ツインズ・リーフ   作:効果音

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幕開け前の幕間
欠けた一枚目


(今年は豊作だ。けど、二人分の服買ってると持ち帰るのも大変だ)

 

 湊音は次のシーズンに向けて服を睦の分と合わせてショッピングをしてご満悦のまま電車に乗ろうと駅の改札に向かうと改札から走って出てきた少女とぶつかってしまう。

 

「ご、ごめんなさい……!」

「大丈夫。急いでるなら危ないし、慌てずにね」

 

 普段からジム通いをしているおかげか、少しよろけるだけで荷物を落としたりすることもなく、頭を深々と下げる少女に声を掛けると、器用に頭を下げながら駅の出口の方へと走って行き、その姿が雑踏へと消えていった。

 

(それはそれで危ない走り方していった……ん?)

 

 改札をくぐるために湊音がパスケースを手持ち鞄から取り出しながら歩くと、何かを踏む感触がする。それがレシートのようなどこにでも落ちているポイ捨てされているゴミであるなら大して気にしなかったが、そこそこの厚みがあるものだったせいで足を止めると恐らく学生証らしきものが落ちているのが確認できる。

 

(全然知ってる顔だ……困るだろうし、届けるか)

 

 高松燈。

 学生証に書かれたその名前は、かつて睦が所属していたバンドのボーカルの名前でもあった。

 大人しい性格で、最初はスタジオ練習だとしても緊張して歌えなくて、それでも必死に練習していたというのを睦から聞いた覚えがある。

 本番では必死に心で叫ぶような歌声が印象的で、湊音はそれが好きだと思えたから、バンド解散の話を聞いた時はそれなりに残念に思っていた。

 

 当時何があったか。なんてことは湊音は誰からも聞いていないが、解散した理由にはおおよその予測ができている。

 詳細な話が気になりはするものの、それとこれとは別。落とし主がわかる落し物は本人に届ける。

 そのために、電車に乗らずに既にもう姿が見えない燈を探しにUターンをして駅の外に出る。

 

(駅の構造と走って行った方向的にこっちの出口にはなるけど……詳細な場所までは……)

 

 湊音は燈の個人的な情報については一切知らない。

 学生証に記載されている情報は見ることはできるが、勝手に覗くのは倫理的に良くない。

 自力で探すには限度がある。しかし、諦めるには早すぎる。

 

「アレ、湊音くんじゃん」

「愛音じゃん」

 

 自分の足で十分ほど探してから警察署に届けようかと考えながら歩いていると、ライブハウスの前で愛音とばったり出くわす。

 連絡先を交換しておらず以降の交流はなかったが、ミーハーな愛音側はともかく、湊音はこの前の出来事が印象に残っていたため覚えていた。

 

「どうかしたの? こんなとこでさ」

「落とし物の落とし主探し……その服、羽丘の生徒なら、この子知ってる?」

 

 愛音が着ている制服から羽丘であることを判断して、彼女に燈の学生証を見せてみると驚いたような表情を返してくる。

 

「燈ちゃんじゃん。知ってるっていうか、一緒にバンド組んでるよ?」

「へぇ、バンド仲間見つけられたんだ。これ渡しておいてくれない?」

 

 燈の学生証を愛音に手渡して、それを燈に渡してくれれば解決──。

 

「それはいいけど、一個頼みごと聞いてくんない?」

 

 とは、行かないのが世の中だった。

 断るほどの理由もないが、買った服を持ち歩いたままというのもあまり好ましくはない。

 

「そんなに難しいことじゃなければ何でも」

「オッケー。じゃ、どっかで座って話そうよ」

 

 しかし、頼ってきた相手を無下にすることは可愛くない。

 それだけで湊音が頷くだけの理由になる。

 ライブハウスと併設されたカフェではなく、その場から少し離れた場所ドーナツ屋のイートインのテーブルにつくなり金の話になると湊音は呆れの目を愛音に向ける。

 因みにドーナツとドリンク代は湊音が奢らされた。

 

「そろそろ私達のバンドがライブに出るんだけどさぁ。ライブって出るのにノルマがあって、一人何枚かチケット売らないといけないんだよね」

「……ノルマ分のチケットを買えと?」

 

 立ち上げた直後の無名バンドはノルマの達成に四苦八苦すると聞くが、どうやら愛音達もそうらしい。

 

「私じゃなくて、燈ちゃんが……三枚分売れ残っちゃってるらしいんだよね」

「あー……」

 

 売れなかったチケット分は負担に出演者持ちになるケースが多い。

 交友関係次第では全額一人で抱えるのは一般の高校生の財布には厳しいものがある。

 

(燈の歌声を聴けるならそれでも良いかもな……二枚は俺と睦、もう一枚は……ダメ元で誘ってみるか)

 

 三人分のチケット代は湊音の小遣いで賄えてしまえる。

 問題は誘う相手。二枚分は双子で、もう一枚のアテはいくらでもある。

 しかし、睦も連れてという場合はかなり相手は限られる。その中の筆頭候補を誘うことに躊躇いがある。

 

「三枚全部買う」

「お、太っ腹~。先に現金だけ渡してくんない?」

「いいけど……ちゃんと燈に渡せよ」

「そんなことしてもマイナスしかないでしょ」

 

 三枚分のチケット代を愛音に渡してちゃんと燈に届けるように言い含めておく。

 数枚の紙幣を数えて問題の無いことを確認した愛音がそこで気づく。

 

「アレ、なんでチケット代の相場知ってんの? 私言ってないよね?」

「あー……燈からさ。昔の事とか聞いてる?」

 

 疑問に対して、気不味そうにはぐらかす湊音を不審に思った愛音は嫌な想像が頭を過る。

 

「聞いてないけど……もしかして、そういうアレだったり──」

「断じてない」

 

 する? と愛音が小指を立てながら聞いてみると、神妙な表情をした湊音に言葉の途中で遮られた。

 そういう関係ではないにしろ。何かあったことは間違いなく、爆弾を処理しなければいけないのはごめんだった。

 

「じゃあ、何なのさ。事情があるのに察して気遣えは無理だからね?」

「……睦が昔バンド組んでたんだけど、その時のボーカルが燈だった。

 俺はその時のバンドメンバーとは会ったことなくて、観客席で見てただけだから、燈と他二人とは面識無いんだけど……ほら、こんな可愛い顔してるからさ」

 

 湊音は人差し指で自身の頬をつついて、先程まで見せていた表情から一瞬で無駄に良い笑顔に切り替えて見せた。

 本来であれば、本人から聞くべき話をこれ以上彼から聞くべきではないと、愛音なりに納得はしないがコーヒーと共に飲み込んだ。

 

「あー……よくわかんないけど、わかった。チケットは後日私から渡すね」

 

 どうせそれ以上のことは人物名くらいしか情報を吸い出せそうにない。

 それに、今は過去のいざこざに全力投球していられるほどのギターの腕は愛音にはない。

 

「じゃあ、よろしく。あ、これ俺の連絡先。バッタリ会うにしても、二度目は奇跡って言うしな何かの縁だろうし、渡しておく」

「何それ」

 

 三度目は何になるのか。という疑問はあるが、湊音が家でやることがあるという理由でその日は解散になった。

 

「ただいま~」

 

 本来から予定から大幅な遅れが出てしまったが、無事に電車乗り込み、湊音が若葉家へと帰宅すると玄関で待ち構えていた睦が腹に向かって突進してきた。

 

「湊音()()!!」

「へぶっ!」

 

 突然のことと、両手にショッパーを持った湊音は回避することも受け止めることもできず、そのまま睦のダイレクトアタックを食らう。

 体重の軽い睦のタックルでぐらつくほど柔な鍛え方もしていないが、痛いものは痛い。

 

「遅い遅い遅い! 湊音()()のために待ってたのに帰ってくるの遅いせいで()()()()不貞寝しちゃったじゃん!」

「……誰だお前。みなみちゃんかたあくんがそっくりさんでも呼んだ?」

 

 湊音が睦の顔を見間違えるはずがない。

 服やタックルついでに抱き締められているせいで感じ取れる体格は彼女そのものなのに、可愛くないと一瞬で判断した頭が睦であって睦ではないと否定できる。

 

「……酷いなぁ。昔は何度か話したのにね。スタジオで話そっか。湊音くんの匂い嗅いで睦ちゃんもそろそろ起きるだろうし」

 

 睦ではない何かに片方のショッパーを持たれて空いた手を握った状態で引っ張られる。

 何が起きてるのか分からないが、テレビのドッキリの可能性も考慮して周囲にカメラがないか警戒しながら廊下を歩くが、誰かが家に入った形跡すらなく、不気味に思いながら地下にあるスタジオまで連れてこられ、荷物を脇に置いてソファーに座らされる。

 

「私ね。本当は生まれるはずだった二人のお姉さんなの」

「睦。そういうのは可愛くない」

 

 湊音の隣に座って肩に頭を乗せてきた睦ではない何かがそう呟く。

 表情は真剣そのものだったが、そういうことは演技だろうが真実だろうが、言って良いことと悪いことがある。

 

「……そうだよね。ごめんね。睦ちゃん起きるから変わるね。

 あ、ごはんも食べずに待ってたのは本当だから、優しくしてあげてね」

 

 それだけ言うと、睦ではない何かが湊音に全体重を掛けて目を瞑る。

 

「あ、おい。ちょっと……」

「……湊音……? おかえり。私、こんなとこで寝てた……?」

 

 状況が飲み込めないまま、睦の肩を揺らすと目を覚ました彼女はいつもの様子と変わりなかった。

 

「えっと……本当に睦?」

「?」

 

 いくら女優の娘といえど、睦が一瞬で別人のようになってしまうような睦に対して、初めてではない不安と恐怖を抱いた。

 

「……おなか、すいた」

「……わざわざ待たなくても良いのに、ほら、しゃっきりして夕飯食べるぞ」

 

 本当に寝ていたのか少しだけ眠たそうにしながらも腹の音を鳴らす睦の頬を少しだけ揉んでから立たせる。

 そんなに我慢するくらいなら一人でも食べれば良かったのに。とも思うが、そこまでして待ってくれていることが可愛いとも思う。

 

 未だに芸能界で活躍していて家に居ることが少ない両親の都合で双子だけで食事することも多い。

 だけど、それで親に対してネガティブな感情を抱いたことはなく、むしろ、家事手伝いを雇う時にも視線を合わせて真剣に、申し訳なさそうに、説明してくれたことで愛は感じた。

 

(本当になんだったんだろうな。昔話したことがあるとも言ってたけど……昔、昔……ダメだ全然思い出せない)

 

 睦の手を引いてスタジオから出てリビングに向かう最中の湊音の頭の中はすぐに睦ではない何かに占領されていた。




My GO編始まりかもしれない。
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