「ん…」
ここはどこだろうか。身を覚えのない場所で僕は佇んでいた。
夢?多分夢だろう。
真夜中の森林。妙な不気味さがあり、小学生の僕は流石に怖さを覚えていた。
「ここ、どこ?お父さん、お母さん、みんなどこー?」
カラスが鳴く音が聞こえ、ビクッとしてしゃがみこむ。
「うぅ…」
泣きたい気持ちでいっぱいだったが、どうにかここから家へと帰らなければという気持ちがあったため、目をこすりながら真夜中の森 を歩き始めた。
静寂に包まれた森の中歩き始めたもののどこに行けばいいのか、どこが出口なのか、それすら分からず困り果てる。
ただ、僕は唯一方位がどこか、それだけを知るすべを知っていた。
「確か家は南の方にあったから南に行けばいいのかな」
子どもだった僕はその方角に行けばその場所につくと思っていた、だから南に向かって歩き続けた。
「全然つかない。ここ怖いし、お母さん、どこー?」
恐怖が身にしみて伝わってくる。
真夏の夜、ガクガクと震えながら少しずつ南へと移動していく。
疲れがたまり、立ち止まり空を見上げる。
すると声が聞こえた。
「ねぇ君どこの子」
急に話しかけられ、驚き後ろを振り向くとそこには女性が立っていた。
女性は見た目を見る限り二十代前半。なぜこんなところに女性がいるのだろう、そう疑問には思わなかった。そんなことよりも人に出会えたことが救いだった。
「お、お姉さん…うぅ…」
涙を流しながらその女性に抱きつく。正直怖さでどうにかなりそうだった僕に差し込んだ一筋の光に甘えるのは小学生の僕にとって仕方がないことだった。
「あら、君大丈夫?こんな山奥で人でいたらダメじゃない」
「僕…ここにきたいわけじゃない。起きたらここにいて…」
そんな子供の言葉を普通の大人なら信じるはずがなかった。しかし、この女性は信じてくれた。
「そっか、それは怖かったね。君は一人でここまで来れるなんて偉い」
「ありがとう、お姉さん…僕怖くて怖くて…」
「いいのよ、少し落ち着いたかな?」
「うん!」
人に出会えたことで心に余裕を持てたため、なんとか落ち着けることができた。
すると女性は心配そうな目でこちらを見つめる。
「ここら辺結構入り組んでて出られないかもしれないから、お姉さんと一緒に行こうか」
そう言って僕の手を引っ張ってくれる。
どうやら出口まで連れて行ってくれるらしい。嬉しく笑顔で女性についていった。
「あの、出口まではどれぐらいなんですか?」
そう聞くと、女性は笑顔で答える。
「あと少し」
あと少しで出口らしい。僕はお礼をするためにと女性に名前を聞くとこう答えた。
「お礼なんていいよ、私は通りすがりのお姉さん」
「でも、助けてもらったのにお礼ぐらいさせてください」
「いいのいいの」
それから少し歩いた時またどれぐらいと聞くとお姉さんは「あと少し」そう答える。子供の僕でも少し妙だなと思い始めていた。どう見てもどんどん山奥に入っている気がしたからだ。
「待ってよお姉さん。こっちじゃないと思うよ」
僕が指をさしたのは木々の隙間から見えた道路だった。
「こっちよ?あなたはこの山詳しくないでしょ?こっちに行けばそこに出られるから」
それなのになぜかその道とは逆方向に進んでいく女性に不信感を覚える。
「お姉さん、どこに向かってるの?」
「こっちから回らないと出られないのよ」
そうなのか。内心そう思いつつ女性についていく。先ほどの場所から歩いて数分。もう周りには木々ばかりでいつ着くのだろうか、それだけを考えていた。
「お姉さん、あとどれぐらい?」
「…。」
返事がない。聞こえなかったのかともう一度聞いてみる。
「…。」
やはり返事はなかった。流石におかしいと思い女性の顔を覗き見るとニタッとした笑みを浮かべている。
「お、お姉さんどうしたの…」
するとグッと腕を掴まれる。
「い、痛いよ!は、離してよ!」
どうあがいても女性の手から逃れることができない。必死で助けを叫ぶ。
「誰か!助けて!助けてよ!」
山奥なので人気もなく返事はない。このままではまずいそう思った僕はもう一度叫ぶ。
「助けて!誰かー!」
すると人がこちらに向かってくる足音が聞こえる。
「き、君は!」
そこにはあの少年が立っていた。遊ぶはずだったあの少年が。誰であろうが今の状況はとてもまずい。僕は必死でその少年に助けを求めた。
「助けて!このお姉さん変なんだ!君の親を呼んできてくれないかな!」
そう言うと少年は笑った。クスクスと。
僕は唖然とした。今のこの状況を見て笑っていられることが怖かった。
「なんで笑うの…早く助けを呼んでよ!」
そう強く言うと少年はその口を開いた。
「はぁ?餌が助けを求めるなよ」
その言葉に絶句した。喋ろうとした言葉が喉から出てこない。
「ご苦労様、本当に助かったよ」
少年がお姉さんに向かってそう言った。
するとずっと黙っていたお姉さんが口を開く。
「えぇ、本当にこの子ちょろいわね。よくこんなのに逃げられたわね」
そう皮肉な言い方をする。すると少年は答えた。
「そのガキの親が勘のいいやつでさ、俺らのことを知ってたみたいなんだよ。すぐに家に来てたらここまでする必要はなかったんだけどな」
え…どう言うこと。何を言っているの。
小学生の僕では理解ができなかった。理解しようにもできなかった。
「ふふっ、それは運がなかったわね。でもすぐにここに連れてこられたんだから良かったじゃない」
「あぁ、簡単だったよ。あいつらのことも食いたかったがガキを食っていなくなったそのガキを探す親の姿を考えると笑いが止まらねでと思ってな」
「本当に性格悪いわねぇー。他の二人は?」
「あぁ、あっちで待ってるよ」
そう言って僕を持って立ち去ろうとする二人に僕は叫んだ。
「僕を離して!」
やっと声が出た。この二人は僕を殺す気だ、それにお母さんたちに危害を与える。そう思い早く逃げるために叫んだ。
「うるさいわね、ガキが」
「黙らせるか」
すると二人の姿が異形な姿へと変化していく。パキパキと音を立てながら背中から8つの足を生やし、顔が潰れてそこから鬼のような顔が姿をあらわす。そして体も大きくなり、その姿は異形そのもの。
「あ……」
開いた口が塞がらなかった。衝撃的な二人の姿。見る限り蜘蛛のような姿をしていた。
「早く食いたいねぇ」
そこら辺の蜘蛛とはまるで違う、とても大きく、異形な蜘蛛。パキパキと音を立てながら移動し始めた。
蜘蛛の足に掴まれ、身動きの取れない僕は叫ぼうとしたが蜘蛛の糸が口に絡み声が出せない。
「くくっ、この辺は子供が手に入らないから今日はご馳走だよ」
涙を流しながら僕は蜘蛛に連れていかれた。
そして気を失った。