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「ゲームやろうとしてたのに続き書かなきゃダメじゃん⁉」
『賭ケグルイ』を買っていないためアニメの100票オークションまでしか原作に沿う(比較的)ことができませんが、頑張っていきます。
「治安維持委員会?」
「彼らは学校内での暴力を取り締まる委員会だよ」
黒髪ロングの美少女、今日転校してきたばかりの蛇喰夢子は案内役となった学級委員の鈴井涼太に質問する。
夢子がそう質問したのはある種の当然。通常、制服の指定がある学校では生徒であれば男女それぞれの制服を着る。最近は男女別の制服というのが廃止される学校もあるが、ここではそうでもない。しかし私立の名のある家の子が通う学園ということもあり、生徒の中にはネクタイが他と違ったり若干着崩していたりと自由はある。だが治安維持委員の恰好は、その白さと統一感故に他の生徒たちからは浮いてしまっている。
「校内での暴力などのいじめに該当するものは学園や教育委員会の問題では?」
「それがそうでもないのさ。この学園には階級制度があって上納金の少ない下位100位の生徒を非協力傾向生徒として男ならポチ、女ならミケで家畜同然に扱う。家畜は人間の言うことに絶対服従。学園のルールとして認められているし、それに先生たちは保護者会と揉めたくないから、問題にはならなかったんだ」
「でも、今は問題なのでしょう?」
「そうさ、同じ華組に世南琉偉って名前の生徒がいるんだけど、彼が去年に転校してきて早々に生徒会長とのギャンブルで勝って作ったみたいなんだ」
「生徒会長と、ギャンブル…」
その復唱する夢子の様子がどこか魅入られたものであることに鈴井が気付くことなく説明を続ける。
「彼のおかげで僕みたいな家畜も一応は平和に学園生活を楽しめているし、本当に治安委様様だよ」
「ところで、その世南さんが鉄仮面と呼ばれているのはなぜ? 生徒会の方はギャンブルがお上手とお聞きしますので、やはりポーカーフェイスが得意なのかしら」
夢子自身、鈴井や他のポチミケに向けられている感情から、治安維持委員会が壁のようなものになっているのだと察することはできた。そしてそのような生徒が治安維持委員を見るたびに呟く「鉄仮面」という怨嗟と恐怖の声。彼女の興味は世南へと向けられ始めていた。
「まあ、会えば分かると思うよ。見れば一目瞭然だから」
「ほぅ…」
そうして学園を案内し、夢子自身の希望もあって訪ねたのは治安維持委員長室。世南自身が学園内の階段下にある小さな物置部屋を借りているもので、その場所故にあまりいい空気のしない部屋だった。そこを世南は借りて家具一式を持ち込み学園内の自室として住処にしていた。実際、壁に吊らしたハンモックで寝ている姿が何度も目撃されている。
「失礼します、鈴井です」
「あッ、鈴井君ね。どうぞー」
「失礼します」
「失礼しますね」
そして今もまた、ハンモックの上で治安維持委員会のコートを布団代わりにして横になっていた。
「あ、あれ? 鈴井君だけじゃないの⁉ ちょっと待って、って⁉」
扉から入ってきたのが日当たりの悪い物置部屋に似合わない美少女だったことに驚いた世南はコートを着ながら急いで立ち上がろうとし、ハンモックから落ちた。
「あいたた、と。失礼しました。私は世南 琉偉。この学園の生徒会役員で治安維持委員長をやっています。どうぞよろしく」
「蛇喰 夢子です。同じ二年華組の、よろしくお願いしますね」
着用と挨拶と自己紹介を済ませたところで、夢子は世南の顔を深くのぞき込む。その美しい顔が目前に迫ったこともあって、世南は目線を鈴井に向けた。
「あの、ちょっと、近いかなって…」
「鈴井さん、世南さんは鉄仮面と呼ばれているのですよね」
「うん、そうだけど…」
「全然鉄仮面とは思えませんね。表情も豊かですし」
でも、と夢子は世南に更に顔を近づけて続ける。
「ギャンブルでは違う顔を見せたり…?」
息も詰まるような至近距離でそう囁かれた世南は、先程までの少し浮ついた雰囲気が一気に鳴りを潜め、逸らすことなくその紅い瞳を見つめ返す。
「それはつまり、ギャンブルのお誘いと受け取っても?」
「はい。あなたと是非やってみたくて」
妖しく光るその瞳から決して目を離さないまま、世南は机の引き出しから二つのサイコロを出す。
「本来ならば趣向を凝らしたもので出迎えるのが礼儀なのでしょうが、この委員会は事件の報告があればそれがたとえ勘違いでも出動しなければなりません。簡単に言えば時間が無い」
「心中お察し致します」
「ゆえに、非常に簡単なものをしよう。サイコロを二つ机の上に投げ、出た目の合計が大きい方が勝ち。同じであれば僕の負けでいいです」
「それで…何を賭けます?」
笑顔のまま、さあここからが本番だと言わんばかりに夢子が問う。世南は夢子との物理的な距離の近さとその空気を介して伝わってくる熱さから夢子の体温が急上昇していることに気付き、度し難い人間がまた一人学園に増えたのかと思いながらも答えた。
「生徒会発行の一枚1万円のチップがある。だが、友人の友人なんだし同級生だ。もっと別の物がふさわしい」
「それは」
「情報。自分の情報を賭けよう。敗者は勝者の自分に関する質問に正直に答える」
言い切ったとき、今度は逆に体温が急低下していくことを感じた。自身の体温も夢子の圧によって低下していると察する。
「つまらないですわね。もっと1千万とか1億とか吹っ掛けてくるのかと思っていましたよ」
「おいおい、つまらなくはないだろ。なにせ新鮮で正確な情報は古来よりそこらの金品よりも価値が高かった。だから人々は神に祈って神託を聞いたし、暗号だって解読する。いいか、情報は農耕牧畜から商い、さらには戦争に至っても必需品だ。そのために命を落とす奴がいるぐらいには」
「分かりましたよ。確かに、このような簡単なものでそう大金は動かすものではありませんね。それに、私も世南さんに聞いてみたいことがありますから」
「それじゃあ成立だな。鈴井、立ち合い頼む」
蚊帳の外になりつつあることを察して本棚に隠してある漫画を読んでいたのに急に指名された鈴井は突然のことに本を落とす。本が重力に従って落下し床に激突しそうになった瞬間、風を裂いて飛び込んできた世南が間一髪で拾い上げる。
「ばっかやろ⁉ これ限定品で高いって前に言ったろ⁉」
「あはは、ごめんごめん。本当に」
「こっちも、突然呼んですまなかった。じゃあ、始めようか。蛇喰さん」
イカサマが行われないかの確認のため、一度使う二つのサイコロを夢子と立会人である鈴井の二人に渡した後、見本も兼ねて先手で世南がサイを投げる。出た目は5と6、合計11だった。
「11ですか、とても大きな数字ですね」
「そうだね夢子、でもまだ勝てる数字だよ。こっちは11か12になればいいんだから」
「5と6、或いは6と6を出せばよいのですから確率的には十二分の一ですか」
引き分けでも夢子の勝利で終わるこのゲーム、十二分の一という確率の壁は大きいように見える。実際、十二分の一はパーセント表示にすれば8.333...となる。このおよそ8という数字、ソシャゲのガチャで考えれば高い数字だが現実としては絶望的な数字である。しかし殊サイコロにおいてはそうでもない。十分に練習を積めば好きな目を出すことができる。また、落とし方を工夫すれば特定の目を出さないようにすることは簡単にできる。
蛇喰夢子はサイコロについて、十分に振りなれていた。それはもちろん平均的な話ではなく、好きな目が狙って出せるほど習熟しているということである。
「実は私、気になっていたんです。世南さん」
「それは何かな?」
「世南さんの本当のお名前」
「ッ⁉」
耳打ちされた言葉を聞いて、わずかながら確実に動揺して下を向いた世南に聞こえなかった鈴井は何を言ったのか興味が湧いた。
「ゆ、夢子さん。一体何が聞きたいんです?」
「ふふ、それは秘密です」
6と6が出るよう、過不足なく力を入れてサイを投げた夢子に、世南は語りかけた。
「すごく個人的な話なんだが、私はポリシーとして報復主義というものを掲げている。崩していえばやられたらやり返すだけなんだが、私はそれこそがギャンブルにおいて大切なものだと考えている」
視線を戻さないまま、唐突に始まった世南の独白は続く。
「ギャンブルで勝つのに必要なものは2つ。一つ目は力。心理戦、明晰な頭脳、戦術、そして技術。それらが無ければ舞台には上がれない。そして二つ目は、運。いかに優れた博徒であっても、月が出なければ素人にも負ける」
「真理ですわね。ですが、なぜそれを今?」
「私は、報復主義者だ。だがそれは同時に仕掛けられなければ仕掛けないという平和主義でもある。だから僕は、ただサイを振った。何も考えず、運に任せた」
一つ目のサイコロが止まる。出た目は6だ。
「だが。お前は力での勝負に臨んだ。だから、俺も力で応えた」
二つ目のサイコロが止まる。出た目は、4だった。
「そんな…」
驚きの声は負けたことに対するものではない。本来であれば出るはずがない目が出たからだ。
サイコロは正六面体。ある面に指を置いてその指の腹でサイコロを掴んだ場合、二つの面を見ることができる。その面は、同一方向にサイコロを転がし続けた場合、必ず出てこないはずの面。夢子は6を狙って振った。力に誤りがあったとしても、4つ以上の面が見えるはずが無い。そのため転がっている最中に見える出目は1,2,5,6或いは1,3,4,6のはずだった。そして見えたのは1,2,5,6の4つ。たとえ6を外しても5が出て同じ数となり勝つという、保険を掛けた投げ方だった。しかし最後にそれまでとは違う回転が加わり、出た目は4だった。
一瞬の間に世南の使った『力』を考察する。サイコロに鉄が使われていて磁石で誘導されたわけではないことは初めに分かっている。机も下から細工できるようなものではない。なにより世南の両手は机の上にあった。
「10、だから、琉偉君の勝ちだね」
「え…ああ、そう、ですね」
鈴井の言葉で再び時間を刻み始めたこの部屋で、夢子はそれでも考察を続けていた。しかし、分からなかった。部屋の隅々に目を通しても分からずずっと考えていたところで世南が口を開く。
「そうですね、では蛇喰さん。お一つお聞かせ願いたい」
「ど、どうぞ」
「友達の友達からただの友達になってほしいと私から言われたら、どう返事する?」
「え、それはもちろん、もう、歓迎です!!」
世南の両手を取って夢子が喜んでいたとき、ギャンブルで使った事務机とは違う引き出しの付いた小さな机の上に置いてあった機械から音が流れる。
それを聞いた瞬間、世南は両手を振りほどいてその機械に向かい、スイッチを押す。
「どうした」
『体育館第一倉庫にて複数生徒が家畜生徒一名を連れ込む事案が発生。応援を求む』
「了解した、直ちに向かう」
サイコロを机の中に閉まった世南は取っ手の付いた観音開き式の棚の前に行くと、夢子に顔を向ける。
「非常にやりがいのあるギャンブルだった。できることなら、次はもっとちゃんとしたものでやりたい」
「そうですね。とてもとても、興味深いものでした」
「それから、なぜ俺が鉄仮面と呼ばれているかはこれを見れば分かるだろう」
開いた棚の中には、鈍い鉄色のまるで中世の甲冑のような頭をすっぽりと入れて顔を隠してしまうほどの大きさの仮面。人間でいう顎から口にかけての部位が赤く飛び出しており、目の部分も窪んでいた。
「確かにこれは鉄仮面ですわね。でもなぜそれを?」
「治安維持委員会はその職務故、委員が名だたる者たちから目を付けられやすい。もしも委員に危険が及んだり買収されれば治安維持委員会は機能しなくなる。それを避けるために委員はあの格好をしている」
「確かに、あれでは誰か見当がつきませんね。でも、それとこれとに何の関係が?」
「そんなものは決まっている」
仮面をかぶり、警棒を腰に携えてドアノブを握った世南がこちらをまっすぐに見つめる。
「覆面部隊の長が仮面の男。これほどカッコいい物はない」
「そ、そうですか。ハハ…」
鉄の仮面で見ることはできないが、その瞳はきっと輝いているのだろうと確信した夢子と静かに頷く鈴井だった。
NGシーン
サイコロ勝負に勝った世南は夢子に興奮気味に聞く。
「今付けている下着の色を教えてください」
「なに気持ち悪いこと聞いてるんだよッ!!」
「えっと、上は赤と…」
「答えるなよッ!!」
「ブホァ!!」
「まぁ、どうしましょうか鈴井さん。急に鼻血を出して倒れてしまいました。なぜでしょう」
「夢子さんのせいだよ!!」