ツインズ・リーフ   作:効果音

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バニシング・リーフ

 もう一人の自分が居る。

 生まれてからずっと一緒に居る湊音のことではなくて、人見知りで喋ったり笑ったりするのが得意ではない自分とは違うもう一人の『若葉睦』を感じている。

 

 人の心を思いやれて、愛想よく振舞えて、一般的にはその方が人から好かれるような。そういう自分が居る気がする。

 

(……疲れた)

 

 若葉の双子(ツインズ・リーフ)としてテレビの取材を受けたり、そのことで他人にあれやこれやと聞かれたりすると、両親や湊音の事ばかりで皆は『若葉睦』に興味が無いように見える。

 そういう時にもう一人の『若葉睦』が語りかけてくる。

 

(変わったげようか?)

 

 彼女は睦元来の性格から乖離した言動を取らずに睦の代わりを演じてくれる。 

 その時に眠る必要があるが、次に起きた時は彼女が対応してくれていた。眠っている間のことは手帳にメモが残されていて、おおよそのことを書いていてくれて生活に支障はでなかった。

 

(あの……)

(どうかした?)

 

 頭の中で声を掛けると話相手にもなってくれた。

 色々おかしい気はするけれど、湊音が居なかったりあまり声を出してはいけない場面では彼女に悩みを相談したこともある。

 

(……湊音は私のこと嫌いなのかな)

(どうして? なんか湊音くんに悪いことしちゃった?)

 

 睦から見た湊音は運動もそれなりにできて、表情豊かで誰にでも優しい。

 自分と同じ顔をして、同じ日に生まれたのに、自分より人に愛されてるように見える。

 それが羨ましい。

 普段は口には出さないものの、自慢の双子だと思っている。

 

(一昨日、一緒にテレビを見てたらこの前受けたインタビューが流れて……湊音が部屋に行っちゃった)

 

 男女の双子の顔が似ていることは珍しいと聞いたことがある。

 そのせいか湊音は女子みたいな顔をからかわれることがあり、そういう時はあまり話してくれなくなったり、顔を見てくれなくなる。

 だから、そういうことがあると胸が苦しくなる。

 自分さえ居なければ、嫌な思いをさせなくて済んだかもしれない。

 

(悪いのはそういう風に湊音くんを見る方で、睦ちゃんは悪くないよ)

(そうかな……)

(本当に嫌いならこの前の金曜の夜にホラー映画見た後に一緒に寝てくれたりしないと思う)

(……そうかも)

 

 それから程なくして、母が過去にテレビCMを請け負ったこと縁がある豊川グループの同い年の令嬢を紹介された。

 

「睦さんと湊音さんですわね! これからよろしくお願いいたしますわ!」

 

 綺麗な子だと思った。

 素直で自分に自信があって、笑顔が宝石みたいに輝いていて、他人の良いところを見つけるのが上手くて、睦のああなれたら良かったのにを詰めたような生き方が綺麗だと思える少女だった。

 もう一人の『若葉睦』も結局はどこまで行っても『若葉睦』でしかなく、祥子のようにはなれない。

 

「睦ー? さっちゃんのとこ行くけど、睦も行く?」

 

 それからと言うものの、湊音は化粧やファッションコーディネートに付いて勉強し始めた。

 どうやら祥子の一言で吹っ切れたらしく、女の子扱いされてもむしろ喜ぶ様子すら見せるようになった。

 

(なんか、チクッとする)

 

 湊音が悩んでいるのは知っていた。生まれてからずっと一緒に居たのに、相談に乗ることもできなくて、ただ触れないことしかできなかったのに、出会ったばかりの祥子にどうにかできてしまう問題だったならば、睦が心を痛めた意味とはなんだったのだろうか?

 

(睦ちゃんは湊音くんのことが好きなんだね)

(好き……?)

(その人のことを考えると胸の奥がぎゅっとして……一緒に居られると嬉しい。そんな感じ)

 

 確かにもう一人の『若葉睦』の言うようなことは何度かあった。

 憧れなのか、恋なのか、家族愛なのか、その時の睦にはわからなかった。

 

(わからない……)

 

 わからないけれど、仲の良い二人を見ると嫌な気持ちになる。

 何か嫌なのかわからない。これはきっと誰にも言えない自分だけの気持ち。

 

「行く」

 

 その頃から、睦もギターを始めた。

 最初は拙い音しか出なくて、一曲を弾くことすら難しいくらいだったけれど、練習したらその分上手くなれることが嬉しい。

 何より、家族のことを引き合いに出されなかったのが良かった。

 祥子がピアノを習っていて演奏を披露すると、湊音が感動していたから、それに嫉妬して自分も。という気持ちが無かったことは否定しない。

 

 何はともあれ、自分だけの趣味を見つけて、それにのめり込むことができた。

 そのせいなのか、この時を境にもう一人の『若葉睦』はあまり喋らなくなってしまった。

 少し寂しいけれど、彼女もまた眠っているのだろう。

 

「居た居た。睦、そろそろご飯だぞ」

「ん」

 

 家の中で誰も使っていないスタジオを見つけてからはそこで練習をしていると、一日中時間を費やしてしまうこともある。

 そうなると家族やお手伝いさんの捜索が始まるのだが、必ず一番に湊音が見つけてくれる。

 食事時になるといつも湊音が迎えに来てくれると胸の奥が暖かくなる。

 

「最近可愛くなった?」

「?」

「いや、元から睦は可愛いか。俺の双子だし」

 

 どういう理屈かわからないが、褒めてくれているらしい。

 曰く、世界で一番可愛い湊音と同じ顔をしている睦は世界で二番目ということ。

 聞いたところで尚更意味がわからなかった。

 

「ご飯食べ終わったら、新しい曲覚えたから聞いてほしい」

「ドンドン上達するなぁ。よしよし、500可愛いポイント」

 

 二人きりのスタジオで演奏すると、湊音が自分だけを見てくれる。謎のポイントを付与しながら。

 当たり前のことなのに、ずっとそんな時間が続いてほしい。

 

「……」

「睦」

「何?」

 

 食後にまたスタジオに戻って演奏終えた睦に湊音が拍手を送る。

 演奏は素晴らしいものだった。そう思うと同時に湊音は睦のやりきれなさそうな表情から何かを読み取ったらしい。

 

「歌、歌わないの? 本当は歌いたいんじゃないのか?」

「……うん」

 

 本当は歌って弾きたい。

 だけども、歌いながら弾けるほど器用ではなくて、歌だけは恥ずかしくて。

 

「そっか。じゃあ、ギター頑張れ。応援してる」

「湊音はやらないの?」

「頑張って着けたネイル剥がれちゃうのはちょっと……それに、俺は睦が世界一可愛いギタリストになるところが見たい」

 

 世界で一番可愛いのが湊音であるなら、その次に可愛いのは同じ顔をした睦。

 睦はギタリストだが、湊音はギタリストではない。

 それならば、ギタリストの中では世界一可愛いのは睦ということになる。

 

「なら……私のこと見てて」

 

 湊音が見ていてくれる。

 それだけで高揚する自分を感じながら、次の曲を弾こうとギターの弦に指を掛けた。

 

 何にもない。何にもできない。

 なんて言い訳したくはないから。

 

 睦が好きなアーティストもそう歌っていた。




バースバイスリープの和訳と悩んだ。
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