表裏一体物語-妖刀と少女を繋ぐ-   作:ニャンクル

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26.またね

 

 

 2人と別れた妖花は一人自分の暮らす家へと向かっていた。

 

「結構疲れた…」

 

 独り言を言いながら電灯が照らす道路を歩く。

 数秒おきに車が通る人通りの多い道を歩き、学校を抜けていつもの坂へと辿り着いた。何だかんだ今日は思ったよりも疲れてない。妖怪の世界で【夜市】という不思議な市場に訪れたのに。

 

「よーし、あと少し!頑張るかー」

 

 自分に気合を入れて一歩ずつ少し重い鞄を持ちながら坂道を歩く。

 帰り道も車が通る。電灯もある明るい場所だったので特に何も気にせずに家に向かって歩く。

 凄い経験をした、それだけが妖花にとってとてつもない物になっていた。今後、生きていく中でこんな経験は早々ない。

 夏海やなごみに言ったらどうなるだろう。さすがに信じてはくれないか。でも、なごみは疑り深いけど夏海は天然だから絶対に信じてくれそうな気がする。

 

 ふふっと妙に笑顔になってしまう。新しい友達も増えた。泣塔神楽と柳翔。2人とは他の人とは違う絆で結ばれたような気がする。

 

「よし、明日も頑張ろうかな」

 

 そして歩き、歩き、歩き、歩き…

 

「着いたー!!」

 

 やっとの思いで家へと辿り着いた。

 家の明かりはついており、母が夕食の準備に取り掛かっている頃だろうと思う。

 

「疲れたから早く寝よっと」

 

 妖花は汗まみれの身体を早くシャワーで洗い流したくて仕方がなかった。べたっとした服を摘んでみるとまだまだ汗が吹き出している。胸に目を向けるとスポーツブラジャーがくっきりと浮き出ておりこの姿で帰っていたことに顔がリンゴのように真っ赤になってしまう。

 そしてぎゅっと自分の体を抱きしめて、そそくさと玄関の扉の前へとやってくる。

 

「怒ってるかな…」

 

 今日は何も告げずに7時まで帰らなかったので母親に心配をかけているだろう。

 妖花は母親に会ったらすぐに謝ろうと決めていた。

 

「謝れば大丈夫かな」

 

 妖花は勢いよく玄関の扉を開いた。

 

「ただいまー!」

 

 そして扉の中へと入るといつもの景色が…

 

 

 

 広がってはいなかった。

 

 

 

「あれ、ここどこ?」

 

 いつもとは違う景色が広がっていた。

 ここはどこだろうか、帰る家を間違えたのか、いやそうではなかった。

 扉の先は家の中とは思えなかった。なぜなら路地だったからだ。

 見たことのある、つい先程見た景色が広がっている。

 ガチャっと扉が閉まる音が聞こえて後ろを振り向くと玄関の扉は消えていた。

 

「えっ…もしかしてここって…」

 

 そこはあの路地だった。あの、猫商人と会った路地。

 息を飲んだ。いつもなら、自分の家の玄関を開けるとそこにはいつもの家の廊下があるはずなのに。なぜここに来てしまっているのか。

 そんなことを考えているうちに、頑張って歩いてかいた汗が冷や汗へと変わっていた。

 今の状況を整理しようとしても頭が回らなかった。それに少し肌寒い。

 

「一体何が起こっているの?」

 

 そう思っていると声が聞こえてきた。

 

「やっと来たか、遅いんだよね〜」

 

 どこかで聞いたことのある声。いや、どこかではない、ここで聞いた声。

 

「あなたは…」

 

「ありゃ?今日会った少女じゃないか〜」

 

 階段の上、つまり夜市の会場に続く階段に人影がある。光の反射で顔は見えないが誰かと言うことは見なくてもわかった。

 

「あなたは一つ目小僧さん…?」

 

「ご名答、あたりだ」

 

 腕を組んでこちらを見つめる一つ目小僧を見て妖花はなんだか嫌な感じがした。

 

「あの、私…何故だかここに来てしまったんですけど」

 

 そう聞くと、一つ目小僧は笑いながら答える。

 

「そりゃーそうさ!俺がここに来させるように仕向けたんだから!」

 

 腹を抱えて笑う一つ目小僧を見ても妖花は全く笑えなかった。

 何が言いたかったのかも分からなかった。

 

「それってどう言う…」

 

「君は理解できるんじゃないの?」

 

「私なら…?」

 

 分かるわけがない、今の状況を整理するので頭がいっぱいだった。

 

「まぁ来なよ」

 

 そう言ってこちらに手でこちらへこいと呼んでいる。

 

「嫌です」

 

 妖花は後ろへ後退り、壁にもたれかかった。

 ひんやりと冷たい壁が妖花の体温を少し下がるのを感じる。そんなことよりもこの一つ目小僧について行っては行けないと感じた。嫌な予感がする。

 

「私は行かない、どれだけ時間がかかっても、何をされても動かない」

 

 睨むように一つ目小僧を見つめると先ほどまで笑っていた顔が真顔に変わる。

 

「来なって」

 

「嫌だ」

 

「来なよ、早く」

 

「嫌だ」

 

「悪いようにはしない。来なよ」

 

「嫌だ」

 

「早く来なよ」

 

「だから、嫌だって…」

 

 そう言い終わる時、怒号が響いた。

 

「こい!」

 

「…。」

 

「早くこいよ」

 

 その怒った一つ目小僧を見て妖花は思った。

 

「本性を表したのね」

 

「うるさい、早くこい」

 

 何を言われても動くつもりはなかった。

 今一つ目小僧に従ったら生きて帰れるか分からなかったからだった。

 

「嫌だ、何をされるか分からないのにいくわけがない」

 

 そう言うと一つ目小僧はため息を吐いて答えた。

 

「お前を喰う」

 

「えっ…」

 

 耳を疑った。

 今なんて言ったの?私を喰う?人を食べるってこと?

 

 妖花の脳内にあることが頭をよぎる。

 

『妖怪は信用できない』

 

 妖花は急に震えを覚えて、一つ目小僧がこわくてしかたがなくなった。

 

「言った。早くこい」

 

 命令とも取れるその言動に妖花は抗う。

 

「そんなことを言われて行きますってなるわけがない」

 

「まぁ別にいいよ、無理にでもこさせるし」

 

 その瞬間、後ろから妖怪がすり抜けてやってきた。がたいの良い2人のツノの生えた妖怪に妖花は掴まれ、身動きが取れなくなった。

 

「きゃっ、何するの!」

 

 何度も抜け出そうとするも、二体の妖怪に手も足も出ない。

 

「早く上がれ、階段を登れ」

 

 一つ目小僧にそう言われて渋々登るしかなかった。

 

「っ…。分かった」

 

 仕方なく妖花は階段を登った。

 出来る限りゆっくりと。

 誰かが助けに来てくれるのではないかと淡い期待を抱きながら。

 しかしまた「早く上がれ」と言われて妖花は少し早い速度で階段を登った。

 

 登り切った妖花の目には夜市の景色が広がっていた。先ほども見た景色だった。しかし少し違って見えた。

 三人の時はあまり怖いとは思わなかったのに、一人でここにくると恐怖が増していった。それに今は何をされるかわからない状況。妖花は一つ目小僧を睨みつけた。

 

「いい目だ。こりゃあいい」

 

 頬を掴まれて妖花をじっと見つめる一つ目小僧に妖花は問う。

 

「どこへ連れていく気ですか」

 

「だまれ。それよりも…ほれほれみんな集まれ」

 

 その言葉でたくさんの妖怪が妖花の周りに集まる。

 その時にがたいの良い妖怪二体が一つ目小僧の指示で私の腕を解放した。

 

「なぁ少女よ。お前気づかなかったか?俺は嘘はつかないんだよ」

 

「だから、何を気づかないって…」

 

「はぁ…これでも気づかんか、よく思い出せよ」

 

「何を…」

 

 妖花は思い出した。この一つ目小僧の言葉を。最後、3人であの場所から脱出する時の最後の言葉を。

 

「あなたは私にだけ"またね"って言ったことよね」

 

「その通りだ!いやー、こりゃー脳が発達してるのかなぁー」

 

 確かに思い返してみるとそうだった。

 この一つ目小僧は柳と神楽に最後に言った言葉は神楽に「さようなら」と柳に「もう会うことはない」と言っていた。しかしわたしには「またなー」と言っていた。

 

「2人にはもう会うことはないようなことを言って私にだけはまたなって…」

 

「あぁそういうことだ」 

 

「でもどうやってわたしをここに連れてこられたの!?私はこの世界を理解してない、でも2人となんら変わらず…」

 

「違うんだよ、言っただろ?俺が仕掛けたと」

 

「ま、まさか…」

 

 妖花は思い出したように自分の筆箱を広げて中身を確かめる。

 すると今までなかったあの玩具の売っていた場所にあった自分の意思で動くコマが入っていた。

 

「これは…なんでこれが入ってるの?」

 

「そりゃーあの時に入れたのさ、君が筆箱を渡した時にね」  

 

「くっ…でも、花火でいいって言ったじゃない!なんで私をここに呼んだのよ」

 

「花火じゃ割りに合わない。本当は三人まとめて連れ去るつもりだったのに。感謝して欲しいくらいだね、君だけにしたんだから」

 

「ならあなたは嘘ついてるじゃないですか、花火でいいって言ったのに」

 

「誰がそんなこと言った?花火がもらえるならそれでいいと言っただけで満足したとはいってない」

 

「くっ…」

 

「それに君を選んだのは君が頭がいいと思ったからだ」

 

「頭がいいって何がですか?」

 

「いやー、鬼熟おでんをあげた時わざと落としたでしょ?」

 

「えっ…」

 

 バレていた。

 

 妖花は何か危険が及ばないようにできる限りこの世界のものを持ち帰らないようにだけしていた。それは食事も同じだった。もしかしたらということで事前にふたりにも説明して約束していたのだ。

 

「いやー、俺が目を離しているうちに何かしてるなと思ったけどやはり友達とそうやってやってたわけだ」

 

「うん、もしもの時があったら困るから。それにあなたを信用できるわけがなかったから。初めての空間、初めて会う妖怪。私達もそんなに馬鹿じゃない」

 

「そりゃーそうだな、人間でもない妖怪のいうことをいちいち信じる方がおかしい」

 

「少しは…最後は信用してもいいかなって思ってなのに!」

 

 妖花はどこか隙ができないかと探していた。

 しかし、全てバレてしまっている。これでは隙も生まれない。ここから脱出ができない。

 

 この状況に妖花は強がっていただけで本当はとても怖かった。このまま私は死ぬのだろうかと恐怖に襲われていた。

 しかし、諦めるわけにはいかなかった。

 

「2人には危険な思いをして欲しくなかった。だからあの時も私が率先してあなたに渡したの。こちらのものを持ってくる妖怪もいるって言ってたから」

 

「あぁ、君の読みは正しい。素晴らしいよ、俺の言葉を一言も漏らさず聞いて、そのうえで手をうってくるなんてね」

 

「だから大丈夫だって思っていたのに…」

 

「あぁ、それは残念だったねー。君のいう通りそちらの世界のものをこちらに持ってきても特に何も起こらない。しかし、こちらの世界の物を君たちの世界に持っていくのとでは話は別だ」

 

「やっぱり。そういうことだったのね」

 

 読み通り、こちらの世界で得た物は持ち帰ることが出来ないらしい。ただ、私は少し気を抜きすぎていたのかもしれない。だからこうして私は危険な目にあっているのだから。

 

 ここから抜け出すにはまずこの妖怪達から囲まれている今の状況をどうにかしなければならない。

 

 何かいい方法はないの…何か、何か、何か…

 

 そして妖花はあるものに目を向ける。

 

『こ、これなら!もしかしたら何とかなるかもしれない!』

 

 妖花はバレずにどうにかこの状況を打開する作戦の実行に徹する。

 

「悪いけど、私はここから脱出するから」

 

「そんなこと俺たちが許すはずがないだろう」

 

 集まった妖怪が妖花を取り囲む。

 このままでは私は妖怪達に食べられてしまう。

 だから今しかない!

 

「なら仕方がないわね」

 

「あぁ、大人しく捕まってくれるかな?」

 

「嫌に決まってるでしょ」

 

 妖花は一つ目小僧を睨みつけながら言い放った。

 その時、妖花は筆箱のコマを一つ目小僧に投げつけた。コマは妖花の意思に従って的確に一つ目小僧の目へと一直線に向かい、一つ目小僧の目に当たった。

 

「ぐわっ…」

 

 一つ目小僧が目を押さえながらしゃがみ込んだ。その機を妖花は見逃さなかった。

 

「今しかない!」

 

 妖花は一つ目小僧に集中した妖怪たちの隙間に向かって走るもすぐに妖怪達が隙間を埋めたため開いていた妖怪の股の間に向かって走り、滑走してその場から逃げることに成功した。

 

「くそ…おい!あのガキを追え!早くしろ!」

 

 目を押さえながら一つ目小僧は周りにいた妖怪達に命令した。その言葉で周りにいた妖怪たちが妖花を追いかける。

 妖花は振り返ることなく一生懸命走り続ける。先ほどの疲れを忘れたように急いで夜市の会場にある路地に入り、妖怪たちから逃げる。

 

 入り組んだ路地を走りながら妖怪達に見つからないために走る。

 

「おい、どこにいったあのガキ」

 

「はぁはぁはぁ」

 

 妖花は走りながら道に並んだ屋台に置いてあるものを追いかけてくる妖怪に向かって投げつけながら必死に逃げる。

 

「くそ!このガキが!!」

 

「おい、何しやがる」

 

 屋台の店主は怒り狂って妖花たちに怒号を飛ばす。そんなことは気にせず、妖花は今は逃げることだけを考え、必死になっていた。

 

「よし、作戦成功!これから逃げないと!」

 

 一つ目小僧は痛みに耐えながら周りの妖怪に妖花を追わせてある場所に向かった。

 

「あのガキ絶対ゆるさねぇ、楽には殺さねえぞ」

 

 投げられたコマを握り潰してそう言い放った。

 その姿は怒り狂っており、他の妖怪も声をかけることができなかった。

 

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