「F〇〇K。もういいもんね、夜戦で本陣までいけないなら先制対潜と第一艦隊と基地航空隊で潰すから」
↓攻略成功
「やったやったうっひゃひゃひゃ」
↓Wahooを見て
「なんだこいつは…Gato級には変態しかいないのか⁉」
憑りつかれた女
放課後、世南は学園内をパトロールしていた。なんてことはない日常的な業務。その道中、世南は生徒会での顔馴染みを目撃した。
「よぉ~世南。ちょっと遊んでいかねえか?」
廊下の壁に背中を預けて立つ紫色の唇の眼帯を付けた三白眼の女子生徒、生志摩妄が手錠を指で回しながら話しかけてきた。
「すみませんが、今は委員会の業務に従事していますので」
「なんだよ連れねえこと言うなよー。あたしとお前の仲だろ?」
背後に二人、胸元をはだけさせてピアスを付けた女子生徒が世南の退路を塞ぐように立つ。それが生志摩の風紀委員会に属する生徒だと気付くのに時間は掛からない。
「ちょっと一緒に来てもらうぜ」
生志摩の指が回転させていた手錠が世南の腕に飛んでくる。世南はそれを弾こうと警棒を取り出して殴ろうとしたが、発砲音が響くのと同時に警棒が後ろに飛ばされる。
「危険な物を普段から持ち歩いているのは感心しないな」
「おまえんとこの棒も大して変わんねえだろ。付いて来い」
校舎内に響いた銃声に驚いた生徒が何事かと廊下に現れては半ば脅される形で連行されていく世南と先陣を切る生志摩を見て逃げるように教室へと戻っていく道中、世南は暇だったので生志摩に質問した。
「疑問に思ったことなのだが、お前はどうして私に執着する。生徒会だから、というわけではないだろ」
純粋な疑問。ある日は治安維持委員会の委員会部屋に凸をされ。またある日は生徒会の役員会議が終わった後に銃床で殴られかけるなど迷惑を越えて犯罪に至るほどの事案を起こされるほどに執着されている理由。言葉が通じる化物の類であると生志摩のことを思っている世南は、無駄かもしれないと思いながらも聞いてみた。
返ってきたのは、ある意味では年相応とでも言えるものだった。
「お前が…会長のお気に入りだからだ」
雨後にパイプから水が一滴、下に落ちたかのように衝撃的ながらも周囲の喧騒に搔き消されてしまう声で生志摩は言った。
「お前が会長に勝ったあの日から、会長はお前のことしか見ていない。あたしのことなんか、そこいらにいる木偶の坊だとしか思っていない。あたしはそれが憎い!! 会長の注目を集めているお前が、たまらなく憎い!!」
この告白を受けて、世南は横七を通して収集させていた生徒に関する情報を思い出す。
生志摩妄、敗北を厭わない破滅的なギャンブルと振る舞いで学園内の注目を集める二年生。生徒会に入った理由は会長である綺羅莉に敗北した際、自身を殺してほしいと心の底から思った綺羅莉に命令されたから。片目を失ったのも、綺羅莉がギャンブルで眼球の裏側を見せるよう要求したからだが、あくまでもそれは万全な医療が整った状態で行うことを想定していたのに対し、生志摩自身が敗北が決定したその場でボールペンを使い眼を抉ったから。
自身の求める死を与えてくれる人。それの注目を自身から奪う相手が憎い。だから殺す。始まりが異常であれば終わりも異常だが、話の論理としてはただの嫉妬という極々当たり前な狂気の中の正気を生志摩の背に見つつ、世南が案内されたのは若干不衛生な地下にある一室。風紀委員会の根城としている場所だった。
「やるギャンブルはESPゲームだ。噂程度なら知ってんだろ?」
「委員会の者が嘆いていた。破滅的だって」
ESPゲームはどちらかが死ぬか事前に決めたターンが過ぎるまで終わらないデスゲームである。プレイヤーはまず与えられたリボルバーに最大6発まで実弾を込め、机のシューターに投じる。その後別室のディーラーがカードを伏せるため、同じ位置にカードが来るよう並べる。このときの相手よりも多く一致した数が勝ち点となり、勝ったプレイヤーは机の中に入っている銃を一丁取り出し、点の数だけ相手に引き金を引く。
金銭ではなく互いの命を賭けの対象にした狂気のゲームが始まる。
「まずは小手調べだ。六発行かせてもらうぜ」
「…御遊戯で人を殺すつもりはない」
世南は一発も入れずにシューターに銃を投げ込んだ。対極的な数の弾を銃に込めた二人はディーラーがカードを並べたのを確認すると、それぞれカードを並べる。今回のディーラーは生志摩とともにいる風紀委員の一人で、もう一人も別室にいた。
二人だけの賭場で生志摩はディーラーがカードの開示を終えるとすぐに自分の並べたカードを表にする。同じ数は一つ。出だしとしては上々だと思いながらも世南の方を見てみると、そこでは三つも同じ位置に並べることに成功していた。
「二回か」
まるで事務作業のように取り出し口に手を入れて銃を手に取った世南は生志摩に銃口を向ける。
「よく狙ってくれよ? 外すなんてつまらないことはお前のイメージとは合わないからな」
「煽っているのかもしれないが、無駄だ」
眉を顰めて狙いを生志摩の額から自身の右耳上、すなわち脳天に狙いを移した世南は迷うことなく引き金を二回引いた。
「お前、あたしとは同じくらい狂ってるな」
若干の畏怖を含みつつもこれが綺羅莉に勝った男かと納得している生志摩だったが、世南は特に何も思うことなく弾倉を見せた。そこには何も入っていない六つの穴があるだけだった。
「俺は弾を一発も込めていない。大口径の銃弾六発分の重さの違いは大きい。この意味、分かるな?」
「分かるぜ、お前が相当のイカレ野郎だってことが」
「失礼だな。私は正気だよ」
次のラウンド、世南は再び一発も込めずにシューターに入れる。対する生志摩もまた変わらず六発。
「あたしはよぉ。お前になら殺されても悪くはないと思っているんだ」
ギャンブルが進行する中、生志摩は顔を伏せたまま言う。
「あたしは会長に殺されたい。だがよー、会長に勝ったお前にも殺されてみたいんだ。なんで命って一つしかねえのかなー⁉」
「…」
「まあ、お前を殺してもみたいから別にどうでもいいが」
カードの開示。今回は生志摩の勝利で終わった。得点は一つ。生志摩は自身の内から湧き上がってくる囁き声に従って中にある銃を取る。
重い。
それが銃を掲げた時の率直な感想だった。普段から使っているため生志摩は銃の扱いに慣れている。しかし世南が言うように六発分の弾の重さの変化で弾が込められているかどうかを見分ける能力はない。だが本能が訴える。これが
「あばよ、鉄仮面」
感情を推察することができない表情で生志摩を見つめる世南の顔面に一撃叩き込む。
叩き込んだ、はずだった。
「不発⁉」
生志摩はマガジンを見て弾の状態を確認する。すると六発の弾丸全てから雷管が消失していた。事故や偶然ではない。弾を込める際、しっかりと使えるかどうかは目で見て確認している。つまるところ雷管は、机の中に投げ入れた後で消滅したことになる。
「お前…」
「死なない男と呼ばれたフランス人がいる。医学的に考えれば致命傷となるはずの傷も、神のお告げに従って付ければたとえ体に剣を刺しても死なない。そして私の場合はどうやら、全てが不発弾になる奇跡が起こるらしい」
無論、嘘である。世南が起こした奇跡と呼ぶ手品は単純で、机の中に粒を放ち雷管を除去しただけである。誰にも干渉どころか観測すらできない空間だからこそ行うことができるイカサマ。しかし発展し過ぎた科学は魔法と見間違うという言葉に従うのなら、これもまた横七の科学という魔法が起こした奇跡と言っても差し支えないのかもしれない。
最終ラウンド。生志摩は再び机の中で空砲となる六発の実弾を込める。対する世南は既にこのギャンブルに意味がないと考えていたため一発も込めずにシューターに投げ入れた。
そしてカードを並べるフェイズに移る。実のところ、世南はディーラーの並べ方が分かっていた。別室に送り込んだ粒がディーラーのカードを置く様子を撮影、その情報を世南に送信していたため、モニターの画面反転など意に介することなく少なくとも中央の一枚は当てることができる。だが下手に全てを的中させて情報を与えたくはない。そのためこれまた適当に世南はカードを並べた。
「いくぜ、世南」
開示の時間。生志摩は事前に共謀していたのか五枚すべてを的中させることに成功した。対する世南は偶然の二枚的中。しかし結局は不発、則ち無駄。そう思っていた時、世南は生志摩の背に憑りついた黒い影を目撃する。
「こっちか? …違う? こっち?」
二人しかいないはずの部屋で自分以外の誰かと話しながら取り出し口に腕を突っ込む生志摩を哀れな目で世南は見ていた。だが生志摩はそれに気づかない。視力を失ったはずの眼が本来なら見えないはずの机の中、さらに銃のマガジンの中までも透視しているかのような錯覚に導かれ、弾が込められた銃を取りだす。
「なあ…これ、弾が入ってるだろ?」
「それがどうした」
「弾が入っているならよー、交換しても問題ないだろ? なにせ込められた数は変わらないんだからよー」
そう言うと生志摩はマガジンをスライド、雷管の抜かれた六発の弾丸を全て抜き取ると、新たに六発の完全な状態の弾を込める。
「しまった…」
思わず零してしまった自身の失敗を痛感する声。粒による雷管の撤去はあくまでもブラックボックスの中だからこそできたこと。既に生志摩の手の中にある銃で同じことをしようとすれば、間違いなく粒の存在がばれてしまう。
「今度こそ終わりだ、くたばりやがれ鉄野郎!!」
世南の眉間に狙いを付けた銃から二度轟音が響く。地下という密閉された空間で音は反響しながら、発射された弾丸が世南を目掛けて一目散に進む。
と、同時に世南は机の手前側を叩き、生志摩側を打ち上げさせる。突然の出来事に対応できなかった生志摩は、金属製の机の縁で顎を強打しその衝撃で脳が揺れ気絶。別室の風紀委員も粒で絞め上げたことで目撃者がいなくなった世南は、臆することなく粒を防御に使う。
着弾まで残すところわずか4㎜、迫りくる弾丸の前に粒を集めて傾斜のある壁を形成し方向を逸らす。しかし弾と壁がぶつかった際に発生した衝撃から逃れることはできず、世南は座っていた椅子ごと後ろに倒れた。
「クッソー、痛えじゃねえか」
床に強打した後頭部を擦りながら出血や瘤になっていないことを確認しながら、机の向こうで白目を剥いて泡を吐きながら倒れる生志摩を見る。気絶したのが防御をした前か後かは分からないが、目覚めても記憶の混濁が発生しているだろうと思った世南は室内の監視カメラの録画データを回収。削除しても復元される恐れがあるため、該当部分を消去した後に別の媒体にコピーして複製した方を戻した。
「死なないにしても体に穴があくのはごめんだ、お前とは絶対にギャンブルはしない」
気絶している生志摩にそれだけ言い残すと世南は階段を上がっていった。