表裏一体物語-妖刀と少女を繋ぐ-   作:ニャンクル

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28.虚実の門

 

 

 狭い路地で妖花は夜市からの脱出方法を助けてくれた妖怪である式神とともに模索していた。

 

「あの、ここから出る方法は他にはないんですか?」

 

 式神は少し考えたあと、口を開く。

 

「あるにはある。だが、一か八かだ」

 

「それでも構いません。私は生きてここから出たい、それだけです」

 

「虚実の門。いわば正規の道だ。呼ノ後門は自分の行きたい場所に連れて行ってくれる門なんだ。だからこそ、お前たちは外に出られたんだろう。しかしあの門は一度しか使えない。正規の門である虚実の門なら出られるはずだ」

 

 それを聞いて妖花はほっとした。この妖怪についていけば無事に出られるかもしれない。そう思った。しかし先程の言葉が引っかかった。

 

「あの、一か八かっていうのはどういうこと何ですか?」

 

「いや何、単純な話。その門に行く時、気づかれたらまずいという話だ。あの門はとても警備が厳しくてな、出るのにも時間がかかる。それにあの門には番がいる。そいつに良いと言われて初めて出られるんだ」

 

「そうなんですか…」

 

 歓喜した妖花だったがその言葉で少し気持ちが下がってしまった。

 

「しかし、出れさえすれば確実に元の世界に戻れるだろう。その門にさえ行けばすぐに帰れるように手配する、心配するな」

 

 そう言われて妖花は式神に感謝する。

 

「はい、ありがとうございます」

 

「力は尽くす。私の持てる力を使って必ず外に出してやる」

 

 その言葉にまた元気をもらった。

 

「ありがとうございます、なんでそこまでしてくれるんですか?」

 

 そう聞くと、式神は黙った。

 

「あの…」

 

 すると式神が妖花の頭を撫でながら答えた。

 

「それはな、縁だ。縁があった、ただそれだけだ。縁がなければお前にすら出会えなかっただろうからな」

 

「なら私は式神さんに出会えて良かったです」

 

 満々の笑みで妖花は答えた。

 

「そうか、お前も運が良い。それよりもこれを羽織れ」

 

 そう言いながら、式神はローブを見にまとう。ローブはフードのある魔女などが着ていそうな黒いローブだった。

 式神からローブをもう1セット借り、羽織ってみると何だかとても暖かかった。

 

「これはどういうローブなんですか?」

 

「これはな、ただのローブさ。何の効果をない」

 

「あっ、そうなんですか」

 

「少しでも発見される可能性は無くしたい、それでは行くとするぞ」

 

 妖花と式神は闇夜市から出るために動き始める。先程、追っ手が通った方向へ式神が歩き始める。

 

「まずはこのまま真っ直ぐ進む。変に動揺したりはするな、動揺したら奴らにバレてしまう」

 

 それを聞いて妖花は式神に聞く。

 

「わざわざ追手のいるところから出るんですね」

 

 妖花にはそこが気になった。わざわざ追手がいるところから出るのは訳があるのだろうと。

 

「闇夜市はまだ続く。あの見える光の先もまた闇夜市。先程追っ手がこの道を進んだことは確かだがこちらの道でなければ、私たちの目指す出口は遠くなる」

 

 この夜市は妖花にとっては不思議な場所であり、移動してきた迷路のような道が続くだけ。光の先もまた闇夜市であればいつ私は出られるのだろう。

 

「分かりました。ならその方がいいですね」

 

「ほかに質問がないなら向かうぞ。先ほども言ったが変に動揺はせず、客としてこの闇夜市を出ていくぞ」

 

「分かりました。ポーカーフェイスは得意なので自信はあります」

 

「あぁ、期待しておく。まぁそのポーカーフェイスとやらは使わないがな。顔を見られたら終わりだ」

 

 確かにその通りだと妖花は思った。式神と会ってから少し浮かれているらしい。こんなことではダメだと妖花は気を引き締める。

 

「それもそうですね…」

 

「無駄話は後にして、では行くぞ」

 

 その言葉で一人と一体は動き始めた。

 不自然な動きはせず、ただこの闇夜市から出て行く客として移動をする。

 真っ直ぐ進んだ光の先は少し広い道だった。光の正体はどうやら街灯が照らしているだけだったようだ。道の先の階段には妖怪がたむろしており、仲間からの知らせを待っているようだった。

 すると、妖怪たちはこちらをみるなり近づいてくる。

 

「おい、そこの二人組。お前ら人間の少女を見なかったか?」

 

 やはり私を探しているらしい。

 

「見てないな。私たちはここに買い物にきただけだ。面倒ごとには関わりたくはないからな、だから特に教える情報はない」

 

「そりゃそうだな、わかった。お前は体格的にも人間とは思えんからな」

 

 笑いながら答える追手を尻目に妖花は出来る限りローブを深く被った。

 

「そちらの小さいのはもしかして人間じゃないのか?体格からして人間に見えるが」

 

 そう言われてどきっとした。このままではバレてしまう。

 

「まぁ人間に力を貸す妖怪がいるとは思えんがもしもの時があるからなぁ」

 

 そう言いながらじーっとこちらを見つめる。まずい、バレてしまう。私は深くローブを被っていたとは言え、体格を変えられるわけではない。

 すると、式神が妖花に向けてこう言った。

 

「ローブを上げろ」

 

 そう言われて妖花は驚いた。直ぐに裏切られたからだ。助けるその言葉には嘘しか無かったのだろうか。

 

 この状況でここから逃げ出すのは難しい。もう捕まるしかないんだ。妖花は悟った。

 すると、式神が「大丈夫だから上げろ」そう妖花へ告げた。

 妖花はその言葉を信じるしか無かった。

 

 コクリとうなづいて仕方なくローブを上げようとするとき妖花は思う。

 

 このままではバレてしまう。何を考えているんだろうと妖花は式神を見るも目さえ合わせてくれない。

 心配しながらもゆっくりとローブを上げた。

 

 終わりだ…このまま捕まってしまう。式神に裏切られたのかな…

 

 そう思う妖花は追手の妖怪の言葉に驚く。

 

「人違いだな」

 

「え?」

 

「何がえ?だ。どう見てもお前は違う、通ってもいっていいぞ。俺たちは人間の子供の女を探しているんだ、男の妖怪になんぞ興味は無い」

 

 通っていいぞと言われ、妖花と式神は闇夜市を抜ける階段を登った。そこから先は式神について行くだけだった。右折し左折し右往左往しながら進むとようやく闇夜市から出られた。

 一息付く間もなく、すぐに妖花は式神に尋ねた。

 

「何でバレなかったんですか?」

 

「それはこれさ」

 

 式神の手には霧吹きの形をした薬のようなものだった。

 

「まぁ見てみろ」

 

 式神は自分の顔に向けてその薬を吹きかけて、妖花の方を向いた。

 

「あ!顔が違う、全然違う顔になってる!」

 

 確かに顔が変わった。こんな霧吹きで顔を変えられるとは思わなかった。

 

「この霧吹きでかけた者の顔を変える能力がある薬だ。これを吹きかけたからバレずに済んだんだ」

 

 やはり夜市。どんなものでもあるのだなと感心した。

 それよりもいつの間にこの霧吹きを私にかけたのだろうと疑問が残った。しかしそんなことはあまり気にしなかった。

 

「そうだったんですか、助かりました。一時はどうなるかと冷や冷やしてしまって」

 

「まぁこうなることは予想できていたからな。今顔を変えたままにしているがそのうち効果は切れる、この薬の効果は一時的なものだからな。それに…」

 

「どうかしました?」

 

「いや、なんでもない。もたもたしている暇はないからな。そろそろ行くぞ」

 

「はい!」

 

 そう大きく返事をした妖花だったが自分の顔がどんな顔なのかとても気になっていた。

 

「あの、すみません。私の顔って変わってるんですよね。変な顔じゃないですよね」

 

「何言ってるんだ、顔を変えるって人間の顔じゃないんだからそれは妖怪みたいな顔になってるぞ。それに俺は妖怪だ。感性がまるで違う。俺に聞くのは間違えだぞ」

 

 ガーン…なんだろう、この感じ。

 なんとなく嫌な感じ。褒められてもなければ貶されてもない。全く興味を持たれてない…

 少しぐらい何か言ってくれてもいいのにと思う妖花だった。

 

「おい、そろそろ行くぞ何してる」

 

「え?あっ、ごめんなさい」

 

 妖花は式神に呼ばれてやっと気づき、移動を開始する。

 

「よし、闇夜市を抜けたな。とりあえず目的地まで向かうぞ」

 

「はい!」

 

 妖花は式神の跡をついて行った。

 

 第一関門突破のようだ。

 

 ♢♦

 

 その頃、一つ目小僧はある場所に向かっていた。

 

「一応だ。他の妖怪に道を聞いて正規の道であるここに来ているかもと踏んだがまだいないみたいだな。それとももう通った後か?」

 

 一つ目小僧は門番に話を聞くとそんな人間は通っていないと言われ、とりあえず待ち伏せすることにしたのだった。

 

 その間も妖怪を集め、捜索に向かわせていた。

 

「絶対許さねえ」

 

 唇を噛みしめて一つ目小僧は吐き捨てた。

 

 ♢♦

 

 妖花たちは出来る限り妖怪の多い通りを歩いていた。

 

「あの、あとどれぐらいでつきますかね」

 

 妖花がそう聞くと式神は黙っていた。

 

 今は聞くなと言うことなのだろうかと勝手に解釈して後ろをただついて行った。

 

 少し歩いたところで式神は立ち止まる。

 

「少女よ、この道はまずい。移動しよう」

 

 そう言われて妖花は黙ってうなづき、違う道へと進む。なぜ道を変えたのだろうと前を見ると追ってが大勢歩いていた。

 

「流石にあの数はバレるかもしれないからな」

 

 妖花はそう言うことか、と理解し式神の後をついて行く。

 式神は妖花の歩くペースに合わせて歩く。それに妖花は気づかず式神についていく。そうやって一人と一体はこの夜市からの脱出を試みる。

 歩いてまもなく、追手の声が聞こえて隠れる。

 

「おい、この辺を捜索するぞ」

 

「はい、わかりやした」

 

 式神は今度は出来る限り人通りの少ない路地を行き来する。

 できる限り慎重に追っ手が居ないか確認しながら式神は歩いていく。

 

「このまま突き進みましょう」

 

「無論だ。遅れるなよ」

 

「はい!」

 

 暗く細い路地から移動しようとその声と共に動き出そうとした時、二人は息を飲む。進行方向から追っ手がこちらに向かってきていた。

 

「おい、ここら辺にいるんじゃないのか?」

 

「そうかもしれんなー」

 

 その声は追手の妖怪たちだった。

 

「くっ、避けてきたはずなんだが」

 

 妖花は息を呑んだ。

 ここにいては捕まってしまう。早く逃げなくては、そう思った時だった。

 

「こっちだ」

 

 その声で妖花の足は動き出した。

 

「はい!」

 

 そして私と式神は走り出した、この暗い路地を。

 

「おい、こっちだ!目の前の奴ら走り出したぞ」

 

 妖花は懸命に走った。後ろを振り返ることはなく、ただ前を走る式神の後ろにピタリとついていきながら走る。

 

「待て!」

 

 後ろからは妖怪の追手たちが走ってくる。

 すると式神が一言。

 

「前へ行け」

 

 その声で妖花は式神の前を走った。すると式神は路地に置いてあったものを追手に向けて投げつけながら走る。そうやって追手をかわしながら進む。

 ようやく追手が妖花たちを見失ったことを確認してから一息つく。

 

「平気か?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 少し走っただけで妖花は息を切らしていた。

 それはこの極限の状況下での緊張によるものだった。いつもならこれぐらい走っただけでは疲れすらないだろう、しかし今は違う。

 未知の状況に置かれているため自分が自分でないみたいに疲れがたまる。足が震える、手が震える、肌寒い。

 

「あの、本当に出られますかね」

 

「愚問だな、出られるに決まっているだろう。一人なら無理だ、でも今は私がついている、たとえどんなことが起ころうともお前は外へ出してやる。それだけは約束する」

 

「なんでそこまで…」

 

 妖花は思う。式神にはなんの得もないことなのになぜここまで私を脱出させるために頑張ってくれるのだろうと。

 そんな疑問を抱えつつも今は式神の言葉を信じて前に進もうと決意した。

 

「ここからどうしますか?」

 

 すると、式神が一言呟く。

 

「これはまずいかもしれん」

 

 式神はそう言ったまま考え込んでいる。

 

 妖花は周りを見渡し、様子がおかしいことにに、そして何がまずいのかそれを薄々感づいていた。

 

「誘導されてる?ってことですかね」

 

「良く分かったな。その通りだ。しかし奴らは気づいてはいないだろう、しかし誘導している」

 

「それって何かおかしくないですか?」

 

 妖花は考えるが気づいていないのに誘導とは良くわからなかった。すると式神は妖花に教える。

 

「一つ目小僧も頭が切れるのだろう。私たちみたいにな。推測だが奴は手下の妖怪たちを細かく配置している。だからこそ手下は気づかない間に私たちを誘導しているんだ。」

 

 式神は話を続ける。

 

「一つ目小僧は手下たちをブロックに分けて配置して、その場所を動き続けるように命令しているだろう。だからこんなにも自然に追い込まれてしまったわけだ」

 

「そういうことですか…それはまずいですね。このままだといずれ一つ目小僧のところに誘導されますよ」

 

 式神がこちらをマジマジと見つめている。そんな式神をみて妖花はどうしたのだろうと気になってしまう。

 

「あの、どうしかしたんですか?」

 

「いや何。驚いたんだ、先ほどまでとは別人のように変わっていてな」

 

「誰がですか?」

 

「お前だ、少女」

 

「私がですか?そんなつもりはなかったんですけど、確かに少し気が緩んでいたので気を引き締めたのは確かです」

 

「それが良かったんだろうな。今は表情も良くなっているし、頭の回転も良くなっている。だいぶこの空間に慣れてきたみたいだな」

 

 確かにそうだ。ここに連れてこられた時と比べればそれほど恐怖はない。多分、それは式神と会ったからこそ安心感があるのだろう。それに式神の言葉があったからこそ。

 でもそれじゃダメだ。一人でもその安心感を得なくては。今は式神のおかげで何とかなっている。だからこそ私の脳をフル回転させてるこの状況を打破しなくては。

 それにもし式神が裏切ったら……そんなことを考えてしまうと自分がもっと強くならなければ。

 

 妖花は改めて気を引き締めた。

 すると式神は私が決心したことがわかったのか喋り始めた。

 

「よし、少女よ。お前の知恵も借りるとしよう」

 

「はい!任せてください」

 

「なら少し目を瞑れ」

 

 妖花は目を瞑る。

 式神は妖花の額に手を置くと何かを唱える。すると妖花の頭の中にこの夜市の地図、そして式神の考えなどの情報が妖花の頭に流れこんでくる。

 

「こ、これは…」

 

「ほとんどの情報がお前にも共有された。それではここから脱出するため協力しようじゃないか」

 

「はい、任せてください!」

 

 一人と一体の夜市脱出のための話し合いが始まる。

 

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