表裏一体物語-妖刀と少女を繋ぐ-   作:ニャンクル

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34.おかえり

 

 扉を開いてゆっくりと進んでいく。

 妖花はあと少しで元の世界に帰れるのだとホッとしながら歩いていた。

 夜市の出来事を振り返るとほとんど式神に助けられてばかりだった。自分がしたことと言えばあの家屋の中で白い手の妖怪と交戦したぐらいか。

 

「あと少し、私本当に帰れるのかな」

 

 妖花の目の前には光が見えていた。

 

「あそこか」

 

 その光は近づくにつれて大きくなる。そして、目の前にある光の中へと入ると光に包まれた妖花はその眩しさに思わず目を瞑った。

 

 光が止み、目を開けると家の前に立っていた。

 

「本当に帰っとこれた…?」

 

 力が抜け落ち膝から崩れ落ちた。砂がお尻についたことなどを気にすることはない。

 安心して空を見上げる。いつもの夜空。

 前を見るといつもの夜景。そして後ろにはいつも帰っている家がある。

 

「本当に帰ってこれたんだ。良かった、良かった。本当に良かった…」

 

 すると私を呼ぶ声が聞こえた気がして振り返るとそこには式神がいた。

 それをみて驚きの声を上げる。

 

「ど、どうしてここに!?」

 

「なぜだろうな。お前、無事帰ってこれたんだな。良かったな」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 何か濁された気もするがあまり気にしなかった。また式神に会えた。こんなにも早いとは思っていなかったけれど。

 

「あっ、今何時だろう」

 

 時計を見ると時針は7時、分針は50分に差し掛かろうとしていた。

 こんなにも長い時間いたのか。あの世界での1時間がこの世界での1分。

 初めにこの世界に帰ってきてから家に着くまで何分かかったのかは分からないがどれくらいの時間夜市にいたのだろう。

 

「時間はさほど経過してないだろう」

 

「はい、あちらの世界とこちらの世界の時間の違いがあることは分かっていたので」

 

「そうか、知っていたのか」

 

「はい」

 

 妖花が告げると式神は頷きながら話を始めた。

 

「頼みたいことがあるんだ」

 

「式神さんが頼みたいこと?」

 

「あぁ」

 

 式神はいつもと変わらない表情。妖花はなんだろうと聞き耳を立てる。

 

「実はお前の近くに私と近いような人物がいるんだ」

 

「え!?それってどういうことですか?」

 

 妖花が聞くと識神は「そうだな」と続けて話す。

 

「もちろん人ではある。ただ私と近い存在なんだ。いわば片割れというべきなのだろうか。あちらにはもちろん私の記憶はない。ただ私はあちらの記憶を見れるんだ」

 

「そうなんですか。だから私のことを助けようと?」

 

「その通りだ。お前の存在に気づいてすぐに向かったんだ。お前を助けるためにな。ただこのことは他言無用だ。だからそいつとは仲良くやってほしい、それだけだ」

 

 式神と近い存在。それは李王さん、部長のことだろう。苗字が式紙という名前の時点で察しはつく。助けてくれた式神の願いなのだ。それを守るのが今の私の役目だろう。

 

「はい、私は助けてくれた方の頼みなら聞きますよ」

 

「あぁ。よろしく頼む」

 

 その頼みを聞いた妖花は明日からの日々を大切にしようと決意した。

 話をしている間に時間は過ぎていく。色々なことを話して最後、妖花は式神に聞く。

 

「式神さんはこの後どこにいくんですか?」

 

「そうだな。私を使役している陰陽師のところに戻るとする」

 

「なら本当に会えるのは最後かもしれないですね」

 

「そうだな。私を使役している者はこの県から離れている場所にいるからな」

 

 少し寂しいが仕方がない。元々私を助けたのも気まぐれだったのだから、また何かあったら守って欲しいだなんて言えない。

 

「じゃあまた会えたらいいですね」

 

「そうだな。それでは私は去るとする」

 

 式神がそう言った直後強い風が吹き付け思わず目を瞑る。

 目を開けるとそこにはもう式神はいなかった。

 

「本当にありがとうございました。この恩は忘れないです」

 

 そう言いながら家の中に入った。

 

「ただいま」

 

 なんだか懐かしい気持ちになる。ほんの数時間違う異世界に居ただけなのに。

 

 するとリビングから大きな声が聞こえてリビングの扉が開いて母が私を抱きしめる。

 

「どこに行ってたのよ!心配したのよ?」

 

「ごめんなさい」

 

「無事で良かった。遅くなるときは連絡してって言ったでしょ?」

 

「うん。今度からはそうする」

 

「それで何してたの?」

 

 妖怪のいる世界に行っていた。なんて言っても仕方がない。そんなことを言っても信じてもらえるわけがないのだから。

 

「少し部活で遅くなってね」

 

「そう、それならいいの。ご飯できてるから食べなさい」

 

 私と母は、リビングへと向かい、いつものテーブルに美味しそうなご飯とおかずを目にする。

 

「いただきます」

 

 ゆっくりと食べながら今日のことを思い出す。

 今日は色々なことがあった。妖怪は実在するし私を助けてくれた妖怪を倒す"怪者払い"存在も思い出した。

 これからの人生私はこのことを忘れることはないだろう。自分に起きたことは紛れもない現実、今こうして私が食事をしている時も妖怪達が何かしているかもしれない。

 でも、優しい、助けてくれる妖怪もいる。だから不安はあまりない。今こうして私が生活しているのもその妖怪が助けてくれたからだ。

 

「ご馳走様」

 

 妖花は食事を終えて自室へと向かった。

 ベッドに横になり目を瞑る。

 

「安心してるけど、これからも出会うかもしれない」

 

 そう、これからも妖怪と出会うかもしれない。その時誰も頼る者がいなければ自分でなんとかしなければならないのだ。一人で家屋から脱出した時のように。

 

「よし、お風呂行こう!」

 

 妖花は脱衣所に向かい服を脱ぐ。

 あれだけのことがあって忘れていたが、汗がべったりついていてなんとも気持ちが悪い。

 

「すごい汗。流石にこれはね…」

 

 制服を脱いで洗濯機に入れて風呂場に入る。

 すぐに浴槽のお湯をすくいとり、体にかけた。汗が落ち、なんとも気持ちがいい。

 

 体を洗い、流し、髪を洗い流して浴槽に浸かった。

 

 今日の疲れが徐々に抜けていくのを感じる。

 お風呂がこんなにも気持ちいいと思うのは初めてかもしれない。

 

「ふぅ…あったまるー」

 

 あったまりながら妖花はふと思う。

 柳と神楽は無事に帰ったのだろうか。

 あの後、夜市に招かれたのは私だけだった。

 気になった妖花だったが二人の連絡先を知らないため明日会ってみるしかないと思った。大変な1日が終わりを迎え、妖花は風呂を後にする。髪を乾かすと赤暗色の髪が揺れる。

 

「おやすみなさいー」

 

 父は仕事でまだ帰っていないらしく母はそれを待つようだった。それを聞いて妖花は父を待つのも良かったが母に早く寝るように言われたため二階へと向かった。

 自室の扉を開いて机にあった携帯電話を見る。

 

 何人かから連絡は来ているものの柳と神楽の話ではなかった。

 

「とりあえずは明日になってからかな」

 

 妖花は目を瞑る。疲れもあったからだろう、吸い込まれるように眠りに落ちた。

 

 次の日のすぐに妖花は学校へと向かった。

 二人は無事かどうかが気になって仕方がなかったからだった。

 

「おはよう」

 

 二人の席を見るとまだ二人とも来ていなかった。

 やはり何かあったのかもしれない。そう思った時肩を叩かれて後ろを振り向く。

 

「おはよう、昨日はすごかったね」

 

 そう言ってきたのは神楽だった。その姿を見て妖花は安心する。

 

「うん。色々あったね」

 

「どうしたの?」

 

 神楽にそう聞かれて妖花は苦笑いを浮かべた。

 

「いや、なんでもないよ。昨日の体験がすごく怖くて、でもそれ以上に得ることがあって、なんだかこの体験はあまり人に言わないほうがいいのかなって」

 

 妖花の話を聞いて神楽は「そうだね」と笑って返す。

 

「確かに、こんな話を誰かに話しても信じてもらえるわけないもん」

 

 そう言った神楽は自分の席に座って私を呼ぶ。

 

「妖花ちゃん。こっち座って」

 

 神楽にそう言われて妖花は自分の席につく。すると紙を渡された。

 

「これ、私の携帯の番号。これでいつでも連絡取れるからさ、たくさん色々なこと話そうよ」

 

「うん!分かった!」

 

 神楽から紙を受け取って大事にしまった後、柳が来るのを待つ。

 柳は無事だろうか。そう思っていたがそんな心配はいらないようだった。

 

「おはよう、二人とも」

 

 柳は元気に登校していた。昨日の話をしてくるかと思ったがそんなことはなく、ただ私たちと挨拶を交わして自分の席に座った。

 

「あのね、妖花ちゃん。元々誰かに昨日の話をするつもりなかったんだ。それを言い出したのは柳くん。なんでも妖怪はどこにでもいるけど、どこにもいないように隠れているらしくていつ私たちの話を聞かれるかはわからないから、もし聞かれたら連れ去られてしまうかもしれないってね」

 

 確かに柳の言う通りだと思った。妖怪達は自分達の存在を隠している。だから今まで本当にいるなんて話がなかったのだ。もしも体験した話を他の人にも話したりすれば妖怪達は自分達の存在を知られないためにあの手この手で私たちを消しにかかる。そんなことになれば困るのは妖怪達ではなく私たちの方だ。

 

「確かにそうだね」

 

「だからね、あの話は秘密ね!」

 

「うん!」

 

 そんな話をしながら妖花は学校生活を送る。

 

「昨日、行ったんだよね?」

 

 教室に入ってくる苗木の声に3人は反応を返す。

 

「結局行かなかったんだ」

 

 柳は直ぐに嘘をついた。

 

「そう、ならいいけど…」

 

 苗木は去っていき、3人は口元に手を置いて笑う。

 

「秘密だよ」

 

「危険だからもう噂は広げないよ。僕が沈静化する」

 

 そう言った柳の言葉に嘘はなかった。

 

 いつもどおりオカルト部に行き、話を聞いたりしたりして過ごしていく毎日。

 

 あれから数日して、ピタリと噂は無くなった。

 柳が手を回した、と言うよりも道が無くなっていたのだ。駄菓子屋の存在自体が無くなっており、道もない。そこには喫茶店、その隣には駄菓子屋は無く、隣はずっと戸締りをしている何のお店かわからない建物しかない。

 道、そして店自体が消えた。元々なかったみたいに。

 私は喫茶店に行って話を聞いたが何を話しているのか喫茶店の店員さんは分からないようだった。

 そのせいなのだろうか、同級生にあの噂の話をすると、なんのことだろうと私に疑問を浮かべている。私の夢だったのだろうか、でもそれは無い。私も柳も神楽も覚えているから。

 嘘は無い、ただみんなが忘れているのだ。何故なのかは分からない。でも、特別な力が働いているのは確かだろうとしか考えられなかった。

 

 そして、あの道が消えたことで私があの道から夜市に訪れることはもう無い。他に被害者が出る前に消えたのならそれで良かった。私は運が良かっただけだ。

 式神がいなければ確実に元の世界には帰れなかっただろうから。

 

 毎日の部活、私は李王に挨拶をする。

 多分この人が私を助けてくれた式神の片割れのはずだから。

 

「千子は最近は良い挨拶をするなー」

 

「はい、色々あって」

 

「そうか良いことだ」

 

 今日も部活が始まる。これからも妖怪と出会うことがあるのだろうか。

 なんだか、また妖怪と出会う気がしてならない。

 そんなことを思う妖花だった。

 

 妖花のクラスの教室内で1人残る柳は呟く。

 

「祖母の家に行くのは7月か。京都、楽しみだな」

 

 その横には式神がいた。柳にはその姿が見えていない。

 ただ、式神が柳を見つめているだけだった。

 

「まさか、片割れがこちらに来るとはな」

 

 式神は伝わらない相手に対して言葉を告げる。

 

「千子さんと泣塔さんにお土産でも買って帰ろうかな」

 

 柳が振り返ると式神は消える。

 

「あれ、何かいたような…気のせいか」

 

 こうして、夜市は幕を閉じた。

 

 

 

 

 




今回は夜市編を最後まで見て下さりありがとうございます。
ということであとがきです。今回は夜市編です。今回のお話は妖花が怪者払いの記憶を取り戻すということを最終目標として書き始めました。なぜ夜市という場所を選んだのかですが、それは少し不気味で、でもそれ以上に心躍るような場所はどんなところだろうと考えた結果が夜市でした。あとは妖花に序盤で一度は妖怪の世界にいってほしかったからですね。ということで、簡単な説明は以上でここからです。
今回の設定説明ですが《夜市》についてです。夜市の広さですがだいたい京都市と同じくらいを想定しています。一応、妖怪の世界の設定ですが妖怪の世界は日本列島と全く同じ大きさです。1寸の違いもありません。ということで、だいたい京都市と同じ場所を舞台とした世界だったということです。たまたま、妖花達は虚実の門と近い場所に現れたようですが場所で言うと京都駅から清水寺くらいの距離はあったかなと。
それを敵を避けながらでしたから。時間はかかってしまいますね。
夜市はお話の中でも説明がありましたが色んな世界の色んな場所に繋がっています。例えばどこに?となると思いますが無限にあるので説明しきれません…。ひとつ言えることがあるなら読んでくださってる方が思い浮かべた世界の数だけ世界はあるということだけ。
あとは、一つ目小僧についてですがあの妖怪は夜市の中でも結構下っ端とだけ伝えておきます。
夜市を牛耳る妖怪はまた登場させますのでそれまでお付き合いください。
今回は短くなってしまいましたが以上ですー。
次の三章で登場する人物は妖花の部活の部員とあとは三章の表題に乗りますのでよろしくお願いしますー。
それでは次は三章の終幕でお会いしましょうー。
改めて、ここまで読んでくださってありがとうございます!





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