<ちょっとしたアホ話>
第一話が投稿されて長らく放置していたこの話を作らなきゃなーで深夜まで作業して完成したわ~、で保存と間違えて投稿した自分に呆笑い。
夢子がわざわざペアをチェンジして弱い役狙いと思わせての強い役狙い、と思わせての弱い役狙いを看破した豆生田が大量のレイズで選択権を得て勝利した後の一戦。今回もまた同じようにペアを捨ててきた夢子を前回のをブラフとした弱い役狙いと判断して再びレイズ合戦が始まる。
自身の生徒会会計としての強みも活かして夢子とのレイズ合戦には勝利したが、客席の皇にもレイズさせるという方法で一回のギャンブルでは出していけないような額を次々と更新していく。
そして最後、夢子の悪魔の囁きによって自身の人生も賭けの対象にした皇だったが、それに豆生田は待ったをかけた。人生を賭けの対象にする。生徒会が借金の形に人生を奪う人生計画表は確かにその負債額の分だけ価値がある。しかしそれを決めるのは綺羅莉のみ。そう言おうとしたとき、舞台袖から疲れ果てて頬が痩せこけて見える世南が現れた。
「あッ、どうも閣下」
「閣下、だとッ⁉」
学園内で琉偉が閣下と呼ぶ人物は一人しかいない。だがそんなはずはない。その人物はここしばらく学園に顔を見せていない。
そう思いながらも豆生田は重い頭を持ち上げてディーラーであるリリカを見る。リリカはそれに構わず世南の方を向きながら仮面を外し、その素顔をさらけ出す。
「仮面をつけてもあなたは見分けるのね、琉偉」
「か、会長…」
「認めるわ。伊月の実家は大手玩具メーカー。株価や資産価値を考えれば100億の価値がある」
自分の人生を賭ける…それどころか決意の表れとして自ら歯で爪を剥ぎ取ってしまった狂気。それに対抗するには、豆生田の資産では額面でも精神面でも足りない。
それなら、俺のやるべきことは一つ。
「俺の人生を、賭ける!!」
「楓。あなたの人生は、そうね。財務省事務次官になるのだとしたら、100億の値はつけてもいいかしらね」
ふざけるな!!
豆生田は内心で毒づいた。期待されている財務省事務次官という地位は、王道を往くことが第一の父が望んだもの。豆生田が望んだ人生は、そんなものではない。しかしそれで100億のギャンブルができるなら安い物だとまるで他人事のように考えてしまう自分が豆生田の中にはいた。
そうして挑んだ戦い。強い順で挑んだ勝負。豆生田の手はツーペア、対して夢子はスリーペア。
「へ…ア…?」
豆生田は夢子を読み違えた。かつて見限った皇をギャンブラーではなくパトロンだと見誤り、そしてまた自身も王道ではない手を場の熱気と二人の狂気に晒されて打ってしまった。
だが、それでも…。
朦朧とする意識の中、鉄仮面を小脇に抱えた世南に目線を送る。
「悪くなかったぞ、楓」
「先輩を下の名前で呼ぶとは」
「数か月ぐらいで偉そうに」
「そう、だったな」
その言葉を皮切りに、豆生田は全身の力が抜けて、後ろに倒れる。世南はそれが地面に着く前に腕を掴み、肩に担いで保健室へと運んでいく。
「なあ…琉偉。楽しかったよな、あのときは」
「もちろんだ。だから今は休め」
「そうだな…そう、させてもらう」
友の上で意識が薄れゆく中、思い出すは桜が咲き誇る春の日のこと。とても楽しく豆生田が権力への執着を一時とはいえ忘れた日のことだった。
終業式を終えた日の午後、大半の生徒が帰り普段であれば誰かの断末魔が響く学園は静寂に包まれていた。
「それで、どうしたんだ楓。わざわざ部屋に呼び出すなんて」
他の生徒同様、世南も帰ろうと思っていた。治安維持委員会の練度に不安はあるため学校が閉じている間に合宿でもやろうかと計画したが、世南自身が合宿に乗り気ではないためお流れになった。そのため式の最中は帰った後のことを考えていたが、終わった直後に生徒会会計の豆生田に呼び出された。
「来たか。約束の時間より5分早いが、まあいいだろう」
汚い物を見るような目で世南を見た後、豆生田は事務仕事で使っている机の上にトランプの山と1千万チップの入ったアタッシュケースを出した。
「世南、俺は以前からお前が生徒会に相応しくないと思っていた。会長にギャンブルで勝ったという実績はある。しかしそれは過去の話だ。お前は上納金が少ない。家畜に堕ちるほどではないが、上位に入るほどでもない。それが気に入らん」
「それで、チョイスポーカーをしようっていうのか」
レイズの額が多い方が役の強弱を決めるこのギャンブル。生徒会会計として強い権限と財力を持つ豆生田は自身が圧倒的に有利であることを承知で世南を誘う。
「どうする、断るか?」
「当然受け入れる」
パイプ椅子を出した世南が机の向こうに座った瞬間、豆生田は内心で爆笑した。豆生田は確かに世南のことを侮っているが、会長に勝った実力は認めている。しかしチョイスポーカーでは運も実力も関係ない。このギャンブルで物を言うのは金。どれだけ多くの金を持っているのかが重要であって、強い手札を呼び寄せられる運や相手の手の内を見透かす洞察力などは積み重ねられた札束の前では意味をなさない。
「それで、何を賭けるんだ?」
トランプをシャッフルしている豆生田を見ながら、世南は質問した。豆生田の態度から、世南は自分が賭けるのは生徒会治安維持委員長という立場であることは知っている。しかし世南は豆生田から奪いたい物がない。だから豆生田に選ばせた。
「そうだな。まあ、お前が勝ったら何でも一つ言うことを聞こう」
「んッ? お前今何でもって言ったな?」
「そ、そうだが…」
負けるつもりがないため大口を叩いた豆生田だったが、妙に世南の食いつきがよかったことに驚く。しかし負けはなければ関係ないのだと豆生田はカードを配った。
俺の手札はジャックのツーカードか。弱くはないが、同時に強くもない。ここは他の3枚を捨てて様子を見るか。いや、それともこの2枚を捨てて豚狙いでいくか。
自身の手札を見ながらあれこれ思案する豆生田だったが、世南が一度見ただけで手札を机に伏せたのを見てチェンジするのかと山札に手を伸ばす。しかしそれを世南は断った。
「私はこのままでいく。ついでに教えよう、手札はクラブの3と9、ハートのクイーン、ダイヤの6、スペードの2だ」
突然の豚宣言に豆生田は世南が勝負を仕掛けてきたと察した。仮に世南の言葉が正しい場合、豆生田はこのままレイズに移行すればいい。そうすればツーペアで勝てる。しかし世南がジャックのツーペアよりも強い手札を擁していた場合、敗北する。そのためここはペアを除く3枚を交換してより強い手札を揃える方が安パイだと察した豆生田は一度交換し、ジャックのフォアカードを揃えることに成功した。
勝ったな。これで後はレイズするだけで終わる。
そう思ってまずは手始めに10枚レイズする。しかし世南はそれを見て目を細めると、豆生田が用意したトランクの中にあるチップを全て机の上に出した。当然だが、そんなことをすれば机の上がチップで溢れて床にまで零れ落ちる。
その暴挙に豆生田がまず感じたのは呆れだった。見栄を張りたいのかもしれないが、チップで賭けるにはまず賭けられることを証明しなければならない。トランクに詰めたチップの枚数はおよそ3万枚、額にすれば3千億である。世南は転校生として学園に来たが事前調査で一般的な家庭出身だということは分かっている。そんな子供が3千億など用意できるはずがない。
「世南。くだらん真似は…」
「これで、納得してくれるか?」
世南は豆生田の眼前に、一枚の紙を掲げた。
「これはッ…⁉」
それは、契約書だった。世南が一機、個人で飛行機を所有していることを示し、それをどこに駐機させているかを示す契約書だった。D77-TC、通称ペリカンと呼ばれる横七グループの輸送機で、駐機場はハワイの南方にある横七島という島だった。
「色々と縁があってね。これを売りに出せば3千億位なら支払えるだろう」
「お前、横七の人間か!!」
学園は、世南のことを調べた。生まれや家のことも、調べた。しかしそれは学園の力が及ぶ範囲内でのこと。対して、世南が属するのは横七。突如現れたと思ったら、自前の戦力と高度な技術で世界に深くその存在を刻み付けた外国に籍を置く巨大なグループ。学園の力が及ばない外の存在である。
そのため豆生田は世南の資産を見抜くことはできなかった。いや、きっと綺羅莉もこのことを知らないだろう。なにせ世南は綺羅莉に気に入られている。それを豆生田は独断で生徒会から排除しようとしているため、このギャンブルは選挙管理委員会にも通告していない秘密裏のもの。だから自身の秘密を明かすことに躊躇いがないのかと、密室であるが故に枷から解き放たれた世南を見る。
「ペリカンは確かアメリカが1千億ドルでの購入を希望すると宣言していたな」
「まあ
「いいだろう…」
金で負けた。圧倒的に自身のあった財力で負けた。
その一点が、豆生田の心を深く傷つける。現在の体制になってからの豆生田の働きを否定する一撃、既に豆生田はギャンブルの結果などどうでもよくなっていた。関心を捨てたギャンブルの結果は弱い順となり宣言通りの手札であった世南が勝った。
「じゃあ約束通り、何でも一つしてもらおうかな」
最期の意地を張り、両目で世南のことを見る。退学にされても首を縦に振るしかないのだから、恐怖はある。しかしそれで目を瞑るような真似は自身のプライドが許さなかった。
「じゃあ、ここでのことは全て忘れてもらおうかな」
世南はポケットの中に手を入れた。ポケットの中に納まるもので記憶に障害を与えそうなものといったら、清華のようにスタンガンだろうかと考察する。しかし普通のスタンガンではないことは、世南が横七の人間であるためわかる。もしかしたら脳味噌が丸焦げになる威力があるのではないかと邪推してしまったが、見せたのはチケットだった。
「これ、横七島への飛行機のチケット。詳しいことは横七島で」
ひとまずは助かったと豆生田は思ったが、別段横七島で豆生田が苦しんだというわけでもなかった。
「世南…これは一体…」
「横七が開発している次の100年を担う戦闘機、センチュリー」
世南に案内された格納庫の中には、V字のアンテナが機体の前方にあるコックピットの後ろにある白色の戦闘機が整備されていた。
「そこの倉庫でパイロットスーツを着たら戻ってきてくれ」
「い、いいのか世南⁉ 俺が乗っても⁉」
「俺が横七の総裁だから大丈夫だよ」
「お友達が許してくれたから大丈夫だよ」
それを聞いて驚きとともに納得した豆生田は、色々な機材が棚に並んでいる倉庫で宇宙服のようなパイロットスーツに着替えるとセンチュリーの場所に戻った。世南は整備士たちに交じって最終点検に参加していたようで、若干汚れた黒いワイシャツで機体の前に立っていた。
その後なんの訓練も積んでいない豆生田が世南を後ろに乗せて飛ぶという想定外はあったが、横七の恐るべき自動操縦補助機能で快適に横七島周辺を飛行した豆生田は、童心に帰った気がした。
「楽しかったか、楓?」
「ああ、すっごく」
パイロットなど、捨てたはずの夢だった。しかし今日、計らずともその夢を叶えることができてしまった。
まだ乗りたい、もっと乗りたい、死ぬまで乗りたい。
一度抑え込んでしまったが故に、一度解放されるともう塞ぐことができなくなった欲望の波が豆生田を飲み込む。
「この前のギャンブルの事、そして今日のこと。忘れろよ、また乗せてやるから」
「…分かった」
「実は宇宙用の戦闘機も開発していてな。楓が将来財務省事務次官になる頃には完成しているはずだ」
「日本初の宙間戦闘機パイロット兼財務省事務次官か。個人的には前者だけで満足だ」
保健室のベットで、豆生田は夢を見ていた。コックピットの中から大海を見渡す己を。それを見る友人を。豆生田は夢見ていた。