賭ケグルイ 狂気の中の正気も狂気   作:ロイ1世

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イカサマを暴いた女

「とうとうこの日が来てしまいましたね、世南さん」

 

 夢子は対面に座る世南を見る。初めて会ったあの時とは違う、ギャンブルをするときの顔をしている世南の顔は夢子にとって好きな物の一つだった。そしてこれからの時間、その顔の持ち主がずっと自分のことを意識してくれることが嬉しかった。

 

「只今より、蛇喰夢子様考案のギャンブル、『盲目オセロ』を開始します」

 

 選挙管理委員が二名、夢子と世南の後ろに立つと目隠しを付ける。

 

「…これが夢子さんの考えた私対策ですか」

 

 目隠しによって完全に光が遮断された世南は夢子の席の方向を見ながら伝えた。既に夢子の表情を捉えることはできないが、自身の失望が伝わりテンションを下げていることは声で分かった。

 

「はい。私は会長さんと違い世南さんのイカサマが見破れませんでした。しかし、策はあると思うのです。あなたに負けた会長さんのように、思いつく限りの策を試す。全力を以て相手を倒すことは、ギャンブルにしろ何にしろ、とても素敵なことだと思うのです」

 

 脳裏に思い浮かぶのは先日のこと、世南とのギャンブルで負けた綺羅莉は敗北者であるにも関わらず堂々とした佇まいで夢子の前に現れた。

 

「夢子、私琉偉のイカサマが分かったわ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、隣にいた鈴井と芽亜里が立ち上がる。しかし夢子は二人を制し、決してその内容を聞こうとしなかった。それが綺羅莉に好ましく受け取られたのか、かつて退学を賭けてギャンブルを行った後のときと同じく、夢子に綺羅莉はあるものを見せる。

 

「これが、世南のイカサマのヒントであり答え」

 

 綺羅莉が見せたのは、一枚のタロットカード。そのカードは一度くしゃくしゃに丸められたのを無理やり元通りにしようとしたためか若干の丸みを帯びていたが、それよりも目立つのは一枚のカードに二つの絵柄が混在していたことだ。

 

「世界…と、女教皇?」

 

 まるでスクラッチカードのように削れた表面には女教皇が、削れていない部分には世界が描かれているカード。綺羅莉以外は理解できていないそれこそが、無敵の世南が残した弱点を見つける道標であり、最大の謎だった。

 

「ええ。横七らしい高度な技術と単純な細工、だからこそ効果は抜群で私は最後まで気付けなかった」

「夢子…あんたこれ分かる?」

「いいえ、全くもって分かりません」

 

 目の前にあるものが綺羅莉にはヒントであり答えである。しかし夢子たちには分からない。だからこそ思いついたのは、そもそもイカサマに必要となる知覚、すなわち視覚を封じ、イカサマの発生する余地のないシンプルな頭脳戦であるオセロを行うというものだった。

 

「ここは、問題ないかな?」

「はい世南様、そこに置くことは問題ありません」

 

 盲目オセロでは盤の状況が分からない。最初の形と自分の色は分かるが、進んでいくにつれて把握できなくなる。目が潰された状況で盤面の状態を知る方法はただ一つ、選挙管理委員に石が置けるかどうか確認することである。石が置けるかどうかによって相手がどこに置いたのかを知り、策を考える。

 

 過去の研究家たちがどれだけオセロにおける定石を研究し続けてきたとしても、現在の盤面を把握できていなければ意味はない。しかし世南の圧倒的な力量を信頼している夢子は、どこに置けるかどうかを把握するだけで盤面を世南が完璧に理解しているだろうと考えている。そのため必要なのは奇策。夢子の性格を知っている世南を騙しとおせるほどの奇策が必要だった。

 

 そしてその機会は訪れた。オセロにおいて重要な要素の一つである角、それを取る機会が夢子に巡ってきた。しかし夢子に角を取るという考えはない。あまりにも定石過ぎる。しかしかといって今後を有利に運ぶ場所に置くわけでもない。

 

 お手並み、拝見しますね。

 

 内心で夢子は世南に挑んだ。打った一手はただただ無意味な一手。夢子に有利に働く場所に置くわけでもなく、混乱させるために世南の利する場に打つ悪手でもない。しかし、だからこそ世南の思考の外側に置かれ、世南の喉元を切り裂く大打撃を与える一手となる。

 

 

 

 

 

 

 

 なる、はずだった。

 

「蛇喰様、そこには置けませんな」

 

 無駄な一手を母とする攻勢。それを始めようとした瞬間、選挙管理委員が夢子を止める。状況を飲み込むため夢子が停止した時間は秒数に表すと13秒、その間は何も起こることがなく静寂が場を支配した。そして何が起こっているのか理解した夢子は、盤に指を滑らせる。

 

「…やはり、そうでしたか」

 

 夢子は世南のイカサマを理解した。なぜ誰もカードや出目で世南に勝てないのかが分かった。

 

「どうしましたか、夢子さん」

「いえ。ただとても驚いたのです。まさか滑らせることまでできるだなんて」

 

 夢子が触れた盤の場所。そこは夢子が先程無意味な一石を投じた場所であった。しかしそこには石がなく、代わりにざらざらとした砂のようなものが指に付着したのだ。手袋をしていれば、きっと気付けなかったほどの小さな違和感。しかし世の中には機械でも判別することができないほどの小さな歪みを触感から検知する熟練工がいるように、その小さな違和感の正体が本当に小さな粒であることに夢子は気付いた。

 

「世南さん、私はあなたの報復主義というポリシーに望みをかけて乞います。これ以降は目隠しを外してただのオセロをしませんか? 今のままでは私がかなり不利な状態で戦わなければならず不公平ですから」

「…その様子だと、俺のイカサマのネタを暴いたみたいだな。蛇喰夢子」

「ええ。会長さんの仰っていた通り、高度な技術が求められるにも関わらず非常に単純。だからこそ分からないイカサマ」

 

 互いに目隠しを外した二人は、同じ石を見つめる。夢子の石であり、世南に大きく利するところに置かれた石。本来であれば無意味な一手となるはずだった石を。

 

「私は先日、会長さんから世界と女教皇が入り混じったタロットカードを託されました。あなたが昨年、会長さんと行ったギャンブルで使ったカードであり、あなたが残してくれた証拠品です」

 

 顔の前に掲げたのは、先日綺羅莉に見せられたカード。世界と女教皇が混じったカードである。

 

「芽亜里さんはあなたの行ったイカサマは極めて短い時間でカードをすり替えたものだと考えていました。一方で会長さんはその場で新たに必要なカードを作っていたと当初は考えていた。しかしそれではサイコロに不自然な力が加わったことの説明がつきませんでした。しかし、この粒が、延々と小さくなり続けていく砂よりも小さな粒が答えだったんですね」

 

 夢子はタロットカードの世界の絵柄の部分を爪で削った。本来であればへこみがつくか裏まで貫通するはずのそれだったが、結果としてこの世に現れたのは女教皇の絵柄だった。

 

「カードゲームでいくらあなたのことを監視していてもすり替えの瞬間に気付かなかったのは、あなたが超スピードや意識の外側ですり替えを行っているからではありません。引いたカードそのものを自身にとって望ましいものになるよう、この粒で上書きしていたからです。だからこそグーはパーになり、女教皇は世界になった」

 

 世南のイカサマは、非常にシンプルなものだった。山札の一番上に伏せてあるカードが仮にハートの10であるとするならば、世南は横七が生み出した電子並に小さい粒を操作してカードの位置まで動かし絵柄を上塗り、スペードの3に変更する。横七という最先端の千歩先をいく超技術集団だからこそできる力技は、全く見ることができない世界で作用する。

 

「そして、この粒こそがイカサマの正体であると分かったならば、他の事象の説明もできる。あなたはあのとき、サイコロの片面にこの粒を付着させた。重心が変わったサイコロはそれまでの運動を維持できなくなり本来であればありえないで目を出した。そして今、私が置いたはずの石がなかったのは、あなたが粒を盤上に展開し石を滑らせたから」

 

指を空白となっている本来であれば石が置かれていた場所から、夢子にとっては突然石が現れた場所までをなぞってみると、そこにたどり着くまでにかなりの量の粒が散らばっていた。

 

「非常に単純、故に見破ることはできない。けれど求められる技術は想像の遥か彼方を越えていく。なんて無駄な…あまりにも素敵すぎる

 

 歓喜の感情が胸を支配する。あれほど生真面目な男が横七という国家を超えた企業団体にただイカサマをするためだけにこのような粒を用意させるのか。いや、違う。きっと元々だが粒それ自体はあった。本来は医療目的で使用するはずのそれを、彼はギャンブルという破滅的な行為のために使った。粒の事が明るみに出ればそれは横七が単独で核武装をしていたことよりも大きな衝撃を世界に与える。砂よりも小さいにも関わらず、重力に負けずに無線で動くことができる粒など、科学技術に革命を起こすに違いない。なのにそれをギャンブルで使い、会長さんや私にバレてしまった。

 

「なんとも破滅的で…なんとも狂っている…」

「それで夢子さん、続けるか、諦めるか」

 

 世南の操作によって盤面は夢子の圧倒的な不利。選挙管理委員も石を置いたのは他ならぬ夢子自身であるため何も指示はしない。そして互いに(イカサマ)は使い果たした状況。これから先は、ただただ純粋な頭脳()を使ったオセロ。

 

「もちろん、続けましょう!! 時間はまだまだたっぷりあります」




世南がこれまで行ってきたギャンブルとイカサマ内容まとめ

サイコロの出目勝負
本文中に説明があったように、粒を側面に配置することで重心を変化、夢子に不利な数字を出させた。

投票じゃんけん
カードの入った箱の中でグー、チョキ、パーそれぞれを生成。芽亜里が何を持っていても必ず負けることができるよう準備していた。

生か死か
壺の中に入った剣を粒で動かし穴に刺す。そのためあれは結果の予言というよりも行動の宣言。もしも芽亜里が神に救いを求めていたら駒を動かして芽亜里が勝つように操作していた。

実弾射的
実力

チョイスポーカー
金の暴力

デスマカロン
食べる前に粒で中身を掬い取って味見することでどれがデスマカロンかを把握。辛みを感じないようデスマカロンを口に含んだ瞬間に粒で保護し咀嚼。自己暗示による疑似的な人格の分裂は本当。

運命のタロットカード
綺羅莉が初手で愚者を引いたため、必ず勝てる世界を生成。その際に女教皇は下敷きとなり、世界が二枚ある状況が生まれた。

指切りギロチン
粒によって装置内の刃に繋がっている糸を把握。場合によっては誰も離脱しない間に切られないよう、他の糸に入れ替えるつもりだった。

ニム零式
指を毒針で刺した…わけではなく粒に毒を絡めとらせ、検査にかけていた。検査が終了した後、不要になった毒を陰喰にこすりつけた。夢子の体内に入った毒は既に変化を起こしていたことや、一度人の体に入ったものを別の人に使うのはどうかと思い流石にやめた。

公共財ゲーム
もし参加していれば他人が私財BOXに入れようと粒を使って箱から取り出し税金へ、自分自身は何食わぬ顔で私財BOXに入れていた。


扉の塔
粒を使って落下の衝撃を緩和。塔を上る際は粒を壁に突き刺すことで落下しないようにした。

キングオブフォーチュン
綺羅莉のカードを生成しそれを綺羅莉自身がシャッフルすることで綺羅莉の手を把握。その後10番目が大きい数字であることを知ると小さい数字のカードを生成。その後自分の山札が綺羅莉のものよりも強いものが来るよう生成。

盲目オセロ
夢子の置いた石の下に粒を置くことで石を滑らせ、自分が有利になるよう細工した。

ちなみに、極めて小さいもので出目を上書きして誤魔化すというネタは別の作品にて行っています。これがタグの中にある『過去作ネタ』という奴の一つですね。「知らねえYO!!」と言われればそれまでですが。
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