ボクの『個性』? 『無個性』だよ? ……ふふふっ、本当の事だよ。 作:黒月悠生
お疲れ様です、皆様。
この話、読み返してて恥ずかしくなっちゃうんですよねぇ......つまり、勢いありきでよく分からない事を考えもせずに羅列している、という事の証明です。
目を通す際は、どうかお気を付け下さいませ......
翌日、ボクは学校に行ってすぐに出久《いずく》君と
周りの生徒が爆豪君に称賛の言葉を送り、オールマイトさんに助けられた事を羨む。
出久君に対して蔑みを向けては嘲笑う。
しおらしい爆豪君と身を竦める出久君。
二人共とても可愛らしくて、それこそ目一杯抱き締めてあげたくなったけど流石にそこは自重した。
「出久君っ、ニュース見たよ......大丈夫だった......? 怪我はない......? どこか痛いところとかは......?」
「
「そっか、良かった......無事で何よりだよ、出久君」
「典祈くん......! ありがとう......」
「うん。じゃあ改めて、おはよう出久君」
「っ、おはよう典祈くん」
最初に声を掛けたのは出久君に対して。
君を大事に想っている人が居るって事を刻み付けてあげる為に、分かり易く感情を
その次は爆豪君だ。
十ヶ月経ってもムスッとしてた爆豪君な訳だけど、昨日の今日で既に『そう』なっているらしい。
認めたくないけど認めるしかなくて、否定したいけど否定出来ないもんね? だって君は昨日出久君に救けられたんだから! ねぇ! 必死に見ないふりしてるでしょ!? 爆豪君っ! 出久君が雄英に受かる訳が無いって! よしんば受かったとしてもすぐに脱落すると思ってるでしょ!? そう思う事でバランスを調えて! その事実で以って自分の事を肯定しようとしてるでしょ!? みみっちいんだよツンデレめッ!! とんだ天邪鬼だね! 可愛いねっ!
「おはよう、爆豪君。怪我してない......? 痛むところとかない......?」
「......誰の心配してんだクソがっ。てめえに心配される程俺は弱くねェ」
「それはそれでしょ。あのヴィラン凄く厄介そうだったし......」
「あァ......!? あの程度俺一人でも余裕だわ舐めんなボケが......! つかさっさと失せろや殺すぞ......!!」
「そう......? それなら良いけど......まあ、元気そうで良かったよ爆豪君」
普段以上に不機嫌なのにいつに無いくらい静かにキレ散らかしているレアな爆豪君の記録ゲット! ウケる。
何こいつめっちゃ可愛い......なんだろうこの大型犬とかが吠えずに唸り続けてる感じというか......威嚇が怯えの裏返しにしか見えない状態というか......小動物か......? ツキちゃんカァイイです。
ゆらりと背中を向けると舌打ちが聞こえた。
なになに? ボクに心配されて余計不機嫌になっちゃった? でもボク今までもこれからも君に絡むのやめてあげないよ爆豪君! 嬉しいでしょ!? もっと喜んでくれても良いんだよっ!
校舎に鐘の音が響く。
今日もまた中学生の一日が始まった。
何度も響く鐘の音の合間に授業を受けたり出久君と話したりする事数時間。
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放課後一緒に帰路を歩く出久君とも別れて、一人になった。
楽しみだなぁ......! 今日は大きな原作改変の予定だからねぇ......どうなるかな? どんな絵が見られるかな......!?
踊る心が表に出ないように気を付けながら歩いて、自宅前。
丁度家のインターホンを押そうとしてる人影が一つ。
「こんにちは」
「......! あ、あぁ......こんにちは」
わーキョドッてる! 前々から思ってたけど貴方ってコミュ障の気があるよね! 今だって普通の一軒家に一人で訪問する事に緊張してたんでしょっ!? 間違えていない事は確かでも不安になるよね! ボクに声掛けられて焦っちゃった? 別に悪い事してる訳じゃないんだから堂々としてて良いんだよ!!
「ここのお家の方にご用事ですか......?」
「そうだが......君もそうなのかな? すまないね......私は後でも大丈夫だから先にどうぞ」
「あ、待ってください」
思いっきり逃げようとするのやめてもらって良いですかぁ?
「ボクこのお家に住んでるので一緒に入りましょう」
「エ......っ!?」
「お客さんを追い返しました〜なんて、失礼な事は出来ませんし」
その愕然とした顔可愛い! 貴方はやっぱり乙女だと思うんだボク! 引っ込み思案なのにいざという時は誰よりも強く気高くキめてくれるとかそれなんて大和撫子!? ギャップ萌え狙ってくるんじゃないっ! そんなんだからメインヒロイン扱いされるんだよ!? まあただのコミュ障なやんちゃ娘って考えても萌えるよね! 猫かな!? アメリカン・カール......? ショートヘア......?
「ふふっ、初めまして。ボクは
「あ、うん。私は
「八木俊典さんですね。よろしくお願いします」
ほんわかとした柔らかい微笑みを意識して自己紹介したところ、八木さんは少しばかり呆然とした様子を見せた。
思考が混乱してますよ? もっと冷静に、余裕を持ちましょう八木さん!
ヒョイっと八木さんの前に割り込んで家の扉を開けようとしたところで、八木さんが再起動した気配を感じた。
「いやっ、ちょっ......! ちょっと待ってくれ......! 君はこの家の子どもなのかい!?」
「この家の子供ですよ......? どうかしましたか?」
「あぁいやどうかしたということもないんだがね!? 少しばかり驚いたというか......!?」
何だかわたわたと挙動不審な様子の八木さん。
分かるよ! 焦ってるよね!? 今日の用事を考えたら人が少ないに越した事はないのに! ましてや子供なんていて欲しくは無いのにっ! ボクがいるもんね!? しかもあからさまに学校帰りだし何だか意図的なモノを感じてるでしょ!? 正解!! ボク達が謀りましたっ!! いやでも安心して欲しいな!! ボクがいる事には大きな意味があるんだからっ!
なんてやり取りしている内に、家の扉が内側から開けられた。
「おかえり、典祈」
「ただいま
どうも待ちきれなくなったみたいです。
夢姉も
ボクを出迎えた夢姉が、ボクの後ろで完全にフリーズしてしまっている八木さんに目を向けた。
「......八木俊典......?」
「ぇ......あぁ、えぇはい......八木俊典と申します......」
「......いらっしゃい」
警戒心バリバリな夢姉に気圧された八木さんが萎縮する。
ボクの影響で気が抜けて油断していたのが大きいかな? しっかりしてよヒーロー。
「八木さん、中へどうぞ。ほら夢姉、おもてなししよ」
「......うん......八木俊典、中へ......」
「は、はい......お邪魔します......」
何この空気ウケる。
滅茶苦茶に重くギスギスしてるんですけど? 八木さんはビクついてるし夢姉はピリピリしてるし......敵同士の会合か何かですか? 夢姉からしたらヒーローとか敵みたいなモノだから間違ってないのが特に面白いよね!
ボク一人がほんわかしてるせいでなんか余計にカオス。
「典祈、おかえり」
「ただいま創兄。お客さん来てるけど、準備は出来てる......?」
家に入ってすぐ。
リビングから創兄が出て来た。
ボクの後ろに続く八木さんを見て、驚いたように少しだけ目を見開く。
まあ驚くよね。
ボクと一緒に入って来たのもそうだし、八木さんが肩身狭そうに萎縮してるのもそうだし、不機嫌な夢姉もそうだし。
これがナンバーワンヒーローだよ! 威厳皆無だよね! 可愛いよね!?
「ふむ......あぁ、準備なら出来ているよ典祈。ようこそ八木俊典さん。さあ、こちらへどうぞ」
「は、はい......お邪魔します......」
創兄のスイッチが切り替わった。
医者としてのスタイルカッコいいね! 相変わらずカッコいいけど隠し切れない鋭さに八木さんの腰が引けちゃってるよ!?
孤立無援で胃にダメージが来てるかな八木さん! ダメージ行く胃はないんだけどねっ! 大丈夫! ボクがいるからねっ!
「八木さん、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。ほら、息を吐いて力を抜いてください。リラックスですよ〜リラックス」
ゆらりと八木さんの横に立って、前腕に触れて背中を撫でさすりながら微笑んで見せた。
なんだか子供をあやしてる気分になるね......大丈夫......貴方にもしっかりとボクという存在を刻み込んであげるからね......? その為にも被災地で鍛えたセラピースキルもカウンセリングスキルも、ボクの能力全て、全霊で以って貴方を支えてあげるよ......嬉しいでしょ......? 癒されるでしょ......? それで良いんだよ。
ボクと目を合わせたまま息を吐いて、緩やかに力の抜けた八木さんが柔らかく笑って見せる。
「ありがとう供捧
「ふふっ、ありがとうございます。笑ってる方が素敵ですよ、八木さん」
「......本当に、しっかりしているね」
あ〜! その少し驚いてる感じ凄く良いね! 両頬を両手の人差し指で持ち上げて笑ってる奴が一番強いとか言った方が良かった!? いやしないけどさっ! やって見せたらどんな反応してくれるんだろうね!? 気になるなぁ......! いつかやろっ! もちろんやる時はアレンジするけどねっ!! ちょっと照れてるのもポイント高いなぁ......!
八木さんを励ましていると、夢姉と創兄からムッとした気配が漂って来た。
なんで『警戒』? いやちょっと混ざってる『嫉妬』もいまいち分かんないけど......どうしたの?
「典祈、
「いいよ、分かった」
「典祈、行こ」
「では、八木俊典さんもどうぞ。お話は応接室でお伺いします」
テキパキと動き出した二人に合わせて、ボクも動く。
「八木さん、お茶とお水、どちらがいいですか?」
その前に確認ね。
胃が無い八木さんにジュースは出せないし、コーヒーも控えた方がいい。
お茶も種類を選ぶ事になるけど、家ならどんなモノでも用意出来るからよし。
「いや、私は水で構わないさ。そこまで気を遣ってもらう必要はないとも。ありがとう」
「そうですか......? では
「本当にありがとう、供捧少女」
「ふふふっ。供捧だと誰の事を呼んでいるのか分かりずらいですし、ぜひ典祈と呼んでください」
「......ああ、分かったよ。典祈少女。改めてありがとう」
「はい」
くすくすと笑っていると、夢姉に優しく腕を引かれた。
ついでに創兄が八木さんの隣に移動してその背中を緩やかに押した。
いや確かにボクの事『少女』呼びしてる事に対して思うところがあるというか不機嫌になるのは分かるけどさ、ボクが訂正しないのが悪いんだから八つ当たりはやめてあげて? その人割と小心者な面があるから。
トゥルーフォームだと分かり易いよねその辺り。
夢姉に促されて八木さんより先にリビングへ。
キッチンに入って白湯の用意を始めた。
ボク以外だから三人分だね。
本当はハーブティーや薬湯でも淹れたいところなんだけど......まあ、八木さんの身体の状態を詳細に把握出来ていない現状では選択肢に上がらないんだよね......残念。
あ、八木さんは応接室へ誘導された。
ボクの家、割と大きいんだよね。
大きいというか、外観と釣り合いの取れない広さしてるんだけどね? やっぱり夢姉と創兄のタッグ強すぎる。
あ! アイランドキッチンとかいうロマンの塊だってあるよ! ボクアイランドキッチン好きなんだよね! 分かる!? リビングも広いからホント最高!! 掃除用のロボだって数も種類も揃ってるんだよ!? いいでしょ!!
「......典祈、本当にやるの......?」
鉄のやかんに水を移して火に掛けながら、夢姉が呟いた。
「本当にやるよぉ。心配してくれるのは嬉しいよ、ありがとう。でも何度言われてもやめる気はないよ」
夢姉に答えながら湯呑みを三つ出して、銅鍋に水を入れて煮沸の用意をする。
まあ、原作の描写を見る限りあんまり気を遣い過ぎなくても大丈夫だとは思うんだけど、一応ね? なんか本人を実際に見るとちょっと不安になったんだよね。
「......」
「ふふっ。そんな顔しないでよ、夢姉」
やかんを焼いて揺れる火を眺め続ける夢姉。
理解は出来ても納得出来ないんだよね? 分かるよ......夢姉そもそもヒーローという存在が嫌いだもんね? そんな奴等の筆頭に対してボクが尽力するのが嫌なんでしょ? ヒーローは見たいモノしか見ないし救けたい奴しか救けないもんねっ? 肝心な時に保身に走って味方すら見殺しにするもんね!? ボクが身を削る程の価値を感じない夢姉はヒーローに対する敵意と嫌悪が高まっちゃうかな!? そんなに拒絶しないであげてよ!! 中には『本物』が紛れてるのが尚更にタチが悪くて不快なんだよねっ!! だからヒーローに純粋な殺意を向けられない事が腹立たしいんだよねッ!! 胸の内に渦巻く感情の処理の仕方に困るよね!! 大丈夫だよ!! ボクはボクが好きな人の味方だからッ!!
後ろから優しく夢姉に抱きついて、甘えるように少しだけ体重を掛ける。
「ね、夢姉......これからたくさん、たくさん今みたいな気持ちになると思う。ん〜ん......きっともっと辛い想いだってすると思うんだ............何度も、何度も、何度も..................だからさ......」
ボクの感情を夢姉に伝える事で、その心に混ぜ込んでいく。
繊細にその心に触れて、微弱な刺激を繰り返す。
「もし、本当にやめて欲しいなら......」
きゅぅっと夢姉に回した腕に微かに力を込める。
小さな震えはボクのモノか......夢姉のモノか......どっちだろうね......?
「ボクは......やめるよ......?」
ぴくりと、夢姉が肩を振るわせた。
やかんが小さく悲鳴をあげ、三つの湯呑みを孕んだ鍋が緩やかに泣き始める。
「やっぱりね......夢姉が傷付くのは嫌なんだ......夢姉が苦しいとボクも苦しいんだ......」
夢姉の頭に、ボクの頭を寄せた。
夢姉は、ボクの共感性と感受性を知っている。
ボクの力を知っている。
ボクの『今まで』を知っている。
「......てん、き......っ」
震えた声がボクの名前を紡ぎ、震えた指がボクの腕に触れる。
「......ごめんっ......ごめんなさい......っ!」
夢姉がボクの腕を掴み、力を込める。
ボクは、短く息を吐いた。
「......!」
緩んだ腕の中で、夢姉がボクに振り返る。
涙の浮かぶ目で、苦手な笑顔を浮かべて。
ボクの頭を、優しく胸の内に抱き寄せた。
「......私も......私も、典祈が苦しいと、苦しい......典祈が悲しいと悲しい......っ!」
ギュウッっとボクを抱き締める夢姉に、縋るように腕を回して身を寄せる。
小さくなって、身体を預けて。
──チリンッ
簪の鈴飾りが小さく音を立てて、二本とも落ちた。
「......典祈......っ! ......大丈夫......! 私も、夢を現実に変える......っ! から......!」
広がった髪を、夢姉が梳くように撫でる。
「......もう、止めない......! 一緒にっ、夢を見よう......!!」
やかんが高く、鍋が激しく泣く。
「......ありがと」
小さなボクの声は、それでも何よりも鮮明に。
「......一緒に......ね......?」
届いている。
「......うんっ......!」
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「では八木俊典さん、どうぞお掛けになって下さい」
「えぇ、それでは失礼します」
応接室にて八木俊典を先に座らせた
骨張った身体と猫背、
皮と骨だけにしか見えないが、その身体を支える筋肉からは見た目にそぐわない筋力が窺える。
事前に聞いていた話では、胃袋全摘に呼吸器官半壊という、一般人であれば残りの一生をベッドの上で過ごす事になっても何もおかしくはない重症だという。
これで治療後だというのだから、創司としては呆れた話だ。
後遺症により、ヒーロー活動にも制限時間による限界が存在するという。
年齢による衰弱も併せれば当然の話だと、溜息を禁じ得ない。
「では改めて。初めまして、私は供捧創司と申します」
「初めまして。私は八木俊典と申します。これからお世話になります」
互いに会釈程度に頭を下げた。
俊典には僅かに緊張が残っている。
先程典祈のおかげで大半が解されて尚コレかと、感情がマイナスに揺れた事を自覚した創司は、一つ笑って見せた。
「ご安心ください。これからすぐに全てを始めるわけではありませんから。夢佳と典祈──先程の二人が飲み物を用意していますので、揃うまで少し世間話でもしましょう」
「はぁ......そ、そうですか......? 分かりました......」
困惑した様子を見せる俊典。
創司は医者としての経験も含めた観察眼で断定する。
──PTSDだ。
PTSD。
心的外傷後ストレス障害。
八木俊典は、この様な治療行為に対して、程度は軽いとはいえ一種のトラウマを抱いている。
考えれば当然だ。
八木俊典はナンバーワンヒーローであり、『平和の象徴』であり、世界的にも重要な存在であるヒーロー、『オールマイト』なのだから。
死ぬ事は論外とはいえ、その為に何度も無茶な治療を重ねて戦闘不能になってしまったのでは本末転倒も
『下手な事をしたな』、というのが創司の感想だ。
創司自身現場主義故に、半ば以上ボランティアに等しい医療行為を行って来た。
その為にヒーロー資格を取得する事になったが、今となっては文句もない。
それはそれとして、現場以外では依頼を受けて突発的な重症者の治療に直接赴く、医者としてのフリーランスに近い事もしていた。
その過程で海外へ出る事も多かったし、私情もあって政府側にはあまり近付か無かったとはいえ、日本全国を周っている。
その経験からすれば、日本政府──オールマイトに関連する事柄ならば『ヒーロー公安委員会』と言った方が正しいか。
通称にして公安の人間は、オールマイトを排除したかったのかと邪推する程の愚行を犯していると断言出来る。
そも、例え創司の知らない個性を用いられたとしても、オールマイトが現在まで生き延びている時点で、胃袋の全摘を行う必要は無かっただろうし、呼吸器官の半壊だって完治出来た筈なのだ。
確かに当時の治安は最悪と言える状態だったとはいえ、だ。
公安が、日本政府が全力を以って対応に当たっていれば、完治に掛かる時間さえも無に等しいモノに出来たであろうし、当然海外の国々も協力を惜しまなかっただろう。
オールマイトへの対応は国の垣根を越えた最重要案件だ。
特にアメリカなどは全面的に協力したであろうに。
下手な治療を無理に重ね、オールマイトの『寿命』を削った。
あまりに愚か。
とはいえ、だ。
今の今までオールマイトに関わろうとしなかった自分に、声を大にして言える文句などありはしないが。
親しみを込めた笑みに苦味が混ざる前に、創司は口を動かした。
「八木俊典さん、貴方の好きなモノや趣味は何ですか?」
「好きなもの、ですか......?」
「はい。或いは趣味ですね。例えば私は、最近は花や木に関心が向いていまして。恥ずかしながら医療とは何の関係も無い面からではあるのですが、典祈の影響を受けまして」
いつも眠そうな目で柔らかく微笑む家族を想えば、創司の笑みは心からのモノに変わる。
目元にすらそれは現れた。
「あの子の影響を......?」
「はい。典祈は非常に多趣味というか......私達では少し追い付けない程の興味を多方面に向けまして。その一つ一つを正確に把握しているのがまた凄まじい点ではあるのですけど」
対する俊典もまた創司の様子を逐一観察していたし、典祈の話をする時の変化にも気付いた。
俊典から見て、供捧創司という男は己の在り様に『芯』を持ち相応の『矜持』と『実力』を併せ持った、一種の『強者』だ。
或いはトッププロのヒーローにも並ぶ圧を、仮にもナンバーワンと讃えられる己の経験が伝えてくる。
実際、医者としての腕もそうだが、戦闘能力もかなりのものであろうと判断している。
医者としても一人の戦士としても、今に至るまでの
それと同時に、これ程の男が強く影響を受ける存在を脳裏に描く。
先程、事前に場所を教えて貰い、かつこの家の者へ繋いでくれた恩師たる者へ、内心何度も疑念を抱きながらどう見ても一般家庭のインターホンに指を伸ばそうとしていた時。
横から声を掛けられた。
『いつの間に』という困惑も、『気付かなかった』という驚愕も、後になって湧いて来た想いだ。
声を掛けられてすぐ、俊典はこの上無い程『鈴の音の鳴る様な』という日本的表現を生身で体感した。
暖かくも涼やかで、柔らかくも芯の通った不思議な印象を抱かせる声が、俊典の頭に、その胸の内に響いては優しく反響した。
心地の良い残響に一瞬呆然として、吹き出した困惑、驚愕、警戒や疑問などの感情に従って素早く声の元へ振り向き、感情の意味も、それぞれの大きさも変わった。
声の主は子どもだった。
自ら淡く輝いているのではと思わせる程に光を返す美しい白い髪。
高く束ねた髪を飾る二本の簪。
本人の動きや風に合わせて、遊びの髪と簪の飾りが軽やかに踊る。
眠たげにも見える力の抜けた金色の目は、けれど確かに己を捉えていて。
軽やかで柔らかく、優しい笑みを湛えた口元。
綺麗な白い肌に、学生服の上からでも分かるスタイル。
覗く白い手指は細長く、柄にも無く『白魚の様な』という印象を抱いた。
纏っている学生服は何故か男子用だが、線を隠す学生服でさえスタイルの良さが分かるのだから然もありなんと。
しかしどう見ても美人と呼べる顔立ちをしたその子どもが男子学生服を着ると、意味があるのか首を傾げてしまうもので。
結論として俊典は、不覚にも僅かな間、確かに『彼女』に見惚れてしまった。
五十も半ばを過ぎて十代の少女に何を、なんて思いから我に返った俊典はしかし挙動不審になってしまって。
今思い返せば己でも『そう』と判断する程あからさまに不審者であったろうに、彼女は俊典の目を見ながら朗らかに笑った。
この家にお邪魔する時も、上がらせて貰った時も、ずっと助けられているような気さえする。
僅か数分しか関わっていないというのに。
──『笑っている方が素敵ですよ』
脳裏で響いた声が、心の内に残響する。
俊典は既に、たった数分の関わりしかない少女を生涯忘れる事はないだろうと確信していた。
声を掛けられるまで気付きもしなかった少女は、しかし気付いてしまえばその存在を鮮烈に刻み付ける。
なんらかの個性だろうかと思う程に不思議な少女が、脳裏で仄かに笑う。
あぁ確かに、この様な少女の家族であるのならば、これ程の男も柔らかくなろう、と、俊典は深く納得した。
だからだろうか。
俊典は創司に対して一種の親近感を抱き、口も少しずつ軽くなる。
「好きなものは屋久杉ですね。あの雄大な存在感......生命力に溢れて神々しくて、神聖さを感じる......圧倒されるけれど、もっともっと自分も頑張ろうと思えるので......昔から好きなんです」
「なるほど......屋久杉ですか、いいですね。特に縄文杉は私も好きですよ。遥か昔から今に至るまでを見守り続けている様で」
「分かります......! その見守り続ける様は、これぞ平和の象徴! とも思わされるので!」
「平和の象徴......貴方にとって一種の憧れでもあるのですね。確かに長寿と繁栄を象徴し厄を祓う屋久杉は、ともすれば貴方の在り方に近いモノがあります」
創司が緩やかに頷いて見せれば、俊典も力の抜けた笑顔を浮かべた。
これなら大丈夫そうだ、と。
二人は互いに目を合わせながらそう思った。
それからしばし......十分程経った頃だろう。
俊典は時間を忘れていたのでそうとも思わなかったが、そこそこの時間を掛けた供捧夢佳が湯呑みを三つ運びながら部屋へ入って来た。
「......ごめんなさい。遅くなった」
「あぁいえお構いなく......」
夢佳が先に俊典の前に湯呑みを置き、次いで創司の前に湯呑みを置いた。
そのまま創司の隣に腰を下ろした夢佳は、ジッと俊典を見据える。
「夢佳、典祈は着替えかな?」
「......うん。すぐに来るって言ってた」
やり取りを聞いて息を呑んだ八木に、夢佳は微かに目を細める。
肉体が衰えてなお
否、その判断自体はとうの昔に下している。
これまで見て、或いは直接関わってきた者達の殆どが大なり小なりオールマイトの影響を受けていた。
良くも悪くも多方面に絶大とも言える影響力を持ち、その身一つで天候すらも変えてしまう程の強大に過ぎる力を持ち、それでも尚純然たる想いで誰かの為にのみその力を振るい続けてきた。
──お前の在り様は、人を夢へ誘う。
今、最早常人では真面に動く事も叶わないであろう身体になりながら、それでも尚欠ける事も無く傷つく事も無く、その意思を輝かせている俊典は、夢佳にとって紛う事無き狂人に他ならない。
滅私奉公の聖人が如きヒーローと言えば聞こえはいいだろう。
だが自己犠牲の程度がトんだソレは、狂気と紙一重でしかない。
孤独に、孤高に、自らの身体を殺して、命を削り、心を砕いて、魂を燃やす。
かつての時代、オールマイトが必要だった事も理解しているし、『平和の象徴』の効果を知っているとしても、夢佳にとって素直に褒め称える事は出来ない。
確かに感謝しているし尊敬もしているが、それとこれとは別の話だ。
夢佳にとって今大切な事はただ一つ。
オールマイト──八木俊典を治療する過程で、典祈にどれだけの負担が掛かるのか。
──典祈を傷つける奴は『敵』だ。
もとより高くは無い好感度だ。
どうか消し去りたくなる様な夢は見ないで欲しいし、見せないで欲しい。
──勝手だけど、失望させないで。
湯呑みに口を付けた夢佳は、目の前の俊典よりも部屋へ戻った典祈の方へ大半の意識を割いた。
「て、典祈少女も来るのですか......?」
典祈が来る。
そんな事は微塵も考えていなかった俊典は、動揺のままに創司へ聞いた。
「はい。貴方の治療には典祈の力を借りる必要があるので、後程説明するよりは初めから同席させます」
「......そ、そうでしたか......」
「あぁご安心下さい。貴方がオールマイトである事は明かしていません。今日患者が来ると、ただそれだけを伝えています」
「それは......助かります」
「はい」
思わず漏れた安堵の息と共に力が抜けた。
俊典としては──オールマイトとしては、特に子どもには『弱っている』と知られたくはない。
「あぁそうでした。こちらを紹介しましょう」
その創司の言葉に、俊典はそのまま供捧夢佳へと視線を向けた。
「こちらは夢佳。治療の際には夢佳の力も借りますのでよろしくお願いします」
「......供捧夢佳。よろしく......」
「八木俊典と申します。これからお世話になります」
──私何かしたかな? 初対面だよね?
玄関先で顔を合わせた時からなんだか嫌われている気がする。
向けられる眼が時折鋭くなるのを感じる度に、少し身が竦む。
俊典は困惑が表に出ないようにしながら記憶を漁るも、夢佳と出会った記憶は無い。
典祈の側にいる間やたらと睨まれていたつい先程が初対面で間違いない。
もしやそれが原因だろうかと思い至り、どことなく据わりが悪く感じて思考を止めた。
改めて夢佳を観察する。
そこで初めて、『よく分からない』という事に気付いた。
俊典にとってそれは一種『異常』とも言える感覚で、この家族の特殊性に今更ながら思い至った。
トップヒーローにすら匹敵する可能性のある創司と、下手をすればそんな創司と同格の夢佳。
そしてこの二人の核となっているであろう典祈。
市井にこれ程の存在が隠れている事実に戦慄する。
もしこの一家がヴィランであったならどうなっていただろうかと考え、どうあっても大惨事にしかならない気がした。
戦力が未知数にも程がある。
──特に典祈少女とはやりたくないなぁ......
現実逃避気味に思考が飛んだ。
「ふむ、典祈も用意が終わったようだね」
「......早い。もう少しゆっくりしてもいいのに」
どこか遠くへ行っている俊典を気に掛ける事なく、夢佳と創司は典祈へと意識を向けている。
──コンコンコン
創司が湯呑みに口を付けたタイミングで室内にノック音が響いた。
気にせず湯呑みを傾ける創司とノック音で我に返った俊典を横目に、夢佳は扉へ目を向けた。
「入っていいよ、典祈」
すぐさま許可を出した夢佳の声に、扉が静かに開いた。
私服に着替えた典祈が入室する。
真っ先に夢佳と創司に目を向けた典祈は微笑みながら微かに首を傾げ、次いで俊典へと視線を移し、その微笑みに申し訳なさが混ざった。
「お待たせしました、八木さん。遅くなってしまい申し訳ありません」
「いやいや、そう待ってはいないとも! 気にしないでくれ!」
「......ありがとうございます」
ゆらりと頭を下げた典祈は慌てた様子を見せる俊典にくすりと笑みを零して、夢佳と創司の座るソファーへと近付く。
当たり前の様に席順を整えた三人にどこか驚いた様子の俊典を見て、典祈はくすくすと笑った。
「──改めて、大変お待たせしました」
落ち着いて口にした典祈の言葉に、空気が切り替わる。
創司が湯呑みを置き、夢佳の目が僅かに鋭くなり、俊典は思わず背に力が入った。
「それでは、八木俊典さん。用意が整いましたので本題を始めさせて頂きます」
「はい。分かりました」
創司の言葉を俊典が肯定した事で、本来の目的を果たす為の話は始まった。
独自解釈とはつまり独自設定ですよ? 設定の把握が甘いので......ご都合主義マシマシです☆
オールマイトさんの治療関連はね......あぁ......恥ずかしい......