表裏一体物語-妖刀と少女を繋ぐ-   作:ニャンクル

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42.出会ってしまった者達

 

 

「なごみ?」「妖花?」

 

 2人の声が重なった。

 

「なごみ?本当になごみなの?答えて、答えてよ」

 

 「そうだよ」

 

 その声を聞いた。そして私は放心状態となった。よく分からなかった。理解ができなかった。処理しきれなかった。

 体の痛みを忘れてその一言に耳が完全に持っていかれた。

 仮面が取れた途端、いつものなごみの声が聞こえた。

 

「う、嘘…」

 

 妖花は立ったまま動かなくなった。それをみて面をつけた天狗…天野なごみは妖花の肩を持つ。

 

 「妖花…。本当に妖花なんだよね?」

 

 肩を揺らされても放心状態の体はまだ動こうとしない。彼女が山伏を着ている姿も一本下駄を履いている姿も見た事がない。加えて、翼が生えている。人間とは思えないその姿。なのに、目の前に映る顔はなごみの顔にしか見えない。

 

「あなたは妖花なのよね」

 

 「うん、そうだよ。私は千子妖花だよ」

 

 肩を落とす訳でもない。何故ここにあなたがいるのという眼をしていることだけは分かる。私も驚いているけど、なごみも同じ気持ちなのだ。

 

「まさか、こんなところで出会うなんて。本当に運が悪い、宝寓坊よりも運が悪いのは私の方だったわけね」

 

 いつものように冷静な話し方をするなごみ。

 しかし、彼女がいつもの姿を見せても妖花は笑わない。再会の涙は出ない。

 

「それにしても驚いた。まさか本当に妖花がいるなんて」

 

 そう話しかけてくれるなごみに妖花は戸惑いながら口を開いた。

 

「ごめんね。ちょっと待って。理解ができてないの。ごめん」

 

「そっか。そうだよね。それが普通の反応だよ。妖花ならって思ってたけど、驚いたよね」

 

「うん…。驚いたよ。本当に、本当にさっきの天狗はなごみなの…?」

 

 まだ信じきれていない。本当は違うのではないか、たまたまなごみが来ただけではないか、そう思う。

 

「そうだよ。さっきのは私、烏天狗を捕まえていたのも私、あなたを追っていたのも私」

 

 そう言いながらなごみは面をつける。すると、先程の声色が変わる。

 

『驚いたよね。怖いよね、嫌だよね。こんな姿本当は妖花を含めて誰にも、人間には見られたくなかった』

 

 なごみがどういう家計に生まれたのかも私は知らない。本当に知らないのだと改めて思う。

 

『私ね、ずっと黙っていたことは後悔してないよ。たとえ親友だとしてもこの私の特異体質は生まれ持ったものだから。私はこの体が嫌だった。だから妖花達には知られたくなかった…』

 

「そうだったんだ…でも私は!」

 

 しんみりとした空気が流れる中、妖花が話そうとした直後なごみが私の口を塞いだ。

 

「ごめん、少し待って」

 

 そう言われて妖花は黙った。

 

「どうかしたの?」

 

 その時、静かになっていた森の中で一際大きな何かが羽ばたいている音が聞こえてきた。

 

「多分、他の天狗が来た…」

 

「え?」

 

「ごめんね。詳しい話はまた後日になると思う」

 

「ちょっと待ってよ。なごみ、あのね、私はあなたのこと…」

 

 言い終わる前に他の天狗の声が聞こえてきた。

 

『こいつ…この顔は…』

 

 距離は離れているが声は聞こえてきた。

 それを耳にしてなごみの顔色が変わった。

 

「ごめん、今は聞けない。妖花、今は私の指示に従って。そうしないとあなたを助けられない」

 

 そう言われて妖花に緊張が走った。

 

「分かった。その指示を教えて」

 

 妖花の冷静な立ち振る舞いになごみは感心したとともにいつもの妖花に戻ったと思った。

 

「それでこそ妖花ね。じゃあ行くよ。まず妖花は走ってあの木に隠れていて。私が他の天狗を出来る限り遠ざけるからそのうちに逃げて」

 

「分かった」

 

「じゃあ妖花、最後にこれを」

 

 なごみから何か飲み物を貰った。それはただの水には見えなかった。

 

「それはあなたの体の傷を癒すと思う。私でも簡単に傷口が塞がったからあなたにも効くと思う」

 

「ありがとう、なごみ」

 

「えぇ、それじゃあまたね」

 

 妖花は了承して2人はお互い、自分のやるべきことを始めた。

 なごみが移動を開始する瞬間、妖花がなごみの耳元で伝えた。

 

「なごみ、私はあなたのことを絶対に軽蔑しないし裏切らない。だから信じて欲しい、私のことも」

 

「うん、もちろんだよ。だからね、今度また神社の前で会おう。水無月に私とあなたが出会った日に」

 

「うん、わかった。絶対行くよ」

 

 2人は何かお互い吹っ切れた様子で走り出した。

 

「よし、あそこに隠れていればいいのよね?」

 

 妖花はなごみに言われた通り、気の裏に隠れた。その木はとても太い木でその中は空洞が空いており、人1人入れるほどだった。

 

「とりあえずここに隠れていようか」

 

 木の空洞に隠れて様子を見る。その間、なごみは異形の姿となったまま仮面を付け颯爽と走り出す。

 

『まずはあそこに…!』

 

 なごみは人間とは思えないほどの速さで宝寓坊こと倒れていた烏天狗のところに走った。

 そしてその周辺に近づくともう周りには他の天狗が宝寓坊の周りにいた。

 すると渋い声が聞こえた。

 

『おい、止まれ』

 

 なごみは立ち止まり様子を伺う。

 

『なんじゃ、お前か』

 

 渋い声でそう言われて言葉を返す。

 

『えぇ、その天狗のことなら申し訳ない』

 

 なごみの他に倒れている烏天狗を抜けば2人の天狗が目の前に立っていた。

 その天狗は両方とも鼻が長く、多くの人が知る天狗そのものだった。

 なごみに話しかけた方の天狗は背がなごみより高く、そしてまだ口を開いていない方の天狗はなごみと同じぐらいの背丈だった。

 

『こいつ、あの天野家の…』

 

 背の小さい方の天狗が嫌味ったらしく言う。

 

 なごみのことは悪い意味でよく知られているので、顔を見られただけでなごみということはすぐに他の天狗には分かる。

 だからこそなごみは自ら面を被っていた。他の天狗から自分であるとバレないようにするために。それでも、バレてしまう。体つきが違いすぎるから。

 

『それは構わない。それでこの裏切り者を捕まえたのはお前なのか?』

 

 そう聞かれてなごみは妖花と話していた時のような言葉遣いではなく、まるで嫌っているような少し強めの口調で答える。

 

『えぇ。私が生け捕りにした』

 

『そうか。それはよくやった』

 

 その言葉を聞いてなごみは驚いた。

 

『え…?』

 

 よくやったと褒められるようなことを言われるとは思っておらず素で反応を返してしまった。

 するとそれを見ていた片方の天狗が嫌味ったらしくもう一体の天狗に伝える。

 

『しかし、こいつはあの家系のものですよ?いいんですか?』

 

『構わん、家系などそんなものは気にしない。結局は実力じゃ。この裏切り者を捕まえたのは確かな話だろうな。この天狗も実力者じゃ、一人で自滅なんてことにはならんからな』

 

 珍しい態度をする天狗だったので驚いた。

 なごみの出生のことを特に気にしていないらしい。

 私という存在をよく思わない者は多いはずだろうに。

 

『それであなた達は何者だ?』

 

 少し探りを入れつつその天狗のことについて聞くとあっさりと素直に答えてくる。

 

『そうじゃったな。天狗といえど名がわからなければ警戒もする』

 

『ワシは御嶽坊。そしてこちらが笹尾坊だ』

 

 なごみは内心驚きはしたがこの天狗が嘘をついている確率は低そうだった。

 

『名乗られたなら名乗り返すのが礼儀、私の名は…』

 

 なごみが名前を明かそうとした時、御嶽坊が首を横に振る。

 

『大丈夫じゃ。お前の名は知っている』

 

『そう…。やはり私の名を知っているのか』

 

 なごみ自体最近生まれたのだ。悪い意味で知られているというのは当然のことだろう。

 

『お前の話は有名だ。天狗の里でも知らぬやつはおらぬだろう』

 

『たしかにその通り。私という存在を許せない者ばかりだろうから知っていて当然だろう、そこの天狗のように』

 

 笹尾坊を見つめながら言うと笹尾坊はこちらを見ながら嫌な言い方をしてくる。

 

『そうですかい。本当に分からん、お前のようなやつをなぜ上の方が生かしているのか理解出来んなぁ』

 

 私という存在、何故上の者、つまり八地天狗達は私を生かすのか。それだけは分からなかった。

 

『それは私も知りたいことだ。利用価値など無いに等しいはずなのに』

 

『そうかもしれんがそうでも無いのかもしれん』

 

 腕を組みながらなごみに告げる御嶽坊の姿を見つつなごみは妖花のためにもここからこの2体を離す必要があった。

 

『私は報告に参りたいがよろしいか?そのためにも私という存在が本当に宝寓坊を捕らえた証明ができるであろうあなた方を連れて』

 

 率直に告げるなごみに対してやはり乗り気で笹尾坊は話に乗っかる。

 

『いいだろう、お前の不正の可能性は十分にあるかもしれんからな。神通力の強い使い手であるあの方に見てもらうとしよう』

 

 嫌な笑みを浮かべる笹尾坊が予想通りの反応を見せたので御嶽坊にも同じようなことを言うと直ぐに了承した。

 

『あぁ、構わんぞ。それにしてもお前こいつをよく見つけたな』

 

 そう聞かれてなごみはまた同じような口調で答える。

 

『そのことか。それならば偶然だ。私は今は修行中の身。たまたまここらで修行していたところ、宝寓坊を見つけたわけだ』

 

『そうか、ならいい。お前は他の天狗から毛嫌いされているようだからな。何かあるなら言え、ワシはそんなことは気にしていないからな』

 

『……。』

 

 なごみは黙ってそれを聞いた。でも、抑えきれずに言葉を返す。

 

『な、なぜそんな証拠にもないことを私に告げる?それで私が満足するとでも?』

 

『違う、お前が例え天狗と人間の子だろうと天狗という意味では仲間ということだ。ワシは仲間は大切にするたちだ。だからお前と言う存在をどうとも思わない』

 

『口だけの言葉に何の意味がある。私は生まれて何年も迫害を受けてきた。たった1人が言ったところで治ることはない。気を回してくれるのはありがたいけれどいらぬ心配だ』

 

『そうか…』

 

 すると笹尾坊が怒ったような口調でなごみに告げる。

 

『癪に障るやつだな。俺が認めないにしても御嶽坊様がそういうんだから素直に聞き入れろ』

 

『やめておけ。迫害を受けるものの気持ちは迫害を受けたものしかわからん。ワシから何かを言ったところでそういう気持ちになるのは当たり前のことだ』

 

 なぜこんなにもこの天狗、御嶽坊は私をかばおうとするのか。何故認めようとするのか、分からなかった。

 そんなことが知れれば損をするのはこの天狗のはずなのに。

 

『普通ということを知らないんだ、普通を知らず生きるということはそういう事だ。何が普通で何が普通では無いのかそれもまた分からないことだ。自分の普通が相手にとっては普通では無いかもしれんし、また相手が普通と思ったことは自分にとっては普通では無いかもしれない』

 

 最後に告げる。

 

『普通の通じる世の中などない』

 

 普通の通じる世の中。それはなんなのか。

 それは今私たちの暮らすこの世界で銃を使い人を殺すことが普通か?いや違う。金を奪うのが普通か?違う。つまりそういう事だ。

 そのようなことをするのが普通、そう思うことだってある。

 

 それが普通の世界ということだ。

 

 そんなものがあれば現代の私たちは違うと狼煙をあげる。

 今の政治もそうだ、違う違わない、そんなものばかりだ。そんなものは関係ない、結局決まったことが普通になればそれが普通になるのだ。それ以上それ以下でもない。

 

 それが普通というものだ。

 

 なごみが迫害されることが普通、または普通では無いと考える者もいる。

 

 それがこの世界だ。この天狗の中にも味方と言えるかは定かではないが気にしない者もいる。それだけはわかった。

 

『そうね、人間の世界と私たちの世界は違う。私たちの普通はあちらでは普通では無いかもしれない。だから私はどうしても認められたいのよ』

 

 認められれば変わる。それが普通になれば反応、対応は変わってくる。

 それがなごみにとって大切なことなのだ。

 

『あぁ、そうかよ。勝手にしな』

 

 この笹尾坊は恐らく何も分かっていないのだろう。しかしそれでいい、理解しようとする方が面倒だろうから。

 

 天狗達は横たわる宝寓坊を持っていた縄などで縛ると持ち上げやすいように肩を持つ。

 

『それでこいつはとりあえずどこへ?』

 

 笹尾坊からそう言われて御嶽坊は近くにあると言われる隠家に行くことになった。

 

『あそこに今いらしている』

 

 今いらしている、そう言われて誰がいるのかなどすぐに理解出来た。

 

『私も話は聞いている。あの方は何故ここに来ているのだ?』

 

『いや…何故来ているのだろうな…』

 

 反応を見てなごみは何かを知っているということはよく分かった。

 しかし、今は妖花のことの方が大事だと思った。だからこそこの話はとりあえず置いておいて今は移動を開始しよう。

 

『そうか、知らないのなら別に…。とりあえず移動を開始しよう、宝寓坊が目を覚ます前に』

 

『そうだな』

 

 3人は翼を広げて空に舞い上がった。

 人から見えないように気配を断ち、移動を開始する。空を飛ぶ速度はそこらの飛行機と同じかそれ以上かと言ったところだった。

 

『ここからどのくらいで着くか分かるか?』

 

『少しだ、本当に少し…』

 

 御嶽坊はそう言った。すると笹尾坊が嫌な顔をしてこちらに叫ぶ。

 

『いちいちうるさいぞ、黙ってついて来れないのか?』

 

『えぇ、そうね』

 

 それから三体の天狗は一言も喋ることはなく移動をしていた。

 それを妖花は黙って見送っていた。

 

「なごみ…大丈夫なのかな…」

 

 妖花は心配をするかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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