢山質問されて、それで……」

 

 あの場で取り乱していた睦を落ち着けることはできたが、それでもまだ彼女の心に傷を残して血を流させていた。

 湊音が貼ってもらった心の絆創膏は気が付かない間に剥がれてしまっていたらしい。

 

「そっか……嫌なら辞めたって良いんだよ」

「そうしたら、祥が……祥にも酷いこと言った」

 

 止まっていた涙がまた睦の頬を伝う。

 それをまた湊音が拭い、睦が今日あったことを吐き出して、その繰り返しを重ねていく。

 五回程で糸が切れた人形のように睦の意識が途切れて湊音にもつれかかった。

 

「ごめん。睦ちゃん全然変わってくれなくてさ。こういう時に変わってほしいんだけどね」

「空は……まぁ、心配しなくてもいいか」

 

 すぐに起きていた空に意識が切り替わったところを見ると、特にこれと言った理由もなく、湊音は安心して軽口を叩く。

 

「あっ! 酷くない!? 湊音くんさぁ……私に対して結構雑だよね!」

「うん、まぁ。睦はともかく空はほっといても食わせておけば元気になりそうだし」

 

 自称姉の空が本当に姉だったとしても、しっかり者というよりはだらしのない子供っぽくて手の掛かる姉としてしか見れない。

 

「そんなこと──!」

 

 姉としての威厳のために空が反論しようとすると、腹の虫が歌っていた。

 

「……そんなこと?」

「お腹空いたし、ご飯食べよ! 難しいことはとりあえず後で!」

「おい」

 

 何を言うかと思えば、結局食い気が勝っている空に腕を引っ張られながら湊音は呆れる。




迷子が出ないので当たり前なのですが、アークナイツのムジカコラボであのさきが供給されなかったので自炊するしかない。
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