天網のつくもがみ ~みゆきの蜘蛛糸電文禄~   作:きないしょく

13 / 22
file.6‐3 アイシー・ペンギーゴ

 通常、バトルチップフォルダは意図したバトルチップを自在に扱える事で暴発や悪用ができないよう、バトルオペレート開始時に30枚に構成されたチップからランダムで5枚が、PET上のカスタム画面と呼ばれる画面上に選出されるように調整が施されている。

 セリシー自身がソード系チップを多めに投入しているのもあるだろうが、開幕から5枚のP・Aのキーカードを引き当てるのは中々の強運の持ち主と言えるだろう。

 

「プログラムアドバンス、シグマソード」

 

 シグマソード。

 以前みゆきが熱斗とのネットバトルで使用したベータソードの発展型P・A(プログラムアドバンス)で、ベータソード以上の計9回の斬撃を可能とする代わりに、一度にソード系バトルチップを5枚送信する必要がある為に、効果に反して使い勝手が悪い大技と言われる。

 

 

『クワックワッ、早速で悪いがフィールドから退場してクワッ』

 

 バーストマンとの試合で見せたようにペンギーゴが腹ばいの姿勢で一気にスカルマンに詰め寄ろうとするも、2体のナビの直線上に突如アイスキューブが設置され、氷塊に激突する直前でペンギーゴがソードを振りこれを両断。

 そのまま直進を計るが、両断されたアイスキューブから電気を帯びた球体、サンダーボールが飛び出してきて、勢い余ったペンギーゴはこれにヒット、素体となったネットナビの骨格がビリビリとホログラム上に露わにされる。

 立て続けにスカルマンがエレキソードをペンギーゴに一振り、水属性の性質を持つペンギーゴは弱点の電気属性の攻撃を二度連続で受け、既に瀕死の状態だった。

 凡百のネットバトラー相手ならみゆきはこれで勝利を確信しているところだが、以前のレインとのネットバトル内容と、逆境に闘志を燃え上がらせるセリシーの碧い瞳が、このネットバトルがすぐには終わらないことを伝えていた。

 

「倒れかけ程度じゃ怯まないか、これはキッチリ倒し切ってわからせてあげないとね」

「アタシのペンギーゴがこんなので倒れる訳ないでシょ?わからせられるのはみゆきの方だシッ」

 

 スカルマンが左腕を切り離しペンギーゴに投擲するも、ペンギーゴは即座に斬撃でボーンストーカーを薙ぎ払う。

 まともな攻撃手段を失ったスカルマンにペンギーゴはソード、ワイドソード、ロングソードと息つく暇もなく攻撃を加える。

 みゆきのオペレート能力とスカルマンの回避技術を持ってしてもセリシー、ペンギーゴの素早い剣捌きに反応しきれず、スカルマンは二発のソードをその身に受ける。

 

(そろそろカスタムゲージが溜まる頃か)

 

 カスタムゲージとは、カスタム画面に表示されたバトルチップを送信可能になるまでに掛かる時間を表す機能である。

 ペンギーゴがシグマソードを使い切ると本試合で初めてカスタムゲージが満タンになり、みゆきは事前にカスタム画面で把握していたストーンキューブとパネルアウト1で相手の地形を狭めた後にステルスマイン1を設置。

 対するセリシーはリカバリー50使用後にバリアを張り、三枚のショックウェーブで三つの岩を貫通しつつスカルマンを狙う。

 いくら三連攻撃と言えど弾速の遅いショックウェーブではスカルマンを捉えることはできず、その間にペンギーゴはステルスマインを踏むがバリアの効果でノーダメージで受け止める。

 

(しぶといな、これって…)

 

 みゆきはスカルマンに遠目からボーンストーカーを配置するよう指示を出すと、二度目のカスタムゲージが溜まる瞬間に次のバトルチップを送信する。

 

 

 みゆきから見るセリシーのオペレート技術は、豊富なネットバトル経験からくるレインのような巧みさや辛抱強さは持たない直線的な動きに限定されており、それ自体には脅威と感じるものは無かった。

 事実みゆきの思惑通りにペンギーゴは行動を誘導され、むしろペンギーゴの方が相手側の行動を読む能力に長けているようで単調なセリシーのオペレートに悪態を吐く始末だ。

 しかし、スカルマンの攻撃がヒットする直前にセリシーはバブルラップやインビジブル等の回避系チップを使用し、これらの攻めを強引に切り抜けては反撃に転ずるといった反射的な能力に優れていた。

 お世辞にも戦略的とは言えないが、セリシーの反応速度とペンギーゴの韋駄天のようなスピードは、戦術をしっかり練ってから戦うみゆきとスカルマンにとって最も苦手と言っていい対戦相手だと言えた。

 

「そこ、ショットガンアイスッ」

「そんなも、のっ」

 

 セリシーの掛け声を聞くやペンギーゴは背を向け、後ろのストーンキューブ目掛けて氷弾を放ち、反動でバク転ジャンプを決めてスカルマンの背後を取り羽交い絞めにすると、氷弾は五つに分散して身動きの取れないスカルマンに襲い掛かる。

 氷弾がスカルマンに当たる直前にペンギーゴはその白骨体を足蹴にしようとするが、その前にスカルマンが右肩を自ら取り外しペンギーゴは大きく態勢を崩す。

 分散して迫りくる二つの氷弾のうちの一つがスカルマンの左脇腹を急襲し、一つはスカルマンの右肩があったはずの空間を通過しペンギーゴの右肩に被弾する。

 

『クワッ、自滅を狙うたぁ大したもんだが、元が水属性の俺とお前とじゃ受けるダメージが違うクワッ』

『のようだね、まいったなぁこれじゃ動けないよ、君もねっ』

 

 言い終わる前にスカルマンの頭部がはるか上空へと飛び上がり、ショットガンアイスがヒットした部分が凍結してスカルマンの胴体と共に氷漬けになった右肩と、今しがた切り離したスカルマンの右手に右足首を掴まれ身動きが取れなくなったペンギーゴの頭上に巨大なしゃれこうべが降り注ぐ。

 

「…シャレコーベイ、固有チップは最後の切り札(ワイルドカード)に取っておくものよ」

「シッ、固有チップは繋ぎに使うものだシッ、それにワイルドカード(最後の切り札)って事は耐えられたら打つ手なシって事だシッ」

「ず、随分と強がって、る訳では…ないようね」

 

 電脳空間の土埃から巨大な頭蓋骨のシルエットが浮かび上がり、土埃が晴れると徐々にシルエットが小さくなり、通常のサイズに戻った頭を左手で抱え元の位置に戻すと、スカルマンの視界に風前の灯状態のペンギーゴが両肩を張って精いっぱいの強がりを見せる。

 

『クワーックワックワッ、これがセリシーが組み込んだアンダーシャツの力だっ、この試合俺が貰ったクワッ』

『困ったね、右腕を棄てて仕留めるつもりが、これじゃあみゆきのオペレートに任せるしかなさそうだよ』

 

 致命傷を負ってもHP1の状態で生存できるプログラム、アンダーシャツ。

 現在ネットナビ研究家によって研究が進められ、なんとか一般のネットナビにも組み込めるようになった最先端のプログラムだが、その容量でまだ実戦起用には更なる改良が必要だと言われているが、セリシーの故郷クリームランドの最新テクノロジーはみゆきに大きな関心を抱かせた。

 

「噂には聞いていたけど、アンダーシャツを実戦に組み込めるのね。私が勝ったらクリームランドについてもっと教えてもらうわよっ」

「勝たなくてもクリームランドの事は勝手におシえるけど、勝つのはアタシだシッ」

 

 セリシーがインビジブルを使用後、P・Aベータソードを発動し勝負に出るが、最後の攻防は極限まで回避行動に専念したみゆきとスカルマンに分があり、全ての斬撃をギリギリで避けられインビジブル状態も切れたペンギーゴは窮地に立たされていた。

 

「お、惜しかったわね、これで決まりよ、ツナミッ」

 

 バスター機能を搭載した右腕を失くして自力での攻撃手段を失ったスカルマンの代わりにみゆきはバトルチップ、ツナミを発動、巨大な津波が電脳上に具現化され矮小な体躯のペンギーゴを飲み込もうとする。

 

「こ、ここまでかシ…ッ」

 

 逃げ場のないペンギーゴが観念して目を瞑ると、津波の轟音に紛れて遠くから可憐な女の子の声がペンギーゴとみゆきの耳に入ってきた。

 

『あ、スカルマンとペンギーゴだ、どっちも頑張ってーっ』

「この声は…アルエットッ?」

『ア、アルエットちゃんっ?ク、クワーッ』

 

 アルエットの声援を聴き闘志を取り戻したペンギーゴは腹ばいでサーファーの如く大波に乗り、波から飛び出たペンギーゴがスカルマンに体当たりを加え、ペンギーゴ同様体力の限界に達していたスカルマンはこの一撃でBCS上から退場、これにてスカルマンVSペンギーゴの試合はペンギーゴの勝利を持って終局する。

 

『ったた、ペンギーゴの最後の力にやられちゃったよ、ごめんね、みゆき』

「ううん、私こそ上手にオペレートできなくてごめんね、お疲れ様。ゆっくり休んでね」

 

 PETに戻ったスカルマンを労い、BCS上の勝者ペンギーゴに視線を向けると、ペンギーゴは電脳上の観客席に向けて猛烈なアピールを始めていた。

 

『クワーッ、アルエットちゃん俺様の雄姿を見てくれたクワッ?アルエットちゃんの応援があれば俺様どんな相手にも負けないクワッ』

『ペンギーゴは強いんだね、でも私はキチンと対戦相手に敬意を払えるネットナビが好きかな、スカルマンとみゆきおねえちゃんも凄かったでしょ?』

『も、勿論、スカルマンと、み、みゆきも俺様とセリシー程じゃないが強かったクワッ』

『どうもありがとうペンギーゴ、次はアルエットに僕の勝利の姿を見せたいな、ねっ、みゆき』

「な、なによペンギーゴ、貴方ちょっとアルエットに馴れ馴れしいんじゃないの」

『むー、ペンギーゴに素直じゃないみゆきおねえちゃん嫌いだな、スカルマンを見習いなさい』

「じょ、冗談よ、私とペンギーゴは仲良しこよし、ね?ペンギーゴ?」

『あ、ああ、俺様みゆき大好き、電気チップの次くらい大好き、な?』

「シシシ、なんかよくわかんないけどみゆきもペンギーゴと仲良くなれて嬉シいわ、それじゃお楽シみタイムといこうシ」

 

 みゆき達の談笑をセリシーが締めると、セリシーとみゆきはアーケード用のBCS筐体最大の特典であるバトルチップ精製口に手を伸ばす。

 アーケード用BCSには試合内容によってバトルチップがそれぞれのオペレーターに一つづつ精製される機能が付けられており、基本的にはキャノン等の低レアリティのチップが精製、配布されるのだが、対戦したネットナビ同士の相性によっては稀にネットナビの特性を生かした特殊なチップが精製されることがある。

 

「シシシ、アタシ凄いチップ手に入れたシ。みゆき、せーので見せ合おうよ」

「OK、私も素敵なチップを貰えたからセリシーに見せたかったの、せーのっ」

 

 バトルチップを取り出し近場のベンチに腰を下ろしたみゆきとセリシーは、せーのでマイクロSDカード程の大きさの小さな絵柄が掛かれたバトルチップを見せ合いっこする。

 セリシーの手にはスカルマンの姿が描かれたチップが、みゆきの手にはペンギーゴが描かれたチップがそれぞれ握られていた。

 

「ナビチップ、スカルマンPコード。ナビチップが精製されるなんてアタシ達よっぽど相シょう良かったって事だよね、今からスカルマンの性能が楽シみだシ」

「アイシー・ペンギーゴPコード。性能以上にセリシーとのナビチップができたのが私は嬉しいの。だって特別って事だもん。私、セリシーのチップ、大事にするね」

 

 二人はバトルチップをPETにインストールし、小さなチップを携帯した予備のバトルチップフォルダにしまい、ベンチから立ち上がる。

 

「さてと、アルエットが電脳空間にいたって事は、近くにドンもいるはずと、探してみましょうか」

「ドンっておねえちゃんの事?それならおねえちゃんはいないよ、だってワタシ一人だもん」

 

 唐突な幼女の発声に二人は前を向くと、そこには幼稚園児から小学校低学年生くらいの背丈の幼女がアルエットが画面に映ったPETを構えて立っていた。

 

「えーと、確かドンは妹がいるって言っていたけど、貴女がドンの妹さんなの?」

「そーだよ、おねえちゃんがスカルマンってナビを引き取ってたけどあなたがスカルマンの持ち主のみゆきさんなのね?それと話に聞いてた転入生のセリシーさん、はじめまして。おねえちゃんがお世話になってます」

『久しぶり、あの時はドンの家でお世話になったよ』

 

 ドンの妹は礼儀正しく二人と二体にお辞儀をする。

 

「いやいやそれはいいけど、君は一人でシょ?子供一人で大丈夫なの?」

「みんな心配性だなー、この町フクロウルのセキュリティあるしアルエットも連れてるから平気なのに。アルエットはたまにおねえちゃんから借りてるんだ」

『借りてるというか無断で持っていってるんだけどね、何かあった時に位置情報発信できるようにしてるから許して貰えてるけど』

 

 アルエットがきまりが悪そうにしていると、BCSの方角から対戦相手を募集する男性の声が聞こえてくる。

 

「アッシも今の対戦で燃えてきたでマス、誰かアッシとバトルしないでマスか」

「そーだな、せっかくだからワタシも一プレイしてこようかな」

「えっと、貴女がアルエットと?大人のお兄さん相手に大丈夫なの?」

『あ、多分大丈夫かな、見てると驚くと思うよ』

 

 

 アルエットの宣告通りにオタク風貌の男性をドンの妹は軽くあしらい、オタクは魂が抜けたようにBCSのプレイ口に立ち尽くしていた。

 

「ア、アッシのレアチップを見せる間もなくやられるなんて…」

 

 ドンの妹が精製されたバトルチップを手に取り意気揚々と凱旋し、みゆき達の前で胸を張って自慢を始める。

 

「えへん、ワタシはおねえちゃんとちがってつよいのです」

『私はバトルは苦手だけど妹さんとだったらうまく戦えるんだよ、ちょっとはしたない気はするけどね』

「あ、相手が弱かっただけかもだけど意外だシ…」

 

 アルエットが恥ずかしそうに指で頭を掻く仕草に尊さを覚えながら、みゆきは現時刻を見てセリシーとドンの妹に帰り支度をするよう声を掛ける。

 

「さてと、妹さんもいる事だしそろそろ帰りましょうか。私達がお家まで付いてあげるから安心してね」

「ワタシは別にへいきなのになー、みんな心配性なんだから」

「お姉さんシ点だとそういう訳にもいかないシ、それじゃ帰ろっか」

 

 三人は名残惜しくもイワハナタバの町を後にする。

 

 

 イワハナタバから電車に乗りデンサンタウンの駅へと降りる頃には、夕陽も沈みかけ宵闇と街灯が世界を支配し始めていた。

 

「今日はこれでおわかれね」

「推シ活できて楽シかった、二ホンに来てよかった」

 

 異国からやってきた少女と二人っきりの交流。

 今後もセリシーとは友達の一人として色々な場所に遊びに行ってたくさんの思い出を作っていくのだろうが、今日初めてのセリシーとの思いではみゆきの心の中で特に深く記憶に刻まれるのだろう。

 

「また行こうね、今度はドンとレインも連れて皆でさ」

「シシシ、それいいね、皆で推シ活シようシ、それじゃあアタシは道違うからこれでバイバイだね、妹ちゃんもよろしくね」

 

 赤いマフラーをたなびかせ、セリシーはみゆき達とは別の帰り道を歩む。

 

「みゆきさんとセリシーさんとても楽しかったみたいだね、ドンなねえちゃんもみゆきさんたちの事話してる時楽しそうなんだよね」

「そうなのね、それじゃあ妹さんにもっと楽しい話を届けられるようにドンともっと仲良くしないとね」

 

 ドンの妹と姉について雑談をしながら帰途に着き、みゆきは今までの事を振り返る。

 

(高校に入ってから繋がりが増えたな)

 

 繋がりのどれもが些細かつ偶然の産物だが、その微かな出会いが大きな接点となってみゆきの心に深く繋がっていく。

 

(この繋がり一つ一つを大切にしたい)

 

 そう胸に秘めながら、みゆきは夜の世界を歩いていく。




みゆき、レイン、セリシーのオペレートの方向性

みゆき  置物主体のテクニック型、なかなかのバトルセンスの持ち主
レイン  攻防一体のパワー寄りバランス型、バトルセンスの無さを経験で補うタイプ
セリシー がむしゃらな近接スピード型、戦術のなさを圧倒的バトルセンスでカバー

なおこの話の中でのバトルセンスは少ない経験からでもうまく戦いに順応できる能力の事で、熱斗はこの能力値が最高峰で、逆に炎山はバトルセンスを一切信じていないためにゼロという認識

クリームランドの技術力

繁栄→衰退→また繁栄ときて、現在プライド様の尽力で発展している段階

オタク

2の段階でナンバーマンは裏を徘徊できる腕は持ち合わせているのは知っていますが、とりあえず今のところはあまり強くないという事で

スカルマンのコード

イメージはPHANTOMのP
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。