表裏一体物語-妖刀と少女を繋ぐ-   作:ニャンクル

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38.天狗の痕跡

 

 2人は森の奥へと進んでいた。帰り道に迷わないように木に印をつけて進んでいく。携帯で方位を確認しつつ何かないか辺りを見渡す。

 

「本当に森って感じですね」

 

「だね。近くに住宅街があるのにとても静か」

 

「ですね。なんというか落ち着く感じがします」

 

 森は私たちを見守るようにそびえ立つ。その中で私たちは景色に癒されていた。

 

「うん、でも夜になると怖いかな」

 

「そうですね。まだ昼も来てないですから日が落ちる頃には帰りましょう」

 

「そうだね」

 

 2人は歩きながら森の景色を堪能しつつ目的である天狗、なごみの手がかりになりそうなものを探す。

 しかし、特に手がかりになりそうなものは確認できない。景色は木々が立ち並ぶだけ。変わらない景色。今のところ不穏な空気は無い。

 

「少し休憩しようか」

 

「はい、そうしましょう」

 

 妖花達はこまめに休憩を取っていた。水筒に入っていた飲み物を少しずつ口に入れ喉を癒す。新道も同じようにスポーツドリンクを飲んでいた。

 

「先輩、その荷物重くないですか?」

 

「うん、全然大丈夫だよ。少し重いけれど一人で持てそうな重さだから」

 

 大きなバッグで来ていた新道の心配をしつつ休憩を取り終えた妖花達はまた森を進む。

 何か手掛かりになりそうなものはないのか。

 しかし特に何もない。

 

「ふぅ…」

 

 歩いていて気づいたが思いのほかきつい。森の中を進むのは初めてではないが整理されている道路を進むよりも断然きつい。ねっこや岩、土が自分の足から体力を奪っていく。

 

「先輩大丈夫ですか?」

 

「うん、今のところは…」

 

 やはり新道もきついらしい。顔から少しずつ汗が垂れる。それをタオルで拭き取りながら前へ歩く。

 歩いていく中であるものがあることに気づいた。

 

「先輩!これ見てください」

 

「どうしたの?」

 

 新道がこちらに近づいてそれを目にする。

 

「これは一体…」

 

 そこには足跡があった。ただの足跡なら気づくこともなかっただろう。それは、明らかに人とは違う者の足跡だった。

 足跡は5本の指に分かれている。人間ならば靴を履いているはずなので、足跡があることがおかしい。何よりも、大きい。人のサイズでは無い。

 鼓動が大きくなるのを感じる。

 

「これは…」

 

「本当に何かいそうだね、人間ではない何かが」

 

「はい。これはどう見ても人間の大きさじゃないですから」

 

「足跡は5本指…。本当に天狗がこの森にいるのかもしれないね」

 

 2人はその足跡を頼りに進もうと思ったがその足跡は一つだけでそれ以降はなかった。

 手がかりになりそうな足跡も頼りにはならなかったのでとりあえず写真だけ撮っておいた。

 

「これで証拠はできたね」

 

「そうですね。ってそのカメラどうしたんですか?」

 

「これは家から持ってきたの。たまに写真とか撮るからね。お父さんが趣味でカメラ撮ってるんだよ」

 

「へぇー、なら今度見せて欲しいです。綺麗な景色とかみたいです」

 

「もちろんいいよ。私はまだ初めて少しだけど、お父さんはとっても上手だから」

 

 そんな話をした後、足跡をもう一度確認する。

 やはり何かがいるのだろうか。しかしこの足跡はあまり新しいものではない。

 よく見るとついさっきというわけではなく土が固まっているのでそれなりに時間が経過していることが分かる。

 

「とりあえずどうします…?」

 

「うーん。地図を見てみるね」

 

 新道が地図を広げると、近くに神社があることが確認できたためそこまで行こうと決めた。

 

「近くに神社があるみたい」

 

「あー、そこいったことあります。こんなところから入ったことはないですけど」

 

 妖花はその神社を知っていた。

 なぜならそこは妖花の先祖にあたる人が建てた神社だったからだ。しかし今では特に人が来るようなところでもない。

 それでも、妖花にとっては大切な場所だった。だからという訳では無いがそこまでの道のりは妖花が先導して行った。

 

「まだかかると思います。場所は分かるんですけどその神社普通は何段もある階段を登っていくところなので結構高い場所にあるんですよ。昔は小さい子供の遊び場だったみたいですけど」

 

「それはかなりきついのね」

 

 新道の顔が青ざめた。

 

「………………。はい、きついです」

 

 妖花達は歩き出していた。

 地図を見ながら迷わないようにその神社へ向かう。もちろん彼女達は目的を見失ってはいない。目的はなごみ、そして天狗のこと。しかし歩いて行こうがあの足跡以降何もない。

 

「やっぱり天狗はいないんですかね」

 

「どうだろうね、まぁ昔の話だからもう移動しているのかもしれないけど」

 

「それならそれで安心なんですけど」

 

 新道の言い分も分かると思いながら妖花達は探索を続ける。

 

「天狗って空を飛ぶって聞くので足跡があるのは意外ですよね」

 

「そうだね。足跡はわざと残したのかそれともたまたまミスを犯したのかな」

 

 神社の方へは向かっているが少し遠回りしつつ向かっていた。それはこの森に何かあるような期待をしているからだった。

 

「なごみは本当にここに入っていったんですよね?」

 

「うん、そうだよ。見たから」

 

 やはり疑問に思う。なごみがなぜ山奥に入っていったのか。修行?可能性はあるがどう言った修行なのかもわからないので心配してしまう。なごみの家から近くないこの森に行くなんておかしい。

 もしも修行する場所があるならそれで構わないが一度なごみと会って話がしたい。久しぶりに声も聞きたいから。

 

「あっ、ねぇ妖花ちゃん。ちょっと来て」

 

 唐突に声をかけられて新道の方に向いた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや、見てよ。ここら辺の木が切り倒されてる」

 

 確かに目の前に広がる景色が変わる。木が切り倒された場所にたどり着いた。

 どう見ても人為的に倒されている。切り口からして何かしらの刃物で切ったのだろうか。それにしても綺麗な断面だ。

 ここら一体に鎌鼬でも来たみたいに綺麗に木が倒されている。

 

「すごく綺麗に切ってありますね」

 

「うん、素人目にも分かるね。まるで切れ味の良い刃物を使って一撃でスパッと切ったみたい」

 

「私もそう思いました」

 

 木こりでもいるのだろうか。それにしては山奥の場所でわざわざ気を伐採するものだろうか。山奥だからこそ、都市部と違って楽なのかもしれない。

 

「多分ですけどこっちに何かあるんじゃないですか?」

 

 「確かに切り倒された切株を追っていけば何かあるかもしれないね。重機があったらまぁそれはそれでって感じだけど」

 

 安直だが切り倒されている場所を辿っていく。

 何かあるのではないかと期待する。その倒された木の方を進むと神社から離れることになるがそれを気にせず歩く。

 

 すると…

 

「ねぇ、みて!見てよ、妖花ちゃん」

 

「あ、家だ」

 

 そこには家屋が建っていた。一軒だけ。木で作られたまるで昔話にでも出てきそうな見た目の建物。家屋の横には薪がこれでもかと積まれている。

 

「すごい、こんなの初めて見た」

 

「はい、私もです」

 

 こんなところに家屋があるなんて思わなかった。ここら辺は人が住んでいるとは聞いたことがなかったけれど誰か住んでいるのだろうか。

 

「行ってみましょう」

 

 家屋に恐る恐る近づく。人の気配はしない。どうやら誰もいないみたいだ。今は留守にしているのだろうか。

 一応、外から中を確認すると誰もいないかった。それを見て少し安心しつつ、窓からの埃に少しむせてしまう。

 

「ケホッ、ケホッ」

 

「大丈夫、妖花ちゃん」

 

「大丈夫です。少し埃が」

 

「ならいいけど」

 

 中は使われていないのか埃臭い。窓にも埃が溜まっている。

 とりあえず玄関の扉を叩くも特に反応は無い。引戸に手をかけるとどうやら鍵はかかってないようだ。開いて中を見るとやはりそこら中、埃まみれになっていた。

 

「ごめんください、どなたかいらっしゃいますか?」

 

 返事はない。

 

「誰も住んでなさそうですね」

 

 おそらく昔使っていた人がいた廃墟みたいだ。

 恐る恐る中に入り、見渡すと昔ながらの囲炉裏がある。

 

「うーん、何もないみたい」

 

「そうですね…」

 

 中は埃臭い。しかし少しだけ灰の匂いがする。

 囲炉裏の近くに行った。

 

 中を覗くと妖花はあることに気づいた。

 ここら辺だけ埃がない。それに囲炉裏の中に少し燃え滓がある。それに火が消えきってない…

 

「あの、先輩。早くここから出ましょう。ここから離れた方が良さそうです」

 

「どうかしたの?」

 

「あそこ、囲炉裏の周りだけ埃が溜まってないんですよ。意味がわかります?」

 

「それってまさか…」

 

「はい、ついさっきまで誰かがここであそこに座っていた証ですよ。この家の持ち主ならわざわざ逃げる必要ないですから。何かいる証拠です。急いで出ましょう」

 

「えぇ、分かったわ」

 

 妖花達は足早にその家屋から出た。

 

「埃がないのは分かったけど、それだけならついさっきってことにはならないんじゃないの?」

 

 新道の言葉に対して妖花は答える。

 

「いえ、さっきまであそこにいたと思ったのはそれだけじゃないです。囲炉裏に真新しい燃え滓と消えきってない火があったので」

 

「本当に!?」

 

「はい。慌てて隠したのかまだ消えきってなかったです」

 

「じゃあまさかあそこにさっきまでいたってこと?」

 

「おそらく先ほどまで何者かがあそこにいたはずです。火を消した後もありましたし。私たちの存在に気づいて隠れたということは私たちに見つかりたくない理由があるんですよ」

 

「そう。本当に妖花ちゃんさすがだね」

 

「え?」

 

「そういうところに気づくのすごいなって思ったの」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 急にそんなことを言われて驚いたが妖花達は急いでその場を離れようとする。

 

「話は後々ということで。何か嫌な予感がするので離れましょう」

 

「私も同感よ」

 

 誰かが住んでいるとは思えない。なのに生活感が漂っているような気もする。直感で危険と思ってしまった。

 一体ここには何が…

 

「どうします?神社に向かうか元の場所から出るのか」

 

「近い方にしよう」

 

 地図で確認してみると神社の方が近いことがわかり神社の方へと向かった。

 

 ゴソッ…

 

 2人が離れてからすぐその家屋から何かが2人を見つめていた。

 

「…。」

 

 それを私たちは気づくことはなく早歩きで神社へ向かうのだった。

 

 

「こっちです!」

 

 妖花が先導しながら神社へと向かう。

 新道は疲れが溜まっているのか少し足取りが重いようだった。

 

「だいぶきついね」

 

「はい。気をつけてください。この辺、土がゆるいので」

 

 少し斜面が急になっているので2人は木々につかまりながら少しずつ進んでく。

 2人がこの森に入って何時間が経過したのだろうか。

 朝から入ったことが功をそうしたのか日はまだ当分出ている。明るいうちに帰りたい、そう思う。

 

「妖花ちゃん待ってー」

 

 後ろを振り向くと新道が遅れていることがわかりすぐに戻った。

 

「すみません、少し急ぎすぎてたみたいで」

 

 やはり妙な胸騒ぎがする。ここから早く抜け出したい。木々に囲まれた視界の悪い地では何がいるのかわからない。

 

「いいのいいの、私が体力ないだけだから」

 

 新道はそう言いながら荷物をよいしょと重そうに持ち上げる。

 それを見て妖花が新道に手を伸ばす。

 

「荷物持ちますよ」

 

「ありがとう」

 

 新道の荷物を持って疲れた新道と共に神社へと向かう。

 

 良い天気だが草木に所々日が塞がれている。

 少し日陰になっているので涼しい。新道にとってもいいだろう。この暑さの中疲れ切った体を動かすのは骨が折れるだろうから。

 

「妖花ちゃん、あとどれぐらいかな…」

 

「あと少しだと思いますよ」

 

 少しとは言ったが私と彼女の少しの感覚は違うだろうから何もいうまい。

 それよりも今日だけで不思議なことが色々とあった。

 一つ目は足跡。あの大きな人間のように5本の指があった足跡は一体何だったのか。二つ目があの古い家屋。誰かが先ほどまでいたと思わせるようなことがあった。消し残しの火、そして誰かがいたのか埃がなくなっていた囲炉裏の周り。

 

「妖花ちゃん大丈夫?」

 

「え?何がですか?」

 

 妖花は不思議そうに新道を見つめると新道は私の顔に何か付いているのかと思うほど強い眼差しで見つめてくる。

 

「そのね。すごく不安そうというか、確かに不思議なことがあったのは確かだけど想像以上に思い詰めている感じがするから」

 

「いえ、なんでもないですよ。今日あったことについて考えていただけです」

 

「そっか、ならいいんだけど」

 

 2人は森の中を歩き続ける。

 鳥の鳴く声や葉が揺れる音など様々な音がする。

 

 2人の口数も自然と少なくなっていた。

 きつい山道を結構な時間歩いていると疲れもたまる。

 

「そういえば、結局、吾妻柊子さんのことについての手がかりもなかったね。まぁ何十年も前だから仕方がないけれど」

 

「そうですね。確かに仕方がないかもしれません。調べましたけど警察もこの辺捜索したそうですが何もなかったらしいですし」

 

 中学生2人で何かないのか探すなど無理なことだ。何か力がない限り…力?そうだ、先輩にここで力を使ってもらえれば!

 

「先輩!ここでその力って使えます?」

 

 新道はそれを聞いて一度立ち止まって右手を前に出した。

 

「うん、やってみるね。でも、少し疲れたから時間ちょうだい」

 

 その後すぐに目を瞑り、深呼吸する。

 そして息を吐くと同時に目を見開いた。

 

「あの、先輩?」

 

「ごめん、話しかけないで。この力集中しないとできないの」

 

 妖花は黙った。

 新道はそのあとも集中しながら辺りに手をかざしながら移動する。

 

 そして数メートル歩き、手を下ろした。

 

「先輩、どうですか?」

 

「うーん。ここでは何も起きなかったかな。この広い森の中から見つけ出すのは至難の技だね」

 

「そうですか…」

 

 何か手がかりになることを探そうとしてもこの広い森の中では力も発揮できない。

 

「それにしても少しおかしいのよね」

 

 急に新道がそう言った。

 

「何がおかしいんですか?」

 

 妖花が聞くと新道は答える。

 

「いや、跡をつけられてる感じがするから」

 

「え?」

 

「私の力ね、人の死を観れるのもあるんだけどこの力を使っているとき敏感になるのよ」

 

「敏感になる?」

 

「えぇ。集中しなければならないけど、その分感覚が研ぎ澄まされて敏感になるの。妖花ちゃんに話しかけられた時もずっと何かにみられている感じがしたから」

 

 そう言われて後ろを振り向くも人の気配はない。

 

「気のせいとかじゃ?」

 

 そう言った妖花も耳をすませて周りの音を聞き比べる。やはり風が吹く音や虫の鳴く音ぐらいしか聞こえない。

 

「ううん。気のせいじゃないと思う。何かいると思う」

 

 一度2人は道を戻り、辺りを警戒しながら逆走する。

 

「何かいる…ですか」

 

 妖花の耳に入る音は至ってこの森に入った時と変わりはない。しかし新道が何かいるというのだ、ならば何かいる可能性はある。

 

「ごめんね。不安にさせたみたいで」

 

「いえ、大丈夫です。先ほどのこともありますし慎重になるのは当然ですよ」

 

 そういいながら妖花は新道を見る。

 しかし新道は私ではなく違う方向を見ていた。

 

「よ、妖花ちゃん!!」

 

 新道がそう、私の名前を叫んだのだった。

 

 

 

 

 

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