表裏一体物語-妖刀と少女を繋ぐ-   作:ニャンクル

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三章 なごみ編
35.部活動


 

 私の名前は千子妖花。中学2年生。

 夜市での出来事から約3週間ほどが経過した。あれ以来妖怪に出会うことはない。

 おそらく私自身あまり意識をしていないからだろう。出会わないなら出会わないに越したことはない。妖怪はやはり恐ろしいものであるということは身に染みて分かったからだ。確かに式神のような妖怪もいるかもしれないがやはり妖怪に襲われた時のことを思い出すと怖いと思ってしまう。それが私が思うことだった。

 

 夜市での出来事で記憶を取り戻した私だったが朱理に会いに行ってない。なぜならまた記憶を消されてしまうのではないかと考えたからだ。

 朱理たち"怪者払い"が私たち一般人を妖怪の危険から守ってくれているのは承知の上だが私も周りの誰かが困っていたら助けたいのだ。ならば必要な知識は入れておいて損はない。

 あの時はたまたま朱理がいたから助かったもののもし一人で対処するときが来たなら自分にある知識でなんとかしなければならない時が来るかもしれない。私にとって情報は知っておいて損はないのだ。

 そう思っていたが私は知らなければよかったと思う日がいずれくる。それはまた少しあとの話だ。

 

 ………………………………………………………………

 

 

 学校の終わりを告げるチャイムが鳴る。音と同時に教室の中はざわめき、部活に行く人が早々と出ていく。そんな中に妖花の姿もあった。

 

 

 水無月

 

 

 妖花は部室へと向かっていた。神楽、柳、夏海の3人で。

 というのも、1週間ほど前に柳と神楽が部員に加わったこともあり、ここ最近は頻繁に部活動を行っている。先輩が喜んでいるのだろう。

 

「では、今日もオカルト部の活動を始める」

 

 いつもどおり識紙の挨拶で活動が始まる。

 部員が増え、その2人は部活動にもう馴染んでいる。今は部員が二年生5人に三年生3人の合計8名。前よりも賑やかになった部活はより一層楽しくなっていた。

 

「よし、みんな調べてきたか?」

 

「はい、もちろんです!」

 

 元気が取り柄の阿羅型が声を上げて答える。

 というのも、今日の活動内容は妖怪について調べてきたことを話し合うと言うものだった。

 1人ずつ話をする流れになり最初に手を挙げたのは夏海だった。

 

「皆もそれで構わないか?」

 

 識紙の言葉に皆が賛同し、夏海が最初に話すことになった。夏海が話をする直前、皆が聞く姿勢をとる。

 そして、大きな声でハキハキと喋り始めた。

 

「私が調べた妖怪は大入道です!」

 

 大入道と聞いて何人かが「知ってるよ」「聞いたことある」と声を上げた。

 

 妖花も聞いたことのある妖怪だったがどのような妖怪なのかは知らないので興味をそそられた。

 

「では、始めるとしようか」

 

「はい!色々と調べてきました!」

 

「では頼む」

 

 識紙の言葉で夏海は大入道という妖怪についての話を始めた。

 

「大入道は日本各地に伝わる妖怪で名称は大きな僧という意味です。ですが地方によって姿は実体の不明瞭な《影》のようであったり、僧ではなく単に巨人であったりと様々な伝承があるみたいです!」

 

「へー、大入道って地方によって《影》だったり巨人だったりするんだね」

 

 神楽が夏海の話を聞いて反応を返す。すると夏海は大きく頷いた。

 

「うん!私が調べていたことによるとね!」

 

「大入道ってどれぐらいの大きさなんだ?」

 

 阿羅型に聞かれて夏海は「大体2メートルぐらいかな」と答えると、阿羅型が頷きながら反応を返す。

 

「結構でかいなー。30センチは俺より大きいと思う」

 

「実際に対峙すると怖さがわかるわね。大きい妖怪って襲われたら怖いでしょうから」

 

 神道が笑みを浮かべたまま答える。皆がそんな話をしている中、妖花はふと考えてしまう。

 《影》か…。あの時、私を襲った妖怪の名前は影女という妖怪だから違うというのは分かっているけど"影"と聞くと体が硬ってしまう。

 

「千子さん、どうかした?」

 

 そう言われてハッとなり周りを見ると私の方を皆が見ていた。

 

「え、どうかしました?」

 

「いや、千子がずっと下を向いて俯いているからどうかしたのかと思ってな」

 

 識紙が心配そうな口調で妖花に伝える。

 

「いえ、すみません。部活中に。少し考え事してただけで特になんでもないですよ」

 

 妖花がそう伝えると識紙は「何かあるなら言えよ」と優しく声をかけてくれた。すると、伊家波が私の方を見る。

 

「妖花ちゃん前にも何かあったって聞いたけど大丈夫だったん?」

 

 伊家波に聞かれて妖花はぎゅっと何かに心臓を掴まれたような感覚に陥る。

 

「あ、その事ですけど特に何もなく終わりました。もうそういう事は起きてないです」

 

 影女という妖怪についてはもちろんのことだが、夜市のことも話が出来るはずがなかった。

 2人と"夜市"で妖怪に出会ったことは誰にも伝えていないので、何もなかったと伝えるしかなかった。

 

「そう、ならいいんだけどね。識紙の言う通り何かあったら先輩に相談するか同級生に相談するんだぞー。何かあってからでは遅いからねぇ」

 

 伊家波の言葉に妖花は大きく頷いたあと識紙が夏海に注目するように話す。

 

「悪いな、獅子田。少し話を遮ったみたいで」

 

「大丈夫です!妖花が元気ないのは私も心配するので!」

 

「ごめんね夏海。ちゃんと聞いてるよ」

 

「わかってるって!」

 

 とりあえず、落ち着いたので識紙が話の進行を促す。

 

「では、獅子田。話の続きを頼む」

 

「はーい!」

 

 また皆が夏海に注目したことを確認してから夏海が話を再開する。

 

「えっと、どこまで話したっけ」

 

 夏海の反応に皆笑みを浮かべながら優しく教えてくれた。やっとのことで次に話す内容を見つけた夏海は話を始める。

 

「大入道は人を驚かせたり、見たものを病にかけるという伝承があって、その事例として北海道や東京があるらしいです!ですが、人に危害を加えることもありますが人を助けたりするときもあるみたいです!」

 

「へぇーそうなんだ。知らなかったよ」

 

 柳がそう伝えると夏海は満足そうな顔で皆を見ている。

 その後、大入道についてのことを30分ほど話して次の人が話す番となった。

 

「大入道のことをよく調べてきたな」

 

「じゃあ次は誰の調べてきた妖怪にする?」

 

 柳が皆に聞くと識紙がその前にと口を開いた。

 

「少しいいか?獅子田の話が盛り上がって時間が結構経過してしまったからこうするのはどうだろう」

 

 そう言って持ってきたのは長方形のカゴだった。

 

「えっとこれは?」

 

 新道が聞くと識紙が答える。

 

「時間がかかるから皆が自由に見れるようにここに置いておこうと思ったのだが」

 

「それいいですね」

 

 妖花が賛成した。

 

「うん、うちも」

 

 伊家波も賛成していた。

 

「今日はここまでにしよう。時間も遅いし。だから皆が好きなように見れるようにしたかったんだけど紙とかに書いてきたか?」

 

「私は書いてきました。字には自信がないので読みにくいかもしれませんが」

 

 新道に続いて阿羅型や夏海や識紙を含めて5人が書いてきていた。

 

「私、書いてないです…」

 

 妖花が手をあげると柳と伊家波も手を上げた。

 その2人を見て皆が一斉に笑った。

 どうしたのだろうと2人は唖然としていると阿羅型が答える。

 

「いやー。流石に賛成した2人が書いてきてないのは少し笑っちゃったよ」

 

「あー。たしかにそーね、そりゃそうだ」

 

 伊家波もそれを聞いて笑みをこぼした。

 妖花も確かにと思ってしまった。自分が賛成したと言うのにその自分が書いてきていないのでは賛成した意味がない。

 それに気がついて妖花は少し頬を赤らめた。

 

「た、確かにそうですね。私ったら自分で書いてないのに何してるんでしょう」

 

「まぁそんな時もあるさ」

 

「いや、柳くんも書いてないじゃない」

 

「あ。そうだった」

 

 皆が笑って和やかな雰囲気になったところで識紙の号令で挨拶を終えると帰りの支度を始めた。

 伊家波が帰り際にみんなに向けて伝える。

 

「まぁ聞きたかったらうちに言ってよ。私が調べたのは河童だからさ。またの機会でもいいし」

 

「分かりました!」

 

 皆が返事を返すと笑顔で部室を出ていった。

 その伊家波を見て、柳も皆に告げる。

 

「僕が調べた妖怪はみんな聞いたことのないような妖怪だから今度の機会に言うとするよ」

 

 柳も部室を後にした。

 そんな中で私も帰りの支度をしている。新道が調べていた妖怪がなんだろうと気になったのでそのノートを手に取った。

 

「どうかしたの、妖花ちゃん」

 

「いえ、このノート見たいんですけど借りてもいいですか?」

 

 新道にそう伝えると頷いて了承してくれた。

 

「もちろん!調べてきた妖怪の他にも色々と怖い話とか載ってるから見てみて」

 

「はい!ありがとうございます」

 

 新道の了承を得て鞄に大切にノートを入れる。とりあえず帰りの支度を終え、夏海の方を見るとまだ用意ができていないようだった。

 

「夏海、まだ?」

 

「うん、少し待ってー」

 

「分かった。待ってる」

 

 その後新道と談笑をしているとようやく夏海が帰りの支度を終えたようだ。

 それを見て識紙が皆に声をかける。

 

「忘れ物はないか?」

 

 識紙にそう言われて忘れ物がないかを確認した後各々が挨拶をして帰宅していった。

 

「じゃあ鍵は返しておくから、3人は帰っていいぞ」

 

 識紙にそう言われて3人は感謝する。

 

「ありがとう」「ありがとうございます」

 

 識紙と阿羅型に部室のことを任せて3人、妖花、新道、夏海は共に帰ることにした。

 学校の中は静かで夕日が照らす校舎内を歩く。

 3人は談笑しながら靴箱に向かっていた。

 

「あと少しでテストですけど部活はどうします?」

 

「うーん。多分きたい人だけが来るって感じになりそうかな」

 

「テスト…妖花…嫌なこと思い出させないでよ…」

 

「ごめん、ごめん。夏海は勉強嫌いって言ってるけどそこまで点数悪くないからいいじゃない」

 

「それは一夜漬けしてるからだよ~」

 

 フンと鼻を鳴らして言う夏海を見て苦笑いを浮かべてしまう。

 そんな私たちを見て新道がこちらを見ながら笑っている。

 

「2人って本当に仲良いよね」

 

 そう言われて2人は向かい合って笑い合った。

 

「まぁ私たち幼馴染なので。小さい頃からずっと仲良しで、でももう1人の天野なごみって子が学校来てなくて」

 

 そう告げると空気が重くなるのを感じる。妖花はやってしまったと思い、2人に笑みを浮かべながら呟く。

 

「でも、ちゃんと学校に帰ってくるからって言ってくれてるので大丈夫だと思います」

 

「そ、そう…ならいいの。そういえば天野なごみちゃんってあの天野なごみちゃん?」

 

 ん?っと妖花の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 

「そう、そのなごみです!」

 

 と夏海が言っているのを聞いても妖花は訳がわからず2人を見る。すると夏海が教えてくれる。

 

「なごみちゃんモテモテだから上級生や下級生からも知られているんだよー」

 

「あー、そう言うことね。だから亜美先輩も知ってたんですか」

 

「そう。彼女が最近学校を休学したって情報が入った時は私のクラスも荒れてね。なんかクラスの男子達がすごい泣いたりしてて」

 

「そうなんですか!流石なごみ、もうそれはどこかのアイドルかなんかに間違えられてるんじゃないですかね」

 

 なごみがモテるのは知っていたがまさかそこまでとは思っていなかった。

 

「もう、その領域よ。他校の人も見にきているし、あと芸能関係者が直接きたって話も聞いたよ」

 

「私もそれは知ってるって言うか目の前で聞かれて。それでその時3人だったんですけど2人もどうですかーなんて言われてしまって…」

 

 ため息を吐きつつ夏海を見つめると笑顔を返してくれる。私には眩し過ぎるなと妖花は思う。

 

「それは2人が可愛いからだよ」

 

 新道がお世辞で言ってくれているのだろうなと感じる。

 

「たまたまいたから一応声かけとこみたいな感じですよ、きっと」

 

「私は元々興味なし!」

 

 夏海がはっきりそう言った。確かに夏海はそういった芸能関係の話に興味がない。それは夢があるからなのだろう。

 

「そうだね、私も興味ないし」

 

 妖花は夏海の意見に同感だった。

 

「まぁ芸能とかは分かる気がする。

 まぁなごみちゃんもそうだけど仮に2人もいなくなったらクラス崩壊しちゃうかもね」

 

 笑いながら新道がそう言う。

 

「それはないですよ!だって私たちそんなことする予定ないですし!」

 

「例えだよ、例え」

 

 そう伝えると夏海がそういうことかと理解した。

 

「そうだよね、ごめんごめん」

 

「とゆうか2人って私も入ってるじゃないですか!」

 

 それに気付いて新道に指摘する。

 

「だって妖花ちゃんも可愛いじゃない?」

 

「やめてくださいよ。私はそう言うこと興味ないですし」

 

「まぁ、今はね」

 

 片目を瞑りながら私の方を見る新道に妖花は困ってしまうが確かにそのうち興味を持つかもしれないと思った。

 

 そんなやりとりをしつつ、3人は靴箱に到着する。

 

「それじゃあ私はこっちだから」

 

 3人は各々の帰路につく。新道は1人で、夏海と妖花は2人で家に向かった。

 

「明日は雨らしいよ」

 

「そうなんだ。雨ってあまり好きじゃない…」

 

 夏海が分かりやすく凹んでいる。それを見て妖花は笑ってしまう。

 

「まぁすぐに晴れるよ。というか明日は土曜日だから休みだし」

 

「そっか!忘れてた!」

 

 本当に天然な夏海にいつも困らされるがそれが彼女の良いところだと私は知っている。いつも笑顔なのが取り柄なだけにこういう顔を見せるのは私にとっても可愛くて仕方がない。

 

「じゃあね」

 

 妖花の方が家が学校から近いこともあり、先に家に着いた。夏海に挨拶をして家に入る。それを夏海は見送ったあと自分の家に向かったのだった。

 

 その間、新道はある場所に立っていた。

 

 それは特に何もない、ただの道の上。

 

「ここから聞こえる」

 

 何かの声に引き寄せられるように新道はその道をまっすぐ進むのだった。自分の家とは違う方向にある道へと。

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