表裏一体物語-妖刀と少女を繋ぐ-   作:ニャンクル

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23.夜市への誘い

「ここから先は妖怪の世界ってことです」

 

 ただならぬ予感がする。

 妖花は唾をゴクリと飲み込み、柳の話に耳を傾ける。 

 

「出られるかは分からない。でも…必ず脱出しよう。僕にとってもこんな経験は初めてだから。妖怪自体はあの話が夢じゃないなら2回目だし、危険が及ぶならすぐに逃げよう」

 

「そうだね!」

 

「うん、無事帰れたら妖怪がいるって証明できるしね」

 

 柳は嬉しいのか怖いのかわからないような表情を浮かべていた。

 静かな路地。階段にある提灯の明かりに照らされながら3人は状況の整理を行なっていた。

 

「大体、こんなものかな?」

 

「うん」

 

「1つ、ここはあの猫商人が言うには妖怪の世界。2つ、ここから出る方法はその妖怪に聞かなきゃいけない」

 

「どうする?」

 

 今の状況、このまま進んでも良いものなのか、そうではないのか。

 

「時間が来るまで待つのはどうかな…?朝が来るまで」

 

「え?」

 

 そう提案したのは神楽だった。

 

「だって、朝が来たら助けを呼べるかもしれないし、あと夜市ってことは夜しか開催されないからじゃないかな?」

 

 たしかにそうかもしれない、そう思った。

 

「今何時だっけ?」

 

 ふと時間が気になった妖花が柳に聞くと、柳は左腕につけていた時計を見ている。

 

「ん?これ…」

 

 柳が何やら時計を見ながら驚いた表情を浮かべている。

 

「どうかしたの?」

 

 不思議に思った妖花は柳にどうしたのかと聞いた。すると何か理解したのか2人の方を向いてあることを聞く。

 

「いや、僕たちがここに来てもう1時間、いやまぁ正確な時間はわからないけどそれぐらいは経過しているはずだよね?」

 

 2人はそう言われて思い返してみるとここにきたのは7時だったということを思い出した。

 

「うん、入った直後確認した時、7時ぴったしだったけど」

 

「だよね…」

 

 そう言った柳は身体中から汗が吹き出し、みるみるうちに顔が青ざめていく。

 

「これを見て」

 

 すると、つけていた時計をこちらに見せてきた。その時計を見た2人は驚く。

 

「え?まだ7時1分?」

 

「絶対それはありえないよ、時計が壊れているんじゃないの?」

 

 神楽は驚きのあまり時計の故障ではないかと思ったがすぐに柳に否定された。

 

「うん。僕もそう思いたい、でもこの時計が動いているのは確かだよ、急に壊れるなんてありえないからね」

 

「ならどうして?」

 

 神楽が震えながら聞くと妖花がその説明をする。合っているかどうかは分からないがそれしか考えられなかった。

 

「多分ここと現実では時間の経過が違うのよ」

 

 妖花がそう伝えると柳は理解したのかうなづいた。しかし神楽はまだ信じられないのか固まっていた。

 

「そんな…それって…」

 

 神楽は思う。

 信じられないが今は妖花の意見が正しいと思った。たしかにずっと時が進んでいないように感じていたからだ。それをみにしみて感じると不安でいっぱいになる。

 

「え…じゃあこのまま待つのは…?朝が来るまで!」

 

「それはダメね」

 

 神楽の提案はすぐに否定された。否定するしかなかった。それだけは絶対に出来なかった。

 落ち着きがなく、今にも泣き出しそうな神楽を慰める。

 

「落ち着いて神楽。落ち着いて」

 

 妖花の言葉に少し落ち着きを取り戻した神楽は柳の方へと目を向けると柳が考え事をしていた。

 

「や、柳くん…大体どれくらいかかるか計算できる?」

 

 そう言われる前から柳はすでに計算をしてもう終えていたらしくすぐに答えた。

 

「あぁ、僕の計算だけど、この世界の時間は1時間あたり現実世界では1分、と言うことはこのまま朝を迎えるためには午前7時だと考えて12時間…」

 

 12時間…やはりとてつもない。

 

「そして、この世界では1分で1時間。つまり、1時間経過するのは60時間。2日と半分。だからだいたいそれの12倍。1ヶ月程はかかるね」

 

「やっぱりね…」

 

 妖花は1時間が1分と分かった時にどれほど待てば良いのか大体予想がついていた。だからそこまで驚きはしなかった。しかし神楽は違った。

 

「1ヶ月もこんなところでうづく待ってろって言うの!?」

 

 正確にはそれは違う。仮に1ヶ月ここにいたとしても帰れる保証はないし助けを呼べる保証もない。

 

 神楽は酷く混乱しており、自分でも自我を保てなくなっていた。

 そんな神楽に向けて妖花は手を合わせる。

 そして大きな音が響く。

 

「痛いー!何するの!?」

 

「少しは正気に戻った?」

 

 妖花は手を合わせた神楽の手をおもいっきり叩いたのだった。痛みで手がじんじんと腫れ上がっている。そんな中妖花は真剣な目で神楽を見つめていた。その目にはなんとかしなければと言う信念が感じられた。

 

「落ち着いてね。私達も今からどうにかしてここから出る方法を考えないと」

 

「うん…ごめん。取り乱しちゃって」

 

「仕方ないさ、2人とも。あのさ、僕に考えがあるんだがいいかな?」

 

「考え?」

 

 2人は声を揃えてそう言った。

 柳は少しためてから話し始めた。

 

「あぁ。一か八かここにいる妖怪にどうにかしてもらう。それはこの階段の奥の世界を見てから決めることだけど、それで構わないかな?」

 

 そう言われて妖花はすぐに賛成した。

 

「うん。私はそれでいい。いや、その方がいい、それしかない気がする」

 

 今はこの方法しかないだろう。1ヶ月も待ってはいられない。すぐにでもここを出たい。

 すると神楽が2人の方を向いた。

 

「私も…」

 

 小さな声だったが涙を拭った神楽の姿に決意を決めたということは見て取れた。

 

 3人の意見がまとまったところで階段をゆっくりと上がっていくことにする。

 

「じゃあ行くよ」

 

 柳の声で三人は動き始めた。柳を先頭に神楽を挟む形で柳、神楽、妖花、の順番で階段を上がる。

 

 明るい提灯が誘い込む。階段の奥の景色を見るためにゆっくりと進む。

 

「少し見えてきた」

 

 ほんの少し見えてきた世界はまだ何か分からない。ただ差し込む光はだんだんと大きくなっていく。

 

「いくよ!」

 

 その掛け声で3人は走って階段を駆け上がった。そしてこの世界を見た。

 

「こ、ここが夜市か」

 

 階段を上り切った3人は少し呼吸を整えて頭を上げるとそこには日本の特色が感じられる景色が広がっていた。

 

「これは…市場というよりもすごく昔の建物とかそういう雰囲気。なんというかどこか懐かしいようなそんな感じだね」

 

 妖花はそう呟いた。

 

「あぁ。夜市というからどういうものか分からなかったけど和風の建築が多いね」

 

 和風の建築物が立ち込める。

 その建物の前で屋台のようなお店など自分たちが暮らす世界と同じような形で何かを売っているようだった。時代劇で見るような景色。江戸の遊郭を思わせるような建物も点在している。古く活気のある町並みが目の前には広がっていた。

 

「やはりここには人はいないみたいだね」

 

 周りを見渡しても人はいない。確認できるのは奇妙な人型の何か。カエルの顔の者や般若の仮面を付けた者など様々な姿をしていた。

 

「うん…すごく今怖い。私は怖くて目を向けられない」

 

 神楽はやはり恐怖を覚えていた。見知らぬ世界、そんな中ここに閉じ込められているのだから仕方ないだろう。

 

「大丈夫だよ。人ではないけど歩いている人に話を聞かないと出られないからね。それにこんな不思議な世界があるなんてすごいじゃないか」

 

 目をキラキラさせている柳に対して妖花は不安を隠しきれなかった。

 

「柳くん、興奮するのは分かるけど、今はそんな時じゃない。出る方法を考えないと」

 

「そりゃそうだけどさ、この世界に来るのは最初で最後かもしれないんだよ?」

 

「話ならこの世界から出てからたくさん聞くからさ。神楽も怖がってるし」

 

 柳は階段を登る前とは打って変わって子供のようにはしゃいでいた。その姿に妖花は違和感を感じずにはいられなかった。

 

「なんだぁ?こりゃ人間のガキじゃねえか」

 

 そんな話をしていると周りに人ならざる者たちが集まっていた。どうやら私たちに気づいたらしい。

 

「きゃっ、なんなんですか」

 

「人間がここに来るなんざ何年前の話だろうな」

 

「こりゃまためずらしいのぉ」

 

 長い髭を蓄えた頭の長い妖怪が話している。

 

「か、囲まれた」

 

 他の妖怪も集まり私たちは囲まれてしまった。しかし妖怪との間に少しだけではあるが隙間が空いている。

 

「やばい、早く逃げなきゃ」

 

 そう言った直後だった。

 

「おいおい、お前ら少し離れないか」

 

 その声は妖怪たちを一瞬で黙らせた。

 そして集まっていた妖怪たちはバツが悪そうに去っていった。

 

「すまないな。君たちに危害を加える気はないんだ」

 

 そう言って現れたのは目が一つ真ん中にある、青年のような体型の男の妖怪だった。甚平を身に身を包み、青い短髪が特徴的。ゲタをカツカツと言わせている。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いやいや、こちらが悪い。あいつらも興味本位だったんだ。許してやってくれ」

 

 一つ目の妖怪は深々と頭を下げた。

 

「いえ、大丈夫です」

 

「あなたは…?」

 

「俺は一つ目小僧。まぁ小僧って言うけどもう見るとおりもう青年なんだけどね!」

 

 3人とも警戒していた。突然現れた妖怪に対して警戒心はあるものの、何と言うか呆気に取られていた。

 

「ははっ!今笑うところだよ!」

 

 笑いながら頭を抱えた1つ目小僧だったが3人に沈黙が流れる。

 

「流石に今は笑えない…」

 

「いやー。すまなかったね、今は流石にジョークが通じないか」

 

 答える姿は人とほとんど変わらないほどに自然だった。そんなこともあり、3人は一つ目小僧とは怖がらずに話せた。

 

「あの、あなたは一体何者なんですか?さっき妖怪たちに指示をしていたので…」

 

「いやいや、ただここらで顔が聞くだけだよ。こう見えても有名人なんだよ、この世界じゃね!」

 

「はぁ、そうなんですか」

 

「まぁ立ち話もなんだし、こっちへ来なよ」

 

 その後、3人は一つ目小僧に言われるがまま近くにあった木で出来たベンチに座り込んだ。

 

「それで、君たちはここにどうやってきたのかな?」

 

 そう聞かれたのでとりあえず事の経緯を話した。

 

「ほうほう、そう言うことか。よーしわかった!」

 

「え?分かったってどういう…」

 

 妖花がそう聞くと一つ目小僧は答えた。

 

「よし、じゃあ俺がここから出る方法を教えるとするよ」

 

「出る方法分かるんですか?」

 

 その言葉に私たち3人は喜んだ。

 よかった、やっと出られるんだと。神楽の先程までの顔が嘘のように笑顔になっている。

 

「出る方法なら先に教えておくよ。この先にある門を抜けるそれだけでいい」

 

 指を指した方向には確かに大きな門のようなもの見える。

 

「それだけでいいんですか?」

 

「うん、でも掟がある。

 一つ目は絶対通り抜ける時喋らないこと。

 二つ目は1人ずつ通り抜けること。

 三つ目は一度門へと足を踏み入れたら何があってももう一度門へは戻らないこと。

 これだけさ」

 

 それだけで出られるのか。それならよかった。怖い思いをしないでいいんだ。

 そう思うと自然に気が楽になった。

 

 しかしそれで気が抜けてしまった。それがダメだったのかもしれない。

 気を抜かなかったらこんなことにはならなかったかもしれない。

 

 

 それは少しあとの話だ。

 

 

「よーし、じゃあさ、みんな遊ばないかい?」

 

「遊ぶ?」

 

「あぁ、運がいいことにここで俺は顔が聞くから出るついでにいろいろして行こうよ、楽しいよ」

 

「そうですね!」

 

「ちょ、ちょっと…」

 

 妖花はあまり乗り気ではなかった。しかし笑顔の2人を見ているとあまり強く否定はできなかった。

 

「まぁまぁ。だってさこうやって親切な妖怪にも出会えて案内までしてくれんだよ?それに妖怪の世界のことを知れるんだからいいじゃない」

 

「うん!この…一つ目小僧さんはいい人だと思うの。だから多分大丈夫だよ…」

 

「うん…2人が言うなら…でも、一つだけ約束してね」

 

 妖花は2人にこそっと何かを言うと2人は強くうなづいた。

 

 

「じゃあ行こうか、3人とも!」

 

 3人を先導して一つ目小僧は夜市を出る門へと向かった。3人は並んで一つ目小僧について行った。

 冷や汗をかきながら…

 

 

 先導する一つ目小僧の顔は狡猾な薄笑いを浮かべていた。

 

 

『ガキ3人…ちょろいな』

 

 私たちに聞こえないように1つ目小僧は呟いていた。

 

 

 

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