次の日のこと、夏海と勉強をするために放課後学校に残った。
テストまではあと2日。
あまり時間はないができる限り協力したい、そんな思いで妖花は今日も夏海と勉強に励んでいた。
「今日も頑張るぞー!」
勢いよく拳を上にあげて自分の指揮を高めている夏海を見て妖花も小声で若干拳を上げながら夏海に賛同する。
「お、おう…」
そんな2人を見て教室に残っていたクラスメイトも頑張ろうとの声掛けをした。
「夏海が居るとみんなの指揮が上がるね」
「いやいや、私は気合いだから!気合いで何とかしているだけだから!」
「そんなことはないと思うけど」
妖花が笑顔で告げると夏海は首を傾げる。夏海は自分がもたらしていることが分かっていない。
そんな彼女に対してただ、ひとつ言えることは、夏海という親友と共にこれからも学校生活を送りたいと思う、それだけだ。
そんなことを一瞬、考えたけれどこれから生きていく中で離れることは無いだろう。例え、高校が違えど、大学が違えど、仕事が違えど、住む場所が違えど。
これからテストが近い時期になぜそんなことを考えたのだろうと思う妖花だったがとりあえず、切り替えて勉強に精を出した。
「とりあえず平均点の半分を取らなければ補習にはならないから大丈夫だよ」
霹靂中学校のテストはそこまでレベルが高いという訳では無い。しかし、赤点が決まっている。それは半分の点数。つまり、50点を取れば補習を受けることになるのだ。
それを回避するために日々学生達は勉学に勤しんでいる。
「まぁそうだけど!私は前のテストの結果でほとんどの教科で補習をしたわけですよ」
「うん、知ってる。待ってたから」
前の中間テストの時、夏海は散々な結果に終わった。おかげで部活に出るのが遅くなったり、帰るのが遅くなったりしていた。
そんな夏海を思い、妖花は夏海の補習が終わるのを待っていたわけだ。
「その説はどうもありがとうございました!」
綺麗なお辞儀をする夏海を見て妖花は首を横に振って「いいよ」と返す。
すると真剣な顔つきになり、夏海は話し始める。
「妖花。今回は期末テスト。意味わかる?」
「意味?」
妖花が聞くと夏海は大きな声で叫んだ。
「期末テストが終われば即夏休みになるの!ということは補習があれば夏休みの貴重な一日が学校に行って補習を受けるという日に変わるわけです!」
「うん、わかってるよ。だからこうして私は夏海と勉強している訳だし」
すると席を立って拳をぎゅっと握り、斜め上のちょうど後ろの張り紙を見つめながら告げる。
「うん。そうなの!そして妖花!私は夏にみんなで遊びたいの!人生最初で最後の14歳の夏だよ!そんなのみんな遊ぶに決まってるじゃん!」
いや、それはみんなそうだよ。まず人生最初で最後ってそれ毎年だからね。というかそれ去年も言ってた気がするのだけど…。などと声に出してはダメだと妖花は思う。彼女は彼女なりに毎日を全力で楽しむということだ。
私もそれは賛成だ。今の私は今しかいない。
なら、やるべき事はひとつだ。
妖花は夏海に言葉を返す。
「うん。私も最近は海とか行ってなかったし良い機会かもしれない」
「だよね!ならばやることはひとつだよ。人生最初で最後の中学二年生の夏。私達は最高の思い出を作るのさー!」
そんなことを豪語する彼女を見ながら「人生最初で最後の」というフレーズが気に入っているのかなと思った妖花だった。
そんな2人に近づいてくる人物がいた。
「ねぇ、2人とも。私もいいかな?」
優しい口調で声をかけてきたのは泣塔神楽だった。部活がない日が続くため最近あまり話せていたなかったが神楽から話しかけてくれて嬉しく思う。
「もちろんいいよ」
「うん!」
2人は神楽を迎えて3人でまた勉強を始めた。
シャープペンシルで紙に文字を書く音だけが響いている。
とりあえずは話しながらと言うよりは各々が分からないことがあれば聞く、といった方式で勉強をしていた。
「ねぇ、妖花ちゃんいいかな?」
「どうしたの?」
「ここ分からなくて」
妖花は丁寧に分からない箇所の説明をすると神楽はお礼を言ってまた黙々と勉強をしている。
そんな中、夏海は何故か動かなかった。ペンひとつ動かさずに何故か妖花を見ている。
そんな夏海を見て妖花は話しかける。
「夏海どうしたの?」
すると話しかけられて夏海はようやく動いた。
「妖花、あのね」
そう話し始める夏海を見て神楽も同じように夏海を見る。そして口を開いた。
「何か話しながらじゃないと勉強できない」
「…。」「…。」
2人はなんとも言えない表情で夏海を見つめる。
「え?いや、その。なんというか静かすぎて逆に集中できないというかなんというか」
「はぁ。そんなことか」
「なんというか獅子田さんらしいね」
2人は笑みを浮かべたあととりあえず夏海の言う通り、話ながら勉強することにした。
確かにその方が夏海にとっても効率がいいためそういう方式に切り替えた。
「そういえば泣塔さんはさ前回のテストの順位どんな感じ!?」
顔を近づけて聞いてくる夏海に神楽は普通に答える。
「えっと、妖花ちゃんほどじゃないけどね。前のテストは一応12位だったかな」
「じ、12位!?」
夏海が驚きで声を上げた。
「な、夏海!そんな声あげなくても…」
「いや、その。普通に頭いいから羨ましいと思って。それじゃあ思ったけど2人とも普通に成績上位ってことだよね?」
「まぁそうなるかな」
謙遜はしない。したところで変わらないから。
「上位って程じゃないけどね」
2人のその特になんとも思ってなさそうな言い方に夏海は悲しくなる。ただ、それをポジティブに捉えるのが獅子田夏海だ。
「これは…」
「ん?」
「これはついてるよ!2人とも頭いいから、2人に教えて貰えるなら私もしかしたらもしかするかも!」
「そ、そうだね…」
泣塔が苦笑いを浮かべてみていたので妖花は怖い顔で夏海に告げる。
「なら、話しながらでもいいとはいったけど話しすぎだからペンを持とうか」
差し出されたペンを見て夏海はうっと顔を顰めたがすぐにペンをとった。
「が、頑張ります…」
それから3人は少し雑談を交えつつ勉強をした。合間合間に夏海の話を聞きつつ、あっという間に日が落ちる頃になっていた。
「今日はこれで終わりかな」
「うん、とりあえずわね」
「お疲れ様」
3人は学校でのテスト勉強を終えた。そろそろ日が沈む。一段落したため3人は帰る用意を始める。
「じゃあ、またね」
クラスメイトに帰りの挨拶を交わしたあと、今日は泣塔を入れての3人で下駄箱まで向かった。
「ねぇ、ごめん。少し待ってて」
下駄箱まであと少しと言うときに夏海がお手洗いに向かった。
そんな夏海を待つために2人はトイレのそばで佇んでいた。すると神楽の方から妖花に話しかける。
「ねぇ、妖花ちゃん」
「どうしたの?」
「あのね、覚えてるでしょ?夜市でのこと」
急にそんなことを言われて妖花は驚いたがすぐに脳内に夜市での出来事が蘇ってくる。
「うん、覚えてるよ。それがどうしたの?」
「あの時のことが本当に現実だったのかなって今でも思うの。あれから特に変わったことが起こってないから」
神楽は知らない。あれから泣塔神楽と柳翔と別れた後、私はもう一度夜市へと迷い込んだことを。
そこで起きた出来事を今話しても神楽は信じてくれるだろう。しかし、言うべきではないと思う。それを話したところで不安にさせるだけだろうから。
「うん、そうだね。だからこそ気を引き締めないとね。ふざけてはなかったけどむやみやたらにああいう、噂とかの真相を確かめたりっていうのはやめておかないとね」
「うん。あの時は本当に怖かった。妖花ちゃんの言う通りだよ、だから気をつけないとね」
「そうだ…」
と言い終わる前にトイレから夏海が出てきた。
「おー!二人とも待ってくれてたんだ!」
「う、うん。もちろんだよ」
「なんか話してたの?」
そう聞かれて妖花は"世間話"と言って夜市でのことは隠し通した。
「じゃあ二人とも、帰ろっか!ってあっ」
「どうしたの獅子田さん」
神楽が反応を返すと夏海は言う。
「ハンカチ忘れた」
たしかにポタポタと水滴が地面に落ちている。見かねた妖花がすぐにハンカチをポケットから取り出した。
「はい、これ使って」
「ありがとう!流石、妖花」
「そんなこと言ってないでさっさと拭く」
妖花のハンカチで手を拭き取って改めてお礼を言った夏海と共に靴箱まで向かった。
泣塔も遅れて妖花達についていく。
靴箱で運動靴に履き替えた3人は靴箱を後にして学校の外へと出た。
夕日が照らし、3人は目を細める。
夏になったこともあり、暑さで外に出るとすぐに汗をかいた。しかし、日中ほどではなかった。
「暑いね」
「もうそろそろ夏本番だからね」
そんな季節ではあるが日が沈むと夏の暑さはなくなり、急に冷え込む。それを知っていたのでとりあえず早めに自宅に帰ろうと思った。風邪をひいては元も子もないから。
「じゃあね」
「うん。また明日」
神楽とは校門を出て直ぐに別れた。彼女の家と私の家は逆方向にあるため仕方がない。
神楽と別れあとは2人は帰路に着いた。
そんな2人は雑談をしながら歩いて帰っていた。
「今日もお疲れ様」
「うん、おつかれ!」
2人は仲良く家を目指す。
「そういえばさ、夏休み何するか決めてる?」
そう質問されて妖花は頭に思い浮かべる。
夏…。夏といえば海とか祭りとか色々とある。
それをみんなで出来たら1番いいなと思う。
「夏休みか。そうだね、私は夏海や神楽や部活のみんなと遊びたいかな。クラスの人達とも」
本当はなごみとも遊びたい。でも今はそれが出来ない。なごみのことを待ちつつ今年は自分なりに楽しもうと思った。
「そっか!なら誘っておかないとね!」
「そうだね。打ち上げとかあまり行かないけど今年は行っても良さそうかな」
笑顔でそう告げると夏海は賛同してくれる。
「そっか!なら行こうよ、妖花が来るならみんなも嬉しいだろうし」
「そうだといいな」
いつもの帰り道がなんだか楽しく感じる。だからこそ寂しくも感じる。こんな日がずっと続けばいいのにって。
「よし、夏海!走るよ」
「き、急に!」
「うん、なんだかそんな気分になったから」
2人は鞄を抱えて走り出した。
いつもの帰り道を全力で走る。
「いい感じ」
「ま、待ってよー!」
鍛えているため走るのに自信があった妖花だが夏海はその妖花の後ろをピタッと着いてくる。
「流石夏海だね。天性の才能ってやつなのかな?」
軽く流しながら走る妖花は速度を落として夏海と同じぐらいの速度で走る。
「大丈夫?」
「うん、このぐらいのペースなら大丈夫!」
「そっか、ならこのまま行こう」
制服が揺れる。スカートが揺れる。
2人は軽くランニングをしながら家まで向かった。家までの坂を駆け上がり、全力で坂を走り抜け、家の前まで到着した。振り返ると、まだ夏海はここまで来ていない。
「ふぅ…」
「よ、妖花ー!」
坂から見下ろすと夏海がゆっくりと上がってきていた。
「本気出すよー!!」
そう言って夏海も本気で坂を昇る。運動神経が元々いい夏海は坂に屈することなく妖花のように坂を駆け抜けた。
「よーし。終わり?」
「うん、ごめんね付き合わせて」
「いいの、いいの」
「じゃあね。疲れてるだろうからゆっくり帰ってね」
「うん、ありがとう」
妖花は夏海を見送った後家に帰った。
「ただいまー」
玄関の扉を開いて第一声にその言葉を発する。するとリビングに繋がる扉が開いて母が「おかえりー」と返してくれる。汗でベタベタした体をすぐにでも洗い流したいと思い、すぐに浴室へと向かった。
とりあえずお風呂に入った後濡れた髪を乾かしながらリビングに入った。
「ふぅー。お風呂頂きました」
「うん、ご飯できてるから座って」
そう言われて妖花は自分の特等席に座った。
「今日ハンバーグか。美味しそう」
「良かった。じゃあいただきます」
母親の声に合わせて妖花は「いただきます」と行ってから食べ始めた。
テレビにはニュースが流れており、政治の話をしているみたいだった。あとはCMやらによく出てくる社長が話をしていた。
「お父さんは?」
テレビを見ながら妖花は軽い質問をする。
「まだ、お仕事あるって」
「そっか、残念」
妖花の父親はあまり家にいなかった。
それは仕事のため。刀鍛冶のような仕事をしていると聞かされていた。県をまたいでどこか遠くで仕事を行っているらしい。
「次いつ帰ってくるんだろう」
「帰ってくるわよ。心配しなくても」
「うん、分かってる」
ご飯を食べ終わったあとすぐに自室へと戻った。とりあえずテスト勉強を始めた。
夏は部活のみんなともどこか行きたいなと思ったりしている。
「夏と言えば怪談だから肝試しとか行くかもしれないから注意しないとね」
妖怪とまた出会うかもしれない。そんなことを思いながら妖花はペンを動かしていく。
夏休みは8月末まで。中学一年生の頃はまだ慣れない学校生活だったためほとんど遊んでいなかった。というか勉強ばかりしていた気がする。
そのため、妖花は中学二年生の夏は遊ぼうと決意していた。来年は受験を控えている。けれど、遊びたい欲には勝てない。でも、気は抜かない。内部進学と言えど、成績は重要だから。
夏海の言っていた通り中学二年生の夏は一生に1度しかない。だから、この一瞬でも楽しもう、そう思った。
「よし、まずはこの期末テストを頑張らないと。遊ぶとかの予定はテスト終わってから決めないとね」
そんなことを考えつつ、今日も妖花は勉強漬けの一日を送った。
「おやすみなさい…」
妖花は睡魔に襲われベッドに入って目を瞑り、明日の日差しが指すのを夢の中で待つのだった。
妖花はベッドで眠りについている。そして辺りの家も段々と電気が落ち、寝静まる時間帯。
「はぁ…速く。くっ…失敗しました」
金髪の少女は森の中で呟くのだった。