表裏一体物語-妖刀と少女を繋ぐ-   作:ニャンクル

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33.門番

「あの、あとはどうしたらいいですか?」

 

「そうだな。虚実の門に向かおう」

 

 一人と一体は目の前にある虚実の門の前へと向かう。周りに妖怪の姿は無い。先程の戦闘で式神にやられて逃げたのだろう。半壊した家屋や他の場所も所々壊れているが虚実の門には傷一つなく、その周りは土埃もない。この門の周りだけ何かが違うような感じもした。

 

「あとはここに入るんですよね」

 

「そうだ。私も向かおう。もうここには来れないだろうからな」

 

「来れないっていうのは?」

 

「ここまでのことをしたんだ。もうここには、"夜市"には足を踏み入れては行けないだろう。もう少し静かに事を運ぶべきだったのかもしれないな」

 

「私のせいでこんなことになってしまってすみません」

 

「お前が謝ることではない。元々ここは嫌な雰囲気があったからな。お前もみただろう、人間や他の生物を売買しているところを」

 

「はい、見ました。すごく怖かったです」

 

「人間の売買は禁止されているんだ。あそこにいる者たちは生気がなかったろう。あれはこの世界の禁句を破ったから生気が奪われたんだ。それを他の妖怪が操っているだけだ」

 

「だから話しかけても何も答えなかったんですね…」

 

 妖花はあの時のことを思い出す。確かにあそこにいた妖怪達に生気はなかった。多分それを買う妖怪達も生気のないものを操っていたのだろう。なんとも胸糞悪い話だ。

 

「あぁ、そういうことだ。それに弱い妖怪を使ってあのようなことをする輩が現れた。嫌な話だろう、売買をしている妖怪は好きでしているわけではないのだ」

 

「なんとか助けられたりしないんですか!?」

 

「それはできない。もう色々と試したんだ」

 

「そうでしたか」

 

 気を落としたが仕方がないことかもしれない。式神が言った通りこの世界に関わる事はよくないのだろう。今の自分には何も力がないのだから。

 

「少し話をしすぎたか。では行くぞ」

 

 虚実の門に目を向ける。なぜこんなにもこの門は美しいのだろうか。

 唾をゴクリと飲み込んでゆっくりの門を潜った。

 

 門を潜ってすぐに狐の面をしたすらっとした女の姿をした妖怪が椅子に座って何か作業をしていた。

 

「あの、誰かいるみたいですけど」

 

「あれがこの門の番だ」

 

 番と言われた妖怪に嫌な感じはない。多分大丈夫だろう。

 そう思っていると式神がこちらに言う。

 

「あの番に自分の行きたいところを伝えろ、嘘偽りなくだ。でないと元の世界に帰れないどころか存在が消える」

 

「わ、分かりました」

 

 恐る恐る妖花はその番である狐の面をした妖怪の前に行った。

 

 番である妖怪はじっとこちらを見ていたので妖花は自分がここから出たいということを伝えた。

 

「あの私をここから自分のいた世界に返してほしいんですけど」

 

 頷き、狐の面をした妖怪が口を開いた。

 

「分かりました。あなたに質問をします。それに嘘偽りなく答えてください」

 

 その声を聞いて妖花は思った。

 とても心が安らぐような声。顔は見えないけど優しい妖怪という感じがする。他の妖怪とは違う、人間を襲ったりはしない類の妖怪。

 式神と同じような感じだ。

 

「はい、わかりました」

 

「問います。あなたはなぜその世界に帰りたいのですか?」

 

 帰りたい理由を答えろと言う事だろう。それならば答えられる。

 

「私はある妖怪に騙されてこの世界にきました。妖怪達に襲われて、この世界にいたら捕まって殺されてしまうので元の世界に帰りたいと思いました」

 

 そう伝えると「そうですか」といい、何かをメモしていた。

 

「問います。あなたはそこにいる妖怪とはどう言ったご関係ですか?」

 

 そこにいる妖怪と言われれば式神さんのことだろう。それなら簡単なことだ。

 

「あそこにいる妖怪は私を助けてくれました。そしてここに連れてきてくれました。なので私の恩人です」

 

「そうですか」

 

 そういいながらまたメモを取っている。

 

「それでは問います。あなたは妖怪に襲われたのはここでの出来事が初めてですか?」

 

 それは初めてだろう。ここに来る前は普通に生活していただけなのだから。

 

「はい、初めてです」

 

「分かりました」

 

 メモを書き終えるとこちらを向いて「もういいですよ」と言われた。

 

「あとはどうすればいいですか?」

 

 そう聞くと「この紙を持ってあの扉を開いてまっすぐ進んでください」と伝えられた。

 

 そう言われて紙を受け取る。紙には筆で何か書かれているが何を書いているのかは分からなかった。

 妖花はあまり気に留めずに扉の前に向かった。その前に式神の方に向く。

 

「あの、式神さん。ありがとうございました。私、あなたのおかげでこの世界から出ることができます」

 

「気にするな。私もそちらの世界に行くつもりだからな」

 

「本当に感謝しても仕切れないです。あの、後で元の世界で会えますか?」

 

 そう聞くと式神は少し考えた後に答えた。

 

「どうだろうな。会えるかもしれないし、会えないかもしれない。それは運命で決められているんだ。もしまた会ったならそれは運命だろう、私もお前にまた会えることを願っているよ」

 

 そう言い終えた式神の鬼の顔は笑っているようにも思えた。初めてみる顔に妖花も笑顔になった。

 

「ではな、また会おう」

 

「はい!」

 

 そして妖花は扉の前に向かい、その扉に手をかけた時、狐の面をした妖怪が妖花の方を見た後式神の方を見た。

 それを見て式神は「待つんだ!」と声を上げた。

 

 妖花は驚いて式神の方を向く。

 

「いや、まさかな。まんまと騙されるところだった」

 

 式神は番である狐の面をした妖怪の方に向かい、机を叩いた。

 

「お前、分かっていてあの子を行かせたな。まぁそれがお前の仕事だ。仕方ない」

 

 番に向けてそう伝えると番である狐の面の妖怪は何も言わなかった。

 

「どうしたんですか?」

 

「どうやらお前は何か術をかけられている可能性が高い」

 

 それを聞いて妖花は驚いた。

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ。確かだ」

 

「あの妖怪が教えてくれたんですか?」

 

 そう聞くとその妖怪は答える。

 

「私は何もしていません、ただ彼女とあなたを見ただけです」

 

「そうだな、その通りだ。変なことを言ってすまない」

 

「はい、気をつけてください。私の存在が消されてしまいますので」

 

「あぁ。というわけでこれはなしだ」

 

 妖花の持っていた紙をビリビリと破り捨てた。

 

「悪い、少しいいか?」

 

 そう言って妖花の額に手を置いた。そして目を瞑りぶつぶつと詠唱をしたあと式神が目を開ける。

 

「ん!?なるほど。これはなんらかの術だ。記憶を消されているようだな」

 

「そうなんですか!?」

 

 一体いつそんなことをされたのだろう、記憶にない。記憶を消されているのだから仕方がないことだが。

 すると式神から問われる。

 

「術を解いても構わないか?もしかしたら嫌な記憶が蘇るかもしれないが」

 

 少し考えたがここから出るにはその記憶を取り戻さなければならないと察して答える。

 

「構いません、それをしないとここから出られないですよね」

 

「あぁ。悪いな」

 

 そして何かを詠唱をすると妖花の頭の中にある記憶が蘇る。

 

「うっ…!」

 

 妖花はその場に倒れた。

 

「大丈夫か?」

 

「はい…」

 

 妖花は思い出した。消された記憶が蘇る。自分に起きていたことを、なぜこんな経験を忘れていたのだろうか。こんなに凄い経験を。

 

 妖花の中に消えていた、消されていた記憶。妖花は妖怪に初めて襲われた時のことを思い出していた。

 

 目の前に浮かぶメイド服を着た妖刀をもつ女性。私を助けてくれた人である朱理。そして襲ってきた妖怪である影女。そして教わった怪者払いなどのこと。

 

「この記憶は…これは…まさか…」

 

「どうかしましたか?」

 

 「いや、なんでもない」

 

 「そう、ですか。なら良かったです」

 

 あの時の記憶が蘇り、自分が嘘をついていたことがわかった。

 

「私はあのままだと嘘をついていたことになりますね」

 

 妖花はここから出るために狐の面をした妖怪に頼んでもう一度質問をしてもらった。

 

「分かりました。では質問します。嘘偽りなく答えてください」

 

「はい!」

 

 では…

 

「問います。あなたはなぜその世界に帰りたいのですか?」

 

 先ほどされた質問だ。

 

「私はある妖怪に騙されてこの世界にきました。妖怪達に襲われて、この世界にいたら捕まって殺されてしまうので元の世界に帰りたいと思いました」

 

 同じことを答えた。するとまたメモを取り出した。書き終えたところで問われた。

 

「問います。あなたはそこにいる妖怪とはどう言ったご関係ですか?」

 

 また同じこと。それも先ほどと同じ言葉を言った。

 

「あそこにいる妖怪は私を助けてくれました。そしてここに連れてきてくれました。なので私の恩人です」

 

「そうですか」

 

 そういいながら同じようにメモを取っている。

 そして最後の質問がきた。

 

「それでは問います。あなたは妖怪に襲われたのはここでの出来事が初めてですか?」

 

 襲われたのは初めてかどうか。

 今ならわかる。初めてではない、私はあの時影女に襲われた。それを怪者払いである赤理さんに助けられた。あの時の自分を思い出すとあの時はよくやったと思う。

 自分のできることを精一杯やった。だから今は思い出して良かったと思える。そしてお礼を改めて伝えたいとも思う。だからこの質問の答えはこうだ。

 

「初めてではないです。その時にある方に助けてもらいました」

 

「分かりました」

 

 そう言ってまた紙を渡された。

 

「どうぞ、その扉開いて真っ直ぐ進んでください」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「式神さんもありがとうございました!おかげで元の世界に帰れます」

 

「あぁ。今度こそ無事に帰るんだぞ」

 

「はい!」

 

 妖花は扉をゆっくりと開いて真っ直ぐ進んだ。

 妖花の姿が見えなくなった時、式神は声色を変えた。

 

 「あの少女。一体何者だ。消した記憶、あれは良い。ただ、もっと奥の隠された記憶。もっと深く奥底にある私でさえ思い出させることは出来ない…見ることも出来ないあの記憶は一体…」

 

 その記憶のことについては他言無用。

 記憶に触れようとした瞬間、私の存在が消えるようだった。あれは触れてはならない禁句。

 一体どんな記憶が隠されているのか。

 見てみたいとは思わない。ただ、私が思うことはその記憶を伝えて良いものなのか。

 ただ、ひとつ言えることは今は伝えるわけにはいかないということだけ。伝えようにも伝えられない。

 口にしようとした瞬間首を締め付けられるようだった。

 

 「仕方ない…」

 

 あの記憶を消した者は相当な使い手。私の知る限り、あの記憶を甦らせることの出来る者はあの方だけだろう。

 今は何も出来ないが何も出来ないなりに彼女がいつか思い出すことを願おう。

 

 式神は狐の面をした妖怪に虚実の門を出るための質問に答え、門をくぐった。

 

 「知る必要のないこと…ですよ。式神、いや"勾陳"」

 

 狐の面の妖怪はそうつぶやいたのだった。

 

 「その名で呼ぶな、女狐」

 

「はい。ではさようなら」

 

 式神は歩いていく。妖花と同じように。

 

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