ミレニアムのサイボーグ 作:サイボーグじゃがいも
突然の過去回想回です
不安になる姿って
良いよねと思ったので
木々は活気あふれた葉をつけ始め、気温はまだ暖かいと言える快適な季節。
学園に入学した一年生も学園生活に慣れてきた頃。
一人の生徒が図書館にて、ある本を探していた。
その本は難解で借りる人はほぼ居ないが、更なる高みにいくにはあると嬉しい本。
しかも物理書籍でしか存在しないという電子機器が発展しているミレニアムにおいて不便極まりない本だ。
本棚の一角、あまり人目につかない隅にそれはあった。
ようやく見つけ、手に取ろうとしたその時。
「……」
「あら……」
ちょうど同じ本を探していたようで、タッチの差で取られてしまう。
本を持った黒色の生徒と手を伸ばして硬直する白色の生徒。
わざとらしい咳払いをして今度は黒色の生徒に向けて手を伸ばす。
「んん、私のために本を取ってくださったのですね? ありが──」
「いいえ、違うわ」
「なっ!」
食い気味に拒否。
さらにその生徒は踵を返して離れようとしている。
あの時はまだ天才の私ならば何をしても良いと、傲慢にも思っていました。
彼女以外に私の要求に反対、拒否する生徒はそれまでいませんでしたので。
これをきっかけに私は傲慢な考えを変えられて良かったとは思っています。
当時はまだそんな事は頭の中に微塵も存在しないのですけれど。
「まっ、待ちなさい! 交渉! 交渉です! 借りる期間について交渉しましょう!」
運が悪いことにそれが最後の本でしたので、本の貸出期間について交渉しようと思ったのですが……
「あなたより先に私がこの本を手に取った、ならば私の物なのは明白。貸出期間が終わるまでこの本は諦めなさい」
交渉を考えるどころか交渉のこの字も無く一方的に持って行ったのです!
その時、私はぜっっったいこの生徒とはソリが合わないと頭ではなく心で感じました。
まあ? 私の振る舞いも多少悪かった気もしますけど……それとコレとは話が別です!
その後、あの生徒のことを調べてみたら(昔から天才美少女ハッカーであった私に掛かれば赤子の手を捻るより簡単です♪)彼女の名前は調月リオというらしい。
常に高成績をとっていますし、段々と順位も上がってきています。
このまま時間が経てば私の一つ下、もしかしたら私の一位の座を奪うかもしれない。
しかし、成績順位が負けてしまうことの恐怖や焦りなどは特に抱いておりません。
あるのは好奇心。
「私に並ぶその頭脳、非常に興味が湧きました。調月リオ、あなたを観察させて頂きます」
以降も度々出会うこととなるのですが、それで一つ分かったことがあります。
どうやらリオは合理主義が全てにおいて優れていると思っていそうでした。
そして、合理の為ならば自身の感情さえも軽視するということ。
進級するとリオは生徒会長に就任。
二年生で会長の座に就いたという事はかなり話題になった。
学園の隅、電子的にも物理的にも容易には辿り着けない場所にいた生徒にもその話題は届く。
電子機器が沢山置いてあり、モニターやコードなども沢山。
そんな部屋にいた車椅子の白色の生徒、ミレニアムで三人しかいない全知の学位を持つ明星ヒマリが、入り口付近の足音に反応する。
「おや、チーちゃんですか。何か問題でもありましたか?」
「ううん。今日は特に何もないよ」
暖かい部屋に入ってきた眼鏡を掛けた生徒、各務チヒロが答える。
両手には温かいココアが入ったマグカップが。
そのココアをヒマリとチヒロの二人で飲む。
「そういえばヒマリが気にしてた人が話題になってるけど、なにかする?」
「リオのことなど別に私は気にしていません!」
具体的な名前を出していないのにも関わらず、リオの名前が出てきた。
「ふーん?」
各務チヒロが何かを理解したような表情をする。
「何ですか! その顔は、もしかして私を疑っていますね!?」
「いいや、なんでもないよ」
あの合理主義者が生徒会長になった。
おそらく、間違いなく彼女の合理的行動を諌めることの出来る者はセミナーにはいないでしょう。
つまり実質、独裁と同じ。
リオ一人では学園も彼女自身にも良くない影響がありそうですね……
「そうだ。良い機会ですし、セミナーの対抗組織を作りましょうか」
それならば情報の独占もさせませんし、独りぼっちにもなりません。
良い考えだと我ながら思います。
さすがは全知の称号を持つミレニアム最高峰の病弱美少女である私ですね。
「ふーん?」
各務チヒロが再び反応する。
「な、なんですか! その暖かい目で見るのをやめなさい!」
ヒマリは顔を赤くしながらぷりぷりと怒った。
その様子に笑顔を浮かべるチヒロ。
「決してリオのためではありません! 学園のためです! いいですね!?」
「はいはい。じゃあメンバーを集めてくる」
呆れた顔をしながら、チヒロは部員集めのために部屋を出る。
「ちょっと! 絶対理解してませんよね! チーちゃん! 戻ってきなさい!」
ある日、ヒマリは憔悴とした表情のリオと出会う。
「……」
「……」
あまりにも変貌ぶりに一瞬誰か分からなかったヒマリ。
思わず言葉を失う。
彼女に身に何が起きたのか、様々な予想が脳裏に浮かぶ。
そして、ようやく発することが出来た言葉は心配の一言。
「……ええと、リオ、顔色が悪くみえますが大丈夫ですか?」
「……心配は不要よ」
いつものように。
何もないかのように返事をする。
メイクで多少は隠されていましたが……それでも酷い顔でした。
疑問に思い、分かる範囲で調べても特に何かがあったわけではなさそうです。
学園運営は非常に納得できませんが順調ですし、最近は大きな問題もない。
対人関係かと思いましたがリオにそういった関係は無さそうでしたし。
何より対人関係で悩む姿を想像出来なかったのあります。
でも確実に何かが起きたのは分かる。
「……はぁ、この超天才癒し系病弱美少女に話してみなさい。そうすれば多少は気分が良くなると思いますよ?」
普段のように絡むヒマリ。
「必要ないわ」
同じように断るリオ。
きっと何度も聞いても同じことを繰り返す。
それは今までの会話と同じように。
そう思ったヒマリは焦りと苛立ちから声を荒げる。
「いいえ、絶対に何か隠していることがありますよね! 良いから答えなさい!」
それは普段の冷静なヒマリなら起こさない行動。
ヒマリはリオの変わり果てた姿に動揺した。
それでいてリオ自身は普段と同じように振る舞う。
その様子に、どこか恐怖を感じたのかもしれない。
取り返しのつかないことが起きたのだと。
どこか手の届かぬ遠くに行ってしまったのだと。
明晰な頭脳は考えてしまう。
最悪の事態を。
「……ッ、何もないわ! 何も知らない、あなたに話す事など!」
その一言でヒマリは茹っていた頭が急激に冷める。
そして、リオも思わず言ってしまったのか、後悔から表情を暗くする。
「……急な用事を思い出したの。今回の件は後ほど改めて謝罪するわ、ごめんなさい」
手際よく荷物を纏め、振り返ることなくその場を去る。
「……」
その後ろ姿を、ヒマリは眺めることしかできなかった。
その日以降、リオは以前よりも無慈悲な学園の運営をし始めました。
リオに倣って言い表すとしたら超合理的。
ですがあまりにも感情を蔑ろにしすぎています。
あれではそのうちリオの周り全てが敵になってしまいかねない。
あれ以上過激にならないように、そうなる前に誰かが止めなくてはなりません。
「しかし……どうして?」
なぜ急激に運営方針が変わったのでしょうか?
何か相応の理由があるはずですが……
まあ、心当たりがあることと言えば……やはりこの前のことぐらいしか思いつきません。
もう一度、リオがあそこまで憔悴していた理由をミレニアムのサーバーから各家庭の受信機まで、改めて隅々まで調べたのですが特に何も見つかりませんでした。
だったら後はもう、原因はあの時の言い争いしかないでしょう。
一応、あの後、匿名の謝罪メールが来ました。
時間と内容的に間違いなく送り主はリオでしょうね。
ですが顔を合わせた謝罪ではありませんし、あれは私が悪いと思うので私の方から謝りたいのですが……
居場所が分からないので会うことも出来ません。
もしかして、あの時、私は重大な間違いを犯してしまったのでしょうか……?
あの時、私がトドメを刺してしまったのでしょうか……
やり直すことができるのなら、もう一度だけ……
暫く時間が経ち、彼女と出会う機会が減りました。
それはもう、出会うことが珍しいくらいに。
いくら生徒会長が多忙だからと言ってここまで出会うことが減るのでしょうか?
いえ、理由はなんとなく分かります。
稀に出会った時もぎこちない気がしましたし。
「やはり、改めて謝った方が……いや、特に改善しないかも……」
と内心ヒマリが考えていると、思い出したかのようにリオは要件を送りつけてくる。
「……!」
送りつけるだけ送りつけて後は無反応なのもなかなか頭に来ます。
私は心配して悩んでいるというのに!
はぁ……まあ、構いませんけど。
最近では突然、新設された特異現象捜査部の部長に任命されました。
部員は一人だけですが。
まあエイミは良い子なので不満はありません。
……いや、やっぱりエアコンの温度を下げるのだけはやめて欲しいです。
ある日いつものように突然、協力の打診を貰った。
肌の面積が広すぎる生徒が部室に入ってきた生徒に報告する。
「部長、メッセージが来てたよ。差出人は……」
しかし、答えに詰まる。
差出人が書かれていなかったのだ。
「リオですね」
どこか疲れたような表情で続きを答える。
正確には協力要請ではなく、一方的な宣告のようでもあったが、私は嬉しかった。
私が必要とされていること。
まだ、嫌われてはいなさそうなこと。
「どうするの?」
「そうですね……折角ですしハンデでもつけましょうか。もし二十四時間以内に戻って来なかったら、冷蔵庫のプリンを食べていいですよ」
「あ、行くのは確定なんだ」
どこか浮ついた気分で、ヒマリは出かける準備をする。
「では、エイミは留守番をお願いしますね」
「りょーかい」
過去を思い出していたヒマリ。
こちらへ向かってくる足音で現実に意識が戻る。
今いる場所は個室。
扉や窓は開ける事は出来ない。
まさしく牢屋と言って良いだろう。
「おや、囚われの病弱美少女に何か御用ですか? それとも忘れ物ですか?」
ガラス越しに、再び顔を合わせることとなる。
「先程振りですね、調月リオ」
「……明星ヒマリ」