余談
残念ですが、これまでのような毎日投稿はストックの関係上難しくなってきました。おそらく今週中にはストックが切れて投稿ペースが落ちるでしょう。楽しみにしてくださっている方々が多いので、失踪だけはしないように頑張っていきたいです。なお、失踪しないとは言って…
生徒会の解散とそれに伴って行われた生徒会長選挙。一般的な学園生徒にはいつものギャンブルで賭けられるものに自分の得た票が追加されただけだが、現職の生徒会や有力な生徒たちにとっては大きな出来事だった。
「やはり、生徒会を解散すべきではなかったのでは…」
解散が宣言された後でも新しい生徒会が決まるまでの間の暫定として活動していた生徒会。庶務の西洞院はこの選挙に合わせて学園に転入してきた人たちがいることも念頭に置いて綺羅莉に考え直すよう求めたが、綺羅莉は取り合わなかった。
「琉偉はどう? あなたは解散に賛成?」
「生徒会の解散の権限は閣下にあります。閣下の判断であれば従うのみです」
「そう。やはりこの場では少し話しにくかったかしら」
生志摩がいるため息を殺して極力気配を消していた世南に綺羅莉は今回のことについてどう評価するのかを訊ねたが、世南は感情を出さない機械的な返答をするのみだった。綺羅莉が少し残念に感じたそのとき、扉を誰かが叩いた。
「失礼します」
生徒会室を訪ねたのは男装をした眼鏡を掛けた女子生徒だった。目に光がないのはこの学園では珍しくないが、両手に手袋を付けているのは治安維持委員会以外では特徴的だった。
「ローラか…」
「世南様。私の名前は×喰零です」
「失礼。あなたが噂の転校生ですね、ローラ?」
「…百喰家の皆様を紹介します」
零に続いて入ってきたのは『はらぺこあおむし』のような人形を抱えたゴスロリファッションもいれば貞子のような長髪、ロシア系の長身美女、明らかに粗暴な性格をしているであろう外見の男など様々な男女だった。
その中の一人で凛として実年齢よりも大人びている雰囲気を醸し出す車いすの少女が綺羅莉を嫌悪していることを目を見て感じ取った世南は、皇が除名されたことで一番の新人であり豆生田が先日のチョイスポーカーで生徒会から外されたことでより孤立したにも関わらず百喰一族からは生徒会という括りで敵視される運命であることを薄々察した。
次の日、世南は非番のため放課後すぐに帰ろうとしていたが、靴箱で零に止められる。零は懐から可愛いデザインの封筒を取り出した。
「世南琉偉様。あなた宛ての手紙を預かっております」
「…剃刀は流石に仕込まれてないか」
「我々はそこまで陰湿ではありません」
封筒の中には簡潔に一言だけ書いてあった。
「私とギャンブル…ね」
果たし状に書かれていた部屋にはゴスロリと犬の着ぐるみを被った選挙管理委員の大和イナホほか、夢子と鈴井、そして見知った風紀委員長がいた。
「お? 世南じゃねーかよ!!」
「あなたが私を対戦相手に指名したのですね、蟲喰恵理美さん」
生志摩を無視して恵理美に話しかけた世南は机の上に置かれた器具に目がいった。布が被せられているがその大きさからして碌な物ではないと思っていると、恵理美はそれが今から行うギャンブルで使用する道具だと説明する。
「指切りギロチン…ねえ」
参加者が20本ある紐を一本ずつ鋏で切っていく。どれかの紐はギロチンの刃を支えており、もしその紐を切ってしまうと下にある穴に通した指が落ちる。指切りギロチンはいつ落ちてくるか分からないギロチンの恐怖に耐えて最後まで指を外さなかった人間が勝つチキンレースであり、ギロチンが人道的観点から生まれた処刑道具であることを考えると非常に外道なものである。
「ほーう…いてッ⁉ これ本物かよ…」
ギロチンの刃に触れた生志摩の指が切れて出血する。下には指を通すための穴があるため、本当に刃が落ちてきたら人間の指など容易く切り落とされてしまう。流れる血に興奮している生志摩が自分の血を舐める前に世南は包帯を取り出した。
「とりあえず、止血するから指見せろ」
「おっ、意外と優しいんだな」
「ちょっと待ってよ、世南君…相手が用意したギャンブルをするなんて、何が仕込まれているのか」
「ちょっと、外野のモブがとやかく言わないでくれる?」
世南が止血をしていると、鈴井がギャンブルを止めにかかった。鈴井には招待状が届いていないため元々ギャンブルに参加するつもりはないようだが、それでも真っ当な感性をしている人間として友人が指を失くすかもしれないギャンブルをするのは止めたいようだ。そのために相手の土壌で戦う不公平さを説いたが、恵理美は立会人であり絶対中立を掲げる選挙管理委員会が刃を落とす紐を入れ替えるため問題ないと返してしまった。
立会人が紐を入れ替えている間、参加者は全員室外で待機していると虫の人形を抱えた恵理美が世南に話しかけてきた。
「あなたが鉄仮面の世南ね。生徒会室で会ったときは気付かなかったわ」
「仮面を付けるのは勤務時間中だけだと決めていますから」
少々挑発的な物言いを流して世南は返事をする。ただ世南も別に怒っていないというわけではないので膝を曲げて大人が小さな子供と話すときのように視線を合わせた。
「・・・蟲喰家は拷問を家業としている。聞いたところによると治安維持委員会も拷問をしているそうね」
「拷問? 確かに反省した様子が見えない生徒を矯正することはありますが、情報目的の拷問はしたことがありませんね」
「嘘ね。あなたが拷問をする人間であることは臭いで分かる。体に染みついた血の臭いは隠せないわよ」
二人の間の空気が険悪になっていったとき、扉が開いて準備が完了したことを立会人が報告する。世南はそれ以上は何も言わずに室内に入った。
ギャンブル中も恵理美と世南は何も話さなかった。夢子と生志摩はスリリングな感覚が云々と話の花を咲かせていたが、学園のギャンブラー全員が指を失うリスクを楽しめるわけではない。生志摩の隣が嫌で消去法で恵理美の隣に座った世南は、机を隔てて狂人と変人が分けられていると自分の番が回ってくるまでの間は暇なので考えていた。
「ところで…大和さん。約束通り、外していただけましたかしら?」
「勿論であります!!」
「そうですか。お互いに公平でなければギャンブルは楽しめませんからね」
何てことはない会話。ただ夢子が選挙管理委員に何かを取り外してもらっただけ。しかしこの会話の後から恵理美の様子がおかしくなった。汗と涙を流し過呼吸気味のため世南は顔の前で手を振ったり覗き込んだりするが、反応がなかった。
「なんで…おまえが用意したギャンブルでお前が泣いてんだよ」
呆れ気味に生志摩が泣いたまま動かなくなった恵理美に言う後ろで鈴井が同情しているような目で見る。おそらく恵理美が仕込んでいたセーフティーを夢子が外させたのだろうと世南は推測した。拷問することを生業にしても拷問されることには慣れていないから指を失う痛みと恐怖に耐える覚悟はないのだろう。それでも冷静に振舞えていたのは安全であることを知っていたから、しかしそれがなくなったと知れば、安全から危険に一気に陥った落差で離脱させることができる。世南は仕掛けた。
「トンネルや高速道路の老朽化は超音波を使ってある程度判断することができる。内部に空洞ができると反響音が変わってくるからな」
「何言ってんだお前?」
「心なしか、指切りギロチンの反響音が部屋を出る前よりも軽くなったな。蟲喰恵理美」
歯を食いしばりながら、目を点にして恵理美が世南を見る。世南からしてみれば安全装置が実際にあるのか、夢子がそれを抜いたのかは知らないが、これで恵理美からしてみれば世南と生志摩と夢子の三人は刃が落ちてきても指を外さない狂気に呑まれた人間たちであるという印象を付けることができた。後は恵理美が指を抜くのを待つだけ。
そう思って気楽にやろうとしていたとき、恵理美は覚悟を決めたのか紐を切った。
「ふざけるなよ!! お前たちみたいな下劣な俗物共に負けたりはしない!!」
「そうですか…では、賭け狂いましょう!!」
誰も止まらない。全員が淡々と…恵理美だけが少しの恐怖を滲ませながら紐を切っていく。一巡、二巡、三巡…とうとう残り4本になってもまだギロチンは落ちない。既に恵理美の唇は紫色になっている。恵理美が切って息を吐く間もなくすぐに世南が紐を切ったのを見て生志摩の応急処置もしていたしお前は学園でも常識人側だろと言いたげに震えながら見てくる。
「さて、残りは2本ですから、確率としては50%で…」
最後、生志摩は残っていた2本の紐を同時に切った。自重を支えてくれていたものを失ったギロチンは自然の摂理に従って落ちてくる。
指が飛ぶ。そう考えた瞬間には既に恵理美は指を抜いていた。だが、誰も指を失わなかった。
「危なかったな」
世南が左手でギロチンを受け止めていた。白い手袋が裂けて、下から鈍色の光が漏れ出る。
「嘘…なんで切れてないの…」
「俺の左腕は機械だ。それよりも、立会人。これで終わりか?」
「はい!! 指を抜いた蟲喰様は敗退。紐を同時に二本切った生志摩様は反則負け。世南様は…ギロチンを手で止めた際の罰則はありませんので、世南様と蛇喰様の勝利です!!」
「ふう、反則負けにならなくてよかった。それよりも全員指抜いてくれます? いつまでも持ち続けるわけにはいかないので」
全員が指を抜いたのを確認してギロチンから手を離すと、ギロチンは指を通していた輪っかに落ちた…なんてことはなく、その上で止まった。
「…ふざけんなよ世南!! てっめえ何ギロチン止めてるんだ!! それに蟲喰!! どうして刃が止まるんだよ!!」
「ふざけているのはあなたの方ですよ生志摩妄…」
「怖ッ…関わらんどこ」
何やら怒り心頭の夢子と生志摩から逃げるため配当を受け取ったらすぐに室外に退避する。夢子はともかく生志摩はリボルバーを使って暴れる可能性があった。だからこの逃げは恥ずかしい物ではない。恵理美と鈴井と大和には悪いが逃げた方がいいのだ。
そうやって己を正当化していると、閉めた扉が開いて人が出てきた。恵理美だ。部屋に残してきた二人ほどではないが怒っているようで、抱きしめている人形が強く圧迫されている。
「どうして刃を受け止めたの。鉄板は中にあったのに」
俯いたまま世南に問いかける。
「そんなこと知らないよ。ただギロチン程度ならこの手で止められる。だから止めた」
「どうして止めたの!! あれだけ早く受け止めれたのなら、私が指を抜いたのに続くことができたはず。なのにどうして!!」
「あのね、夢子はお友達なの。友達の・・・いいや、友達だけじゃない。たとえ嫌いな人のでも、ここ最近会っただけの人のでも、指を失う覚悟をしている人のでも、指が宙を舞う様子を見たい人間なんてこの世にはいないよ」
反抗的な態度をとり続けた生徒の足の指を潰したと噂される人間が言うことには聞こえないが、しかし現実に世南は刃を止めた。それが理解できず恵理美が固まっていると、世南の電話が鳴る。
「はい西洞院先ぱ…熊楠さんでしたか。どうしましたか…………はい。分かりました。すぐに行きます。蟲喰さん、失礼しますね」
話を終えた世南は廊下の窓を開けるとそこから飛び出していった。
一方、室内では怒りの対象が消えたことで生志摩が夢子に追い詰められていた。どうやら生志摩が紐を二本切り夢子に配分されるはずだったリスクを独り占めしたことが許せないようだ。
「す、すまん夢子…お願いだ、許してくれ。世南とのギャンブルの話もするから…」
夢子が会長とのギャンブルで世南の話も聞き出そうとしていたことを知っていた生志摩は、夢子が部屋を立ち去る前に自身の行ったギャンブルについて話し出す。
「あたしも世南とはESPゲームをやったんだよ。ディーラーと同じ並び順で並べれたカードが多かった奴が対戦相手にロシアンルーレットをやるやつ。三回やって一、二回は空砲だったんだけど、三回目はあたしが勝ってあたしが全弾詰めた銃だったんだよ。いやー、やっぱりあたしはツイているなー」
「それで?」
次を夢子が催促すると、生志摩は急に歯切れが悪くなる。
「いやー、それがよ、実のところ言うと…」
「で。つ、ぎ、は?」
「覚えて、ねえ」
感じが悪いようで夢子から顔を逸らして生志摩は答えた。
「引き金を引いた後、気付いたら世南は席にいなかった。発砲音は聞こえたし照準も合っていたが、世南は知っての通りピンピンしてる」
「…」
「別室の奴らにも聞いたけど気付いたら世南はいなかったって言ってたし、監視カメラも録画データが一杯で記録出来てなかったんだよ」
「は?」
室内に冷気が充満したかのように錯覚するほど夢子が発した圧が部屋を支配する。
「行きましょうか鈴井さん。もうこの部屋には私たちと大和さんしかいないみたいなので」
「ま、待ってくれよぉ夢子ー⁉ あたしと一緒にギャンブルでも…」
「行きますよ、鈴井さん」
「わ、ちょっと待ってよ夢子ー!!」
覚えていなかったせいで余計に関係を悪化させた。生志摩はそう思っていたが実際は違う。夢子は希望を抱いた。世南を倒せる可能性を、生志摩は知っている。覚えてはいないのだろうが、生志摩は確実に世南のイカサマの全貌を見た。おそらく世南に忘れさせられたのだろう。だから別に話の内容が悪かったわけではない。ただただギャンブル中にやった行いが悪く、逆鱗に触れただけだ。