賭ケグルイ 狂気の中の正気も狂気   作:ロイ1世

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なんかお高めの評価貰っちゃって感激です、ありがとうございます。


夢続く女

「世南君!? どうして君がいるの⁉」

「お邪魔だったか?」

 

 とある学園の一室にて、鈴井はオフの世南がその部屋にいたことに驚いていた。

 

「おや? 琉偉君とお友達?」

 

 椅子に座りながら鈴井を見るのは、明るい桃色の髪をツーサイドアップにし目に☆が浮かぶ美少女、夢見弖ユメミ、2年桃組の生徒会広報。そしてアイドル。ネット上に公開した動画はミリオン再生を突破し、学園内にも熱狂的なファンがいる。自身の夢であるアメリカアカデミー賞のためにまずはアイドルとして確固たる地位を築こうと努力している夢追い人だ。

 

 なぜそのような可憐な乙女と学園内の武力の象徴である鉄仮面の異名を持つ世南が同室に、と夢子と鈴井が思ったとき、夢見弖のマネージャーである沙織が答えた。

 

「世南君はユメミにレッスン講師を紹介してくれたの。その縁もあって学園のライブだとステージの準備や警備に人手を割いてくれるし、余興もやってくれるのよ?」

「余興って…あれはどう見ても…」

「鈴井」

 

 話が脱線していく。それを察した世南はなぜ夢子と鈴井がこの部屋に来たのかを聞いた。すると夢見弖自身が夢子とアイドルコンビを結成するため、それの公開オーディションと夢子の人生計画表の中身を変更するギャンブルを兼ねた企画、バトっていいともの説明会のために呼んだのだという。

 

「夢子のコーチを務めてほしいのだろうが、勝手に決めるな。那珂だって暇じゃない」

「那珂先生じゃなくて、琉偉君にしてほしいの。君なら歌もダンスもできるでしょ」

「世南君が歌って踊るのですか?」

「昔取った杵柄だ。それで夢子は?」

 

 招待状にギャンブルと書いてある時点で乗ると分かり切っていたが、一応の確認で世南は聞く。どうにかここで首を横に振ってくれと願っていたが、夢子は違う解を出した。

 

「ところでこれ、読み上げてもいいですか?」

 

 ポケットの中から出したのは、手でくしゃくしゃに丸めた後にちぎって捨てたであろう紙をわざわざセロハンテープで修復したものをジップロックに入れたものだった。その紙と宛名から、それが夢見弖の熱心なファンであるファン会長が渡したファンレターだと気付くのに、時間は掛からない。

 

「夢見弖ユメミ…」

「ち、違うよ琉偉君!! 昔は確かに私の歌を聞かずに私よりも汗かいてそれで握手してくるファンが嫌いでファンレターを破ってけど、今は違うって!!」

「そ、そうよ!! あれは確かに保管していたはず…」

 

 鬼かと見紛う迫力で夢見弖の名を呼んだ世南に睨まれてしまった夢見弖と近くにいた沙織は震えながら横を首に振る。今はともかく昔はという趣旨の発言に夢見弖のファンであった鈴井は少し残念そうな顔をするが、夢子は少し残念そうな顔をしていた。

 

「そうだよな。三日三晩かけてあの性格を根本から修正したからな」

 

 根性注入棒で、こう、スパンッと。

 

 棒のようなものを持って夢見弖にフルスイングをしたのであろう光景が思い浮かんだ鈴井は世南のことを人間かどうか疑う目で見る。実際はそれよりももっと過酷で残酷なことがことが行われていたのだが、それをわざわざ言葉にする世南ではない。

 

「ふーむ、だとしたらこれは無駄でしたか」

「それって…」

「はい。ボイスレコーダーです」

 

 会話の輪の中に一切入らなかった夢子は、ポケットの中からくすんだアルミ色のリモコンのようなものを取り出す。ボタンを押せばつい先ほど行われた会話が再生されたため、脅しでもない本物のボイスレコーダーだと分かる。

 

「沙織さん、少し甘かったですね」

 

 夢見弖は学生とはいえアイドル。いわゆる厄介ファンという名の悪質ストーカーは珍しいがいないわけではない。そのため世南はオフだろうが沙織と一緒に時々外出に付き合わされ、気付いたファンの対応に追われることもある。また送られたぬいぐるみに盗聴器が仕込んであり、それを世南が逆探知で炙り出して捕まえたこともある。そのため入室の際に沙織はボディーチェックをする。世南は直々に伝えた技術を夢子が突破したことに感心した。

 

「何か失言を引き出せればもっと楽しいギャンブルをしてくれると思ったんですがね」

「もーう。確かに昔の私は性格悪かったけど、琉偉君と那珂先生のおかげで生まれ変わったもん」

「生まれ変わらせた、が正解だな」

 

 同じ2年生徒会でありアイドル関連の手伝いもしているため仲が良い二人を見て、夢子はひらめいたとばかりに密かに持ち込んだスマホで二人の様子を撮る。

 

「できました!! 夢見弖さんに恋人がいるというスキャンダル写真が!!」

「夢子⁉ ちょっとセコイよ!!」

「私と琉偉君? …ちょっと困っちゃーう」

 

 週刊誌の表紙を飾っていそうな風に即座に写真を編集した夢子は、これで夢見弖にもっとギャンブルという非合理で残酷な世界で戦ってもらえると思いその写真を見せる。しかしその写真を見ても夢見弖は軽い反応を示すだけ。

 

「蛇喰夢子…」

 

 一方で、世南の方が夢子の求めた反応をさらに200倍にして示した。

 

「分かりますよね、夢見弖さん⁉ もし私が勝ったらこの写真を学園中にばら撒きます、いいですね!!」

「頼むぞ夢見弖。あの写真を広められるわけにはいかない」

「えっ、あっ、はい。分かりました」

 

 私は正直構わないんだけどなー、と唇を尖らせて言う夢見弖を無視して、一流アイドル決定戦、バトっていいとも!が決定した。

 

 世南は夢子に踊りと歌のトレーニングを施していたがその秘めた高いポテンシャルで開催までのわずか数日の間にほぼマスターしていた。夢見弖と比較しても遜色ない才能、二人ならアイドル業界の頂点が取れる。夢子の賭ケグルイさえなければ不祥事もないだろうなと思いつつ、当日を迎えた。

 

「みんなー。私の歌も聞いてくれてありがとー」

『イロハちゃんありがとー!!』

「イロハちゃんありがとうございました!! 次は生徒会広報企画、『一流アイドル決定戦、バトっていいとも!』です!!」

 

 夢見弖のライブの前座を務める正体不明の学園アイドル、フルド・イロハに熱烈な応援をしたファンたちが、舞台袖に掃けていくイロハに涙を流しながらサイリウムを振る。そして部隊が暗転すると、そのまま夢子と夢見弖の9本勝負が始まっていく。

 

「世南の奴め、生徒会用の席にいないではないか」

 

 観客たちが座っている席から少し離れた上の席に座る眼鏡をかけたインテリのような学生、豆生田楓が、横に座った面々を一瞥して零す。そこには舞台で夢子とギャンブルしている夢見弖と理由も言わずに学園を空けて出ていった綺羅莉、そもそもこうした雰囲気が合わない生志摩と自身の研究会が忙しい西洞院を除いた生徒会が集合していた。

 

「琉偉君ってさ、確かユメミちゃんの警護とかも請け負ってたよね? 今頃舞台袖で警備でもしてるんじゃないのー?」

 

 着ぐるみのようなパーカーを着た小学生のような生徒、生徒会選挙管理委員会委員長の黄泉月ルナが舞台袖の方に目をやりながら話す。

 

「世南め。簡易なものだが蛇喰夢子に勝ったのだから、奴が生徒会の威信を取り戻させなければいけないというのに」

 

 豆生田は夢子が招待状を受け取る前に行われた綺羅莉を欠いた生徒会会議で、除名されたとはいえ当時は生徒会だった皇伊月を始め次々と生徒会役員が蛇喰夢子にギャンブルで負ける現状に危機感を募らせ、そして解決するためにこの一戦を仕込んだ。

 

 ギャンブルで勝ったのは西洞院と世南のみ。しかし西洞院は取りやめを求めようとするほど精神的に負けていた。そのため真に勝利したのは世南のみ。だがその会議で世南は友達を手に掛けることはできないといって拒否、結果としてこのように大規模な企画をやらざるおえなくなった。

 

「まあ、いい。私の計画は完璧だ。世南を欠いたとしても、蛇喰夢子は潰せる」

 

 人生計画表は、他ならぬ桃喰綺羅莉の力によってそうなるもの。しかし今回のギャンブルで賭けた蛇喰夢子の人生計画表の変更は、綺羅莉の承諾を受けていない。そのためここでもし負ければ生徒会の威信云々よりも己が危ない。

 

 そういった危険性は承知でこのギャンブルを仕掛けた豆生田は、当然のことだが必勝の策を用意してきていた。チケットの販売を規制し、夢見弖のファンクラブに加入している者たちのみを会場に集めた。夢見弖が確実に勝てるギャンブルを用意し、ギリギリの戦いを演出するものの、最後に夢見弖が連続勝利して逆転勝ちする。そういうシナリオを用意していた。

 

 そう自信満々な豆生田を見て、しかし黄泉月は呟いた。

 

「そうやって完璧にしたときほど、把握していない場所で予期せぬトラブルが生じているものだよ」

 

 豆生田には聞こえなかったその呟きだが、実際にその通りになった。

 

 夢子がダブルリーチの状態で行われたギャンブル、ランダムで選ばれた観客の誕生月を当てる利きファン。それで選ばれたのは、皇にチケットを手にした生徒から高額でチケットを買わせて参加した芽亜里だった。当然、ファンクラブ会員ではない彼女の誕生月を当てることなどできず、なんなら夢子も知らなかったが、最終的に近い月を書いていた夢子の勝ちとなった。

 

 その後、何故か鉄仮面を付けた世南が現れて夢子と交渉していたが頓挫したようで、しばらくした後スクリーンにスキャンダルを思わせるような夢見弖と世南が休日にパフェを食べている写真が映し出される。

 

 それを見た瞬間に世南は裏に逃走。他のファンたちはこれは何なんだ、誰が映っているのだと困惑が広がったが、誰かがユメミちゃんと言い、また誰かが鉄仮面と言って詳細が分かっていく。

 

 全員があの写真の意味することを理解していくと、夢見弖がマイクを持って舞台の中央に立った。

 

「あのね、私…琉偉君のことが好きなの。私の夢を応援してくれて、それで私のダメなところを指摘してくれて。だから…ッ!!」

 

 歌っているときとは違い、拙くてたどたどしいながらも感情の篭った言の葉を紡いでいく夢見弖。肝心の世南はというと、他の治安委員会の委員が5人がかりで拘束して面に引きずり出された。

 

「だからッ…私と付き合って下さい!!」

 

 世南の仮面を剥がして言う。一人の少女が、自身の夢が危うくなることを承知でもう一つの自身の夢をかなえようとする。

 

 ファンですら、固唾を飲んで場を見守る。

 

「どう、かな…?」

 

 あまりの沈黙の長さに、耐えることのできなかった夢見弖が世南にマイクを向ける。

 

「…デス」

 

 語尾だけを、機械が拾う。

 

「既に婚約者がいるので、無理…です」

 

 明らかに動揺している小柄な委員が力を緩めてしまったことで自由になった右腕で、襟から強引に手を入れてワイシャツの下に隠していた純白の指輪を見せる。

 

「エッ・・・アッ・・・ワッ…」

 

 返事はNOだった。それを理解するのに、十数秒。

 

「そ………っか。無理…だ、よね。なんか…ごめんね。婚約者さん、いるのに。こんな公開告白なんか、して。迷惑…だ、っだよ、ね…ヴェーーーーン!!」

 

そして泣くのに、数秒。

 

「ふ、ふ、ふ…」

 

 夢見弖のファン会長の見栄えが悪い3年、真能寺が震えだす。

 

「ふざけんなよ鉄仮面!! ユメミちゃんからプロポーズされたのに断った挙句に涙を流させるなんて!!」

「そうだ!! 腹切れ腹!!」

「僕らのユメミちゃん泣かせてただですむと思ってんのかこらーっ!!」

 

 真能寺の言葉を皮切りに、ファンが怒り狂うのに、数瞬。

 

 警護に治安維持委員会が人を出しているとはいえ、10人規模。対してファンは芽亜里らを除いたとしてもほぼ100人。仮に応援を要請したところで駆けつけるまでにリンチに遭う未来が見えた世南は、最低な一手を打つ。

 

「ゆめみt…ユメミの彼氏には、なれない。けど、それでも、君の魅力は誰よりも知っている。君の努力も、君の笑顔も、君の流した涙も、全て…」

 

 こうなったらもうなんだか感動的なエンドに向かうしかない。そう考えた世南はどうにしかして絞り出した言葉を伝えていく。実際、世南は言葉の通り夢見弖について色々知っていた。歌と踊りに対して常人どころか超人ですら根を上げるような努力をする姿を。警護を頼まれて同行したオフの日に、流行りのスイーツを食べて笑顔を見せる姿を。ファンを毛嫌いしているのが那珂にバレて、戦時捕虜への拷問の方がまだ優しいような地獄を味あわされているときに見せた涙を流す姿を。

 

 世南はすべて、なんとなくうろ覚えだが覚えていると言い張った。

 

「琉偉君…」

 

 その言葉を聞いて、泣き止む夢見弖と落ち着きを取り戻すファンたち。

 

「…私と一緒に夢への道を歩んでくれるって、約束してくれる?」

「いyッ…はい」

 

 何かを言いかけた世南だったが、時を戻したくはなかったため、渋々受け入れる。

 

「よく言ったぞ鉄仮面!!」

「そうだ!! 顔上げろ顔!!」

「僕らのユメミちゃん任せたぞこらーっ!!」

 

 学園を卒業したら適当な芸能事務所に丸投げしてやろうと思いながらも聴衆に対して夢見弖の手を握りながら笑顔を向ける世南。

 

「何を見せられているんだ、俺は…」

 

 自身の思い浮かべていたものとは全く違う茶番を見せられて途方に暮れている豆生田だったが、二人に注目させるために少し離れていた夢子が再びスポットにあたる。

 

「二人は今後も健やかに過ごすでしょう。しかし、この写真を用意し、二人を引き裂こうとした人がいます!! 思い当たる節、ありますか? 夢見弖さん」

「そ、そうだね…。よくわからないけど、この場を用意してくれた豆生田君。お話、聞かせてもらえる?」

 

 天を、といってもここは屋内なので天井を仰いでいた豆生田に、客席ながらもスポットライトが照射される。完全に油断していたことと光源を直接見てしまったがために少しばかり反応が遅れたが、視力が回復すると堂々と立ち上がって自身が関与していないことを主張し始めた。

 

「事実無根だ。第一、あの写真は明らかに自撮りであって俺が用意できるはずが…」

「自身の潔白を証明するのなら、ギャンブルでやりましょう!! 断るのなら、公式戦で」

「なに⁉」

 

 家畜であることを示すネームプレートを手に掲げてそう宣言した夢子に、豆生田は動揺するが一度眼鏡の位置を指で調節すると、賭ケグルイの女に向かい直る。

 

「いいだろう。公式戦を受理する。俺が勝った場合、あの写真はフェイクで俺は無関係だ」

「フフフ、ありがとうございます」

 

 世南が舞台袖に行って頭を下げながら電話をするのを尻目に連続でギャンブルが行われることが決定する。気付けば二人の間に仮面をつけた銀髪の女子生徒、桃喰リリカが立っていた。

 

「立会人は私が務めよう。行うギャンブルはチョイスポーカーだ」

 

 チョイスポーカー。普通のポーカーとほとんど同じだが行えるのはベットとレイズのみ。そしてレイズの額で役を強い方が勝つか弱い方が勝つかを決める。チップが一枚1千万という時点でハイレートだが、これは公式戦。青天井で行われる金の積みあいになる。

 

「おっかしいなー。あんな写真渡してないはずなんだけどなー」

「黄泉月さん、どうしましたか?」

「いんや、別に」

 

 引き続き大多数の人に見守られながら、ギャンブルは続く。




電話で謝罪をする世南

「はい…ですから、あれはあくまで友人としてであって、それ以上は。………はい。今後はこのようなことが起こらないよう善処いたしますので、なにとぞ…」
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