ボクの『個性』? 『無個性』だよ? ……ふふふっ、本当の事だよ。 作:黒月悠生
どうせなら、と……原作開始までの連続投稿です。
ただし、この続きを投稿するかどうかは、それこそ気分ですので……どうか、ご了承の程を……
「えーおまえらも三年ということで!! 本格的に将来を考えていく時期だ!!」
正直言っていけ好かない担任が声高に宣言する。
「今から進路希望のプリントを配るが、皆!!」
妙に大仰にプリントをかざしたり教卓に手を着いたり。
「だいたいヒーロー科志望だよね」
「「「「「「「「「「ハーーイ」」」」」」」」」」
急に力の抜けた声と、バッとばら撒かれたプリント。
それぞれがそれぞれの『個性』を見せつける様に用いながらの元気の良い返事。
その様子を眺めながら、妙に昂り始めた心を冷静な思考でなんとか宥めすかす。
あ〜、ここまで長かったなぁ......! 色々......それはもう死ぬ程色んな事があったけど、折寺中学でこの日を迎えられてよかった。
おかげで原作の一幕をこの目で直接、どころかこの身で体験することが出来るんだから! なんなら割り込めるしね!
「うんうん。皆良い『個性』だ。でも校内で『個性』発動は原則禁止な!」
「せんせえー、『皆』とか一緒くたにすんなよ! 俺はこんな『没個性』どもと仲良く底辺なんざ行かねーよ」
机に足を乗せた上で断言するのは我らが
相変わらず尊大だね! この時はまだ余裕綽々だもんねぇ......ガラ悪いぞバッキュン。
とはいえ、それでも致命的に人から嫌われたりしてない辺りは流石だよね。
今もほら、教室中から上がるブーイングは友達に向ける暖かさがある。
「モブがモブらしくうっせー!!」
こんだけ言ってなんで君嫌われないワケ? 何? これがヒーローの素質ってヤツですかぁ? なんのカリスマだよ麻婆豆腐でも作ってろ小心者君。
「あー確か爆豪は......『雄英高校』志望だったな」
進路希望のプリントを眺めながら呟いた担任の言葉に、今までのブーイングが鳴り止んでザワつき始める教室。
そんな中で、今まで伏せっていた顔を上げて驚く我らが主人公、
少し呆然とした後、また机に伏せて頭を抱え込んだ。
ん〜! 何その反応! リアルで見ると殊更に可愛いね出久君! ボクには視えてるよその顔! 『やっちまった』も『なんでだよ』も『やっぱりそうだよね』も『黙っていよう』『気配を消してバレないように......』もごちゃ混ぜだね! でも『やっちまった』と『なんでだよ』って何? 本人に自覚なさそうだから聞いても意味なさそうだけど。
アレかな? 『やっちまった』っていうのはこの時期に進路希望に書いちゃった事かな? ボク的にはギリギリまで伏せておいた方が良かったと思うよ行動派オタク君。
『なんでだよ』っていうのは担任に対してかな? 確かに進路希望の内容を全員に開示するとか意味分かんないもんね。
個人情報保護とか機密保持とかプライバシー保守とか知ってる? 知らない? 知らないか......盲目で難聴のオブザーバーだもんね。
「そのざわざわがモブたる所以だ! 俺は模試じゃA判定!!」
机に飛び乗るな〜、倒れたりしたら君の前後左右の子が危ないぞ〜。
薄金色のトゲトゲ頭は酷く自信満々な様子。
でも残念! ボクがいるから唯一のA判定じゃないからね! セリフが削れてるね! ちょっと悲しい......てか模試の順位もボクが上だし。
それ知られてるんだよねぇ......君出久君の事言えないくらいにはストーカーの素質あるぜ? このウニデカい上にめっちゃ重いな......どんだけ中身詰まってんだろ。
「あのオールマイトをも超えて俺はトップヒーロと成り!! 必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!!」
いい宣言! やっぱりこの声好きだなぁ。
ねぇねぇ発狂しない? して。
あと『個性』を【ベクトル操作】とか【狼】とか【死神】とか【虎】とかにしない? ボクどれでも似合うと思うんだよね! でも爆豪君はボンバーマンだから良いのは確か。
「あ。そいやあ
空気がお亡くなりになられました。
この担任ほんっとさァ......実体験すると......な?
担任の言葉で全員の視線が一斉に集まる。
──出久君に。
ねぇボクは? ボクは〜? なんで視線向けないの? 無視? 無視ですかぁ? ──オイこっち見ろ。
やっぱり
ブフゥッ! っと一斉に吹き出して嘲笑と共に罵倒と侮辱が飛び出した。
勉強できるだけじゃ無理だって。
爆豪君がゆらりと体ごと出久君に向き、当の出久君は反射的に立ち上がった。
「そっ......そんな規定もうないよ! 前例がないだけで......」
気弱ながらも頑固さの窺える反論。
あぁでも、ごめんね出久君。
この件に関しては原作でも思ってたけど、クラスメイト君達の言う通りだと思う。
だって現時点での出久君って身体鍛えてる訳でもないし、本当に勉強ができるだけで、一歩間違えればストーカーになりかねない行動派オタクらしいヒーロー知識しかないんだもん。
咄嗟の判断力や分析能力、即座に想起出来るといった思考能力が今の出久君の特色だけど、それを活かすだけの素地と、何より最低限の自信が足りていない。
誰かの危機に咄嗟に身体が動くっていうのは聞こえは良いけどね......出久君の運が良かっただけで、ジェントル・クリミナルさんより酷い事になってもおかしくないワケだし。
それに......今の出久君は、自分自身の諦観も諦念も自覚しない為に必死になって現実逃避している最中。
つまり出久君の熱量は全てネガティブなモノで......あぁ、だから君は──
──ずっと夢に溺れているんだ。
オールマイトさんに出会う前から君は、ずっと。
「こらデク!!」
「どわ!?」
ボゥンッ!! とその掌を叩き付けるように机を爆破しながら、爆豪君は出久君を弾き飛ばした。
お〜い、担任さーん? 職務放棄ですかぁ? 自分の言葉には責任持って欲しいんですけどねぇ? 爆豪君の事止めろよ。
校内での『個性』発動は原則禁止だし資格の無い一般人の『個性』使用は犯罪だし、何より先制攻撃で爆破とかどー考えてもアウトだろ? 更に言うと出久君は『無個性』だから完全無欠に保護対象であり、かつこの世界では『無抵抗の一般市民未満』に位置する存在だぞ。
監督者で教師という責任ある立場で大人で『有個性』という力ある立場なら、庇護するのが当然だと思いますけど。
てかヒーロー科志望なら周りの奴らも止めろよ。
ボク? ボクならこの後割り込むからオッケー!
というか正直言って、この二人のやり取りが完全にじゃれあいにしか見えません。
衆人環視でイチャイチャするとは......やるな。
それはそれとして、ボクが頬杖突きながら大きく溜息を吐いたのは気付かれなかったらしい。
謎。
これが漫画なら、隅の吹き出しにでも載っててくれないかなぁ......読者くらいは気付いて? さーびーしーいー、でしょ? たぶん。
「『没個性』どころか『無個性』のてめぇがぁ〜、何で俺と同じ土俵に立てるんだ!?」
「待っ......違う、待ってかっちゃん。別に......張り合おうとかそんなの全然! 本当だよ」
引き攣った笑みを浮かべながらジタバタと後退り、教室の壁にゴッ! と音を立ててぶつかった。
震えたまま爆豪君を宥めるような卑屈な事を言って、視線が落ちる。
それでも。
「ただ......小さい頃からの目標なんだ......それにその......」
カタカタと震えながら、冷や汗を流しながら、直接暴力を振るう事に戸惑いのない相手を前にしながら、その威圧に耐えて出久君は口を動かす。
「やってみないとわかんないし......」
あぁ......! イイよ出久君カッコいいよ! 根底には諦めが
「なァにが──」
「ふふふっ」
爆豪君が吠えようとしているのを見て、今度は教室中に聞こえるように意識しながら笑う。
──パチンッ!
そして高らかに指を鳴らして割り込んだ。
「よく言った出久君。そうだよ、やってみなきゃ分からないさ」
「アァ!? やらなくてもわかンだろォが! ふざけたこと言ってんじゃねェぞクソ男女!!」
男女って見た目なのは否定しないけど、別のあだ名ない? リスペクトしてる人を思い出すんだよね......すっごい気が引ける。
それと、今の君の言葉に耳を傾ける価値はないので無視。
「ほら、顔を上げな? 出久君。君の想いは何も間違ってない。だから自信を持って立ち上がって前を向きな」
「ぇ......ぁ、
若干呆気に取られたような顔を向けてくる出久君に、柔らかく微笑んで見せる。
こんな事言ってくれるとか思ってなかった? もう一年くらいの付き合いだろ〜? やっぱり可愛い──カァイイねぇ出久君!
「無視してんじゃねェぞクソがァ!」
掌をボンッ! と爆発させながら体ごとボクを向いた爆豪君が吠えた。
そんながおがおしなくても相手してあげるから、寂しがるなよぉバクゴン。
「もう少し落ち着きなよ爆豪君」
「うるせェ! テメェもだぞクソ男女! 何の役にも立たねェ『没個性』のテメェが雄英になんざ行けるわけねぇだろ!!」
「そうでもないさ。ボクはこれでも模試はA判定だし、雄英ヒーロー科の模試の順位だって君より上だよ?」
「実技がねェからだろォが! ンな『個性』で受かるわけがねェ!!」
「おいおい......サポート系の『個性』や直接戦闘が苦手な『個性』全否定か......? 雄英出身のヒーローは多いけど、全員が全員戦闘向きの『個性』じゃないでしょ。それに何でそんなにイキリ立ってるの......? ──あぁ、もしかして怖いの?」
「何を怖がるってんだボケが殺すぞ!!」
爆豪君の両手がボンッボンッ! っと爆発する。
おっと珍しい。
教師がいる時にそこまでキレるとは......無自覚でも認識してるらしいね? やっぱり君能力高いよ。
あ、流石に担任が動き出そうとしてる。
今更かよ......とりあえず邪魔はされたくないな。
パチンッ! っとフィンガースナップのクラップ音を大きく響かせて、意識に空隙を作る。
「怖くないならもういいだろ? いい加減席に戻りなよ。流石にこれ以上はボクの内申にも響くだろうし......ボクもこれ以上何も言わないからさ」
「チッ......! クソが......!」
君本当に妙な所で律儀というか真面目というかだよね。
みみっちいと言った方が正しいけど。
ケチくさ〜い。
ドスドスと機嫌悪く席に戻る爆豪君と、こっそり立ち上がっていた出久君がいそいそと席に戻るのを見た担任が、小さく安堵の息を吐きながら話を進める。
ボクはその様を眺めながら小さく溜息を吐いた。
それはそれとして教室の空気が滅茶苦茶に重くなってて笑える。
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「カラオケ行こーよ」
「それっきゃねーな!」
ガヤガヤと騒めく放課後。
生徒それぞれが帰路に着く中、ボクは出久君の後ろから肩に手を置いて声を掛けた。
「やっほ、出久君」
「あ、典祈くん。ちょっと待ってね、すぐ準備終わるから」
「ああ待って待って、大丈夫」
慌てて帰る準備を整えようとした出久君を止める。
一年前にここに転校してからはなるべく出久君と一緒に帰るようにしてるんだよね。
言う程家が近いってワケでもないけど、帰る方向は一緒だし仲良くなりたいし。
おかげで今ではご覧の様子!
「ごめんね、今日は用事があって一緒に帰れないんだ」
「そうなの? なら仕方ないね......」
少し落ち込んだ様子で返事をする出久君! 可愛いなぁもう!
「ふふっ、それじゃあまた明日、学校でね」
思わず出久君の顔の前で小さくパチンッパチンッっと二回指を鳴らしてしまった。
一回のつもりだったんだけど。
「うん。また明日」
ボクが指を鳴らしてあげると出久君の感情や意識がポジティブな方向に切り替わるよう刻み込んだからね! 可愛いね! ひらひらと小さく手を振れば出久君も笑顔で振り返してくれたし! やっぱり出久君ヒロインの素質あるでしょ。
えー? 女の子になれとは言わないけど、せめて男の娘になって出直してくれ。
後最低限は運動しろ運動。
教室を出て、周囲の意識全てがボクから外れた瞬間を狙って気配を消す。
教室出て割とすぐとは運がいいね! 校舎を出てからだと途中からになっちゃうし。
ボクの技量は『
それに『深裡世界』で向上した
この影響もあって、この世界が漫画の世界なんじゃないかって疑念がますます強くなってる今日この頃。
急いで教室まで引き返した。
恐らくボクが出た直後には爆豪君が動き出してるだろうし、なるべく最初から見たいんだよ! 何の事かなんて言う必要もないだろ!?
「話まだ済んでねぇぞデク」
教室に入って目に付いたのは出久君のノートを取り上げた爆豪君。
あー、ちょっと遅かったかぁ......今朝に
初期ロキ君ならぬ初期バク君といえばのシーンだよねっ! コレが初期の代名詞だと......? 君ホントに人気投票一位......?
そういえばボクも両親もそれなりに動いてるし割と大きく原作改変しちゃってる自覚あるんだけど、今のところ大きな流れの変化ってないみたいだねぇ......因果律はそうそう変わらないのね。
いやオカシイだろ......怖。
「カツキ、何ソレ?」
「『将来の為のヒーロ分析』? マジか!? く〜!」
「緑谷......!」
「いっ良いだろっ、返してよ!!」
爆豪君の取り巻きが盛大に馬鹿にしながら笑い、出久君が吠える。
そんな様を眺めながら、妙にムスッとした顔をした爆豪君は──
──ボンッ!
「あーー!?」
出久君のノートに両手を叩きつけるようにして爆破した。
合掌。
ノートが黒く焦げ、煙を上げる。
爆散させないだけマシ......かなぁ......? この辺りって深読みすると爆豪君の内心が現れてる気がするんだよねぇ。
認めたくないけど凄い幼馴染だもんね。
その努力の結晶を、想いの証拠を、粉々にする事は出来なかったのかな......?
「ひどい......!!」
あ! 出久君その顔可愛い! 両手が微妙に上がってるその仕草もいいね! 写真撮っていい!? ダメ!? 何で!? じゃあ仔細に記憶するね!!
フン......っと息を吐いた爆豪君が窓からノートをポーイと投げ捨てた。
君多分だけど鯉の池あること把握してたでしょ。
わぁ......! 弄りたい! 問い詰めたい! 心の内をぐっちゃぐちゃにしてあげたぁい!! あわあわしてる出久君もいいなぁ......やっぱり録画したい。
「一線級のトップヒーローは大抵、学生時代から逸話を残してる。俺はこの平凡な市立中学から初めて! 唯一の! 『雄英進学者』として『箔』を付けてーのさ。まー完璧主義なわけよ」
ポンっと、爆豪君は出久君の肩を叩く。
出久君の肩に置かれた手からはシュ〜っと煙が上がる。
「つーわけで一応さ、雄英受けるなナードくん」
ここ一番の良い笑顔! イイよ! でも君やっぱり曇ってる方がいいよ! あぁいや笑顔も素敵なんだよ!? 本来笑顔っていうのは威嚇の為に用いられる表情だって思い出させてくれる力強さ!! 勝ち気な笑顔は君らしくて心躍るよ!! ただそれはそれとして君はしおらしく顔を歪めてる方がボクの好みなんだっ!!
「............」
ガチガチと歯の根が噛み合わない程震える出久君が、体を強張らせたまま俯いた。
怖いよね......悔しいよね......苦しいよね......でも諦めたくないよね......! 分かるよ、出久君。
ねぇ、どうせ何も変わらないならさ、ここでこの三人ヤッちゃおっか? ズタズタに、グチャグチャに、決して死なないように殺してあげようか? あぁ......ここで涙を零さない君は凄いよ......偉いんだよ......? 君は頑張って生きてるんだから......
何も変わらないはずないんだけどね......大丈夫......今日が君の、君達の、世界の転機だから。
「いやいや......さすがに何か言い返せよ」
「言ってやんなよ。かわいそうに、中三になってもまだ彼は現実が見えていないのです」
爆豪君が教室を出るのに続く取り巻き君達が馬鹿にする。
出久君は震えたまま我慢ことしかできない。
短髪君。
君はまだいいや。
ロン毛君。
トラウマ刻み込んでやろうか? 二度とベッドの上から動けなくなるくらいに生きるという事に対するトラウマを刻み込んでやろうか? 大丈夫、その時は死を望みながらも『死んではならない』という強迫観念も刻み込んであげるから。
苦しんで苦死んで狂しんで狂死んで、それでも生きろ。
救いも光もない『深き果て』で。
ボクが『その先』から君の事を見ていてあげるからさ。
「あ」
教室を出る直前、爆豪君が良い事を思いついたと分かる顔をしながら声を上げた。
「そんなにヒーローに就きてんなら効率良い方法あるぜ。来世は個性が宿ると信じて......屋上からのワンチャンダイブ!!」
出久君が怒りを眉間に刻みながら勢い良く振り返る。
けれど。
「何よ?」
掌を爆破させる爆豪君に何かを言い返す事はない。
多大な恐怖は、その心の内に潜む諦念は、諦観は、振り切るには少し重く纏わり付き過ぎていた。
ねぇ、爆豪君。
君、ソレ本気で言ってたんだね。
『出来るわけが無い』、『するわけが無い』って妙な信頼も信用もあるけど......その歪んだ『信』は、『自殺教唆』を冗談にはしてくれないよ。
覚えて──あぁいや、忘れても良いよ。
いつか思い出させてあげるし、その時は二度と忘れられない記憶として刻み込んであげるから。
覚悟してろよ、散々に可愛がってやる。
爆豪君達の姿が見えなくなった。
胸の内に渦巻く感情を抑えながら、震えながら、泣く事も出来ないまま、出久君が一人、教室にぽつんと取り残される。
爆豪君の去った先をジッと見ながら。
............ごめんね、出久君。
ここでボクが君の前に姿を現しても良いんだけど、そうすると致命的な事になっちゃうから......ボクが君を慰めたら、君がオールマイトさんと出会えなくなっちゃう。
そうすると、どんな未来になっても絶望しか残らないんだ......あの
大丈夫なんて言ってあげられなくてごめんね......これは、必要な
ボクは、出久君を背にして教室を出た。
ごめんね出久君。
このままだと可愛い君をドロドロに甘やかしたくなっちゃうから、ボクは先に行くよ。
大丈夫。
『あのビル』での事、その後の『事件』、そして『奇跡』、ちゃんと見届けるからね。
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オールマイトさんと出久君が話をするビルって、実の所特定するの簡単なんだよねぇ。
アニメだと外観や周囲の景色も描かれてるし、ビルの構造と窓の位置、商店街の位置から
正直言って、間違ってたとしても即座にリカバリー出来るから正否は気にして無いけど。
「ん〜......!」
というわけでやってきました! 該当ビルの屋上! いやー気持ちがいいね! 天気も良いし!
ぐぐ〜っと体を伸ばして空を見上げる。
飛行機とかいたら面白かったんだけどなぁ......いつかボクらの上をスレスレに、ってさ。
まあこれから来るのは現ビルボードチャートナンバーワンと行動派オタクのセットなんだけど。
チョイスぇ......
「......」
『録音』を確認しながら空を見上げてぼーっとする事少し。
「あ、みっけ」
遠くの空からこのビルへ向かって滑空してくる二人が見えた。
凄いねぇ出久君。
よくオールマイトさんにしがみついていられたね? 想いで馬鹿力発揮するんじゃ無いよ〜全く......一歩間違えたら普通に死んでるからね? 跳躍中は流石のオールマイトさんでも急制動出来ないんだから。
あ、
みるみる内に近付いて来た二人はズンッっと豪快な音を立てて着地した。
う〜ん! 乱暴だぞオールマイトさん! もっと技術極めようぜ! ここ漫画の世界だから物理法則が迷子な技使えるよ絶対! 『個性』とか関係なく武術の極みとか発揮させる事出来るって! 大丈夫!! 貴方の元サイドキックとかそこのインターン生とか物理限界突破してるからっ!! 神拳とか武曽とかやろうと思えば出来るから!! ただ占い師はやめて下さい。
ただあの速度で約三百キロが着弾したと考えると、ビル全体が揺れる程度で済んでる辺り相当な技量が窺えるよね。
あれ? 既に物理限界をPuls Ultraしてらっしゃる? そりゃそうか。
ただでさえもじゃもじゃの緑髪を更にぐしゃぐしゃにした出久君が、やつれた様子でコヒューコヒューと呼吸を繰り返している。
「怖っかっった............!」
冷静になった事でぶり返したらしい恐怖にガクガクと震えながら、万感の想いを込めて呟かれた。
ウケる! めっちゃ可愛いよ今の出久君! 壊れたブリキの
「全く!! 階下の方に話せば降ろして貰えるだろう。私はマジで時間ないので本当にこれで!!」
腰に手を当てるとムキっと背筋が強調されるのすっご。
鬼とか見えそう。
え? 何それ触って良い? パンチとかしてみたい。
重量感ある立ち姿なのに動作が機敏で柔軟性の高さが分かる身体いいなぁ! やっぱり生で見ると全っ然違うね!
「待って! あの......」
「
「『個性』がなくても『ヒーロー』は出来ますか!?」
苦しんでる表情を隠す為に、ビルに着地してから一度として出久君の方を見ることなく、そして今まさに跳躍しようとしていたオールマイトさんの動きが止まった。
出久君! 無自覚に弱点特攻ストレートパンチとはやるね!
「『個性』のない人間でも、あなたみたいになれますか?」
「『個性』が......」
分っかり易いなぁオールマイトさん。
想定外とアドリブに弱いのは減点だぜ?
「──!」
ドクンッ! と強く脈打つ鼓動が聴こえた。
直後、オールマイトさんが苦痛を堪える様に身を捩り、身体から蒸気のようなモノを吹き出した。
「『個性』がないせいで......そのせいだけじゃないかもしれないけど、ずっと馬鹿にされてきて......だから............か、わかんないけど、人を助けるってめちゃくちゃかっこいいって思うんです」
自信の欠如と不安と微かな羞恥から俯いている出久君は、オールマイトさんの変化に気付かない。
ドクンドクンと激しく脈動する音が聴こえる。
オールマイトさんは自分の身体から発生した煙に全身隠れてしまった。
「恐れ知らずの笑顔で救けてくれる!」
バッと出久君が顔を上げた。
「あなたみたいに最高のヒーローに僕も......ぉぉおああああー!?」
先んじて知っていたボクでも直接見ると驚いたもん。
なんというか、実感湧かないんだよねぇ......
「しぼんでるぅー!! え!? さっきまで......え!? ニセ!? ニセ者!?
「......」
この世界では名実共にナンバーワンで、かつ世界的な絶対的ヒーロー。
平和の象徴であり、どこの国であっても最高峰のヒーローとして名が挙がるのがオールマイトさんなわけで。
そんな生ける伝説に等しい存在のニュースや番組、動画にサイトや雑誌、グッズなんかは毎日毎日呆れる程湧いて出てくる。
現存する偉人の行いは些細な事ですら偉業扱いで盛りに盛られる始末。
連日連夜年がら年中オールマイトさん関連のお祭り騒ぎみたいな世界で育ったらさ、いくら事前に知っていても五年前から衰弱し続けているなんて......実感も何もあったもんじゃない。
「私はオールマイト──サ......ッ!」
「わー!! ウソだーー!!」
ドバっと血を吐くオールマイトさんに、もうそれこそ魂の底からにも思える絶叫を上げる出久君。
「......! ──!」
あっぶない......! 変な声出るところだったよ出久君っ! なんて事してくれるんだ君はまったくもー!! 面白すぎるでしょ君芸人かよ!? なになになんなの!? ボクに何か恨みでもあるの!? ボク供給には身悶えするタイプのオタクだと自負しているのにさぁ!! 笑いまで一緒に提供するなよ我慢するのキツいだろ!? 本当に君は可愛いなぁもー! 抱きしめて欲しいの!? 抱きしめてあげようか!? いいよ!? 違う今はダメじゃん色々台無しになるじゃんやめろ誘惑するな耐えろボク......っ!!
「プールでよく腹筋力み続けてる人がいるだろう? アレさ!」
「ウソだー!!」
コイツら......! 八つ当たりしてやろうかこのっ......!!
身悶えすら抑え込むボクを他所に、疲れを孕んだ息を漏らしたオールマイトさん──
「恐れ知らずの笑顔ね......見られたついでだ少年」
「......ウソだ......」
「間違ってもネットには書き込むなよ?」
いっ、いつまで我を忘れてるんだい出久君......っ! ちょっ、待ってシリアスな空気なのにツボから抜け出せない......! なんで......!? 切り替えが上手くいかない......!
「......五年前......敵の襲撃で負った傷だ」
「ひっ!?」
「呼吸器官半壊、胃袋全摘。度重なる手術と後遺症で憔悴してしまってね......私のヒーローとしての活動限界は今や、一日約三時間程なのさ......」
「五年前......? 『毒々チェーンソー』と戦った時......?」
「くわしいな。あんなチンピラにはやられはしないさ!」
──よし。
ようやく落ち着いたぁ......いやぁ、現状への興奮が重なって揺れが大きかったから大変だったぁ。
それにしても、八木さん凄いね。
呼吸器官半壊に胃袋全摘って、普通補助機械着けて車椅子かベッドの上だぞ? なんでそれで『マッスルフォーム』になったり出来るの? 視たところ人工臓器も無いみたいだし......は? 医学に喧嘩売るの辞めて貰っていいですか?
「これは世間に公表されていない。公表しないでくれと私が頼んだ」
うーん......五年前か。
ボクも両親もオールマイトさんの事は避けてたからなぁ......両親が揃えば部位欠損でも治療できるんだけど、父親は現場主義で被災地に直接出向くし母親はそもそもヒーロー嫌いだし、公安にはボク達家族の事は把握出来ないようにしてたから、仕方ないね。
「人々を笑顔で救い出す『平和の象徴』は、決して悪に屈してはいけないんだ......!」
オールマイトさんは虚空を睨みつけるように宣言した。
これが覚悟......! これがオールマイトさんの──八木俊典さんの想い......!! あぁ......やはり貴方がナンバーワンだ。
「私が笑うのはヒーローとしての重圧、そして内に湧く恐怖から己を欺く為さ」
「......!」
出久君が口を閉じる事も言葉を発する事も出来ずに愕然としている。
或いはそれは戦慄か。
出久君にとって、或いは純粋に光だけを見続けた少年にとって、ナンバーワンヒーローのその言葉は重過ぎた。
「プロはいつだって命懸けだよ。『『個性』がなくとも成り立つ』とは......とてもじゃないがぁ......口に出来ないね」
「......はぁ......」
溢れ出した諦めが額を伝い、顎を伝う。
口から絶望が零れ落ちた。
振り切れた感情が表情筋を引き攣らせる。
生気が色と共に抜け落ちた。
青白い身体。
見開かれた眼。
開いた瞳孔は酷く虚で。
まるで笑っているかのような口元。
「人を助ける事に憧れるなら警察官って手もある。『
あ〜ぁ、感傷に浸っているね? 八木さん。
今貴方は過去の己を見ている。
だから目の前の少年に、些か不適切な助言モドキをしてしまったんだ。
見えてないだろ? 出久君の事。
時代は進んでいる。
社会は変わっている。
出久君は貴方と同じ『無個性』だけど、貴方と違う時代の、貴方と違う社会を生きている。
断言しよう。
今の社会で、『無個性』の出久君は警察官にすら
八木さん。
心を砕き命を削り魂を燃やして守って来た貴方の背後。
その実態は酷く醜く歪んでしまっているんだ。
出久君の持つ才能は、貴方とは違うモノだ。
傷だらけで疲弊した貴方は......いいや、結局貴方は気付けない。
己との環境の違いを認識出来ないお前は、だから緑谷をあそこまで追い詰めた。
「......夢見るのは悪い事じゃない。だが......相応に現実を見なくてはな。少年」
──バタン。
扉は無慈悲に閉ざされた。
深く俯く出久君からは、態々分類して表現するのが面倒になる程の負の感情が溢れている。
それでも自責に向かうのが、君の善性を示しているよ。
膨れ上がったその感情が、社会やヒーローへの憎悪や怨念に変化しても、何も不思議じゃないのに。
「......」
ソロソロと出久君の側に寄る。
そして、その顔を覗き込んだ。
「......!!」
アハッ! あっぶない!! 溢れる所だった! 開かれた瞼と瞳孔! 焦点が合わず光が映っていないその眼! 乾いている! 渇いている!! 大きすぎる感情はけれど涙にすら変わらないっ!! 冷や汗が! 脂汗が! 全身で泣いているようにも見えるね!! だけどそれは苦しみに対する生理現象!! その充血した眼と同じだよ!! 皮肉だ! 皮肉だねぇ!! まるで笑っているかのようなその口元っ!! 内に逆巻く激情を覗かせない虚な表情だ!! 吐き気すらも無いでしょ!? 現実感が無くなる程ふわふわしてるでしょ!? 頭の中が空っぽで何も考えられないでしょ!? 震える事すら出来ない程に寒いでしょ!? 気を付けてね出久君!! その状態から滑らかに思考が回るようになると自殺する可能性が高まるから!! そうじゃ無くても『引っ張られる』可能性が高いんだけどね!! この世界じゃどうか知らないけどっ!! 大丈夫!! ボクが居るからねっ!! その時はボクの全霊で以って引き留めてあげるっ!!
ゆらり、と、まるで幽鬼のように生気が欠けたまま出久君が動き出した。
よし。
ならボクも行こっ。
さっき爆発が起こってたの確認済みなんだよね! 待ってて爆豪君! すぐに君の側に行くから!
そういえば、出久君の反応ってあんなに大きくなかったよね? どうしたんだろ......大丈夫かな......? まあ商店街に向かってくれてるから、今の所は過度に干渉しないけどさ......
直前に読んでいた小説に影響を受けやすいんですよね......ちょっと文体とか安定してない可能性があります!