ツインズ・リーフ   作:効果音

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これが投稿されている頃、私はまだ家にいないでしょう。


Repete.

「別に全部話せとか、何やってんだ。とか言うつもりはない。ただ、こうなった以上、何も知らないままじゃ何もできない」

「ちょっとカズ! 言い方!」

 

 今の祥子に必要なのは、許しでも背中を蹴り飛ばす誰かでもない。

 とはいえ、明らかに傷心しているであろう祥子にカズが強めの語気をぶつけ、それをリサが諌める。

 

「わたくしは……」

 

 祥子の表情が曇る。

 ここで吐き出してしまえば、それこそ、空の言うように楽になろうとしているだけで、逃げなのではないかと思うと洗い流したはずの脂汗が滲み出る。

 

「……質問を変えようか。明日、どうするつもりだよ」

「……湊音と──」

 

 その先の言葉が続かない。

 話をしたい、謝りたい、救いたい。

 どの言葉を選んでも、結局は自分のための言い訳にしか思えなかった。

 

「はぁ……重症だな。会いたいから会うで十分だろ」

 

 弱ってる異性のところに毎日通い詰めているということはそういうことなのだろうが、敢えてつっこまないでおく。

 

「そんな、簡単にできたらわたくしは……」

 

 今にも叫び出してしまいたい衝動を押さえながらカズの嘆息に言葉を返す。

 

「今、聞いても俺らがどうする話でもないか……ああは言ったけど、今晩だけはお嬢様は姉貴に任せた!」

 

 一つだけクッキーを口の中に放り込んでカズは荷物を持って、リビングから出ていく。

 

「はぁ!? アンタはどうすんの?」

「一回帰る! 姉貴みたいにできるかわかんないけど、やってみる!」

 

 それだけ言ってカズは家から飛び出していってしまった。

 

「アタシってあんなだったかなぁ」

 

 多少は大人になったと思ったが、何時までも世話の掛かる弟のままで悲しいやら嬉しいやら。

 リサは複雑な気持ちになりながらリビングに戻った。

 

「ごめんねー。あの子昔っから変なとこでアグレッシブでね」

「いえ……むしろ、色々してもらってばかりで」

 

 そもそもカズが湊音を保護していなければ、空の居場所しかわからず、彼女に拒絶されたまま途方にくれるしかなかっただろう。

 

「アタシもちょっとしか状況を知らないから、的外れかもしれないけどさ。会いたいって気持ちまで否定しなくてもいいんじゃない?」

 

 それから祥子はリサに今はもう使われていない部屋に通されて、そこのベッドの上に腰を下ろした。

 

(家に外泊の連絡もして、後は寝るだけだという……眠れませんわね)

 

 横になって瞼を閉じても眠れる気配はなく、窓から見える月を見上げるだけだった。

 

(わたくしに湊音に手を伸ばす資格など……)

 

 リサにああ言われたものの、過去に二度振り払われたこの手は彼に届く気はしない。

 一度目は自分の過失で、二度目は理由すらわからない。

 

 何を話せばいいのかもわからない。

 それでも会いたいと思ってしまう自分が、一番許せなかった。

 

 また、空の言葉が祥子の中で反響する。

 

(……長い夜になりそうですわ)

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「ただいまー……」

 

 深夜とはいえ、自宅に帰ってくるのに声を潜めなければいけないというのは何処か馬鹿らしく思えてくる。

 

(友希那さん、なんで俺の部屋で寝てるんだよ……まぁ、良い。今は湊音の方が重要)

 

 音を潜めてリビングに行くと毛布だけ被ってソファーの上にくるまってるであろう湊音を見つける。

 

「起きてるだろ」

「……お昼に寝すぎて」

 

 声を掛けると聞いていたよりは平静を取り戻していた湊音から返事が帰ってくる。

 誰とも話す気がなかったら手に追えなかったため、カズは一安心した。

 

「悪いな。首突っ込んだくせに全然世話してやれなくて……」

 

 特に返事はなかった。

 

「これは俺の独り言みたいなもんだから、返事はしなくて良い」

 

 カズはソファーの足元を背もたれにして腰を落として、懐かしさで天井を見上げる。

 

「俺と友希那さんってちょっと前まで会う度に喧嘩しててな。手は一回だけ上げられたけど、基本的に言い合い。お互いにお互いの言うことなんて聞きたくなかったんだよな」

 

 今でもちょっと痛む気がして、自分の頬を思わず触ってしまいながら、自嘲気味な乾いた笑いが出る。

 

「でもさ、ずっーと、俺は友希那さんが……歌が上手くて、優しいお姉ちゃんだった頃の友希那さんが好きだったんだ」

 

 小さい頃の初恋なんてそんなモノである。

 歳の近い、歌の上手い綺麗なお姉さんに憧れて、それを恋だと勘違いしていたのかもしれない。

 

「だからさ。姉貴にベースを辞めるくらい冷たくなって笑わなくなった友希那さんなんて嫌いだった。それはもう大嫌いだったよ」

 

 あの頃が無くなってしまったようで、今までの友希那が消えてしまったようで、それが嫌で仕方がなかった。

 

「……なら、何で」

「そりゃあ……友希那さんの歌は変わんなかったからかなぁ」

 

 どれだけ変わってしまっても、変わらないモノがあった。

 それに気づいてしまったら、自分も友希那は今も昔も大して変わらないように思えた。

 

「……で、湊音はあの子のこと、どう思ってる?」

「会いたい……」

 

 先日、拒んでしまったのは祥子が嫌いだからではなくて、もっと自分の根にあることが原因である。

 だから、もう一度会って話がしたい。言わなければいけないことがある。

 

「さっちゃんは──」

「みなまで言うな。少なくとも本人に言うまで取っとけ……あと、飯は食っとけよ」

 

 この様子なら会わせても大丈夫そうだと判断したカズはスマホを取り出してリサに報告を送る。

 

(あとはお嬢様次第だなぁ……ある意味湊音次第でもあるか……)

 

 流石に眠気が堪える。

 自室では友希那が眠ってしまっているため、来客用の部屋で眠ることにした。 

 

 翌朝、湊音は誰もいないことを確認してリビングを抜け出して洗面所に向かう。

 

(可愛くない……絶対)

 

 鏡の前で下を向いたまま立ち止まってしまう。

 洗面台に蛇口から滴が垂れていくのを、ただただ見ているしかできない。

 

(可愛くするために化粧するのにな……)

 

 今までは当たり前にできていたことができない。

 ずっと心の奥にしまっていた膿が吹き出すと、鏡の前でメイクを試すのが楽しくて仕方なかったことすら、自分を隠すためのモノだったと思い出してしまう。

 

(こんなんじゃ、睦の顔すら見れない……)

 

 まだ使える化粧品だけを並べて手に取ると、指先が震える。

 会いたいと言ったはずなのに、鏡も見れず一歩も前へ進めない。

 

(……可愛くない)




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