賭ケグルイ 狂気の中の正気も狂気   作:ロイ1世

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痺れる男

「全員揃ったようなので、早速ですが始めませんか?」

 

 学園の一室にて、蛇喰夢子はディーラーである五十嵐清華に提案するが、当の清華はまだ全員揃っていないことを理由に断った。

 

「揃っていないだ? この卓には四人座っているぞ、あと誰がいるっていうんだ」

 

 友人に1000万の借金をしているという体で債務整理大集会に参加した木渡潤が開始を求める。他の参加者は短髪低身長の少女、蕾菜々美のほか先日の公式戦で大敗した早乙女芽亜里と3億1千万の大借金首の蛇喰夢子。4人で行う二枚インディアンポーカーのため、既に参加者の枠が一杯だった。

 

「見届け人がまだ来ていません」

「誰だそいつは」

「それは…」

「遅れてすみません。突然呼ばれたため時間がかかりました」

 

 現れたのは、治安維持委員会の長、世南琉偉。象徴である鉄仮面の中に警棒を入れて腕に抱えてきた世南は、おそらく帰りの途中で引き返してきたためか服に砂埃がついていた。

 

 実際、世南は帰り道の途中で綺羅莉に電話を掛けられ、この場に見届け人として呼ばれた。断ろうとしたがその前に電話を切られたため、否応なしに引き返さなければならなくなったのだ。それでも全員が揃ってから3分と経たない間に現れたため、十分に努力したと言えるだろう。

 

「てめえは、鉄仮面!! よくも俺の前に顔を出せたな」

 

 仮面を被って席に着こうとした世南に対し、参加者の木渡が詰め寄る。木渡は以前、学園の裏手で女子生徒の髪を切ろうとしたところを世南によって襲撃され、前歯が欠け鼻の骨が折れるケガをした。加えてその後に治安維持委員会の取調室にて腕を万力に挟まれて反省文を書くか腕を失うかの二択をさせられていた。

 

「木渡か。今日も報告が届いていたぞ。お前、蛇喰夢子に脱衣を強要したそうだな」

「あくまでお願いだ。誓って手は出していねえよ」

「ああ。それも聞いたさ。生志摩の奴にギャンブルを持ちかけられて逃げたともな」

 

 昼頃、先日の西洞院先輩とのギャンブルでミケとなった夢子を学園裏手まで誘導し、ストリップをするよう求めた。ギャンブルでもなければ暴力行為でもないため、世南が派遣していた治安維持委員会の監視役は手を出さなかった。

 

 その後に命令を聞かなかった夢子を不服に感じた木渡が距離を詰めようとしたため監視役が出動を掛けようとしたとき、生徒会美化委員長の生志摩妄が現れ、仲裁という名の破滅的ギャンブルのお誘い。それを聞いて付き合っていられなくなった木渡は退散した。

 

 世南としては夢子は友達であるため自ら監視役を務めようとしたが、監視対象があくまで女子ということもあり、委員会の決まりに則って女子の委員が担当していた。

 

 報告を聞いた世南は生志摩が嫌いなこともあって自分が監視を請け負わなくて助かったと思ったのは内緒話。ちなみにそのとき、世南は綺羅莉に新しい委員会の武器として連射可能なテーザーガンをプレゼンしていた。なお却下。

 

「木渡様、世南治安維持委員長。席に着いてください。これより2枚インディアンポーカーを開始します」

 

 そうして始まったチップの額が自身の申告した借金の額の10%の2枚インディアンポーカーだったが、夢子と芽亜里、木渡と蕾がそれぞれグルで各々の札を伝え合うイカサマが行われていた。そしてそれは互いに看破したが、夢子芽亜里ペアは木渡蕾ペアの札を読み切ることに成功。結果として木渡蕾ペアは序盤は優勢だったが徐々に形勢逆転、最終戦で蕾が木渡を裏切り夢子と芽亜里からチップを巻き上げたことで蕾優勝で終わる…はずだった。

 

「一位は、早乙女芽亜里様です」

「ほ?」

「待て、早乙女が一位ってどういうことだ⁉」

 

 清華の発表に理解が追い付かなかった世南はそれぞれが掲示している借金額からチップ額を割り出し再度計算するが、それでは蕾の優勝となる。

 

「早乙女。お前まさかだが…」

「あら、流石の世南様はお分かりのようね」

「違法ではないが、褒められないな…」

 

 芽亜里が自身の前にあるプレートを夢子のプレートと入れ替える。木渡も蕾も、私立百花王学園に入れるほどの学はある。計算式を間違えることはしない。であれば世南含めた三人はどこから間違えていたのか。それは、最初からである。

 

「これ、夢子と私の額が逆だから」

 

 借金額はあくまで自己申告。友人に1千万の借金をしたことにして債務整理大集会に参加した木渡のように、実際の額とは違う借金額で参加することが可能なこのゲーム。夢子は芽亜里の額で申請し、芽亜里は夢子の額で申請。その後渡された額の書かれたプレートを交換して提示。アウト寄りのグレーゾーンだが、グレーゾーンはグレーゾーン。罰する条項が存在しないため、取り締まることはない。

 

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!」

 

 机の上にあったチップを床に払い落として立ち上がり、先程から自身の行った戦術を誇らしげに自慢していた芽亜里にゲーム中での煽りもあって怒りの矛先が向かう。殴るために握り拳を作ったとき、見届け人として参加していた世南が芽亜里の前に出てその拳を握り止める。

 

「やめておけ。また未遂じゃなくなるぞ」

 

 世南はこの言葉が木渡を止められるものではないと分かっている。なぜなら木渡は借金を偽造して参加した人間、大集会に参加するような家畜ではない。しかし木渡の結果は最下位。申告額が最も少ないため、最も多い芽亜里の借金額が自身の借金となった。親は県知事とはいえ、所詮は県知事。億を超える額の借金など、支払えるはずがない。恐慌状態に陥った家畜を止めるには、言葉は無意味だということは既に知っていた。

 

「うるせえ!! てめえに指図されるのはもうたくさんだ!! とっとといnヴァヴァヴァヴァヴァ⁉

「どうした木わtヴォヴォヴォヴォヴォ⁉

 

 世南に握られていなかったもう片方の腕でその鉄仮面を破壊しようと振り上げた時、情けない声をあげて倒れた木渡を支えようと手を伸ばした世南もまた、情けない声を上げる。

 

「暴力行為は禁止…三回目です」

 

 スタンガンを片手に倒れて気絶した木渡を見下す清華。どうやら二度もスタンガンを当てたらしい。

 

「五十嵐…僕が触ったのを見てもう一度流したな?」

「すみません。あなたが支えたのが見えず、耐えたように見えたので」

 

 一度だけとはいえスタンガンの電撃を浴びた世南は非難の声をあげるが、清華は本当に知らなかった風を装っている。

 

「…まあ、いい。委員に連絡して取調室に送る。今度は反省文の有無を問わずに足の指を潰そう」

「どうぞご自由に」

 

 気絶した木渡をボディーチェックして携帯端末などの外部と連絡が取れるものを持っていないか調べ始めた世南の前に、先の試合で木渡と組んでいた蕾が現れる。

 

「生徒会治安維持委員会委員長、世南琉偉。私は、あなたに公式戦を申し込む」

 

 精神的家畜から脱した人間が、鉄仮面に嚙みついた。

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