校門には既に先生が佇んで、いつもどおり挨拶をしている。
「おはよう」
「おはようございます」
先生は校門を通る全ての生徒に挨拶をしている。そんな先生に挨拶をした後、下駄箱へと向かう。自分の上履きに履き替えた後、柳は「少し先生に話がある」と言って職員室へと向かったため妖花は一人で教室へと入った。
「おはよ、妖花ちゃん」
「お、おはよ」
後ろから急に挨拶をされたため少し動揺しながら挨拶を返した相手を確認する。
「み、美穂ちゃんかびっくりした」
「えぇー、見ないで挨拶してたの?」
ぷくっと頬を膨らませる美穂に笑みを返しつつ今の挨拶のことを訂正する。
「いや、そんなことないよ。ちょっと後ろから急にだったからびっくりしちゃっただけだよ」
「そっか、そっか。なら良かった」
笑顔に戻った美穂と共に教室へと入ると何やらいつもよりも騒がしい。いつもよりも早い時間帯であまりクラスメイトは来ていないはずなのに。
「何かあったの?」
集まっていたうちの1人である
「あ…あのね。昨日私たち行ったんだ…」
「行ったってどこへ?」
反射的に聞いてしまったが、聞かなくても妖花は分かっていた。一体彼女達がどこに行ったのか。
「まさか…商店街の…」
恐る恐る聞いてみると五十嵐はゆっくりとうなづいた。
「それで、一体何があったの!?」
「それは…」
五十嵐が話そうとした直後ガラッとドアが開いた。
「おはよーー!あっ、あれ?」
夏海が登校してきたようだ。
大きな音に皆が夏海の方を向いている。
「ねぇー。みんな何で集まってるの?」
夏海は早速こちらの状況に気づいたのかすぐにこちらへと駆けつける。そんな夏海に妖花は話の説明をした後すぐに五十嵐の方へと向いた。
「それで五十嵐さん。何があったの?」
「うん、綾ちゃん!教えて」
妖花と夏海の2人に聞かれて五十嵐は口を開いた。
「うん…それがね。私達あの商店街に行ったんだけど…」
「それで…」
「それで?」「それでぇ?」
妖花と夏海は2人して五十嵐に言った。
「特に何もなかったの」
「え?特に何もなかったってどういうこと?」
「あぁ。ごめん説明不足だね。"私達"から見たら何にもなかったの」
"私達"からみたら?
「一緒に行ったメンバーで月夜、あぁ、みんな分からないかもだよね。えっと
「道?それって…」
「噂の通りならどこか他の異界へと続く道だよね?」
男の子の声が聞こえて後ろを振り向くと声の主は柳だった。柳は少しだけ汗をかきながら憂わしげな表情で五十嵐に向けてそう言った。
「や、柳くん!でもその子がふざけていっているだけかもしれなかったから私たちもあまり本気にはしなかったんだ」
少し声が高くなった五十嵐のことは気にせずに話を聞く。
柳は荷物を持ったままこちらに来たので「置いてきたら?」と言うと「そうだね」とうなづいて席に荷物を置いてから小走りでこちらに来たことを確認して話を始めた。
「五十嵐さん。その苗木月夜って子は何組かな?」
「えっと隣のクラスだけど」
それを聞いた柳は顔色を変えて隣のクラスへと走って向かった。その後を追うように妖花と夏海、そして五十嵐は隣のクラスへと向かった。
隣のクラスの教室を開けると柳がクラスの人にその"苗木月夜"が誰かを聞いていた。
「今いるかな?」
「まだいないけど、どうしたの?」
「そっか。ありがとう」
その生徒に今はいないと言うことを伝えられていた。
「柳くん、急にどうしたの?」
妖花達は柳の元へと向かう。すると柳はこちらに気づいて妖花たちにこの教室に来た理由を話した。
「いや、もし本当ならその苗木って子の話を詳しく聞きたかったんだ」
「それなら五十嵐さんに誰がその苗木さんか聞けば早くない?」
そう妖花が言うと柳は「確かに」とやっと冷静になって答えた。そのあとすぐに五十嵐から「来たら伝えるね」と告げられて妖花達は自分のクラスの教室へと戻った。
また席についた妖花達は昨日の商店街のことを五十嵐に聞いていた。
「まぁ初めから話すね。柳くんが隣のクラス行っちゃって話が途切れたし。それで、昨日商店街に行ってね。その噂の場所が分からないから探してたの。月夜がこの商店街に詳しいから何か変な場所があったら教えてって言ってね」
「それで?」
「私たちは見つけられなかったんだけど月夜がここに知らない道があるって言うから見てみたらそこはただの"お店"だったのよ」
『お店?』
それを聞いて皆同じ反応を返した。
「うん、何のお店かって言うと駄菓子屋さんだよ。歳のとったお爺さんが店主をやってるね」
「駄菓子屋ね…」
「それでそれで!」
夏海が食い気味に聞いていく。
「うん。だからね、一緒に行った何人かでそのお爺さんに話を聞いてみたの。月夜は行かないって聞かないから少し離れた場所で置いてってね。そしたらそのお爺さんに何のこと?みたいに言われてやっぱり月夜が嘘ついてるんじゃないかって思ってね」
それを聞いて柳が何か考え込む顔をしている。
「じゃあ苗木さんが嘘をついたってこと?」
夏海がそう言うと柳はそれを否定した。
「いや、多分嘘はついてないと思うよ」
「私もそう思う」
妖花と柳はそう答えた。
「何でそう思うの?」
「いや、これは推測に過ぎないから獅子田さんが正しいかもしれない。でも苗木さんは多分本当に見たんだと思うよ。嘘なら嘘と終わってから伝えるだろうからね」
「確かにそうかもー。流石柳くんだねー」
五十嵐は柳の意見を肯定した。
「私も柳くんと同じ意見かな。まぁ今日ではっきりするのは確かだね」
妖花がそう言うと柳が話を始める。
「確かに苗木さんが来てから話を聞いてもいいけどね。五十嵐さん、答えて欲しいことがあるけどいいかな?」
「えぇ。何かしら?」
柳は少し間を置いたあと質問をした。
「君たちがいた場所は多分、隣は喫茶店、その駄菓子屋と呼ばれる場所を挟んで隣はずっと戸締りをしている何のお店かわからない建物じゃなかった?」
それを聞いて五十嵐の顔がどんどん真っ青に変わっていく。
「ど、どうしてそれを………?」
「それはね…」
と間を置いた。皆が柳の方に耳を傾ける。
「ここにもその道を見た人間がいるからだよ」
柳のその言葉に皆が息を呑んだ。
五十嵐はどう言う顔をしていいのか分からないようだった。
「えっと…それは…本当に、本当なの?」
震え口調で五十嵐は柳へと問う。
「うん、本当だよ。道の先に何があるのかは知らない。ただ僕はその駄菓子屋もその店の店主であるお爺さんも見ていない。その存在にすら気がつかなかった」
その問いに対し柳は冷静に答える。
皆に自分の言い分を信じて欲しいと訴えかけるように。
「じゃあ、仮にそれが合っているとしたらそのお爺さんは一体何者なの?」
妖花は柳へと質問すると柳は真剣な顔つきで答える。
「僕には分からない、だからそれを君と確かめに行くんだ。そのお爺さんが人だろうと人でなかろうとその真実を知ることが僕は必要だと思うんだ」
と答えた。
「確かにそうね、うん。柳くんの言う通りだよ。確かめる前に否定しても仕方ないからね」
妖花は柳の言葉に自分の意思を疎通させた。
それが今、確かめる上で必要だと言うことを理解したからだ。
「じゃあ一度苗木さんに話を聞こうよ」
妖花達は苗木が登校するまでの時間、後で来た泣塔と話し合いを始めた。夏海をまた誘ったがやはり断られたため結局3人でいくことにした。
「じゃあそれを確かめに行くんだね」
泣塔は元々確かめにいく予定だったので先程の話を聞いて柳の話を聞いていく気満々のようだった。
「柳くん!この子が苗木月夜だよ」
五十嵐に連れられてやってきた少女、苗木月夜が妖花達の前に現れた。
綺麗な黒髪のショートボブの髪型の少女は妖花達の顔を見るなり一言。
「やめたほうがいいよ」
そう言った。
「やめたほうがいい?君はあそこで僕と同じように道だけを見たんじゃないのかい?」
柳にそう言われて苗木は震えながら首を横に振った。その苗ヶ木の姿に妖花達も少し緊張してしまう。
「私…見たの」
「何を?」
そう聞くと苗木は震えた声で答えた。
「妖怪を」
その言葉を聞き逃すものは誰もいなかった。苗ヶ木は目の標準が合わずあたりを行ったり来たりしてどこを見つめていいのか分からない様子だった。
「妖怪をね…」
妖花は唾をゴクリと飲み込んだ。
妖怪という名を聞くのはこれで2度目だ。柳、そしてこの少女苗木。2人に共通点でもあるのだろうか、妖怪が見える、見えないかは。
「それでその妖怪っていうのは一体なんだったんだい?」
そう柳が聞くと苗木は震えながら答えた。
「ごめんなさい。あまり思い出したくないの」
そう言う苗木を不思議に思って柳は問い詰める。
「どうしてだい?」
「だって…………」
「だって?」
妖花達は同じ言葉を苗ヶ木へと返す。
「みんなが危なかったから、よくあれと笑顔で話せるなって怖くて怖くて」
「まさかそのお爺さんが…?」
「うん、多分みんなからはお爺さんに見えたのかもしれない。でも…私からはどう見ても異形の化け物…」
「その化け物が妖怪ってことよね」
「うん…あれはあれは」
苗木の震えが増していく。その姿に妖花達も流石に躊躇してしまう。
「大丈夫!?月夜!」
五十嵐は苗木の体を支え、心配の表情を見せる。
「いや、もう話さなくてもいいよ。大体理解したから。ありがとう、苗ヶ木さん」
柳にそう言われて苗木は五十嵐に連れられて自分のクラスの教室へと戻っていった。
苗木が視界から消えたあと、妖花達はそれぞれ目を見てその話について考察していく。
「とりあえず、苗木さんの言うことは正しい」
「うん、私もそう思うよ。苗木さんそれに柳くんがその道を見ているのなら間違えないと思うし」
「あぁ、僕は苗木さんが見たと言う妖怪は見ていないし、お爺さんも見ていない。見たのは道だけだったからね」
「神楽はどう思う?」
神楽にそう聞くと少し考えたあと、2人に伝えた。
「私、そのお爺さん見たことあるかも」
その言葉に2人の顔は変わった。
妖花は驚いた表情に、柳は意味深な表情に。
そんな2人を見て神楽は「多分ね、多分だよ」と自分の記憶が曖昧だったのかそう言っていた。
そんな中、柳が言う。
「一度行ってみないか?」
柳はそう提案した。やはり一度行ってみない限りは何もわからない。ここで何度議論をしようが答えは出るわけがない。それはもちろん2人とも分かっていた。
「確かにその通りだと思う」
神楽はそう告げる。
妖花もうなづいて共感していた。
「じゃあ、とりあえず放課後!一緒に行ってみようか!」
妖花達はそう決心すると、チャイムの音とともに自分の席へとついたのだった。