賭ケグルイ 狂気の中の正気も狂気   作:ロイ1世

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断る男

「世南、久しぶりだな」

「退院おめでとう、豆生田」

 

 大教室の最後の入室者、髪の色素が完全に抜けてしまい全てが白髪になった男、豆生田を世南は歓迎した。あの日、豆生田は夢子に敗北してからしばらくの間昏睡状態にあった。そして今日は、その豆生田のギャンブルの復帰戦なのである。

 

「そいつが参加者か」

 

 見た目が近づきがたい赤髮の男子生徒、尾喰茨は豆生田を見た後、世南の方を見る。

 

「俺としてはそいつよりも噂の鉄仮面とやりたかったんだがなー。まあ、鉄仮面は無敵だって噂だから戦わなくていいならいいで嬉しいが」

 

 綺羅莉を追い落とすために転校してきた百喰家の一同は学園の要注意人物が事前にリストアップされていた。その中には当然、現職の生徒会で綺羅莉を倒し、故意での敗北(投票じゃんけん)マシントラブルでの敗北(実弾射的)以外に負けたことのない男、世南琉偉が含まれている。見破ることのできないイカサマとやらの正体を選挙戦が終盤に近付く前に暴く、或いはヒントぐらいは得たいと思っていた茨だったが、世南は参加しないことを知り安堵を含むため息を吐いた。

 

「参加者が集まりましたからー、公共財ゲームを始めまーす」

 

 ペンギンのフードを被った選挙管理委員、宇留瑠美亜が二つの箱とコインを持って教卓の前に立つ。

 

 公共財ゲーム、世南は参加しないため話半分に聞いていたルール説明によると、参加者にはまず5枚の銀貨が配られる。それらを毎ターン、全て私財BOXか税金BOXに投入する。私財BOXなら入れた銀貨は全て自分のものとなる。税金BOXの場合は入れた銀貨が倍になって参加者全員に分配される。5ターンの間に稼いだ銀貨が多い者から順に主催者である定楽乃から票が与えられる。しかし40枚以下の人は定楽乃に100票を渡す。他に気に留めておくこととしてはこの分配は税金を納めなかった参加者にも行われることとターンが始まる前の時間に話し合い、三人が賛成すれば一度だけ参加者一人をギャンブルから除名できる。除名された場合、私財は全て没収となる。

 

「助かったよ、このギャンブルに参加しなくて」

「それはこのゲームが苦手ということか、世南」

 

 観客として窓際に寄っていた世南の独り言に、定楽乃が食いつく。付き人のユミに車いすを押してもらいながら近づき話しかけてきた定楽乃を、世南は両手を少し前に出して否定する。

 

「別に、参加すればきっと勝ってたさ。でも友達から嫌われてしまう」

「てのは…どゆこと? 教えて琉偉」

 

 少しは考えたらしいユミはすぐに世南に聞き返した。

 

「もし私が参加していたら、きっと正直に納税せず誰かに罪を擦り付けていた」

「わーお、確かに性格悪ーい。被ってないのに面の皮が固いんだ」

「…否定はしない」

 

 最初のターンだということで軽い自己紹介を済ませて納税に移行した参加者たちを見ながら、定楽乃は世南の眼の奥を見つめて話す。

 

「世南。お前が今日ここに来たのは綺羅莉の命令か?」

「違うよ。私は友達のギャンブルの復帰戦を見に来たんだ」

「はたしてそれが真実か。この場にはミラスラーヴァと茨がいる。敵情視察をするにはうってつけではないか」

 

 どうだ、違うか。口には出さないが定楽乃の圧が脳にその言葉を響かせる。しかし世南はそれに怯まずその言葉を否定した。

 

「学園の人が集まっているところは全て治安維持委員会が監視している。この教室も、ここからでは確認できない場所から監視されている。もし敵情視察をするのなら、私は監視している委員を使うだけで済む。ここに来る必要はない」

「お前はそうかもしれん。しかし綺羅莉の奴が命じたのであれば話は変わるだろう」

「閣下はそんな命令しないよ。閣下は相手のことを知るのも楽しみの一つだと考えているから」

 

 納税の結果を見て話し合いを始めたプレイヤーたちを見ながら、世南は返す。生徒会に入ってから、世南は色々な理由をつけられて綺羅莉に呼ばれた。しかしそれらすべては世南のイカサマに迫るための情報収集が主で、世南の口から直接種明かしをするよう求めたわけではない。綺羅莉の強すぎる好奇心、そして興味のない物に対する冷徹さ。傍で見続けてきた世南はそれらを理解していた。

 

「そうか。では本題に入ろう」

「今までのは世間話か」

「そうだ。私もお前が綺羅莉の駒かどうかは関心がない。聞きたいのはお前が何を考えているかだ」

 

 ユミに話し声が聞こえないよう下がらせた定楽乃は先程よりも真剣な眼差しで世南を見る。少しばかり体感温度が下がったように感じるほどの気迫を放ちながら、定楽乃は世南の真意を探り始めた。

 

「お前はこの生徒会長選挙に何を求める」

「何を求める…て」

「より抽象度を下げよう。世南琉偉、お前は生徒会長になる気があるのか?」

 

 世南は表情を変えない。なにやら揉めている零と夢子から視線は外すことなく返す。

 

「なぜその質問をする。仮にも私は既に多くの百喰家の刺客を倒してきた男だ。学園内でも票は持っている方だと自負している」

「お前には生徒会長になるメリットがない」

 

 短く、しかし不足のない定楽乃の世南に対する評価。

 

 世南は既に治安維持委員会という力で学園に深く食い込んでいる。学園では治安維持委員会を欲し、そして必要と思っている生徒が数多くいる。それは家畜の生徒だけではない。今は普通に学園生活を送れている生徒も、何かの拍子で家畜に転落することは十分にありえる。そのとき、身の安全を保障してくれるセーフティーネットの治安維持委員会が無ければ困る。委員会の存在が入学したときから既にある一年生は実感が薄いが、無かったころを知っている二、三年生は家畜に対して行われる容赦のない攻撃を知っている。

 

 そのため、仮に治安維持委員会が新たな生徒会長によって解散させられたとしてもきっと有志による非公式の存在として受け継がれる。いや、それどころか世南が委員長職を追われたとしても、世南は委員会に影響を持ち続ける。新たな生徒会長が世南に反する人物を委員長職に就けたとして、起こるのは委員長を除いた委員会の反乱。世南はこの生徒会長選挙、不戦勝どころかそもそも戦いの場に出る必要すらないのだ。

 

「零。世南に言いたいことがあるのなら今がちょうどいい機会だ。胸中を話すといい」

 

 夢子に対してギャンブルの被害者が云々と珍しく感情を露にしていた零が落ち着きを取り戻し、これ以上ギャンブルの妨害をしないためにも観客席である窓際に戻るが、定楽乃は零を世南に焚きつけた。

 

「どうしたローラ」

「あなたもそうです、ローラ、ローラと…私の名は×喰零だと何度言っても直さない」

「それはあなたがローラだからだ。ローラにローラと言って何が悪い」

「この…偽善者が…」

 

 拳を握りしめる零を見て少し煽りすぎたかなと思った世南だが、殴られても別にたいしたことはないと踏んで反応を見ていると、零は夢子に対してやったように世南に対しても怒りを爆発させた。

 

「この学園に来た時、治安維持委員会という存在を知った。この百花王学園(狂気)の中にある正気だと、私は思った。しかし、違った。お前は人を救おうとしない。弱者にたかろうとするハイエナたちを駆逐しようとはせず、それを見逃している。お前は最低の偽善者だ!! ほんの極々一部を救って正義を気取っている、この学園(狂気)と同じだ!!」

「もう止めろ!!」

 

 気付けば豆生田が零の振り上げていた拳を掴んでいた。世南を責める声は納税のため人が減っている公共財ゲームの参加者たちにも聞こえており、別室にいる夢子を除いた全員が二人を見ていた。

 

「琉偉だって、一人でも多く救おうと…」

「いや、楓、零は間違っていない。俺は救う対象を選別している。それは否定しようがない事実だ」

「嘘だ…でなければ蕾菜々美とかいう元家畜をお前が委員会にスカウトしたのは何だったんだ。あいつは家畜の中の家畜で、だからこそ…」

「庇ってくれているところ悪いが、豆生田。お前の納税の番だ」

 

 宇留が豆生田の背後で目を細めていることを世南は指摘する。暗に自分のことはいいからお前はお前で自分のことに集中しろと伝えられた豆生田は別室で納税をするため掴んでいた零の手を放して去った。

 

「零。いいわね」

「はい、定楽乃様。失礼しました」

 

 豆生田の介入によって世南のせいで失われた落ち着きを取り戻した零は世南と距離を取るため窓側のかなり前方に場所を移した。表には出さないようしているがそのため内側から全体的に不機嫌な雰囲気が漏れ出ておりどうにかしようとユミが話しかけているのを尻目に世南は定楽乃と話す。

 

「それで、ローラを嗾けてやりたかったことはなんだ」

「確認だ。あなたが唯一綺羅莉に妨害されたことに未練があるのかどうか」

 

 生徒会を調べる中で、議事録の内容が書き換えられていることに気付いた定楽乃は元は何が書かれていたのかを調べていた。その過程である三年の生徒会に金と票が流れることになったが、隠されていた真実…世南が治安維持委員会の取り締まり範囲を拡大しようとし、綺羅莉がそれを却下したことを知れた。

 

「零はお前を偽善者だと評価した。そして今の元生徒会会計との話し合いで救う者と救わない者を分けていることも明らかになった。お前にかつてほどの善性はない。現状に満足し、廃された案を復活させる意思もない」

 

 学園に必要不可欠になった治安維持委員会。その治安維持委員会が求め、付き従う世南。そして現状への満足。これらから導き出される結論は、一つ。

 

「お前は生徒会長になるつもりがない。票を集めるのはより新しい生徒会長への影響力を強めるためで、仮に綺羅莉が敗北した場合に委員長の座を追われ裏から手を回す無駄を省くための保険。お前は終盤、上位数名のうちもっとも自分に都合がよい相手に票を渡すため、票を集めている」

 

 世南は何も返さない。否定も、肯定も、ただ何も言わずに沈黙を貫く。定楽乃が言う次を待って。

 

「これは取引だ。我々が最後に残っていた場合、お前は持っている票を全て譲渡する」

「メリットは」

「お前と治安維持委員会には干渉しない。もとより今回の生徒会長選挙は百喰家の当主の座を賭けた戦いだ。一族とは関係のないお前が勝ったところで我々ほど得をしない」

 

 定楽乃ら綺羅莉と敵対する百喰家が恐れるのは、綺羅莉には勝利したが世南に敗北し、世南が生徒会長になることだ。もしそうなれば勝ったにも関わらず勝者なしとして当主は綺羅莉から動かない。最悪なのは綺羅莉の酔狂で世南を一族の当主の座に就かせることだ。ここで世南を押さえておけば終盤により力を付けたキングメイカーとなった世南と対峙する必要がなくなる。むしろ世南との関係性を考えた場合、新参者の百喰家よりも綺羅莉や他の交友関係のある生徒を票の託し先として選ぶ可能性は十分ある。

 

「それで、返答は」

「断る」

「なぜだ。この話はお前にとって悪くないはずだが」

 

 交渉の失敗。しかし定楽乃にはこの結果は見えていた。断られることが前提で、むしろ受け入れられたのであればラッキー感覚だったため、落ち込みはない。ただ理由が気になった。世南は人差し指を立てるとその理由を説明する。

 

「一つ、必ず履行される確実性がない。問題の治安維持委員会も顔は隠しているが名簿は生徒会が管理している。百喰家の力を考えれば全員を学園から追放することは不可能ではない。そのため私や委員会の無事は保障されない」

 

 二つ目、と人差し指と中指を立てて次の理由を説明する。

 

「二つ、閣下は再戦を望んでいる。だというのに百喰家に票を託してこの選挙戦を抜けるのは閣下に対する贖罪を放棄することと同義である」

「贖罪?」

「閣下に聞けば嬉々として話してくれる」

 

 問答を終えた世南は意気揚々と脱税をしている人物を推理する豆生田を見る。

 

「見たい物は見れた。私は帰る」

 

 チョイスポーカー以降、ギャンブルに対する熱意が失われていた友が完全に復活した様を見て安心した世南は、これ以上ここに留まる必要はないと退室する。

 

 百喰家。

 

 そういえば夢子も喰の字が入っているからあいつも百喰家の一員なのかと考えながら、監視の対象を増やすことを考える。

 

 百喰家の当主争いをこの生徒会長選挙で行っているなど知らなかった世南は、改めて百喰家についてお友達(横七)に調べさせる。案外欲しかったものは、すぐ近くにあるのかもしれない。




入れどころを見失った描写

 4ターン目、何度も銀貨を私財BOXに入れる人物がいるため素直に納税することが不利である状況下になると、何らかの手段で私財に投じようとする人物を止めなければならない。

 豆生田はどうすれば裏切りを止められるのかを考えた。そして仮に誰かが銀貨を全て私財BOXに入れた場合を考えて枚数予測を行い、あることに気付く。それは全員が私財BOXに残りのターン全て入れれば、誰一人として40枚には届かないという事実。それを豆生田は利用することに決めた。

「俺は憎い。誰かが俺が税金BOXに入れることで勝利するというのなら、すべてを巻き込んで破滅するだけ。俺がこのターン、納税する銀貨の枚数は0だ」

 核抑止論における相互確証破壊と同じ、誰も納税しなければ全員が滅びる確定的な未来。豆生田はそれを利用して全員に納税をさせる。

 それを窓際から見ていた世南は、話し相手である定楽乃が真面目に交渉しているのを無視して茶化す。

「あいつ、将来は財務省事務次官になることが望まれてるんだぜ。それが脱税宣言だとよ」
「それって…世もずいずいずっ転ばしゴマみそずいッ…てこと?」
「…ああそうだ」
 
 何を言っているのか分からないユミにとりあえず同意して、定楽乃との交渉を世南は続ける。
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