ミレニアムのサイボーグ   作:サイボーグじゃがいも

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友情って良いよね
と思ったので書きました





見出した光

 

 キヴォトスの季節が一巡し、三年生は卒業。

 二年生と一年生は上の学年に進級。

 そして再び多くの新入生が入学した。

 

 多くのことが時間の流れと共に変化している。

 ミレニアムでもそれは例外ではない。

 

「ねぇ、あの話聞いた?」

 

 そんな変化の中にもミレニアム生徒の間で大きく話題になる出来事がいくつかあった。

 

「何? なんのこと?」

 

「今年就任した新生徒会長のことだよ」

 

 やはり、最も注目されたのは新生徒会長のことだろう。

 

「ああ、その話ね、知ってる。確か三年じゃ無くて二年がなったんでしょ? 凄いよね」

 

 生徒会長は通常、経験や実績の面から見ても三年生がなることが多いのだが、今回は二年生が会長に就任した。

 とはいえ、二年生が生徒会長になるのは珍しいが校則的には問題ない。

 

 だが、注目されている部分はそこではない。

 

「あー、それも確かに凄いけど、そこじゃないよ。教えてあげるよ、確か──」

 

 “千年難題の解決を望み、星を追う者”として調月リオが生徒会長に就任。

 それと同時にミレニアム史上3人しかいない全知の学位とやらを持つことで有名な明星ヒマリが「調月リオは情報、学術、思想などあらゆる全てを統制しようとしている」とミレニアム中に警鐘を鳴らし、調月リオの情報独占に対抗するためハッカー集団ヴェリタスを組織したのだ。

 

「──らしいの。つまりさ、今私たちがやってる研究が止められるかもしれないって訳!」

 

「でも、その明星……ナントカさんって人が言ってるだけでしょ? ちょっと判断するには情報足りなくない?」

 

 警鐘を聞いて最初は多くの生徒が懐疑的だった。

 実際のところは調月リオは情報を統制、独占しようとする気は微塵もない。

 

「何言ってんの! 会長は凄い非道で容赦ないってことで有名なんだよ!? 判断する材料として十分でしょ!」

 

 しかし、調月リオは就任して僅か数日で幾つもの案を実現させており、その過程からは目的達成の為ならどんな手段でも取ると言わんばかりの感情を無視した冷酷無慈悲な選択が時々見て取れた。

 本人は合理的な判断を下しただけに過ぎないが、他者からは偏見と先入観も合わさり、下された判断に含まれる合理性が理解されない。

 

「そうなの? なんだかあり得そうに思えてきた……どうしよ」

 

 結果、本当に全ての統制を始めるかもしれないと生徒達は想像し、ヴェリタスの鳴らす警鐘にありもしない真実味を帯びさせることとなる。

 そのようなことは起きないのだが。

 

 そして噂の中心、ミレニアムタワー最上階のスペースにあるセミナーの生徒会長室では。

 ミレニアム校内の各所に配置された監視カメラのモニターが新たに増設され、やや狭く感じる机の前で生徒会長は書類に目を通していた。

 

 ちなみにモニターは今後さらに増える予定であり、いずれミレニアム全域を見れるようになる。

 ただ、生徒会長室に収まりきらないので近い内に場所を変える予定だ。

 

「……」

 

 読み終わったその書類をシュレッダーにかける。

 内容は主に情報の独占や統制することへの不満と反対だ。

 

 何故かおかしな誤解をされていると読んだ本人は感じたが、それを細事として処理。

 さらにその誤解を解く動きすらしなかった。

 

 

 

 そんな調月リオが通した案としてはC&Cを設立したことが最初に挙げられる。

 正式名称はCleaning&Clearing。

 

 表向きはミレニアムへの奉仕活動を行うメイド部として偽装したミレニアム最強の武装集団を目指して結成。

 無事、目的通りの保安部門より戦闘に特化した戦闘専門のミレニアムが誇る暴力装置となった。

 

 表向きの所属メンバーは美甘ネル、一ノ瀬アスナ、室笠アカネの三人。

 角楯カリンはセミナーの保安部門に入っている。

 

 そして、飛鳥馬トキをC&Cが機能不全および裏切った場合の対抗手段の一つとして秘密裏に所属させた。

 ちなみに秘密裏に所属させてはいるが、二人目の専属ボディーガードは求めていないのでトキは補欠要員であり、したがって仕事も少ないので自由な時間がある程度存在する。

 

 他にも幾つもの案を発案し実行しているが、全てが順調に困難なく進んだわけではない。

 

 幾つかの機能していない上に部費を無意味に消費していた部活の廃部を決定した際にその部に所属する生徒達に襲撃されたり、ミレニアムに敵意を持つ他学園のスパイやカイザー系列の企業に工作活動をされたり、校内の過激サークルが実験事故を起こして校舎の一部を消し飛ばしたことへの後処理など。

 

 また、密かに情報収集やキヴォトスについて独自に研究した結果、キヴォトスを滅ぼす可能性のある情報を得てしまう。

 

 他にも大小様々な困難や問題が、ミレニアムを纏めて率いる立場である生徒会長、調月リオの身に降りかかった。

 

 彼女は合理的であるならば犯罪行為や憎まれるような非情な事も、ミレニアムどころかキヴォトスの為に実行するという覚悟をしている。

 情報通りキヴォトスが未曾有の危機に陥り、それを己の身を犠牲にしてキヴォトスを救えるのなら、合理性の名の下に躊躇なく自身を犠牲にすることだろう。

 

 その覚悟はどんな称号や肩書きを持っていたとしても、学生ただ一人で抱え込める大きさではない。

 学園どころか世界の命運という問題を一人で背負い、解決しようとするのは不可能だ。

 

 だが、調月リオはそれを可能にする強靭な精神を、不幸なことに持っていた。

 合理主義と、強靭な精神と、己だけが知る世界の命運に関する情報、そしてそれらを覆い隠す他者への疑心と学園の強大な力。

 しかし、理解されぬ孤独と重すぎる責任は強靭な精神すら蝕んでしまう。

 

 蝕まれていく……筈だった。

 

 

 

「……戻ったのね」

 

 手元の書類から目線を動かすことなく、リオは部屋に入ってきた人物に話しかける。

 いや、正確には独り言を呟いたと言った方が正しいかもしれない。

 

 その独り言はどこか棘のある声に聞こえた。

 

「ごめんなさい、保安部門の方で遅れてしまって……代わりにこんなのを持ってきたわ」

 

 机の上にホッチキスで丁寧にまとめた書類が置かれる。

 その書類にはミレニアム生徒の名前だけでなく、ゲヘナやトリニティの生徒の名前も記載されていた。

 写真も生徒一人一人につけてあり、それは履歴書のようにも見える。

 

「別に……多少なら問題ないわ」

 

 だが、その棘もすぐに霧散した。

 

 僅かに息を吐き、机の上に置かれた書類を手に取る。

 背もたれの軋む音が鳴り、後に残ったのは盗聴を防ぐための小さなノイズ音。

 

「……ずっと疑問に思っていたのだけど、何故、あなたは私と一緒にいるの?」

 

 次に言葉は書類の内容のことではなく、遅れてきたことへの批難でもない。

 唐突で、曖昧な質問。

 心のどこかに謎として残りながら、今まで解明しようと思わなかったこと。

 

 その言葉は部屋の静寂に、重く響いた気がした。

 

「一緒にいる理由……秘密を教えて貰ったのもあるけど、一番しっくり来るのはリオの友人だから、かな」

 

「友人……」

 

 自身が見ていた紙に書かれていることなど既に頭に無い。

 リオは目の前に座るアズマの顔を見つめる。

 

「こんなに頑張ってる友人が居るんだよ? なら、私も頑張るべきじゃない?と思ってね」

 

 ぽつり、ぽつりと言葉が染み込んでいく。

 

「あとは……一緒にいて楽しいのも、ある」

 

 共に過ごした日々が、脳裏に浮かび上がる。

 どれもごく普通の日常だったが……その普通を大切にしたい。

 

 ふと気がつくとアズマが俯いていた。

 今いる部屋が暗いのあって表情が見えない。

 

「それに……ひとりは寂しいよ」

 

 小さな声でこぼれ落ちた本音。

 消え入りそうな声だったが、リオの耳に届いていた。

 

「そう……」

 

 調月リオは共に世界の命運に立ち向かう友人が居ると知覚した。

 友人はたった一人だが、その差は大きい。

 

 友人が一緒にいる限り、彼女が諦めることは無いだろう。

 

 

 

 調月リオの友人、甲賀アズマは何故彼女の友人となったのか。

 先程の言葉は嘘では無い。

 

 最初は特別な理由は無かった。

 

 たまたま隣の席に居たから。

 彼女が賢く、優秀であったから。

 彼女と共にいると居心地が良かったから。

 

 しかし、接していく内にリオのことをより知りたいと感じるようになり、コミュニケーションを重ねていく。

 

 昼食を共に食べる際は互いに話しやすい学術的な雑談。

 リオが生徒会長となった時には、学園運営において有用そうな情報を出来るだけ送った。

 時々書類仕事を手伝うなど越権行為も多少したが、これはまあ良いだろう。

 

「……あなたになら、話していいかもしれないわね」

 

 ある時、リオの信頼をある程度は手に入れたのだろう。

 周りには人が居ない場所、リオとアズマの二人だけの空間に呼び出して彼女は話す。

 

 曰く、自身が学園のために行動を起こしていること。

 

 いずれキヴォトス全土に災厄が起きる可能性。

 

 そしてそれに対抗するために備えていること。

 

 その後も抽象的な言葉ばかりで具体的な計画などは何一つ言わなかった。

 この頃はまだ、信頼はしていたが計画の全貌を話すほどアズマのことを信用していなかったと言える。

 

 しかし、それでも甲賀アズマは魅入ってしまった。

 

 調月リオの計画を話す姿から、彼女は幻視する。

 

 世界を救う崇高な信念。

 その為には自身の身をも犠牲にする覚悟。

 

 それは強烈な光となり、アズマの網膜だけでは無く、脳裏にまで強く焼き付いた。

 

 如何なる超人も手足がなければ動けない。

 では、私が手足と成ろう。

 

 その道には茨の道が待ち受けるだろう。

 ならば、私が茨を切り拓く剣に。

 

 もし全てがリオの敵になるのならば、私が全ての敵を撃ち滅ぼす。

 

 その日、調月リオに一人の忠臣が生まれた。

 

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