表裏一体物語-妖刀と少女を繋ぐ-   作:ニャンクル

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30.夜祭

「準備はだいたい整った」

 

「そうですね」

 

 あとはここからどのようにして脱出するかだ。

 式神さんも私を助けてくれたあと無事でいてくれればいいんだけど。

 

「今からここを出るわけだが、一つ目小僧という奴はお前を探している。なら先回りしている可能性もあるだろう」

 

「そうですね。そこをどうするか、それにかかってます」

 

 顔を変えて脱出。それしかないだろう。欠点はあるがそこはバレないように細心の注意を払うしかない。

 でも、奴らもこの薬のことぐらい知っているだろうし…

 うぅ。どうすればいい。

 妖花は必死に考えるも浮かばない。

 すると式神が声をかける。

 

「おい、ここからの脱出方法だがこの薬を使う。顔を変えて門の近くまで行く」

 

「はい、わかりました。でもその薬のこと一つ目小僧たちも知ってるんじゃ…」

 

 妖花が不安そうに言うと式神は特に表情を変えることなくうなづいた。

 

「その通りだ。だがこれで行く。あとこれを使うんだよ」

 

 そう言って取り出したのはお札。

 何やら模様が描かれているが何を意味しているかは分からなかった。

 

「まぁ、これはお前が持っておけ。もしもの時それが役立つ」

 

 式神はそのお札を妖花に渡すと縄を取り出した。

 

「あの、それ何に使うんですか?」

 

「こう使うんだよ」

 

 そう言って式神は家屋の屋根まで軽く跳んだ。

 瓦を踏む音が聞こえ、式神が目の前の家屋の屋根の上にいることがわかった。家屋は7メートルはあるだろう石造建築。それを軽く跳んだだけで登るとは式神の跳躍力はすごいと感心した。

 

 すると家屋の屋根から縄がするすると降りてきた。縄を見ていると式神が屋根から顔を出して「縄を自分にくくりつけてつかめ」と命令された。

 縄が自分から解けないようにくくりつけ縄を掴むと足が宙に浮いた。

 思わず「きゃっ」と声を上げたものの式神はそんな声を無視してゆっくり、ゆっくりと縄を持った私を引き上げる。

 周りが家屋に囲まれていると言うこともあり他の妖怪に姿を見られることなく登ることができた。

 

「わぁ。高いですね」

 

 家屋の上に登ったのは初めてだった。

 少し肌寒いほどの風が吹き付ける屋根の上で式神が妖花が登ったことを確認して縄をしまっている。

 屋根の上からの景色は色鮮やかな提灯で照らされた世界だった。例えるなら台湾の九份。

 提灯や建物の光に照らされている町を見渡していると式神から声をかけられる。

 

「改めて説明するぞ」

 

 妖花は式神の方を向く。期待と不安が混じる眼差しで。

 

「まず、私たちは上からあの門を目指す。それでだが、お前の運動神経がどうとか関係なく私がお前を抱えて移動する」

 

「え?」

 

 妖花は固まってしまった。

 今なんて言った?私を抱える?抱えるってそういうことだよね…

 無理!私今汗ばんでるし…変な匂いとかしてるかも!あとあとetc…

 

「どうかしたのか?」

 

 そう言われてあたふたしてしまった。

 急にそんなことを言われても動揺を隠せない。

 

「えっと…その私重いかもしれないですし、匂いとか…」

 

「私は気にせん、それにお前はこの屋根と屋根を行き来できるか?」

 

 そう言われると黙ることしかできない。

 だからこそこう伝えた。

 

「行けないですけど、心の準備が!」

 

「分かった。少し待とう、確かにこの高さだ。恐怖もあるだろうからな」

 

 確かにそうだけど!そう言うことじゃないんだけどなぁ…と内心思いつつ少しだけ時間をもらった。まぁ、妖怪にどう思われようが意味が無いということを妖花は後に思う。

 その間この夜市の景色を眺めていた。

 決心した私は式神の方へと駆け寄る。

 

「あの、もう大丈夫です。時間かかってしまってすみません」

 

「いや、かまわない。それでは門に入ってからの説明だ。虚実の門へと入ったら私を元の世界へと返してくださいと伝えろ。その後は着けば分かる。分かったか?」

 

「はい!わかりました。屋根に追手がいたりとかしませんかね?」

 

「大丈夫だ。追手はいない」

 

 確かに追っ手は来ていない。私が耳をすませても聞こえてくるのは下から夜市で買い物をする客や店主の声だけ。それと追手の声がちらほら。

 

「それでは行くとしよう」

 

「はい!」

 

 式神は妖花を軽々と持ち上げて抱える。

 実際にされてみるとなんだか恥ずかしくなって赤面してしまう。

 

「揺れるが我慢してくれ」

 

 助走をつけて屋根から屋根へと飛び移った。

 跳んでいる時の感覚はなんとも言えない。

 怖さよりも何故かどことなく楽しさが勝っていた。風が勢いよく当たり、赤暗色の髪がうねる。そんなことを気にせず式神の素早い動きで出来る限り小さな動きで飛び移る。極力音が出ないようにまるで忍者のような動きだった。

 屋根から屋根へと飛び移ることに成功するとそのままの勢いで一戸、二戸と屋根から屋根へと飛び移る。

 

「わぁ。すごい」

 

 思わず声が出る。それに式神が反応を返すことはない。ただ危機的状況だった今がなんとなく楽しい。

 それほど美しい眺め、そして心地よい風。まるで自分が空を飛んでいるかのように思える。

 移動を開始して1分が経過しようとしていた時、式神が立ち止まった。先ほどまでの勢いが消えて揺れた髪が元に戻るのを感じる。

 

「どうかした…」

 

 妖花が式神に話しかけようとした時聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「待ってたよ」

 

 式神もまたその声の主がいるであろう方向をじっと見ている。

 

「少しおろすぞ」

 

 優しく私を下ろしてくれた式神に感謝して前を向くと家屋を3戸離れた屋根の上に誰かが立っている。それが誰だかはすぐに分かった。それは聞き覚えのある声が聞こえたからだった。

 

「あいつ、追手のようだな」

 

「はい…」

 

 すると3戸離れた屋根の上にいた妖怪がこちらへと向かってきた。すると式神が私に向けて小声で囁く。

 

「あそこの先に虚実の門がある」

 

 そう聞いて妖花はごくりと唾を飲み込んだ。あと少し、あと少しなのに…

 虚実の門から私たちは目と鼻の先。しかし向かってくる妖怪がいる。

 その妖怪は私のよく知る妖怪。

 そう、一つ目小僧だ。

 

 フワッとした飛び方でこちらに向かってくる一つ目小僧を見て私は自然と式神の衣服を持っていた。

 

「あの、どうしましょう。こっちに向かってくる以上私たちは逃げた方がいいんじゃないですか?」

 

 そう聞くと式神は首を横に振った。

 

「それはできん。虚実の門はすぐそこだ。奴を倒せば門へと辿り着ける、あと少しだ」

 

「分かりました、私はどうしたら…」

 

「お前は少し離れていろ」

 

 その言葉に頷き、少し離れた場所で一つ目小僧を待つ。10秒もたたないうちに奴は私たちがいる家屋の屋根へと足を踏み入れた。

 フワッとした飛び方でやってきた一つ目小僧は服がゆらゆらと揺れていて屋根に着くとすぐにその揺れがピタリと止んだ。

 

「これはこれは人間。そして何故か妖怪。ほほう…まさか手を貸す妖怪がいるなんて思わなかったよ」

 

 笑いながら喋り始めた一つ目小僧を見て式神は何も言わずに黙っていた。

 

「悪いけどそれは俺の獲物だ。返してもらおうかな」

 

 その返答は離れた場所にいた妖花が言った。

 

「嫌だ!私はあなたのところには行かない。ここから絶対に出る!」

 

「うるさいガキだな。お前は馬鹿か?興味本位でここにきたお前にそんな権限はない。そこのデカブツを殺してお前の脳汁啜ってやるよ」

 

 狂気の笑みを浮かべる一つ目小僧を見て妖花の顔色は青ざめる。

 

「し、式神さん…私は弱い人間です。だからあなたにお願いするんです。もちろん身勝手なのは分かってます。でも私はあなたしか頼れない!だからお願いです、私を、私をこの世界から元の世界に連れて行ってください!」

 

 涙目でそう式神に告げるとようやく式神が口を開いた。

 

「あぁ。わかっている。お前は必ず元の世界に帰す。約束しただろう、私は嘘はつかん。だから心配するな、すぐに奴を倒す」

 

 妖花はその言葉を聞いて涙が溢れた。

 私のことを、こんなただの身勝手な人間を助けてくれる式神にどれだけの感謝をすれば良いのだろう。

 この夜市での出来事が終わったらちゃんと感謝を伝えよう。そう妖花は思った。

 

「へぇー、式神…ねぇ。まぁそんなことはどうでもいいんだよ。人間がここに迷い込むことはあんまりねぇんだ。俺達は人間の世界に足を運んでも阻止してくる奴らはいる。だからさぁ、そこどいてくれないか?人間一人だ、たったの人間一人。それくらいいじゃあねぇか?」

 

「それは叶わんな。私はあの娘を元の世界に戻すためにここにいる。たったの一人の人間、確かに貴様らの世界ではそういう存在だろう。だが、あの娘の世界にとっては大切なひとつの命だ。あの娘が帰らなければ悲しむ者もいるだろう。それに…まぁいい。事情があってな、あの娘を渡す訳にはいかない」

 

「はぁ…だよなぁ。だよだよ、そういうのいいんだよ。邪魔者は消すだけだ、すぐに殺してやる。目の前で無様な姿で死ぬお前の姿を見せてやるよガキ」

 

「望むところだ」

 

 夜市での戦いの幕が上がる。

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