天網のつくもがみ ~みゆきの蜘蛛糸電文禄~ 作:きないしょく
戦闘開始の合図から暫く、二体のナビは相手の動きを伺いつつその腕に力を込め、まずはバーストマンが先手を打って沈黙を破る。
バーストマンは片腕の巨大なリストバンドから一発の拳型のミサイルとスモールボムをスカルマン目掛けて射出する。
ミサイル、スモールボム共に肉眼でも動きを捉えられる程度の弾速故に、放物線を描くスモールボムの着弾点を把握し退避、続く直線的な動きのミサイルにもスカルマンは難なく対処しようとするが、スカルマンの横を通り過ぎようとした途端にミサイルは静止、点滅しだし爆発を起こす。
スカルマンは爆風に吞まれるも、爆風を死角に左腕を外し、右腕でブーメランのようにバーストマン目掛け投擲する。
投擲された左腕をバーストマンは難なく避けるも、スカルマンが直後に水属性バトルチップ、バブルスプレッドを発砲。
これにも反応し回避したと思いきや、突如回避したはずのバブルスプレッドが誘爆しバーストマンに直撃、躱したスカルマンの左腕が障害物として機能しヒットしたバブルスプレッドの誘爆を引き起こす。
『バババ、外した腕を起点にバブルスプレッドの誘爆を誘うとはやるじゃねえか』
『君こそスモールボムとミサイルの時間差攻撃だなんて中々のものだよ』
二体のナビはお互いをリスペクトし合い、送信されたバトルチップ情報をインプットし、再び腕に力を込めそれぞれミサイルとブーメランを投げつけ合う。
「対象の生体反応の感知が起爆条件のミサイル、貴女がプログラミングしたの?」
「バレットフローリー、レイン様特製のチャージショットよ、凄いだろ。みゆきのは腕を置物に見立てて相手の動きをコントロールしようっての?」
「ちょっと違う、腕を追跡させ追いつめて一気に畳み掛ける想定のチャージショット、ボーンストーカー。まだ試行錯誤段階」
通常、ウイルスには無力のプログラムくんから学習し、ネットナビには独力でウイルスに対抗するための手段としてバスターと呼ばれる射撃武器が標準装備されており、その極小威力から豆鉄砲とも揶揄されるノーマルショットと、バスターに力を込めることで一発の威力を強化したチャージショットのニ種類を使い分ける事ができる。
一般に普及されているノーマルナビ達は、この二種のバスターを使用するのだが、みゆきやレイン他、プログラミングの心得のある持ち主達の中にはこのバスターやチャージショットに改造を施す者がいる。
「俺もゲーセンで
「私もナビのプログラミングを始めたのは最近。私はあまりバトルしないけど、こうして誰かと対戦してプログラミングについて語るのは初めて。正直…楽しい」
みゆきの率直な感想に、レインは真っ白なギザ歯を煌めかせた混じりけの無い笑顔で応答する。
「だよねっ」
入学式から先日までで抱いていたレインの印象は、粗暴で騒々しく派手好きな今どきのギャルと、およそみゆきとは対極の位置に座する疎ましいだけの陽キャだったが、ゆりこ先生の手引きで間近に見る飛弾レインは、年頃の女の子らしい繊細さと年端のいかない男の子っぽい無邪気さを併せ持った、会話を交わしていて心地よい気持ちになれる少女だった。
(これがレインさんの素顔か)
高校に入学して同年代から年下の子達と付き合う機会が増えたが、それらは骨董品屋で大人達とビジネスの話をするのとは違う、陰キャのみゆきに新たな世界を開かせてくれる刺激に満ち溢れた経験だ。
それはこの陽の属性のレインとて例外ではなく、これまであくまで受け身の姿勢であろうとしたみゆきに、自ら進んで自分とは正反対の人達とも繋がりを作っていきたいと思わせるのに十分なものだった。
(その前に、いや、その為にも、かな。今は目の前のレインさんに勝ちたい)
内気な自分を変え、一歩前に踏み出す為にも、みゆきはこの一戦から逃げ出すような真似だけはしたくなかった。
スカルマンの動きは通常よりやや緩慢だが、バーストマンの攻撃を的確に読んでは直撃を避け、死角を見つけては確実にボーンストーカーを配置するその動作はむしろ敏捷とも錯覚するほどに洗練されている。
そこにみゆきの送信するバトルチップ、アイスキューブやパネルアウト1で置物設置にパネル破壊にと相手の動きを制限させ、レインがソード等の近接チップを送信して一気に攻め込もうとするのを見るやカウントボム1を配し、そちらの破壊を余儀なくしてくる等、みゆきとスカルマンの戦術は対戦相手のコントロールを強く意識したものだった。
対するレインとバーストマンはメットガードでの防御、低速ボムとミサイルで相手の動きを牽制し、隙を付き高火力の近接攻撃を叩きこむ事を目的とした、カウンター型の戦法だ。
(二人とも安直な力推しには頼らないのか)
ゆりこは「すごーい」とか「つよーい」とかの能天気な実況を挟みつつ、二人の若い女子高生の実力を分析する。
恐らく純粋なネットバトルのセンスはみゆきの方に軍配が上がるが、長らくネットバトルを通して培った忍耐力はレインが上で、その実力はほぼ同等であり、仮にネットバトルの全国大会があろうものなら二人ともベスト16入りまでなら現時点でも問題ないというのがゆりこの見解だった。
(それにしてもみゆきさんの水属性チップ攻撃、意図があってのもの?)
設置系チップをふんだんに活用するみゆきだが、バーストマンへのダメージ蓄積は低威力なものの当てやすい水属性チップでの攻撃が主体で、純粋な扱いやすさでの導入の他に、ゆりこには何か別の狙いがあるように感じ取れていた。
ゆりこがそうこう思索していると、次のバトルチップ送信が可能になるカスタムゲージが溜まる直前、試合を決めようとスカルマンが大きく動き、まずエリアスチールでバーストマンの目前に詰め寄り、続きステルスマイン1でバーストマンの動きを抑制、カスタムゲージが溜まると同時にみゆきの送信する電気を帯びたソードを装備したスカルマンがバーストマンを横一文字に切り払おうとする。
「そこだっ、プログラムアドバンスッ、オメガキャノン1ッ」
刹那の差で電気のソードがバーストマンの身体をすり抜け、バーストマンが至近距離から発射したキャノン砲がスカルマンを迎撃する。
続きバーストマンはアイスキューブにキャノンを連射してこれを破壊、更地となったフィールドをバーストマンは駆けまわりステルスマインを自ら踏み無傷で排除する。
「ひゅーあぶねー、しつこく水チップで攻めるもんだから逆に警戒してよかったぜ。みゆき、いつからバーストマンが水属性って気付いた?」
「バーストマンの腕から出ていた煙が何か引っ掛かったから。今のエレキソードで決める気だったのにオメガキャノンの無敵時間を使って切り返してくるなんて…、悔しい」
「キャノン系の
みゆきの狙いが大きく外れ押していた形勢が逆転、レインは好機と前回のビリー襲来時にデータ化したであろう電気系チップ、サンダーボール1をスカルマンにヒットさせ、のけぞるスカルマンにバーストマン専用固有チップ、バーストバレットを発動させる。
固有チップとは30枚構成のバトルチップフォルダや改造バスターショットとも違うネットナビそのものに組み込まれ、持ち主の指示やネットナビ自身の意思で使える強力なバトルチップの総称である。
バーストマンは身体全体を捻り、体内の急激に熱された水蒸気が右腕のリストバンドに一転集約される。
「ぶっとべバーストバレットォッ」
バーストマン渾身の右ストレートがスカルマンの顔面を捉えようとする瞬間、スカルマンのしゃれこうべが首から離れはるか上空に飛び、小さな頭部がナビ一体程度なら軽く押し潰せるまでに巨大化し、大技のバーストバレット発動により無防備となったバーストマンの頭上に降り注ぐ。
『避けらんねぇ‐』
『シャレコーベイッ』
ズドォンと巨大な落下音が電脳空間と理科室中に響き渡り、スカルマンの巨大な頭に押し潰されたバーストマンがプラグアウトされレインのPETに帰還する。
「デリィートッ、勝者、黒井みゆき&スカルマンッ」
正式なネットバトルマシンで行われた試合ではネットナビの安全面からデリートは発生せず、試合続行不能と判定されると強制的に電脳空間からログアウト処理が行われるのだが、
ゆりこ先生がみゆきの手を掲げ祝勝し、続き敗北で呆然とするレインの肩に手を当て元気づける。
『ってて、今ので決まったと思ったんだがよ、当たる直前で頭を飛ばして回避するたぁビックリよ、バババババッ』
『みゆきの指示が無かったらその判断ができなかった、いい経験になったよ、バーストマン』
同じくみゆきのPETに帰還したスカルマンは、バーストマンと先程の試合を振り返りお互いをリスペクトする。
「お疲れ、バーストマン。固有チップまで作っていたたぁね、みゆきも俺と同じでネットバトル好きじゃんか」
「レインさんとのネットバトルが楽しかったのは認めるけど多分違う、私はスカルマンが好きだから色々カスタマイズしている。レインさんもバーストマンが好きだからカスタマイズしているんじゃないの?」
「レインでいいよ、そりゃレイン様自慢のネットナビだからな、俺がバーストマンを好きにならんでどーする、ガハハハハッ」
相も変わらず豪快に笑うレインを目し、みゆきは深く頭を下げレインに今までの行いを陳謝する。
「レインッ、ごめんなさいっ、私、レインを誤解してた、煩い人だってレインの事をよく理解しようともしないで勝手に乱暴な人だって決めつけて、レインはこんな明るく思慮深い人なのに…」
「…い、いや、煩くて乱暴なのはその通りだし、別に思慮深くもないし、あの時の事は嫌われて当然だとも思ってるんだけど…」
突然の謝罪にどぎまぎするレインに、みゆきは頭を垂れたまま右手をレインに差し向ける。
「こんな陰キャが人を値踏みしておいて勝手だとは自分でも思う、でも私、その…、レインと、と、友達になりたいっ、なって欲しい、ですっ」
日陰者のみゆきが勇気を振り絞って前向きなレインに精一杯の告白をし、拒絶の恐怖に震えるみゆきをレインは軽く笑ってその手に右拳を突き出す。
「なに言ってんだ、拳を合わせりゃもう友達だろ?みゆき、これからもよろしくなっ」
ギザ歯を輝かせ弾けるような笑顔で新たな友達を迎えるレインに、みゆきは無表情ながら一生懸命に喜びを伝えようと努める。
「うんっ」
「めでたしめでたし、二人が仲直りしてゆりこも頑張った甲斐がありました」
「うるる君、こんな処にいたのか、ダメじゃないか、プリントはちゃんと提出しなきゃ、ゆりこ先生もちゃんと言ってください」
「…はい、申し訳ありません、私の方からもキチンと指導しておきます」
「は、はい、明日までには済ませておきますっ」
うるると呼ばれる女子とゆりこ先生に注意を促す男性、この学校の教頭先生が過ぎ去った後、みゆきは不思議そうにレインの顔を見つめる。
「…うるる?」
「…はぁーバレちゃったか、そ、俺『雨』って描いて『うるる』っていうんだけどさ、なんかうるるじゃかっこよくないだろ?だから『レイン』ってかっこよく決めてるんだけど、バレちゃぁ仕方ねぇや。ゆりこ先生はレインって呼んでくれるけど、まぁみゆきは好きにおちょくっていいよ」
溜息を吐き頭を掻くレインを放って、みゆきとゆりこ先生は夕陽が差す廊下を進んで立ち止まるレインを呼び迎える。
「何してるの?レイン、早く帰ろう?」
「ほーらレインちゃん、お外が暗くなっちゃうよ?」
本名を知りその事には一言も触れずなおレインと呼ぶみゆきに、レインは愕然としてみゆきに問い詰める。
「い、いや、気にならねーの?うるるってかわいい感じの名前とか、だからってガキみてーにレインとかかっこつけてる事とかさ」
「レインはレインって呼んで欲しいのよね、ならそれでいいでしょ?私はレインって読みもかっこいいし、うるるって名前、優しい響きで素敵だと思うけどな」
みゆきの予想外の発言にレインは瞳をうるると閏わせ、やがて雨のような涙を流しみゆきに抱き付く。
「うおー、ありがとうみゆきー、心の友よーっ」
「ちょ、ちょっと感動すること?離れてってば」
引き締まった腕できつく抱き付かれ、みゆきはレインを交えた今後の学校生活を想像する。
(こんな騒がしい奴との学校生活は退屈しないだろうな)
みゆきは痛みで顔を引きつらせながら、新しい友達ができた事実に胸を躍らせる。
「ガハハハハッ、みゆき、レイン様と購買部大人気焼きそばパン、どっちが多く食べられるか競争だぜーっ」
「あのねレイン、大食いも早食いも健康に悪いから、よく噛んで食えし」
「そもそも私お昼は自炊弁当なんだけど」
大量の焼きそばパンを口いっぱいに詰めこむレインに、みゆきと友達になった報を聞きあっさりと打ち解けたドンが説教をする傍らで、みゆきは弁当のおかずをつまみ一人考える。
(やっぱりこの人嫌いかも)
安易にレインと友達になった事に後悔を覚えながら、みゆきはこれから三年間の騒々しい学園生活の行く末を憂う。
オペレーター
調べるとどうもオペレーターは「ネットバトルをする持ち主の総称」とか出たので、いつオペレーターって単語を使おうかなと
電気属性のチップ
1の頃だと電気の状態異常はマヒではなく漏電とのことで、え、そうなの?って気分です
その他インビジ状態でステルスマインを踏んだらとかそういうのも流れで書いているので、だいぶエグゼにわかなのがバレます
みゆきの実力
国内カタギのネットバトラーでこいつ頭一つ抜けて強いなって思うのは、熱斗炎山を除けば魚屋と大阪人くらいで、他のネットバトラーにそんなに優劣の差があるとは思えないってのがまずあります
流れの魚屋の野生の強者ぶりが圧倒的ですが、クソコテ兄さんもN1グランプリに出られる以上相当な実力でしょうし、野生の強者ぶりだと1のみゆきも大概だと思うので、拙作のみゆきと熱斗くんは既に全国指折りの実力者です
名人は何してるのかよくわからない人ですし、全国ベスト8の括りだと自分の中だと東北の放火魔が入ってくるんですよね
飛弾雨
どこぞの胡散臭い商店の人造魂魄とオーバードーズなメンヘラを名前の由来にしたほぼオリキャラ
合っているのはガハハ笑いとやたら競争したがるところとくらい、元ネタだと小隊の隊長なので意外と頭が回る