そのため、原作を知っている方からすれば話がおかしいと思うかもしれませんが、そこは仏のように広い心で見逃してほしいです。
扉の塔のギャンブルから、時は進む。
数日後、×喰零が主催の100票オークションがあったが世南は不参加。次の日に登校してきた零が男装をやめて女子らしく化粧をしていたのを見た世南は零に対しロランと声を掛けた後にこれまで間違った名前で呼び続けてきたことを謝罪。最後に零と呼んで別れた。
その後に有力者が隠し持っている票をはっきりとさせる大集約が行われるなど徐々に決着が近づきつつある。
そんなある日、世南は定楽乃に呼ばれて山の麓にある等々喰家が所有している別荘を訪れていた。土曜日で暇だということもあり、いつもの治安維持委員会の制服で待ち合わせ場所である学園の正門前で待っていると、迎えの黒塗りの高級車が現れた。
定楽乃は既に敗北し選挙戦をリタイアすることを余儀なくされた。そうさせたのは他ならぬ世南であった。公共財ゲームの際に持ち掛けた交渉。あのときはまだ定楽乃に一定の票があった。しかし今はもうない。綺羅莉と敵対する百喰家の刺客たちは全員が倒され、今残っているのは夢子、芽亜里、世南、綺羅莉の四人だけだった。
「お降りください」
人里離れた山奥の別荘にまで世南を運んでいた百喰家の車が門の前で止まる。ここから先は歩いて行けとのことだった。世南は運転をしてくれた黒服に礼を言って下車するとインターホンを鳴らす。既に知っているだろうが到着を知らせるためだった。
『今開門する。案内するから私の元まで来てくれ』
インターホン越しに聞こえる定楽乃の声はいつも通りであったが、世南はこのときから既に違和感があった。定楽乃は綺羅莉と色々と問題を抱えているが、礼節を弁えている。そんな彼女が迎えの人を寄越さずに一方的に案内するという無礼を働くことにどこかつっかかりを覚えていた。
『付き人すらも日曜の夕方まではこの屋敷にいない。二人だけで話そう、世南琉偉。そこの階段を上がってくれ』
案内されるままに和洋折衷の豪華な屋敷の中を歩く世南は、埃一つ落ちていないが人の気配がしないことが不気味だった。
『そう、その扉だ。そこで話そう』
そうして辿り着いた目的地の扉を世南は開けると、中を一瞥。入室することなく扉を閉めた。
『何をしている。目が合っただろう』
「こいつ、正気か?」
しかたなしに扉を開けて入室した世南は、背を向けて定楽乃の前に立った。
「なぜこちらを見ない」
「あのねえ、誰だって裸でベットの上に座っている人を見れば目を背けたくなるよ」
世南は今日が土曜日で休みということもあって完全に素を出して答える。世南が定楽乃を直視しない理由。それは定楽乃が一糸纏わぬ生まれたままの姿でベットの上にいたからだ。
「何をしているんだ」
生志摩よりも理解できないものがこの世に存在したことに頭が割れそうなほど頭痛がする世南を無視して、全裸であることを意に介さず定楽乃は話し始めた。
「世南、取引をしよう。我々百喰家は先日私がお前に敗れたことで全員が選挙戦にリタイアとなった。このままでは綺羅莉が当主として君臨し続けることになる。そこで、私とお前が婚姻する。お前が生徒会長になれば百喰家の当主の座を得る。我々としても綺羅莉を当主の座から引き下ろすことができる。双方にメリットのある話だと思うが」
「何を…言ってるんだ、お前は」
異性を目の前に全裸だというのに顔色一つ変えずに交渉を行う定楽乃にもはや尊敬の念すら覚えてきた世南は、色々な思いを込めて返答した。既に定楽乃は世南に婚約者がいることを知っている。事前調査で夢見弖ユメミが公開告白をして玉砕した理由は学園の誰に聞いても知ってるような話だ。それを知らないわけがない。それなのに婚姻を持ち掛けてきたことに世南は困惑する。
「定楽乃さん、俺には婚約者がいるの。この指輪は互いに成人を迎えたら相手の薬指に嵌めるものなの。それがお分かり?」
首飾りとして肌身離さず相手へ贈る指輪を持ち歩いている世南は、指輪に通してある糸を握りしめながら定楽乃と話すが、こちらとは使う言語が違うのか世南が何を言っても気にも留めない定楽乃は淡々と答える。
「既に一族が一夫一妻制から一夫多妻制へ移行するよう働きかけている。お前が成人年齢を迎えるときには実現しているはずだ」
「不道徳すぎるだろ…」
何を言っても聞かないのであれば何を言っても意味がない。世南は頭を抱えて蹲るが、定楽乃はアプローチの仕方を変えてきた。
「そうか。私の体ではお前の性欲を刺激しないか。確かに私は貧相だからな。ユミの方が楽しいだろう」
自身の胸に手を当てて他の一族のものと比較を始めた定楽乃を世南はもうどうすればいいのか分からなくなっていた。
「だがいいではないか、この屋敷にいるのは私とお前だけ。私の体は恵まれていないが女として男を悦ばすことはできる。お前にとって幸いなことに私の脚は不自由だ。どこにも逃げられず、助けに現れる者のいない山奥で、好きなように私を扱うといい。避妊をせずに妊娠したとしても、お前に迷惑をかけることはしない。約束しよう。だから今は、外の世界のことを忘れて私だけを意識して欲しい」
両腕を広げて世南を受け入れようとする定楽乃に覚悟のついた世南は正面から向かい合う。
『この部屋は盗聴されているな』
唇だけを動かして定楽乃にそう伝える世南。驚きながらも読唇術でそれを読み取った定楽乃は同じく声を出さずに伝える。
『そうだ。盗撮もされている』
その言葉に世南は頭痛の次に吐き気がしてきた。定楽乃は既に敗北者、当主の座を狙う一族の者からしたら利用価値はない。完全な捨て駒となっている。その定楽乃を使って世南に婚姻を迫り、合意してコトに及べばそれでよし。拒否したとしても世話人のいない定楽乃を世南が見捨てることしないと踏んで放置、一つ屋根の下、男女が長い時間をともに過ごせばいつかは理性が崩壊し遊びとして行為に及ぶ。それをネタにして無理やり結婚させれば世南という綺羅莉に敵う切り札を手に入れることができる。
「下衆共め…」
心の底で煮えたぎる怒りの篭った独り言が漏れ出る。拳に込められた力は一撃で人骨を破壊するほどの威力を秘めるほどで、ぶつける相手の不在が世南を冷静にさせていた。
『その様子だと、我々の思惑に気付いたようだな』
加工された機械音声が響く。世南はその発生源の一つである本に偽装したスピーカーを裏拳で粉砕すると、その残骸を踏みにじる。
「百喰家の老人というのは随分と趣味が悪いのだな。自分たちにはできる体力がないからと若人の逢瀬を覗き見るとは」
『無礼なことを言うな、横七のクソガキが!!』
「無礼なのはどちらだ!! 好きでもない男に抱かれるよう命令し、定楽乃を苦しめているのはどちらだ!!」
話し方からして別人が世南を下に見た発言をする。スピーカーを内蔵しているティッシュ箱をチョップで真っ二つにしながらも怒りが収まらない世南は、未だに盗聴を続ける百喰家の人間を強く非難した。
「お前たちは人間の屑だ。人と直接会って話すことすらできない臆病者だ。最低の下衆野郎共だ!!」
『いいだろう、世南琉偉。お前の言葉、甘んじて受け入れよう』
再び違う人が世南に話しかける。
『我々は目を閉じ、耳を塞ごう。迎えも出す。しかしそこの役立たずと婚姻はしてくれるな』
「さっきから思ってたけどよー、限界だから言うぜ」
怒りが頂点に達し頭の血管が切れて出血する世南は、室内を盗撮しているカメラを睨みながら叫ぶ。
「俺には婚約相手がいる。だというのに女を宛がう時点でお前らのことが俺は嫌いだッ!!」
山が揺れるほどの覇気を含んだ世南の叫びに、返ってくる言葉はなかった。しばしの沈黙が続き、これ以上ここにいることが無駄だと判断した世南は定楽乃を連れて下山するため何も着ていない定楽乃に上着を掛けようと一歩近づく。
『残念だったよ、世南琉偉。我々は君と仲良くしたかったのだが』
「お前らの同類にはなりたかねえよ」
『我々が望む通りにならないのは不服だが、致し方ない。ゴミはゴミらしく吹き飛んでもらおう』
その言葉を合図にして室内に周期的に響き渡る電子音。次第に感覚を狭めていくそれが何か、世南はすぐに分かった。
「まさか…爆弾か⁉」
「すまなかった、世南。私がお前を誘えていれば、こんなことにはならなかったのに…」
一族の問題に一族以外の者を巻き込んでしまったことに定楽乃は初めて感情を世南に見せる。膝の上の手を震わせながら涙を零す定楽乃。世南はこのとき、定楽乃が強い人間だということを改めて思い知る。
衣服を何も纏わないで関係性の薄い異性と話すことがどれだけ定楽乃を羞恥し傷つけたのか。そしてそれを世南には気付かれないよう隠し通そうとすることが、どれだけ辛いことだったのかを。振り返れば定楽乃は他の百喰家の者たちのことを話していた。ユミがここにいないのは、交渉に不必要だからではない。きっと定楽乃が巻き込まないよう隠したのだろう。どれだけよくいっても定楽乃が純潔を散らす瞬間を目の当たりにしなければならず、ユミ自身も汚される可能性がある。最悪の場合は爆死。定楽乃の思いやりを理解した世南に、先程までの怒りも困惑もない。澄み切った青空のように曇りなき決心が、世南を突き動かした。
「定楽乃、お前を必ず守る。裏で糸を引いているジジババどもは確実に後悔させる」
「世南…何を…」
「だから…必ず、生き残るぞ」
定楽乃の座っていたベットの裏に取り付けられていた爆弾を引き剝がした世南は窓を開ける時間を惜しんでガラスを破壊しながら爆弾を外に放り投げる。起爆するまで後数刻、世南は定楽乃を抱きかかえると爆風から定楽乃を守るため自身を盾にして爆風に乗って飛んでくる破片に晒される。
「何をやっているんだ!! お前なら私を見捨てて逃げれば無事に逃げ遂せるだろ⁉」
「それは違う。俺は既に決意した。事後処理が面倒になっても構わない。確実に敵を潰す」
屋敷の外から発砲音。どうやら爆殺に失敗したときのことを考えて待機していた百喰家の私兵隊が二人を包囲していたようだ。今はまだ威嚇射撃の段階で適当に撃っているだけのようだが、いずれ突入して直接死亡を確認するだろう。
「この屋敷の構造は分かっているな」
「ああ。三階の部屋の中央に物置部屋がある。あそこは扉が一つしかないからここよりは安全なはずだ」
「案内してくれ」
白のコートに包まれた定楽乃を抱きかかえた世南は指示通りに部屋へ辿り着く。しかし定楽乃はこれが悪手だとしか思えなかった。既に包囲され、部隊が刻一刻と迫ってきている。こんなに街とは離れた場所では、仮に救援を呼べたところで意味などない。ここは潔く投降して上役に従った方がよいと考え世南に相談しようとしたとき、定楽乃は世南の持つ武器に驚いた。
「お前…一体いつからそれを」
「言ったろ? 事後処理のことはもう考えないと」
横七の兵士が持つアサルトライフルの点検を終えた世南は、自身の腹に腕を突っ込む。しかし出血することはなく、まるで手品のように腹にめり込んだ腕はマガジンを取り出した。
「平和ボケしたおもちゃの兵隊に負けるほど、横七は落ちぶれていない」
背中にガラスや木材の破片が深く刺さっていようとも血を一滴たりとも流さない世南は、黒のワイシャツ姿で部屋の外へ出ようとする。
「その上着はよく伸びるし弾もはじく。全身をそれで隠すんだ」
「待て世南!! 行くな!!」
必死になって止めようとするが、歩くことのできない定楽乃には世南を止めることができない。去って行ってしまった世南を心配していると、予期した通り、銃声が響く。世南は死んでしまった。そう思っただけで、より深い絶望が定楽乃を苦しめる。いずれはここも見つかってしまう。そう思い這ってでもより遠くへと逃げようとしたとき、想像していなかった悲鳴が聞こえる。
「なんだこのガキは⁉」」
「助けてください隊ちょーーー!!」
「いやだァーーーッ!!」
明らかに、世南ではない大人の男の声。それも一人ではない。何人もの叫び声が山に木霊する。
ギシッ
誰かが扉の前に立ったことを軋んだ床で察した定楽乃は、それが誰であるか分かった。
「行こう、迎えが来た」
「世南琉偉。お前、何者なんだ」
階下から響いてきた度重なる銃声と爆発音。そこから考えるに、世南と私兵隊は銃撃戦をした。結果的に私兵隊は全滅したが、世南も被弾はした。世南の黒いワイシャツにはいくつもの弾痕があった。しかしそこからは背中と同様、流れ出る血というものは一切ない。世南に付いている血は全て私兵隊を屠ったときに付着した返り血だけだ。
「総帥、撤収準備、できています」
「センチュリーは周辺警戒。接近する乗り物は全て破壊しろ」
「なるほど、そうか。お前が噂の…」
屋敷を包囲するように展開していた黒塗りの高級車は全て炎上し、その近くには倒れる黒服。そして世南たちを出迎える、宇宙服のような重装備の戦闘服で身を守り光沢のある漆黒の銃器を手にする横七の軍人たち。そして広い庭に着陸している三機のペリカンと呼ばれる横七の輸送機。
「上役は一度も顔を見たことがなく、存在するかどうかすら怪しいと言っていたが…世南琉偉、あなたが横七グループの総帥か」
「すまないが一緒に来てもらうぞ。このまま置いていくわけにもいかない」
身体の自由が効かず世南に体を預けている定楽乃にそれを拒否することなどできるはずもなくペリカンに乗せられる。潜水艦のような丸窓から外を見てみればペリカンは既に離陸しており、飛び立った屋敷へと続く一本道には何か所も黒煙を上げて炎上する車両がそこかしかにあった。
「それで私をどうする気だ、横七の総帥」
「依然と同じ世南でいい。別段、どうするというわけでもない」
「何もしなければ、私は一族に抹殺される。それなら横七にこの身を預けた方が安全だ。それとも、乙女の身体を余すとこなく見て満足したから捨てるのか?」
定楽乃は意地悪く羽織っている白のコートをそっと緩める。もちろん中は見えないが、世南はまだ地雷が残っていたことを思い出したようで頭を抱え始めた。
「頼むからそれはもう二度と言わないでくれ。本当に俺が死ぬことに…」
「死ぬことに…なんだ、提督? 続きは言わないのか?」
定楽乃とは反対の場所にある世南の隣に座っていた兵士が、世南の肩を叩く。
「アイヤ加古サン、別ニ何モ悪イ事ハ…」
「ちょっとお話聞かせてもらおうか、提督」
「大丈夫、いっちばんに本当のことが言えるようしてあげるからね」
気が付けば、世南を取り囲むようにヘルメットを外した女兵士たちが立っていた。最初に世南の肩を叩いた女兵士は二十歳よりも若く見える。他の青い瞳をした黒髪とほんのわずかに赤みを帯びた茶髪の女兵士二人は定楽乃と同じかそれよりも幼く見える。
「まさかだが・・・婚約者か? それも複数人」
「おっ、勘がいいね。そうだよ、私がロ…世南の正妻」
「私が一番を譲った二人目で…」
「僕が三人目」
次々と明かされる世南の女事情を聞いて、定楽乃はつい先ほどまで命の危機に瀕していたことなど命の恩人であるはずの世南に呆れてしまう。
「なるほどな。道理でお前が女子生徒との身体の接触を避ける訳だ」
「すみません見ているだけなら助けてもらえますか?」
大海原を渡る鳥たちは、ある島を目指して飛び続ける。目指すは横七島、世南の帰る家へ。
これでアニメを視聴したときに得た閃きから始まった賭ケグルイの二次創作は、とりあえず終わりです。ですが会長や夢子との決着がまだ着けられていないため投稿者である私自身も不完全燃焼だと感じています。そのためこの後は完全にオリジナル展開で投稿者のスッカスカな頭で考える簡単なギャンブルをして本編を終わらせたいと思います。あと少し、ほんのちょっぴりとだけお付き合いしていただけると幸いです。