──今日は色々忙しい中ありがとう。Ave mujicaの件含めて沢山質問すると思うけどよろしく!
「よろしくお願いします。久しぶりにこういうの仕事するので緊張しますね」
──まぁ、リラックスしてありのまま答えてもらえばいいよ。それが稲座の方針でもあるから。
「怖いんですよね。こういう大多数の人の目に触れるモノに出るのって」
──意外とそれが活動を辞めた理由にも関わってきたり?
「世間に更に可愛くなった俺のことがバレると思うと恐いですね」
──全然違ったけど、そういう所は全然変わってないんだね(笑)
「芸能活動してない時も若葉湊音は若葉湊音のままですからね。俺はあの時から世界で一番可愛かった」
──そのフレーズ確か『桜花嵐』の時も言ってたよね。そういう意味でも湊音くんは若葉湊音のままだったわけだ。
──でも、Ave mujicaの活動を睦ちゃんに譲ったのは意外だったかな?
「あー……アレに関しては譲ったというよりガールズバンドですし、そもそも俺って楽器できないからやったとしてもボーカルですし、そこにsumimiの初華が居るんだったら睦のサポートしていたいですね」
──なるほど。これは聞いておかないといけないと思ってたことなんだけど、モーティスの中身が湊音くんだった時ってあったりしたの?
「今までのマスカレードは全部睦がやってますよ。これからもそれは変わらないんじゃないかと思います。『桜花嵐』や『方舟』の時とは違いますし」
──『方舟』も懐かしいね。僕がこの仕事に就いた頃にやってたドラマだったよ。
「昔の俺達の記事も書いてくれてましたよね。あ、それとはまた別の時ですけど、何も知らずに待機してたら白鷺さんが来てびっくりしましたよ」
──あの時のことは本当にごめん!
「今回もここに来るなんてことはないですよね?」
──湊音くん、それはフラグ立ててない?
「確かに……あ、ここカットでも?」
──仕方ないなぁ(笑)
「ここのインタビューは好きに話せるのが良いですよね。今どき珍しいとは思いますが」
──そこら辺も僕たちの仕事だからね。そこら辺気を遣わせるよりかは自由に話してもらいたいしね。
──未来の話だけど、湊音くんの活動はどうなるのかな? かつての『
「こうやってインタビューを受けたりするのは全然やります。
けど、本格的に活動するかって言うのは違う気がしますね。そもそも
──睦ちゃんもAve mujicaがあるし、負担になっちゃうよね。
「それもありますね。さっきも言いましたが睦のサポートしてるのがちょうどいいです」
──Ave mujicaと言えば、睦ちゃん以外のメンバーとの関係も気になるね。特ににゃむちは『桜』のファンを公言してたよね。
「睦に付いていって打ち合わせで話すことはあるけど、それくらいでプライベートでの付き合いとかはないですよ。 動画に出ろとかそういう感じでにゃむちは絡んで来ますけど、やっぱりその気はないですね」
──湊音くんは世界一可愛いを自称するナルシストな割にはインフルエンサーとか配信者活動には興味ないよね。
「ナルシストってハッキリ言いましたね! 否定はしないですけど。だって世界一可愛いのは事実なので。
というのは置いといて、実際『桜』の印象が強い人ほど意外って言いますね」
──でも、今みたいな感じでもなかったから驚く人は多いんじゃないかな。
──それの前は落ち着いていて……むしろ睦ちゃんと性格が入れ替わったようにも見えるね。
「そうなんですか? その頃のこと覚えてないんですよね。その後が色々あったせいもあって」
──もしかして、初恋。とか?
「ふふふっ。そこはご想像におまかせしますが、切っ掛けがあったのは否定しません」
──実際のところはともかくとして、本当にそういうお相手が居るのなら後悔しないようにね。
──その年齢の恋愛は甘くても酸っぱくても一生モノになる筈だから。
「稲座さんの学生時代もそうなんですか?」
──湊音くん、時に興味というのは人を傷つけるんだよ。
「稲座さんが振ったんですよね!?」
──こほん。気を取り直して次の話題に移るけど、ギャップは凄まじいよね。
──湊音くんは歌舞伎、睦ちゃんはバンド。二人とも綺麗に別れた葉のようで……まさに『
(睦ちゃん! もう止めて!!)
睦の雑誌を捲る手が誰かに掴まれてもいないのに、空が一瞬だけ身体の主導権を奪い取ってピタリと手を止める。
(空……?)
(もうやめよう……湊音くんのことは睦ちゃんのせいなんかじゃないよ!)
(違う……また、私が湊音を……)
苦しめた。
昔の湊音が、『桜』であった頃の湊音が、睦を避けていたのは顔が理由だった。
睦と同じ顔をしているから、男なのに女の顔だったから、それが嫌で睦を避けていた。
(でも、湊音が『私』を『私』にしてくれたから、好きになっちゃったのに……)
この世に産み落とされてから、睦は自身の手の中には何も無いないように感じて生きてきて、自分に注目する皆は口を開けば、森みなみの娘、芸人若葉の娘。若葉睦を見てくれる人間はいなかった。
たった一人を除いて。
(湊音が嫌なの知ってるのに、それなのに、私がAve mujicaのモーティスだから湊音の顔をまた私が奪うの?)
心が根っこから壊死していくのがわかる。
自分のアイデンティティーが崩れて、守りたかったモノは何一つ全部台無しになっていく。
(違うってば! もう湊音くんには祥子ちゃんが居る! 二人を仲直りさせたら湊音くんはもう傷つかないんだよ!)
(わかってる)
睦のためを思った空のその言葉が最後の一押しとなってしまった。
(祥が居るなら……私は)
「全部わかってる」
だから──
「もう私はいらない……」
「……睦ちゃん?」
「睦ちゃん! ねぇ、睦ちゃん!! 起きてよ! 私そんなつもりじゃ…!」
呼び掛けに応じない睦に汗を掻くことすら忘れるような焦りで自身の身体を抱きしめる。
双子を守ることが空のアイデンティティーと言ってもいい。湊音を守るためには、睦のギターの腕が必要不可欠で、世界で二番目に可愛いのは空ではなく睦である。
「ああ、どうしよう私、これじゃ……」
雑誌の記事と共に掲載された湊音の写真を見ながら空は唇を震わせる。
写真の中では、湊音が自信に満ちた表情を浮かべている。
世界で一番可愛いと胸を張る、あの顔だ。
空が守りたかった顔。
「私が……睦ちゃんを消しちゃった……」
そう言っても胸の奥から睦の気配を感じない。
唇だけではなく、全身に震えが伝播させながら部屋の中にあるギターを抱きしめる。
「お願いだから……起きてよ、睦ちゃん」
『睦』の声は、もうどこからも響くことはない。