原因不明の熱が治ってから数日────
私は元気に学校に通っていた。
「行ってきます!」
母にそう告げて私は勢いよく家を飛び出す。
休んでいた分の勉強に追いつくために必死になりながら日々を過ごしている。
五月も下旬を迎え、梅雨の時期になってきたのか最近は雨が多い。
今日は晴れだったものの、昨日は大雨だった。
未だになごみは学校には来ていない。
彼女は修行をすると言って学校を休学した。
その修行の内容は知らない、だが分かる。
あの時ボロボロで家に来たなごみを見ていると厳しい修行ということは目に見えていた。
だから私は待つ、いつまでも、いつまでも、彼女が学校に通うことを。
「おっはよー!」
後ろから聞き覚えのある元気な声が聞こえてきた。振り返るとそこには夏海がいた。
「おはよう、夏海」
妖花がそう返すと夏海は元気にまた「おはよー!」と返してくれる。
私はなごみのことを話さない。それはなごみが伝えると言っていたから。だから自分で言うのは筋違い。
「あのさ…」
「ん?どうかした?」
「いや、なんでもない」
「じゃあいこっか」
二人は並んで一緒に登校する。
世間話や最近の出来事を話していると、あっという間に校門の前まで来ていた。
「おはようございます」
2人は生徒指導の先生に挨拶を交わす。
「おう、おはよう2人とも。千子はもう随分と元気になったようだな」
「はい。それなりに」
2人は靴を履き替えるために下駄箱に向かう。他の生徒が上履きを履き替えている。妖花も自分の下駄箱の場所に行き、上履きを取ると上履きの他に何か入っている。
「何だろうこれ」
白い紙が四つ折りになって下駄箱の端に置いてあったみたいだ。それを手に取って確認すると手紙であることが分かった。
手紙を開こうとした時夏海も驚いた声を上げる。
「ねぇ、なんか手紙入ってた!」
そう言って夏海が見せてきたのは青色の手紙だった。
「私も入ってたよ」
手紙を見せると夏海は「同じだね」と言い、2人で内容を確認する。
「まずは私から確認するよー」
とりあえず、夏海の下駄箱に入っていた青色の手紙を確認してみる。
「じゃあ開くよー」
気の抜けた声で手紙を開くとそこにはこう書かれていた。
『獅子田さんへ
伝えたいことがあります。よかったら今日放課後に会ってください。2年1組で待ってます。ずっと待ってます。』
そう書かれていた。
それを見て夏海が一言。
「これ………何!?」
え…
妖花は呆れてしまった。
それを見て何!と言うとは予想してなかった。
「ねぇ!妖花これどう言うことだろう。私何かしちゃったのかな………」
夏海が泣きそうな顔でこちらを見つめる。
そんな彼女を妖花は哀れむ表情で見つめる。
「え、妖花なんでそんな顔で見つめるの!?
何!?どう言うこと!?」
そんなことを言う夏海に妖花は思う。
この送り主可哀想だなぁ…夏海は転生の鈍感だからこういうの分からないんだよね…
そして夏海よ。そろそろ気づいてね。これで何回目だっけ…幼稚園の頃、小学生の頃、そして中学1年の頃。とんでもない量の手紙を貰っていたことを私は知っている。だからこそ夏海にそろそろ自覚してもらいたいところ…
毎回毎回こんな感じなんだよね…
いつも気づかないからそろそろ分かってもらいたいなぁ…じゃないと送り主が可哀想だ…
まぁそういうところが可愛いんだけど!
長くなってしまい読者の方には申し訳ないなと思いつつ妖花は口には出さなかった。
でも、送り主が可哀想なのでとりあえずそれとなく夏海に伝える。
「うーんと、それはね。まぁ…」
少し言い方を変えた方がいいと思って考える。
「あれだよ。とりあえず送り主さんが来てよって言ってるから行ってあげたら!」
やけくそだった。
語彙力なくなったと思った。
そんな妖花の言葉に夏海は「うん!分かった!」と返事を返したのでとりあえず一安心する。
「じゃあ次は妖花のだね」
「うん、そうだね…」
まさか…まさか…
この感じ、この手紙。もしかしたら私の手紙もラブレターかもしれない。まぁそうだったとしたらとても興味が無い。私にそういうのはいらないから。
そんなことを思いつつ開けてみると差出人に驚く。
「これ、なごみからみたい」
「だね!どうしたんだろ!」
多分休学のことだろう。でもこの流れだと少し何かを期待してしまった私がいることは事実。とりあえずなごみからの手紙でよかったと一安心した。
「なんて書かれてるの?」
「うん、読むね」
そう言って妖花は手紙を読み始めた。
「妖花と夏海へ
私は少しの間休学することにしました。なので遊ぶって約束は果たせそうにないです。だから次あったときは遊べるといいね。」
そう書かれていて夏海は驚く。
「え…?どういうこと…?」
夏海が声を上げて驚いているのも見て妖花は冷静に言った。
「実は私聞いてたんだ。夏海は聞いてなかったの?」
「うん」
「そ、そうなんだ…」
なごみは伝えると言っていたはず。何かあって伝えられなくなったのかと心配になってしまう。
そんな妖花を見て夏海が肩を叩いて告げる。
「でもね」
夏海は続ける。
「この文を見る限り大丈夫って言うのは伝わってくるかな」
笑顔で手紙を見ながら夏海がそう言った。
だから私はこの子が好きだ。夏海はなんとなくでも分かっているのだろう。それでも、彼女は何事も肯定的に考えてくれる。そういう考え方ができるような人になりたいと私は思った。
「2人で待ってようね。また3人で遊べる日を」
「そうだね。私もそう思ってるよ」
「うん!」
2人はなごみがきっとすぐに帰ってくると言うことを信じて、手紙をしまって教室へと向かうために上履きに履き替えた。
「じゃあいこっか、夏海の手紙の方はちゃんと会いに行ってあげてね」
「うん、わかってるよ」
2人は明るい表情で仲良く教室へと向かった。
教室に着き、扉を開くといつもどおりクラスメイトはガヤガヤと話をしている。
またいつも通り私は勉強を開始した。
今回のテストはとりあえず一位を取ると言う目標で頑張っている。
「はぁ…もっと頑張らなきゃなー」
気合を入れて勉強をしているとクラスメイトたちがガヤガヤと話をしているのが聞こえてくる。
女子は「だよねー」とか「今日なにするー?」とか「今日何あるかな?」など様々な話をしている。男子は「噂がさー」とか「夏海さん可愛いー」とか「やっぱり、せん…あっそっか」とか雑談をしている。
そんな中私は勉強をしながらホームルームが終わるまで時間を潰すことにしたのだが、ある少女に声をかけられる。
「千子さん…ちょっといいかな?」
「どうかしたの?」
話しかけてきたのは同じクラスであり、私の前の席の
「その……千子さんってオカルト部だよね?」
「うん、そう。どうかしたの?」
泣塔は何度か周りを見渡した後、小声で話し始めた。
「実はね、ここ最近、噂になってることがあってね」
噂?なんのことだろう。
「この学校のすぐ近くに商店街があるでしょ?そこに実際はあるはずがない、不思議な道が存在するの」
「それは初耳かな」
そんな話は聞いたことがなかった。私が休んでいる間そういう噂が流れたのだろうか。
「クラスの子たちもみんなその話題で持ちきりでね」
「そうなんだ」
そういえばクラス男子が何か話していた気がするな。噂がって。
「それがどうかしたの?」
そう質問すると泣塔は一瞬、迷うそぶりを見せてるも意を決して答える。
「あのね、私とその商店街に行って欲しいの」
そう言われて妖花は戸惑うことはなかった。
なぜなら泣塔とはあまり話すことは少なかったものの仲が悪いわけではなかったので断ろうとは思わなかったからだった。
それに、最近誰かと遊ぶこともなかったため、仲良くなるきっかけを作りたかった。
「いいよ、いついくの?」
そう言うと泣塔はやはりいろんな方向を向きながら頭を抱えて言葉を呟いている。
「だよね、ダメだよね。ごめん、オカルト部のあなたになら頼みやすか…」
「いいけど、いつがいいの?」
もう一度言うと泣塔はやっと気づいてびっくりした様子でこちらを見ている。
「え!本当にいいの!」
「うん、もちろん」
泣塔のこんな声は聞いたことがなく、少し驚いてしまう。
「迷惑じゃない?」
「迷惑なわけないよ。私、泣塔さんと仲良くなりたいし」
本心だったのでそのまま泣塔に伝えると、泣塔はとても驚いた様子だった。
「そ、そんな…千子さんが私なんかと仲良くしてくれるなんて…!」
「そんな大袈裟な…」
笑いながら言うと泣塔は嬉しそうに言う。
「あ、ありがとう。でもねその商店街にクラスのみんなも行くらしくてまだ行けないの」
「え?クラスのみんなも行くなら一緒に行けばいいのに」
「あのね、私人見知りで…」
そういうことか。だいたい理解した。
泣塔はクラスメイトと一緒に行くほどの関係性では無いのだろう。加えて、1人で行くには怖い。オカルト部の私となら大丈夫なのではないか、そう思ったんだろう。
「別にいいよ、夏海は呼んだらダメかな?」
そう呟くと、私の声に反応して夏海がみんなが驚くほどすぐに駆けつける。
「どうかしたの妖花!」
妖花は泣塔と目を合わせる。
泣塔が何か口に出そうとする前に妖花は夏海に用件を伝えてしまう。
「泣塔さんと商店街に行こうと思うけど一緒にいく?」
そう聞いてみると、夏海の顔が青ざめる。
「そ、それって…あの噂を確かめに行くんだね!私、怖いのダメなの!悪いけど2人で行ってきて…」
なぜ夏海、あなたはオカルト部に入ろうと思ったんだ…と困り顔をしていると泣塔が私の耳元に囁く。
「あの、千子さん。一度もう獅子田さんには声かけたんだ。でも怖いのダメなのって断られちゃって」
「なるほど、なるほど…」
それはそうだ。話しかけるなら夏海の方が話しかけやすいに決まっているだろうから。
「なら2人で行こうか。みんないつ行くって言ってるの?」
「たしか6月の中旬あたりにみんな予定が合うからそれぐらいに行くらしいよ」
そうか、6月か。そういえばもう6月になるのか。誕生日がもうそろそろだと思いつつ、自分の予定を書き出し、行ける日にちを決めた。
「じゃあ、クラスのみんなよりは後に行くって感じでいいかな…」
泣塔に言われて妖花はうなづく。
「いいよ、じゃあみんなが行った2日後で」
私と泣塔はそう約束して、今日の授業に臨んだ。そして妖花は思った。
「多分、泣塔さん。本当にでたら怖くて行かないって言うつもりだろうな」と。保険をかけておきたいだろう。
あの子のことをよく知るわけではないがそれだけは感じた妖花だった。
妖花は約束の日までの期間、特に予定があるわけでもないためクラスメイトや知り合いに噂がどういうものなのか、どれぐらい広がっているのか、会話を聞いたり、話したりして確認することにした。
「あの、美穂ちゃん今いいかな」
最初に話しかけたのはクラスでもよく話す
「どしたの、妖花ちゃん」
若干私よりも背が高い美穂はこちらを向いて何?と首を傾げている。
「最近噂話とか聞く?」
「噂話…あー、妖花ちゃんもあの噂を信じてるの?」
「信じるってわけじゃないよ。ただ私が入院していた時に噂が流れ出したらしいから気になってね」
そういえば私が入院している時になぜそんな噂が立ったのだろう。それが知りたい。誰がこんな噂を…
「確かにそうだったね。なんか商店街にある道が異世界に通じるみたいなのじゃなかったかな」
《異世界》に通じるか…まぁだいたい泣塔さんが言っていた話の通りだ。
「その噂って最初に誰が言い始めたの?」
そう聞くと岩辺はうーんと悩んでいた。
「確か、
柳?柳って誰だっけ。そんな人いたかな。
「ねぇ、柳って誰だっけ?雑木林?」
「柳くんだよ!
そう言って指を指した先に確かに男子生徒が椅子に腰掛けている。
サラサラの髪が風でゆれる。本を読みながらただ、じっとしている。
あの人が
「ごめん、柳くんとは同じクラスになったの初めてでまだ分からなかった」
「それもそうだね、だってあの人ゴールデンウィークまで学校いなかったし」
え?ゴールデンウィークまで?どう言うことだろう。
「え?じゃあ美穂ちゃんも見たのはゴールデンウィーク明けってこと?」
「うん、先生から言われてね。あの人、重い病気らしくて休んでたらしいの。あとね、ドラマみたいだったよ、教室入った時みんなの視線すごくて」
そうだったのか。知らなかったな。それにしてもドラマみたい…ってどういうことだろう。
妖花はとりあえず噂の発端であると言われた柳翔に話しかけてみることにした。
「あの、柳くん?であってるよね?」
そう言って声をかけて振り返った少年は顔が小さく、キリッとした顔つきだった。美少年と言うべきだろうか。まぁ私の好みとは違うが。
「うん、そうだよ。えっと千子さんであってるかな?」
「うん、そうだよ。私の名前知ってたんだ」
「あぁ、僕はこの前まで学校来てなかったからね。とりあえずみんなにあった時に失礼のないように覚えてたんだ」
律儀な人なんだな。礼儀正しいし。名前すら知らない私とは大違いだな。反省しよう。
とりあえず、この人が本当に噂の発信者なのかな?
「改めて自己紹介。君とは話すのは始めてだからね。僕は柳翔。好きなことはオカルトとかそういう話かな」
オカルトが好きなのか。まだ確証はないが、噂話をするとしてもそういうことが好きでないと早々学校に来てからすぐに噂はたてられないだろうと内心思った。
そして礼儀としてこちらも自己紹介をすることにした。
「よろしくね。じゃあ私も、自己紹介。千子妖花って言います。まぁ特に好きなものはなんだろう、勉強?いや流石に違うか…」
「うん。よろしく」
淡白に相槌をする彼へ自己紹介を終えて、早速柳に噂の事を聞くことにする。
「あのね、さっき美穂ちゃん、って言っても仕方ないかな。あー、えっと岩辺さんからあなたが最近の噂の発信者と聞いたんだけど本当?」
そう聞くと、柳は微笑みながら「そうだよ」そう答えた。その顔に私はなぜか不気味さを覚えた。
《登場人物紹介》⑫
泣塔神楽(なきとうかぐら)
霹靂中学校2-3所属。妖花の前の席。メガネをかけた女生徒。うわさの真相を確かめたいと妖花に頼み込んだ。
岩辺美穂(いわなべみほ)
誕生日12月16日。身長155cm。妖花のクラスメイト。
アホ毛が特徴的。いつも真面目な生徒だが恥ずかしがり屋。夢はアイドルになること。