妖花は目の前の少年に話しかけていた。
「あなたが本当に噂を流したの?」
「うん、そうだよ」
驚いた。そうはっきり言われると思っていなかった。
「誰かから聞いた話を噂として広げたの?」
「いや、僕が噂話を広げた。まぁ噂と言っても本当の事だからどうも言えないけれど」
妖花は柳の目を見て思った。
この人の目に嘘はない。嘘をついているように思えない。
そう思っていると、柳は何か呟いている。
「君もあの人たちと同じなのかい…」
「え?」
「いや、何でもないよ。君は僕の流した噂に興味があるんでしょ?」
「うん、興味はあるかな」
妖花は柳の前の席に座り、話を聞くことにした。
「これはね、僕が実際に見た話なんだよ」
興奮気味に柳は話を始めた。
「僕、ずっと前から普通の人では見えないようなものが見えてたんだ」
「普通の人では見えないもの?霊的な何かってことかな?」
「いや、少し違う。なんというか見えないって言い方は悪かったね。すぐに見つけるって言い方のほうが正しかった」
回りくどい言い方をする柳は微笑みながら話している。
「それで、何を見つけるの?」
柳は答えた。なぜかそれを聞いた時私は何か妙な感覚が芽生えた。
「妖怪だよ」
妖怪。日本で伝承される人間の理解を超えた奇怪で異常な現象やそれらを起こす不思議な力を持つ非日常で非科学的な存在。
それが妖怪。
「妖怪を見たって本当に存在すると思ってるの?」
「存在する。事実だよ。この目で何度も見てるからね」
本当なのか、嘘なのか。私では確認は取れないし、取れるはずがない。
しかし、なぜか柳の話し方に嘘はないような、そんな気がした。
「ねぇ。私、オカルト部だからその話、詳しく聞かせてもらってもいいかな?」
正直言って興味津々だった。オカルト部で話す話題になるかもしれない、商店街の話のことをもっと知りたい、そう思ったからだった。
すると柳はこちらを見てあることを言った。
「ねぇ、君はなぜ会ったことのある妖怪の話をさも知らないような口調で話すんだい?」
急にそんなことを言われ、妖花は混乱する。
柳は何言っているのだろうと。
「妖怪に会ったことがある?私が?そんなはずないよ。私一度も見たこともないし、会ったことなんてないよ」
「そう、すまない。君は何度か妖怪と会っている気がしたんだけど僕の気のせいだったらしい」
「そっか。なら全然いいんだけど」
なんだか私のことを不思議そうに見つめている。何を考えているのかよくわからない人だなと妖花は思う。
「それよりも、君はオカルト部なのかい?なら放課後話に行くとするよ」
そう提案されて妖花は了承した。
「うん、ありがとう。わざわざ話してくれるならその方が私もありがたいかな」
直後授業の始まるチャイムがなり慌てて、席について授業の準備を始めた。
授業を終えると泣塔が妖花へと話しかけてくる。
「ねぇ、妖花ちゃん。いいかな?」
ふと名前で呼ばれ、驚いてしまう。
「あっ。名前で…」
「ごごごごごめん!やっぱり苗字の方が良かったよね、ごめん」
そんな泣塔に妖花は優しく声をかける。
「いや、逆だよ。嬉しくてね、じゃあ私も神楽ちゃんって呼んでもいいかな?」
「うん!もちろん!ありがとう、私はちゃん付けじゃなくて神楽でいいよ。その方がうれしいから」
神楽はなんとも嬉しそうな顔で妖花にそう告げた。
「じゃあそうするよ神楽」
そう呼ばれると神楽は満面の笑みを見せる。
そんな彼女に何か話があるから話しかけたのではないかと聞くと、笑みが消えて、柳との話を聞いてくる。
「さっき、柳君と話してたけど何してたの?」
「ん?いや柳くんがあの噂を広げたらしいからその話を聞いてたの」
そう告げると、なぜか神楽は驚いた様子をしている。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
「そう…」
妖花がそう言うとチャイムがなり、最後の帰りのホームルームが始まった。
「それじゃあ気をつけて帰るんだぞー!」
その声で皆教室を出て行く。ホームルームが終わり、放課後になった。家に帰る者、部活に行く者、教室にいる者と三者三様だった。
そして、放課後になると柳がこちらへ話しかけてきた。
「千子さん、部室で話そうと思うんだけど構わないかい?」
断る理由もなかったので部室に案内することにした。
部室に向かう間は無駄話をしながら向かった。
「柳くんは一年生は何組だったの?」
「僕は一組だよ」
「一組ね、じゃあ私とは隣のクラスだったんだね」
妖花は一年生のころは二組だった。
「夏海は同じクラスだったよね?」
「うん、獅子田さんは同じクラスだったよ。まぁ僕は一年生のころあまり学校に行っていなかったから話したことはなかったけれど」
「そうだったんだ、ごめんね」
「気にしないで、今はこうして学校に来れているのだから」
柳はポジティブなんだなと思いながら歩いていると部室まで来ていた。
「ここが部室。夏海も同じ部活なんだけど今日は用事で帰ってるみたい」
「そう、じゃあ入ろうか」
二人は部室へと入った。
ガチャリとドアを開けると、二人の生徒が椅子に腰掛けて談笑していた。
その二人は新道亜美と識神李王だった。
今日はこの2人が部活に来ているだけで他の2人、阿羅型煙羅、そして伊家波臨美は来ていないようだった。
「こんにちは、先輩」
そういうと、2人は振り返り挨拶を返してくれる。そして私の連れてきた人物が誰なのかと聞いてきた。
「その子は誰?友達?」
「えっと、この人は…」
と話そうとした時、柳に肩を叩かれ振り返ると自分で話すよと頷く。
「僕は柳翔と申します。今日は千子さんに学校で噂になっている話と妖怪に会った話をするためにここにきました」
そのことを聞き2人はそう言うことかと私たちを椅子に案内してくれる。
そして2人は自己紹介を始めた。
「えぇー、この部活の部長の識神李王だ。今日はよろしく頼む」
「私は新道亜美です。えっとー、一応3年生で2人の先輩かな。よろしくね」
2人の自己紹介が終わるとすぐに本題に入った。
「それで噂話と妖怪に会った話というのはどう言う話なんだ」
そう聞かれ、答えようとすると新道がその噂話について質問している。
「噂話ってあの商店街の話かな?」
そう聞かれて柳は隠す様子もなく素直に答える。
「その通りです、その商店街の話です」
それを聞いて部長も何か知っているのか、頷いていた。
「あぁ、あの話だな。噂話と聞いたから他の話かと思ったよ」
やはりこの噂は学校中に広がっているみたいだ。私が入院していた日にちと学校が始まってからの日にちを見ると、ちょうど一週間ほどだった。その一週間の間にこんなにも噂話が広がっているとは正直驚いている。
「あの、そういえば今日は阿羅型や臨美先輩いませんね」
「あぁ、あの2人は今日は用事があるらしくて休んでいるよ」
「そうなんですか、わかりました」
少し話がずれてしまったもののすぐに話は元に戻る。
「それでその話なんですけど」
と、妖花が柳が広めた話だと言おうとしたところ柳が止めに入る。
「千子さん、シーッ」
口元に手を当てる柳に少しドキッとしつつ、柳に従うことにする。
「どうかした?」
新道がその様子を不思議そうに見ている。
見られていたことに顔を赤面しつつ、「なんでもないです」とあたふたしながら答えた。
そんなことを気に留めない柳はまた話を進め出した。
「その話なんですけど、確認するために実際に行った方はいらっしゃるんですかね」
「俺は自分で行ったことはないし、友人からも聞いたことはないな。噂は噂だからな」
「私も同じく。友達の間でも噂話はするけどそれについて調べに行ったりする人は聞いたことがないなー」
2人とも聞いたことはないらしい。
そういう話に詳しい2人でさえまだ一週間ほどで広まった話を調べてはいないらしい。
「そうですか、僕もまだその話について詳しくなくて、今度千子さんと行こうかなって思ってたんですよ」
そもそもあなたが広めた話よねと内心思いつつ、一緒に行くということに驚いて、柳の方を見てしまう。
柳は口裏を合わせてくれと言わんばかりにこちらにアイコンタクトを送ってくる。
まぁ先に約束している神楽に話を通せばなんとかなるだろうと思い、その話の口裏を合わせることにする。
「はい、一応行く予定です」
そういうと、新道はまた私が四時に起きていると伝えた時のような神妙な顔つきになる。
「そう…妖花ちゃんは前のことは大丈夫なの?大丈夫なら私は止めないけど」
「前のこととはなんのことでしょう」
柳は私の身に起きていた不思議なことを知らないらしく聞いてきた。
「妖花ちゃんは柳くんにはこの話をしていなかったのね」
こちらを見る新道に妖花はうなづいた。
すると、その話を新道はわかりやすく柳に教える。
「それは興味深いですね」
柳は口に手を当てて、うんうんとうなづいている。
「それで、今はもうその時間には起きてない。でいいんですよね?」
「そんなことありましたか?あんまり記憶になくて…」
妖花が柳にそう伝える。
「治ったなら良かったよ。私としては危険だと思ったからね」
新道は妖花を見ながら心配していたと伝えた。
「なるほど…」
柳は何か分かったのかうなづいていた。
「本当に何かあったら言ってね?」
新道はとても心配していることが妖花にも伝わっていた。
そんな先輩に感謝をしている妖花だったが何も覚えていなかった。
自分でも何も覚えていないのだから柳に伝えることは特になかった。ただその話を聞いてからの柳はやたらこちらを心配そうに見てくるのだった。
「よし!それじゃあ本題に入ろうか」
その声で私の話からやっとその商店街の詳しい話を聞けることになった。やっとのことで彼から話を聞けるのだとホッとした。
「まぁ、商店街の噂ですけど。詳しい話を聞いたところ地図に載っていない道があると言う話です。実際にそこに行った人もいないので確認は取れませんけど。あとその道には何か人間ではない何かが出入りしているらしいですよ」
「ほう、人間ではない何か、か…」
「それはその柳くんが言っていた妖怪ってことかしら?」
「いえ、その話は噂ですので僕が実際にあったと言う妖怪ではないです」
そうきっぱり言った。
なぜそこまで自分が言った噂ではないと言うのだろうか。何かしら言えない理由でもあるのだろうか、あまり考えても仕方ないか。
「僕が妖怪にあった話なら全然話しますけどききますか?」
そう聞かれ、わたし達3人は深く同時にうなづいたのだった。