ツインズ・リーフ   作:効果音

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盤外編ではなく。

「同じ顔してる……」

「……?」

 

 物心付いて初めて鏡に双子の顔が映った時の感想は恐怖、もしくは不気味だった。

 その時、隣に居た睦は何も気にしてなさそうで、歯磨きを続けていて、何やってんだこいつみたいな目で湊音を見ていた。

 

「みなみちゃーん! 睦が俺の真似してるー!」

「双子なんだから、同じ顔してるのは当たり前よー」

「双子?」

 

 双子。双生児。

 どれだけ母と父に教えてもらい、たまたま同じ胎で命を与えられて、同じ日にそこから出てきただけなのに、同じ顔をしていることを知っても湊音は納得が行かなかった。

 

「……うーん」

「何?」

 

 自分の顔は鏡を見なければ見えない。

 しかし、いつも隣に居る睦の顔を見れば、そこに自分が居る。言語化できない気味の悪さが、気味の悪さを助長する。

 

「何でもない」

 

 性別を間違われることも、それを理由にからかわれるせいで自分の顔が好きじゃない。

 そのことで睦を責めることも、親に文句を言うことも、やろうと思えばできた。

 けど、それは違うと、心の中に閉まっておくことにした。

 

 誰かにネガティブな感情を伝染させることはあっても、誰かを幸せにすることはきっとないから。それならば、自分の中にそっと沈めておく方がずっといい。

 

「お人形さんみたいで可愛いですわ!」

 

 だから、ちゃんと女の子の身体で、女の子の顔をしている睦が好きではなかった。まるで、自分が本来持っている筈の顔を奪われた気がして、そう思い始めた頃に出会った祥子に出合い頭にそう言われた時は驚いた。

 

「可愛い?」

 

 そんな言葉を貰ってから、自分の見た目が性別という概念を越えて可愛いことに気づけた。

 それから身に付ける物から化粧、表情の動かし方を勉強して、嫌いだった緑色の野菜も克服して『最高に可愛い自分』を作り上げた。

 

 あの日、可愛いと言ってくれた彼女が可愛いと思えたから。いつか、彼女にこの想いを伝えたかった。 

 ほんの少しのちっぽけな理由だけど、自分にはそれだけで充分だった。自分の顔も、双子のことも、好きになれた。

 

 だけど、今の彼女はもう、あの日の彼女ではない。

 仮面を着けて、名前を偽って、人形になりきって、舞台の上に自分を捨てた。

 

 そんな彼女は可愛くない。

 この感情にやり場はない。全部勝手に解釈して、全部勝手に努力したことだから。

 

 ずっと、独り抱えて生きていくのだろう。

 

「……味噌カツか、汁なし担々麺か」

 

 というのはさておき、今、湊音は学食の券売機の前で頭を悩ませる。

 学校での着こなしは問題なし、校則に則った上で今日も可愛い。

 プライベートでは髪を降ろしているが、学校ではヘアゴムで後ろでまとめている。ちらりと見えるうなじがどうとか語っている生徒がいるらしく、そこまで言わせることが出来たのなら湊音はそれにとやかく思うことはない。

 

 勿論、そういう趣味はない。

 

 目下の問題は、日替わりメニューがどちらもレアなメニューであるし、好きな食べ物ランキングの上位に入る。

 しかし、両方食べてしまうと摂取カロリーが可愛くない。

 

 この間十秒。

 後ろに並ぶ生徒に迷惑を掛けないためには湊音が出した結論は味噌カツ定食だった。

 

「思うんだ。お前が本当に女だったら良かったと」

「やーだっ。睦はやらないぞっ」

 

 テーブルの対面に座る学友の発言に湊音はウインクをしながらきゃぴきゃぴとした声音を出す。

 一瞬だけ二人に視線が集まるものの「なんだ、生えてる方の若葉のいつものか」とすぐに興味を失くして視線を元あった位置に戻す。

 

「いや、お前の性格と顔面で女だったら良かったって言ってんの!」

「は? お前、睦も可愛いだろうが! でも、俺の方が可愛いよなぁ?」

「面倒くせぇな……」

 

 世界で二番目なだけで、睦も湊音基準では他の人類を圧倒する可愛さを持っている。

 だから、彼女が可愛くないということはあり得ず、それと同時に自分の方がより可愛いという自負があるため、端から見れば支離滅裂な挙動になる。

 

「でも、世界で一番可愛いのは俺だし仕方ない。許そう」

「はいはい……」

「そういや、さっきチアの部長がお前のこと探してたぞ」

 

 その話を耳に入れた瞬間に湊音の眉がぴくりで動く。

 別にチアガールをやるのが嫌な訳ではない。むしろ、可愛い自分を活用してくれる分には構わないし、嬉しいくらいである。

 

「チア、チアねぇ……」

「珍しい。こういうのにはいつも食いつきいいのに」

「悪いけど、今回はパスだ」

 

 別に友人はチア部でも何でもない帰宅部なので言ったところでどうにもならない話なのだが、昼食を済ませた後には特に何も起こることもなく、午後のカリキュラムをこなしたら二時間と少しで下校時間。

 湊音は何かしらの部活に属しているわけでもなく、これと言って活動をしていることもないので真っ直ぐ家に帰ることになる。

 だけども、ここ最近面倒なことが増えた。

 

「はぁ……お忙しいムジカの人形作家がなんか用?」

 

 帰宅のために都営バスを利用するのだが、到着までに少し時間がある。

 その待ち時間でベンチに座っているといつも狙い済ましたタイミングで祥子が座ってきて声を掛けてくる。

 

「そうです。貴方の為に時間を割くほど暇ではありません。なので、いい加減に首を縦に振ってくださいます?」

 

 祥子は未だに湊音をave mujicaに引き入れることを諦めてはいない。

 理由なら、いくらでもある。

 顔含めて体型まで睦と同じ人間は今後の活動のために手綱を握っておいた方が良い。

 仮面を付けた人形という設定であれば、湊音が舞台の上に立ったとしても、いくらでも誤魔化しは効く。

 

「答えは変わらない。この可愛い可愛い顔をセンスのない仮面で隠すなんて理解できない。俺は睦専属のメイクとして関わるのが最大限の譲歩」

「それは睦がムジカに加入するにあたって出した条件であって、貴方本人の話ではありませんわ」

 

 暗に睦を理由にして逃げるなと言われているような気がしたが、現在進行形で昔のバンドメンバーが今別の形でバンドをやっていることから逃げている祥子に言われたところで首は縦に振れない。

 

「今日も練習あるならちゃんと行けよ」

 

 バスが駅に到着すると、湊音は祥子を置いて乗車する。

 湊音の部屋にあるカレンダーには何故か睦が自分の予定を書くため、バンドの練習があることは把握している。

 何度かついて来るように言われたことはあるものの、そこに居てもやることはないためave mujicaの練習に顔を出したことは無い。

 

「また来ます」

 

 扉が閉まる前にそう聞こえた気がするが、ただただ迷惑にしか思えなかった。

 

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