今更ジューンブライドネタですよ。
データ整理してたら出てきためーさくです。

素直じゃないのが咲夜さんらしい。
そんなss。




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ジューンブライド

「ジューンブライド?」

 

平和に時が進むここ『幻想郷』。

その中でも、隠れるように佇む──それでいてカリスマ溢れる『紅魔館』のテラスで、レミリア=スカーレットは首を傾げていた。

 

手元にはブン屋の新聞。

その隣で、十六夜咲夜がソッと新聞の内容を覗き見ている。

 

 

「噂で聞いたことはあります。

所謂、6月に結婚すると生涯幸せになるとか」

 

「ふーん。生涯、ねぇ」

 

 

咲夜の簡単な説明に、レミリアは紅茶を啜りながら鼻で笑う。

 

どうやら信じていないらしい。

 

 

「そういえば、パチェがこれ関連の魔法を作ってたわね。今日の朝、小悪魔が嬉しそうに報告してきてたわ」

 

「ジューンブライドの魔法……ですか」

 

 

退屈そうに、クッキーを頬張るレミリアとは対象に、咲夜は興味有り気に空を仰ぐ。

 

──瞬間だった。

 

 

 

『のあぁぁあぁあ────っ!?』

 

 

 

「今の声……」

 

「美鈴ね。図書館からかしらね。

まったく、門番の仕事はどうしたのかしら」

 

 

館全体を揺るがす叫び声がこだまするも、レミリアは深い深い溜め息をついて咲夜を一瞥する。

 

 

「様子を見て来ます」

 

 

咲夜の一言にレミリアは何も言わない。

何も無ければすぐに帰ってくるはずだ。

それを分かっているから、レミリアは優雅に紅茶を啜る。

 

咲夜は頭を下げると、素早くテラスから図書館へと走った。

 

 

重い扉を開くと、ずらりと並ぶ本棚が咲夜を出迎えた。さらに、何冊もの本を抱えた少女が顔を出した。

 

 

「あっ、咲夜さん。美鈴さんですか?」

 

「よく分かったわね」

 

「あっはは……それはもう。

さっきの叫び声、すごかったですもん」

 

 

悪魔の羽をパタつかせて、小悪魔は苦笑いして見せた。「奥に」と、指を差した小悪魔に軽く礼を言い、咲夜はパチェリーがいるであろう司書室の垂れ幕をくぐった。

 

 

「咲夜さーーーん!!」

 

「……っ!?」

 

 

突然泣きついてきた(というより抱き付いてきた)美鈴に、咲夜は驚きながら眉間にしわを刻んだ。

 

何やら違和感が……ある。

 

いつもなら憎たらしいくらいに柔らかい豊満な二つ山がぶつかりはずなのだが……?

 

 

「美鈴……よね?」

 

「うぅ……そうです。紅美鈴です」

 

 

ゆっくり引き剥がし、改めて頭の先からつま先まで眺めてみる。

 

髪は紅い。が、短髪だ。帽子も変わらない。

ただ、顔つきはやや凛々しい気がする。

 

そして身体は……

 

 

「男……?」

 

 

高身長に似合うがたいの良い男らしい体つきだった。

 

服装は変わっていないが、これがズボンではなく生足だったらと思うと少し寒気がした。

 

 

「実験は無事成功したわ。お疲れ様」

 

「パチュリー様、これは一体?」

 

 

泣き崩れる美鈴の隣で、眼鏡を掛けたご機嫌なパチュリーに咲夜が問い詰める。

 

すると、魔術書を開き、パチュリーは口元を緩めて、眼鏡のブリッジを押さえた。

 

 

「咲夜、貴女も読んだでしょう?ブン屋の新聞を」

 

「ジューンブライドでしょうか? お嬢様から見せて頂きましたが……」

 

 

そうよ!と、パチュリーは力強く頷き、長ーーーーーーい説明をし始めた。

 

簡単にまとめると。

 

 

1、ジューンブライドは異性の結婚を祝うもの

2、面白そうと呟いていたお嬢様に見せてあげたいという気紛れが発生

 

3、だが紅魔館に男はいない。

4、ということで、性転換出来る魔法を開発

5、最も男らしい美鈴に無理矢理魔法を撃った

6、男の美鈴が完成

 

 

「と、いうことですね?」

 

「そうなるわね」

 

 

小一時間話を聞いた上での咲夜のまとめに、パチュリーは椅子に腰掛けながら眼鏡を外した。

 

時間が空いたおかげで、美鈴は随分落ち着いたようだが……。

 

 

「もう一つお聞きしたいのですが」

 

「なに?」

 

「美鈴の相手は……その……」

 

「魔法の解き方じゃないのね」

 

「へっ? えっ、あ、いえ……その……」

 

 

顔を真っ赤に染めた咲夜に、パチュリーは微笑んで美鈴を一瞥した。

 

 

「解き方は知らないわ。一日くらい経てば解けるんじゃない」

 

あと、とパチュリーは続けた。

 

 

「美鈴の相手は、美鈴自身が決めることよ」

 

「…………」

 

 

パチュリーの言葉に、咲夜は黙って美鈴を見る。

 

小悪魔と仲睦まじく話す美鈴の背中。

いつもより頼りになりそうな、それこそ抱きつきたいくらいの“彼女”に、咲夜の眉間がさらにしわを深めた。

 

それをパチュリーが楽しそうに一瞥する。

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん。パチェの魔法で美鈴が男にね」

 

 

自室に戻っていたレミリアに報告を告げた咲夜。部屋の入口で壁にもたれていた美鈴を見据え、レミリアは腕を組んだ。

 

 

(わたし、そんなこと言ったかしら?)

 

 

パチュリーの話だと、レミリア自身が引き金にも聞こえてくるが、そんなことを呟いた記憶がまったくない。

 

ということは……。

 

 

(パチェの独断……というより、面白半分ね。まぁ、面白そうなのは同意するけれど)

 

 

美鈴を見据えたまま微笑するレミリアに、咲夜の表情が強張る。

 

 

「事情は分かったわ。

とりあえず門番の仕事に支障はないでしょうし、男性用のスーツでも着ておきなさい」

 

「えっ、この姿で門番するんですか?

き、今日くらいは門番お休みでも……」

 

 

レミリアの命令に苦笑いする美鈴だが、主人の鋭い眼差しに有無も言えなかった。

 

咲夜も不安気に頭を下げると、美鈴の腕を引き衣装室へと歩き始める。

 

 

「盛大に開いてあげようじゃない。

一夜の祝い席を……」

 

 

クスクスと笑い、腰に手を当てたレミリアは、新聞を開きジューンブライドの見出しを見つめた。

 

 

 

          †

 

「さ、咲夜さん。怒ってません?」

 

「? 別に怒ってないけど」

 

 

更衣室の中で尋ねてきた美鈴に、咲夜は不思議そうに返した。

 

 

「それならいいんですけど……」

 

 

安堵したような吐息と共に、美鈴は呟きながらカーテンを開いた。

 

燕尾服しかなかったためにかちっとしたスタイルだが、元がいいため気にはならない。むしろこっちの方がよく似合っている。

 

 

「ピッタリね、よかった」

 

「ありがとう……ございます」

 

 

椅子に腰掛けていた咲夜は、美鈴の姿を一瞥しただけで目線を逸らした。

 

それが美鈴にとって深く心を抉り、ぎこちない空気が漂い始める。

 

 

(……カッコイい……)

 

 

実際の咲夜の心中はそれだけだった。

目を逸らしたのも、真っ赤になった顔を見られたくないからであって、決して今の美鈴を受け入れられない訳ではない。

 

むしろその逆だ。

 

お姫様抱っことか、後ろから抱き締められてみたいとか、優しいキスをされたいとか。

 

 

咲夜の妄想は膨らんでいくだけ。

一方で、男になってしまった自分は嫌われたと勘違いしている美鈴の表情は重い。

 

 

「あ、あの咲夜さん」

 

「な、なに?」

 

 

不意に声を掛けられ、冷静を装う咲夜は、振り返って笑顔で返してみる。

 

 

「門番……行ってきます」

 

「えっ、あぁ。そうね。居眠りしないようにね」

 

「分かってますよ」

 

 

ぎこちない空気から抜け出したい一心で、美鈴は微笑んで咲夜に手を振り部屋を出て行った。

 

そんな美鈴の内心を知らないまま、咲夜は再び顔を紅く染め上げる。

 

 

 

 

「……このまま元に戻らなかったらどうしよう」

 

 

紅魔館の門前で、美鈴は深いため息をついていた。

 

咲夜さんはどうも男になった自分を受け入れられないらしい。だけど、元に戻る方法は教えてもらえなかった。

 

 

(定番はキスとかで元に戻るけど、パチュリー様の魔法だし。そう簡単にはいかないか)

 

 

何やら耳元でカシャカシャと音がするが、今はそれどころではない。

 

目を瞑り腕を組んで考え込む美鈴だが、元々そういうのには疎いために解決法が見当たらない。

 

 

一体どうすればいいものか……。

 

 

「美鈴さーん。聞こえてますかー?

清く正しいブン屋の射命丸ですよー?」

 

「……ああ、射命丸さん。こんにちわ」

 

「こんにちわじゃないですよ。

ずっと声を掛けていたのに上の空で。

何やら悩み事があるようで?」

 

 

黒い翼をはためかせ、カメラ片手ににやつく射命丸 文に、美鈴は頬を掻いて力無く笑った。

 

美鈴が男になったというスクープは既にカメラの中に収めたが、まだネタが転がっているらしい。

 

 

「ほほー見えましたよ。

男になってしまったことで十六夜咲夜さんに嫌われたとか?」

 

「…………うぅ」

 

「あややや、図星ですか」

 

 

文の言葉が見事に突き刺さった美鈴は、目に見える程落ち込んでいく。

 

 

「そうなると男性には全く興味がないことに……ふむふむ。確かな根拠もありますしね」

 

 

確かな根拠──とは、レミリアお嬢様に対する忠誠心の話か。

 

文はさらさらとメモ帳に刻んでいくと、美鈴に近づき、耳元で囁き始めた。

 

 

「ちなみに──今日の号外は読んで頂けましたか?」

 

「いえ、私はまだ……」

 

 

文の吐息が耳をくすぐり、美鈴は眉をひそめながら距離をとる。

 

すると文は不適な笑みを浮かべ、両手を後ろで組んだ。

 

 

「ジューンブライドを記事にしたんですが、意味はご存知ですか?」

 

「それくらいは知ってますよ」

 

「なら話が早いです」

 

 

美鈴の言葉に文は頷くと、人差し指を立てて右手を腰に当てた。

 

 

「もしかすると、想い人と口付けとか──そうじゃなかったら一夜の営みで、その呪いが解けるかも知れませんよ」

 

「想い人と、ですか……」

 

 

ニヤニヤする文の言葉に、美鈴の表情が少しばかり明るくなった。

 

文の企みが普通ならばすぐに分かるはずなのだが、早く元に戻りたい美鈴は分かっていない。

 

 

「ありがとうございます射命丸さん。

早速試してみます!」

 

「いえいえとんでもない。

はやく解けるといいですねー」

 

 

頭を下げて踵を返した美鈴に、文は笑顔で手を振り見送る。ニヤニヤした表情のまま。

 

 

「文お姉ちゃん」

 

「あやや、これはこれは。

フランさんじゃありませんか。どうしたんですか?」

 

 

フリル付のピンクシルバーの日傘を片手に現れたフランに、文の顔つきが柔らかくなる。

 

 

「あのね、さっきの話……本当?」

 

(あややややっ、これはマズいですね)

 

 

いつから立ち聞きしていたのか。

フランの純粋な疑問に、文の表情が曇り始める。

 

出来ることなら、美鈴と咲夜の熱い百合物語を記事にしたいものだが、完全にフランの存在を忘れていた。

 

美鈴を好きなのは咲夜だけではない。

メイフラは希望の虹と言われているが、実際はフランの一方的な嫉妬愛と化してきている。

 

(メイフラの方々ごめんなさい)

 

 

 

「ウソっぱちですよフランさん。

少しばかり美鈴さんをからかうために言ったことです」

 

「本当は?」

 

「──本当です」

 

 

フランの誘導尋問に引っかかりそうになったが、文は一瞬黙ったもののこらえた。

 

ふーん、と怪訝な上目遣いで見据えてくるフランに、文の表情も曇っていく。

 

 

「そっか。なーんだつまんないの。

本当なら食べる口実が出来たのに」

 

「あ、はは、残念でしたね。

えぇと、では私はこれで失礼しますね!」

 

 

フランの問題発言はあえてスルーし、文は素早く紅魔館を後にした。

 

残されたフランは、日傘を愉しげにクルクル回し、不適な笑みを浮かべて館の中へと戻っていった。

 

 

[newpage]

 

 

洗濯や掃除を済ませ、息をつける時間となった咲夜は、ふと窓から見えた美鈴と文の姿に見入っていた。

 

何やら話をしている様子と……言い寄っているようにも見える文に、咲夜はいてもたってもいられなくなった。

 

 

急ぎ足で、それでも恐々と一階に下り、ホールに下りた咲夜は、すぐさま館の扉を開けた。

 

 

「あ、咲夜さん!」

 

「美鈴、どうしたの?」

 

 

まさか入り口の目の前にいるとは思っていなかったために、暴れ出す心臓を押さえつけ、咲夜は美鈴に問い掛ける。と、

 

 

「射命丸さんが魔法の解き方を教えてくれたんですが、試してもいいですか?」

 

「試すって、な、何を?」

 

 

中に入りながら扉を閉めた美鈴に、咲夜の表情は驚き一色だった。

 

その驚き一色は、一瞬で真紅に染まりあげられた。

 

 

「キスです」

 

「…………っ!?」

 

 

真面目な表情でグッと顔を寄せてきた美鈴に後退りしてしまった咲夜だが、時を止める前にそれは遮られてしまった。

 

腰に吊していた懐中時計を素早く引ったくられ、優しく手首を掴まれた咲夜は、頭で判断する前に立ち位置を変えられた。

 

 

軽く背中に扉が当たり、顎を持ち上げられ、両手首を頭上でガッチリ押さえられてしまった咲夜に、美鈴はゆっくりと焦らすように唇を近付ける。

 

 

「優しく、一瞬だけ」

 

 

そう囁かれ、目尻に溜まっていく涙が止まらなくなってしまったところで、咲夜はギュッと目を瞑った。

 

 

(こんな無理矢理じゃなくったって、心の準備さえさせてくれたらいくらでも、いっそ身も心もあげるのに……)

 

 

そんなふうに言葉に出して伝えられればどれだけ楽か。

 

涙が頬を伝っていくのを感じながら覚悟した咲夜だが、美鈴の囁きから全く動きがない。

 

唇に触れた甘く痺れる感覚はないし、でも近くにいる気配はする。

 

 

おそるおそる、咲夜は微かに目を開けた。

 

 

「美……鈴?」

 

 

俯いて動く気配がない美鈴に、咲夜はか細い声で名前を呼ぶ。すると、額を額にコツンと当て、美鈴は弱々しく苦笑いした。

 

 

「すみません。嫌、ですよね。

無理矢理こんなことして、本当にごめんなさい」

 

 

掴まれていた両手首を解放し、ソッと頭を撫でながら謝罪する美鈴に、咲夜は頭を垂れた。

 

 

「……そんな顔されたら、もう、ダメですよ」

 

「……美鈴?」

 

 

微笑して離れた美鈴を、咲夜は手を伸ばして掴もうとしたが、触れたのは温まった懐中時計だった。

 

 

「少し頭を冷やしてきます。

今日はお昼ご飯は要りませんから……」

 

 

懐中時計を手に握らされ、美鈴は俯いたままそう言うと、扉を開けて咲夜の横を通り過ぎた。

 

寂しそうに。

いつもの笑顔はどこにもなくて。

美鈴は一度も振り返ることなく館の扉を閉めていった。

 

 

拒絶してしまった。

自分はそうしたつもりがなくても、美鈴から見れば拒絶してるのと同じだ。

 

 

お昼ご飯は要らない。

それは、構ってくれるなという意味だ。

どうしよう。どうすればいい?

 

 

(……美鈴っ!)

 

 

 

 

 

(なにやってるんだろ……)

 

再び門前。

美鈴は帽子で顔を隠し苦悩していた。

 

どうして無理矢理押さえつけたりしたのか。

事情をちゃんと伝えれれば、咲夜さんだって濁らせながらも頷いてくれたかも知れないのに。

 

 

「はぁ、バカだな……私は」

 

 

溜め息をつき、大きな欠伸を一つかみ殺すと、美鈴は帽子をかぶり直し腕を組んだ。

 

咲夜さんには悪いことをしたが、お昼は要らないと言ったんだ。当分夕方辺りまでこちらの様子は見に来ないだろう。

 

 

「……仮眠するか」

 

 

神経を尖らせたまま、美鈴は寝ることにした。難しいことを考えていても仕方ない。

 

そう思って、次に目を開けた時には、目の前には──見覚えのある幼い顔が見えた。

 

 

「……妹様」

 

「めーりん。居眠りしてたでしょ?

ダメだよ。ちゃんとお仕事しないと、お姉さまに言いつけるんだから」

 

「ははっ、これは手厳しい」

 

 

日傘を差して上目遣いで叱るフランに、美鈴は空笑いして妹様の頭を撫でた。

 

ふんわりとした布の手応えと安心感が美鈴を包み込んでいく。フランは満面の笑顔だ。

 

 

「咲夜と喧嘩したの?」

 

「んー、喧嘩じゃないですよ。

原因は私にしかありませんからね」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 

満面の笑顔から一変。

何かを企む表情に変わったフランに、美鈴は苦笑いして首を傾げてみせる。

 

と、不意に腕を引っ張られ、美鈴は無理矢理屈まされることになった。

 

 

「い、妹様っ!?」

 

「あのねめーりん。

ワタシが魔法を解いてあげる!」

 

 

鼻と鼻がくっつく距離でそう言うと、フランは深紅の瞳を輝かせ、美鈴の唇に唇を深く押し付ける。

 

 

──ドクン──

 

 

大きく心臓が跳ね上げ、美鈴の表情が徐々に曇っていくなか、フランの猛攻は止まらない。

 

 

「んっ、く……はっ、ん……!」

 

 

ねっとりとした舌が絡みつき、息継ぎをしようとする美鈴を、フランは許す訳もなく──。

 

 

「ぐっ……! 妹様!」

 

「ふにゃっ」

 

 

無理矢理引き剥がす美鈴に負けたフランは、思い切り頬を膨らませて不満そうに日傘をクルクル回していく。

 

 

「もっと気持ちいいことしたいのにー」

 

「……ダメですよ妹様。

お嬢様に私が怒られてしまいます」

 

 

どこからそういう知識を覚えてくるのか。

フランの言葉に、美鈴は大きく呼吸を整え、首を横に振った。

 

 

「……やっぱりめーりんは咲夜がいいんだ」

 

「へっ?」

 

 

冷たい瞳でそっぽを向いたフランに、美鈴は意表を突かれた。が、フランは何事もなかったかのように笑って、館の方へと戻っていってしまった。

 

 

「何だったんだろう……。何か企んでいるのは分かるんですが、妹様のことだから、ろくなことじゃないだろうなぁ」

 

 

大きな溜め息をつき、美鈴は立ち上がりながら空を仰いだ。今宵の月は──久しくも深紅の満月のようだ。

 

 

 

 

 

結局、咲夜は美鈴の様子を一度も見に行くことなく一通りの仕事を終えた。一応昼食は作ったのだが、持って行く勇気もなく。

 

 

(最低だわ)

 

 

自分を責めてばかりの1日となっていた。

 

 

「あら、こんな所で何してるのかしら?」

 

「あ、お嬢様……」

 

 

自室にいたはずのレミリアが、日暮れのテラスに現れ、咲夜は困った表情で肩をすくめた。

 

 

「片想いは辛いわね」

 

「……申し訳ありません」

 

「どうして謝るのかしら?」

 

「私の勝手な私情で、お嬢様たちにご迷惑をお掛けしています」

 

「……自覚があるのは大いに結構」

 

 

けど、とレミリアは続けた。

 

 

「分からないでもないわ。

片想いは辛いものね……」

 

「?」

 

 

経験者の語り口調のレミリアに、咲夜は疑問を抱きながら頷いた。

 

 

「そこで、はっきりさせようと思うのよ」

 

「何をでしょう?」

 

 

腕を組み、微笑むレミリアの言葉に咲夜の表情が強張る。

 

 

「今日の夜、一世一代の結婚式とやらを開いてあげるわ。勿論、男役は美鈴。決まってないのは花嫁だけ。その花嫁を、あの子に決めてもらうわ」

 

「……っ!」

 

 

レミリアの案に、咲夜は絶句すると共に落胆した。レミリアは不思議そうに幼く首を傾げる。

 

 

「想い人がいない場合は私を選んでもらう。どうかしら? 一夜の宴にはいいでしょう?」

 

 

くすくすと笑うレミリアの態度に、絶対に楽しんでいると分かった咲夜だが、確かに一番手っ取り早いかもしれない。

 

だが……っ!

 

 

「……選ばれなかったらって思ってるでしょう?」

 

「うっ……」

 

 

レミリアに図星を突かれ、咲夜は何も言えなくなってしまった。それをまたレミリアは楽しげに笑う。

 

 

「さて、そうと決まれば咲夜には美鈴を呼んで来てもらおうかしら?」

 

 

門前を指差すレミリアにつられ、咲夜も門前へと目を向けると、頭が完全に垂れた美鈴の姿が映り、呆れ半分で肩を落とした。

 

 

「それで、どこにお連れすれば──」

 

 

そこまで言ったところで、レミリアが既にテラスからいないことに気がついた咲夜は、再び肩を落とし、大きな溜め息をついた。

 

 

 

 

 

──門前──

 

 

腕を組んだまま小さく肩を上下させ眠る美鈴の目の前に立ち、咲夜は渋い表情で唸っていた。

 

起こすのも勿体ないくらい幸せそうに眠る美鈴に、自分でも分からないくらい笑みを浮かべていた咲夜だが、当初の目的を思い出し、また溜め息をつく。

 

 

そのうち日が暮れていき、そろそろ月が顔を出す頃。

 

 

「……咲夜さん?」

 

「っ!」

 

 

不意に声を掛けられたらことで、身体をビクッとさせた咲夜を、美鈴は眠そうに目をこすり首を傾げた。

 

恐る恐る顔を上げた咲夜。

 

その顔が真っ赤に染まっていることに気がついた美鈴は、優しく咲夜の頭を撫でてあげる。

 

 

「咲夜さんはズルいです」

 

「な、何……んっ」

 

 

美鈴の大きな手が首筋を撫で、咲夜は小さく反応させる。その反応にまた嬉しくなって、唇を近付けようとしたところで、美鈴は眉をしかめ咲夜を抱き締める。

 

 

「……咲夜さんは私が男なのが嫌なんですよね?」

 

「べ、別にそういうわけじゃ……」

 

「じゃあ聞きます」

 

 

確信に迫る問い掛けを否定した咲夜に、美鈴は一つ息をつくと、意を決して言葉を続けた。

 

 

「今の私でも、咲夜さんは好きになってくれますか?」

 

 

抱き締められたまま耳元で囁かれた言葉は、何かの間違いかと疑ってしまった。

 

甘いのに苦くて、優しいのに真剣な美鈴の問い掛けに、咲夜の身体は徐々に火照っていく。

 

 

好きになってくれますか?

ということは、美鈴は、私を、好……き?

 

 

「……だんまりですか」

 

「ち、違う!」

 

 

残念そうな囁きに咲夜は全力で首を左右に振った。

 

 

「なるわよ。好きに、というより、もう……ずっと前からす、好き……です」

 

「知ってます」

 

「…………ふぇ?」

 

 

咲夜の告白に頷いた美鈴は、満面の笑みを浮かべてより一層強く抱き締めた。

 

 

「やっと素直になってくれました!

本当に、咲夜さんは強情というか照れ屋というか。まぁ、そこが可愛いんですけどね」

 

「???」

 

 

身体を解放してあげる美鈴の笑顔を見て、咲夜は訳が分からないといった風に頭上からハテナを大量出現させる。

 

それがまた可笑しくて、美鈴は笑うと、スッと屈み咲夜の身体を抱き上げた。

 

 

「じゃあ行きましょうか」

 

「めめめ美鈴っ!?」

 

 

いつもの調子で走り出す美鈴に、お姫様抱っこ状態で焦りながらも顔を真っ赤にする咲夜は、それでもぎゅっと抱き付き、頬を緩ませる。

 

 

「お嬢様!」

 

「ようやく来たわね」

 

 

勢い良く扉を蹴破った笑顔の美鈴を一瞥し、レミリアはフランの頭を撫でながら息をつく。

 

 

パーティーホールを見渡せば、何故か白黒泥棒や博霊の巫女まで手を振っているし、ブン屋まで待機している。

 

 

 

「お姉様、またワタシを仲間外れにして……」

 

「フラン。あなたに言っていたら咲夜にネタばらししちゃうでしょう? それじゃあ面白くないもの」

 

「うーっ」

 

 

頬を膨らませて泣きっ面をみせるフランを宥めながらも、レミリアは苦笑いして咲夜を見据える。

 

 

「さて、着替える時間なんてないからこのまま始めるわよ」

 

「ドレスはあるけどウェディングドレスなんてないから、我慢して。美鈴もそのままね」

 

 

レミリアの合図でパチュリーが説明を付け足し、地に足を下ろされた咲夜は、差し伸べられた手に身体を縮こませた。

 

 

「行きましょうか。咲夜さん」

 

「……」コクン

 

 

美鈴の手のひらにソッと手を添え、湯気が噴き出す顔を隠しながら、咲夜は我慢出来なくなって笑みを零す。

 

 

「よーし食べるわよ!タッパーもあるし!久しぶりに酒が呑めるわっ」

 

 

「帰る時にはついでに本も借りていくZE!」

 

 

「借りる前に返すもの返してからにしてくれない魔理沙?」

 

 

「パチュリー様!試作品の魔法液が完成しましたけど、今度は誰に──」

 

 

「これはちゃんと号外にしなければなりませんね。あ、ディープでお願いしますね」

 

 

「お姉様!パチュリーの魔法液試してもいい?ワタシ、ふたなりしてみたいっ」

 

 

「そういう話はまた次の機会にね。

祝い席なんだから自重しなさいフラン」

 

 

 

好き放題騒ぎまくるメンバーたちに、安堵する咲夜の頭を撫で、美鈴は微笑んで顔を近付けていく。

 

 

「今度はちゃんとくださいよ。

焦らされるのは嫌いなんです」

 

「……優しくね」

 

「了解です」

 

 

魔理沙とパチュリーが弾幕ごっこを勃発させ始め、そこにフランが加わり大騒ぎとなっている中。

 

 

咲夜と美鈴が口付けを交わしているのを見たのは、レミリアだけであった。

 

 

(一件落着。さて、次はどんなことをして楽しもうかしら……くすくす)

 

 

紅茶を片手に頬杖をつきながら、レミリアは爆発音を最後に耳にしたあと、次の催しを考え始めていた。

 

だが、それはまた別の話──。

 

 

 

 

 


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