ボクの『個性』? 『無個性』だよ? ……ふふふっ、本当の事だよ。 作:黒月悠生
サブタイの雰囲気が味気なさ過ぎて、面白みを感じないんですよねぇ......これは試行錯誤あるのみ......でしょうか......?
まぁ......ストック尽きたので、あまり......関係は無いですねぇ......
なんかボクをチラチラと気にしながら話ていた
それを事細かに聞き出した。
なんか時折傷を負った経緯を話そうとするから都度軌道修正が必要だったんだけどね。
話さなくていいんだよ? 真面目なのは貴方の美点だけど同時にかなり不器用なんだから! 気不味そうにしながら話そうとする様はすっごく可愛かったけどさ!? それはそれとして現時点のボクに明かそうとするのやめてくれませんかっ? 何? 昔の事でも思い出したの? なんでそんなイタズラが見つかった子供みたいな顔するのさ! そんな顔しないでよ!! 二人の前なのに抱き締めるとこだよ!?
因みに、八木さんの状態って何度も繰り返すけど、一般人ならベッドの上から動けない程のモノだよ。
五年も六年も
胃袋全摘による内臓全体への高負荷と併発している中度の臓器異常。
肝臓も腎臓も膵臓も腸全体もかなり弱っているから消化能力も吸収能力も自己浄化能力もかなり低下しているし、長い間そんな状態だったから内臓一つ一つの形状の変化や筋肉・骨格への悪影響もある。
呼吸器官の半壊の影響で常に低酸素症状態に等しいし、心機能の低下、血液の濾過が上手くいっていない影響もあってホルモンバランスだって崩れている。
重度の食欲不振とそれに伴う栄養失調に慢性的睡眠不足、よく喀血するのに血液を新たに生成する事が難しいせいで常に貧血でもある。
その他細かい点を挙げていけばキリがない。
結論──なんでコイツ生きてんの?
脳機能に致命的な異常が出てないのなんて奇跡以外の何物でもないんですけど? バカなの? 末端部位や内臓から徐々に壊死を起こしていても何もおかしくないんですけど......は? これは
いやほんと八木
うん。
お前『残り火』が消えた時点で死ななかったのは、それでも『ワン・フォー・オール』の楔が打ち込まれていてその
てかなんでその状態で最終決戦を生き残れたんだよ阿呆か。
おっと、あまりにもあんまりな八木さんの状態に色々漏れちゃった。
お恥ずかしい......! 大変見苦しい様をお見せしてしまい申し訳なく......
というか、八木さん自身の認識とはかなりズレていた事は、
実際、八木さんは気付いてないけど
夢姉は隠す気一切無いね。
あ、サー・ナイトアイにも報告した方がいいかも......いやでも
良い歳なんだからお互いにしっかり話し合いなさいよ......
応接室から移動して診察台に横たわって傷痕を見せる八木さんを横目に、三人で診察した結果を事細かに記した
なんで現状を記しただけで束が出来上がるんですかぁ?
「......八木さん、よく生きてますね」
「気付かない方も気付かない方だけどね」
「......動く死体」
「夢姉? ちょーっと静かにね〜」
「ふむ?
「──創兄......? どうしたの? 疲れた? 寝る?」
やめてくれませんか? お二人とも。
「......も、申し訳ありません......」
「気にしなくて大丈夫ですよ八木さん。皆少し動揺しただけですから」
「ほんっとうに......! 申し訳ない......っ!!」
どうしたの八木さん!? なんかさっきからしおらしくて凄く可愛いんだけど何!? 誘ってるの!? その簡素な診察台見た目に反して滅茶苦茶に頑丈だけどさっ! ごめんなさいボク貴方の想いには応えられないの!! でも添い寝くらいならしてもいいよっ!! 頭なでなでと背中ポンポンどっちがいいっ!? 子守唄と寝物語はどっちが好き!? ボク詠う方が得意だよっ!! あっ! 子守唄アレンジで『あのマーチ』唄ってあげようかっ!? 大好きでしょ!? 貴方の始まりの憧れだもんねっ!!
なんか緩やかに混沌としてるけど、そろそろ皆冷静になろうね。
──パチンッ
指を鳴らす。
ただそれだけで夢姉も創兄も意識が切り替わり、八木さんも雰囲気の変化に釣られた。
「失礼、それでは治療についての話をさせて頂きます」
「よろしくお願いします」
カッコいいよ創兄! お医者様としての鋭くて冷たい気配が心地良いくらい素敵だよっ! 多様な命と想いを紡いできた患者様を前にスイッチが入り切ってるねっ!! 完治させる為の手段を全力で模索してるのが分かるよ!!
あ、コソッと八木さんの服は直しておきました。
「まず、現状では通常の医学を用いる事は不可能だという事は念頭に置いて頂きたい」
「......はい」
「よって行うのはいわゆる個性治療となります。しかしご存知の通り、かのプロヒーロー、リカバリーガールこと
「......」
妙齢ヒロイン、リカバリーガールさん。
修繕寺さんの個性は『治癒』。
キスをすることで対象の体力を代償に肉体の治癒能力を活性化させる。
ただ、ここで問題となるのが『治癒力の活性』にすぎないという点。
「原因は単純です。幾ら肉体の治癒力を活性化させたとしても、欠損した部位の再生は出来ない為です。また体力を代償とする事や特定部位への治癒限界も原因の一つとして挙げられます」
或いは
後は
エリ君はその可愛さで以って癒してください!
まあ正直言って、八木さんの肉体は現在を『正常な状態』と認識しているから、バランスブレイカーな個性じゃないとどうしようもなかったりするんだけどね。
これがいわゆる手遅れ。
「......さて、ここまではよろしいですか?」
「......大丈夫です」
うんうん。
八木さんも過去に説明された事あったのかな? さらっと納得してくれるの凄くありがたいよ......清濁を受け入れる事が出来る大人の面が出てるね。
え? その表現で合ってる? 違う? ニアピン? あ、そう。
何も濁って無いもんね。
「ここからは貴方の治療の詳細についてです。疑問点はすぐに聞いて下さい。良いですね?」
「はい」
八木さん圧倒されてない? 大丈夫? ちょっと冷静すぎて怖いくらいなんだけど......返事以外に喋ってくれても良いのよ?
「正直に言って、貴方の治療を今日即座に終わらせる事は不可能です。またどれだけ期間を短くしても、半年を超える長期治療になる事をご理解下さい」
「半年で治せるのですか......!?」
「短ければ、です。その場合生活をこちらで管理する必要もありますので、現実的では無いでしょう。貴方にとっても都合が悪いかと思われますが」
「うっ......えぇ、まぁ......」
そこは『ぐぅ......!』と言っておいた方が良かったと思うな八木さん! そしたらぐうの音がでる程度には余裕があるんだね! って言えたのに!
「という訳で、想定外を考慮した期間不定の治療を行う事になります。出来れば本日から一回目を始めさせて頂きたいのですが、本日、この後に予定はございますか?」
「いえ、問題ありません。早速お願いします」
「分かりました」
この辺り事前に話は付いてるからねぇ......むしろ空いて無かったら八木さんが怒られるんじゃ無いかな? USJの時みたいな感じで。
もうちょっと強いかも。
「これから行う施術は
「......っ」
どうかしましたか八木さん! ボクは補助だと思った? 違うよ! 貴方の治療はボクがメインだよ! 嬉しいでしょ!?
「しばらくは貴方の肉体の現状を回復させる事に集中します。今の貴方では胃や呼吸器官を再生させたとしても、問題しか生じませんので」
「......なる、ほど......」
あ、交代ね創兄。
「ふふっ。大丈夫ですよ八木さん。ボクが行うのは直接的な手術ではありませんから」
「いやっ! そういった心配はしていないとも......!」
「ありがとうございます......ではボクからも軽い説明をさせて頂きますね?」
なんでそんなに動揺するの? ボクと合わせた目が小刻みに揺れてますけど。
ほらほら患者様? ボクを見て下さいっ。
「八木さんにはこれから食事と睡眠を摂って貰います。ボクが行うのはその補助ですね」
「食事を? いやしかし私は......」
「大丈夫です。ボクにお任せ下さい。何事も身体が資本ですよ?」
──パチンッパチンッ
思わず二回も指を鳴らしてしまった。
合わせて、夢姉がキッチンへ移動した。
多分ご飯を温めに向かったんだろうね。
前もって用意は済ませてあるんだよね。
「あ、先に言っておきますが、これから一日一回は今回と同様の事を行います。晩御飯はここで食べるようにして下さいね」
「なっ、いやっ、治療だけでも充分助かるというのに食事までお世話になる訳には......!!」
「食事も睡眠も治療行為の一環ですよ? 栄養バランスを考えたり不必要に油の多いご飯を食べないように気をつけたり......本当は色々と厳格に行うべきではあるんですけど、そこはボクがどうにかする部分ですね」
「むっ......ぐぅ......!」
お! ぐうの音が出たね!
ちょっと反論材料無くなって黙り込んじゃった八木さんを眺めていた創兄に、未だに持っていた束になってる診断書を渡す。
ボクの動きを追うように、八木さんが創兄へと視線を移した。
「八木俊典さん」
「はいっ!」
ピリッとした雰囲気を纏って鋭い声を発した創兄に、八木さんが反射的に返事をした。
ビクッと反応した八木さんに、創兄はニヤリと笑う。
「こちらの診断書は根津さんへお渡ししますので悪しからず」
「エッ......!?」
わー!! 何その愕然とした顔!? 先生にイタズラを叱られた後にご両親へ報告される事を知った子供みたいな反応してるっ!! 自分でもマズいと判断してるって事だよね!? そりゃそうだよね!! 根津さんに報告いったら修繕寺さんにも伝わるだろうし二人から揃ってお説教の可能性が高いもんね!? 気になって調べてみたらこんなに細かく調べて診断書作った事なかったみたいだし! さらに自己認識と実態が大きくかけ離れていたとかもう延長コース確定だよね!? 今最低限教員として活動出来るようにする為の詰め込み教育受けてる最中なのにお説教に長時間使用されるとか大変だね!! 大丈夫だよ!! ここに来る度にボクが癒してあげるから安心してねっ!!
「根津さん......八木さんって雄英高校の関係者なんですか?」
良いタイミングだし、ちょっとからかっても良いでしょ? 良いよね? 良し!
「ぁあいやええと、根津校長とは元々縁があってね! 今現在も大変お世話になっているところなんだよ! 本当に頭が上がらない程にね!」
愕然とした勢いで体を起こした八木さんが診察台の上でわたわたし始める。
あっ、こら創兄圧掛けないで。
全部聞き出そうって訳じゃ無いから隠すんじゃねぇみたいな雰囲気出さないで。
「ふふっ、良い御縁に恵まれましたね」
──チリン
小首を傾げれば、涼やかな鈴の音が響いた。
「......あぁ、本当にね」
よし。
今に至るまでの出会いを思い出したでしょ? 八木さん。
今まで出会って来た親しい人達の笑顔とか、思い出したでしょ?
借りるよ、その想い。
「八木さん」
「なんだ、い......?」
「これより、小さな『奇跡』をここに」
小さな白い光の粒子が、ボクを中心に立ち昇る。
緩やかに漂う白い光の中で手を動かせば、光もまた従って動く。
八木さんを、柔らかく包み込んだ。
「......!」
......あぁ、なんだ。
小細工なんて要らなかった。
愛されてるね、八木さん。
「『祈りは届く。想いに形を。奇跡を織り成す』」
八木さんの身体に、白い光が染み込んでいく。
余剰分は......後に回した方が良いね。
ボクと八木さんの間で、光が途切れた。
ボクの光はボクの下へ。
八木さんの光は、全て八木さんの身体へ宿った。
──チリン
──チリン
「......はい。これで本日の施術が半分終了致しました」
「一体、なに......を......?」
ボクの周囲で踊っていた光が収まるのと同時に、八木さんの疑問の種類が変わっていく。
『疑問』、『不理解』、『思考』、『理解』、『驚愕』。
「──お腹、が......空いた......!?」
八木さんからすれば酷く懐かしい感覚でしょ? 落ち着いてくればもっと色々な感覚が認識出来るようになると思うよ。
まさしく愕然とした反応の八木さん可愛い。
なんかこう......優しく抱き締めて頭を撫でながら背中をポンポンして『もう大丈夫だよ』ってやりたくなってくる。
思考も情緒も混乱を始めて言葉を使う事すらままならなくなった八木さんを眺めていると、ボクの背中に創兄が優しく手を添えた。
『感謝』、『心配』、『不安』、『安堵』、『感心』。
「ふふふっ」
「......」
創兄に目を合わせて機嫌良く笑って見せる。
返って来たのは、力の抜けた笑み。
何? 創兄も抱き締めて欲しいの? 良いよ? ボクは今ここで二人に抱き着いても良いんだよ? 何も困る事無いし、ボクは一向に構わん。
──あ。
気配──って言うといつも夢姉も創兄も微妙そうな顔するけど、気配を捉えた方へ向けば、そこには夢姉がいた。
ご飯の準備、配膳まで済ませちゃったかな?
ほんわか笑いながら頷いて見せれば夢姉も頷きを返してくれて、そんなボクの様子を見ていた創兄も察したらしい。
──パチンッ
色々とオーバーフローして呆然とする八木さんの目の前で、指を打ち鳴らした。
あ、おかえり八木さん!
「......!」
「ふふっ。八木さん、ご飯の用意が出来ましたよ」
「あっ、いや! ちょっと待ってくれ! 一体何を──」
──パチンッ
「さぁ八木さん。ご飯、一緒に食べましょう?」
「......っ.....ハハハ。分かったよ。ではご相伴に与らせて貰うよ」
「はい、是非に。ご飯は皆で食べた方が美味しいですから」
指を鳴らした後、そのまま差し出していたボクの手を八木さんが取った。
先に動いていた創兄が扉を開けてくれている。
少し気後れしている八木さんと一緒に応接室を出て、創兄も含めた三人でリビングへ移動した。
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鼻腔をくすぐる食欲を掻き立てる香りに際限なく空腹感を抱く。
一歩を踏み出す身体が軽い。
身体の芯から『熱』が巡っているのを確かに感じる。
五感から伝わる情報量に驚き、つい数分......もない先程からは想像もつかない程スッキリした頭で、己の身体を認識する。
痛みも痺れも無い身体は、当然の様に常の倦怠感すらも忘れてしまっていた。
スッキリとはしたが、上手く回ってはくれない思考が先程の体験を脳裏でプレイバックする。
きっかけは、小さくとも玲瓏に響く不思議な鈴の音。
脳裏に浮かび上がる親しい者達や救けた者達、お世話になった方達の笑顔の数々に想い浸っていた時。
名前を呼ばれて半ば反射的に反応して、緩やかに笑む少女の雰囲気の変化に気付いた。
力強い存在感に、しっかりと開かれたその両の眼に、俊典は動く事を忘れた。
淡く白い光を纏う様は、それこそ神聖な荘厳さをすら感じて──『奇跡』、と、その言葉を紡いだ瞬間生じた光の粒子が舞う様に序の口であった事を思い知った。
典祈の動き、その意に従う白い光が俊典を包み込み、光の強さを増した。
光に包まれた瞬間懐いた『安堵』と『懐古』に驚いた。
遥か昔に母親に抱き締めれらた記憶を想起しながら、全身から力が抜けて思考が空になっていく事を自覚出来た。
そして綴られた三つの言の葉は、確かな力の込められた言霊で。
だからこそ、少なく短いそれを『
途方も無い温もりと、遥か遠い懐かしさ。
微睡に揺蕩う様な、母の胸に
何を考える事も無く、その心地良さに身を任せている内に典祈と己の間で踊っていた光が分たれた。
俊典の側に舞う光がその身に宿った直後、内側から温まる心地良さに身を任せ......一度目の鈴の音で意識がはっきりとし、二度目の鈴の音で思考がはっきりとして我に返った。
典祈に声を掛けられて初めて、俊典は己の身体の状態を自覚した。
思考も感情も整理出来ずに混乱して、典祈によって冷静さを取り戻し。
有無を言わせない、どこかトラウマを想起させる『圧』を感じる笑みに反射的に白旗を上げて、典祈に手を引かれて部屋を連れ出された。
約五年ぶりの空腹感と食欲にも、スッキリとした頭にも、痛みも痺れも無い身体にも、力強く『熱』を運ぶ事を自覚出来る程の血流にも、辛さも苦しみも無い呼吸にも、多くの情報を鮮烈に伝えてくれる五感にも。
受け入れる時間すら用意してくれない彼女がちらりと俊典に目を向けては、どうしてか楽しんでいる事も喜んでいる事も嬉しがっている事も
無論俊典は、ここまでされて文句の一つも出る様な人間ではないが。
リビングにお邪魔して、テーブルの上に並べられた食事の数々を見て生唾を飲み込んだ。
焦点が料理のみにしか合っていない俊典の様子に気付いた典祈に座らされ、その対面に夢佳と創司が座り......俊典は、柔らかく微笑む典祈の言葉に促されて、震える手で箸を取った。
ゆっくりと、それこそ恐る恐るという表現すら当て嵌まりそうな動きで、おかずを口へ運ぶ。
──食事をする事は、生きる事です。
噛み締める度に嗚咽すら溢れてしまう。
これらの料理を汚してしまいそうで、いい歳をした大の大人が涙する事が恥ずかしくて。
冗談めかして『へたくそ』に笑う俊典を、『白い想い』はどこまでも優しく包み込む。
──生きる事を恥じる必要なんて、ありませんよ。
温かく。
暖かく。
満たされていく。
──そこからはもう、夢中で食べていた。
ぼろぼろと、泣きながら噛み締めて。
我に返った頃には久しく感じていなかった満腹感に溢れていて、いつの間にか供捧一家も食事を終えていた。
『そういう状態』に理解のある面々とはいえ、実際この歳になって我を忘れる程に涙を流すのはやはり気恥ずかしいモノがある。
内心で羞恥に身悶えしつつ、手早く片付けられたテーブルで談笑して。
やがて今回最後の治療を行うと称して客室へと連れられ、ちょっと言葉で表現出来ない不思議な寝心地のベッドに寝かしつけられた。
横になった瞬間に、身体から重さが無くなり意識がふわりと浮いた。
心地良く眠りに就く意識が捉えた、暖かく柔らかな真っ白い光と、鈴の音が鳴る様な声。
──おやすみなさい、八木さん。
確かに聞こえたその声が、反響と共に深い眠りへと誘った。