天網のつくもがみ ~みゆきの蜘蛛糸電文禄~ 作:きないしょく
放課後の体育館裏。
主に学生達の密会に使われる定番のスポット。
共学校であれば男女の告白など、可愛らしい目的で使われる事もあるだろう。
だがここは女子高だ。
中には女子高の先輩の王子様に告白する後輩もいるかもしれないが、そもそも呼び出されているのは新一年生のみゆきとドンであり、呼び出したのは二年生の先輩達だ。
そこから導き出される答えは愛の告白などという甘美なものではなく、先輩からの後輩へのいびりであり、みゆきはこの面倒なイベントから早々と抜け出すことだけに思考を巡らせていた。
「白泉たま子」
「キボンヌおきん」
「逝ってよしムリー」
「三人揃って」
『七代目デン女メタルヒロインズッ』
小柄なたま子とのっぽのおきんと太ましいムリーの低予算特撮ヒーローのような決めポーズが、体育館裏にこれから本格的に夏に入るとは思えない冷気を送り込む。
「ダサ…」
「ドン、心にしまいなさい…」
心の声が思わず漏れ出たドンを叱責し、みゆきは何故先輩達に呼び出されたか今までの出来事から思い当たる節を探してみる。
ここ最近だとみゆきのクラスの転入生のセリシーの話題が有名だが、別にその事だけなら自分達に白羽の矢が立つことは無いだろう。
(とすると、レインとの理科室の騒動かな)
みゆきが呼び出し原因の目星を付けると、三人の中のリーダー格らしき小柄なたま子が一歩前に出てメンチを切る。
「さてとテメーら、なんでここに呼び出されたかわかってんだろうなぁ?」
「ごめんなさい、何か先輩方の気に障ったことがあるなら謝りま‐」
「んな事言ってんじゃねぇんだよっ、オメェウチらが撒いた理科室のウイルスデリートしただろっ」
(やっぱりそういうことか)
確かに現代ネットワーク社会ではネット犯罪が溢れてはいるが、公共の場でウイルスの自然発生がそうそう起こる事はない、とすると誰かが故意にウイルスを撒いたと見るのが妥当なところだ。
太ましいムリーの怒声に嫌悪を向けつつ、みゆきは先輩達の怒りの理由に耳を傾ける。
「
「そーだ、ゆり公の奴アタイらの決めポーズを見てクスリと笑いやがったんだっ、こちとら不良に命燃やしてるってのによっ」
「え?先輩達はお笑い志望じゃないんですか?なんか子供達に芸を見せたら受けそうですよ?」
『誰がお笑い志望だっ』
ドンの失言に頭を抱えながら、みゆきは先輩達にゆりこ先生の弁護をする。
「ゆりこ先生…ゆり公の事ですけど、あの人は別に悪気があって笑ったんじゃないと思います」
「あぁ?」
「ゆり公は生徒の事が大好きですから、元気な先輩方の姿を見て純粋に微笑ましくなったんだと思います」
「おだまりなさいっ」
「それにゆり公はウイルスを撒いた人についても気付いているはずです。あの騒動の後、ゆり公はすぐにメンテナンスを始めました、その後私達のクラス全員に話してくれたんですけど、ウイルスを撒いた犯人の形跡は見つからなかったって」
「それがなんだってんだよ」
「ウイルスを撒くにも電脳空間のアクセスが必須です。アクセスの形跡を完全に消すには余程のコンピューター技術が無ければいけません。それが完全に痕跡がないという事は、おそらくゆり公は犯人をわかった上で犯人を庇う為にデータを‐」
「うるせぇっ」
ムリーがみゆきの胸倉を掴み小柄な体を体育館裏の壁に打ちつける。
「うっ」
「さっきから言いたい放題言いやがって、なんでウチらがゆり公にお情け受けなきゃいけねんだっ」
「ちょ、ちょっと乱暴はやめてくださいっ」
「おい待てムリー、暴力は良くねぇ」
「あ、はいすんません大将」
今にもみゆきに殴りかかる勢いのムリーを静止してたま子はのっぽのおきんを見上げて不敵な笑みを浮かべる。
「これなーんだ?」
たま子が言い終えるとおきんはロングスカートのポケットから二つのPETを取り出す。
それは先輩達に呼び出された際にPETも持ち込むとより面倒な事態が起こると見て、みゆきが提言して教室に残しておいた自分達のPETだった。
「ッ、返して‐」
「おおっとっ」
二つのPETを見て動揺し、PETに手を伸ばそうとするみゆきの脇にたま子とムリーは容赦のないくすぐりを加え、みゆきはくすぐったさに耐えられず不気味な笑いをこぼす。
「ホ、ホホホホホ」
「みゆみゆキモッ、キモいってっ」
「おいおい焦んなよ、まずはアタイらの話を聞けって」
たま子が嫌味ったらしく微笑むと、おきんが手に持つみゆきとドンのPETを眺めて冷酷な声色で語り出す。
「貴女方がたま子達に連れられ教室を出た後、失礼ながら私は貴女方の机を拝見しましてよ。そうしたら貴女方がさぞ大事にしているPETが出てきましたので、私忘れ物をここまで持ってきて差し上げましたの」
『ごめんね二人とも、ぼく達はこういう時無力で…』
『やめてよおねえちゃん達に乱暴しないでっ』
「ホ…ホホ…、やめて…、ネットナビには手を出さないで…」
「おーおーこんな時にもネットナビの心配たぁ優しいこったねぇ。だがまぁ安心しろよ、アタイらだってんな乱暴はしねぇさ」
「そーだそーだこちとら落し物はいつも交番に届けてんだぞ」
「余計な事言うんじゃねぇムリーッ」
ムリーの一言でみゆき達の三人組への印象が一層怪しくなったが、たま子は気を取り直してみゆき達に恐ろしい提案を出す。
「アタイらに代わってゆり公を笑いものにしろ、さもないと…」
「さもないと…?」
「テメーらのナビに鼻からロングソード出させた画像をネット上にばら撒くぞっ」
「やめてーっ、アルエットとポンタくんに酷いことしないでーっ」
「えっ、リーダー私忘れ物を届けに来ただけで…」
「オオーッ、大将あなたはなんと恐ろしい方っ」
「おぬしらアホですな」
ドンは滂沱するみゆきを含めこの場の全員がタダの漫才師だと理解したが、それは別としてこの情報社会で自分達のネットナビの面白画像がネット上にばら撒かれるのは確かに洒落にならない極悪な行為なので、そのようなネットのフリー素材になりかねない事態はなんとか避けたかった。
ここまでの三人組の印象からとりあえずで彼女達の要件を飲めばすぐにこの場から解放されると判断したドンは、早急に詳しい要望について尋ねる事にした。
「とりあえずゆり公を笑いものにすればいいんですよね?何すればいいかだけ教えていただけませんか」
「話が早いな、このSDカードの特製ユーモアセンスウイルスが入ったデータを明日のゆり公の授業に合わせてばら撒きな」
「まぁ、それくらいならお安い御用ですけど…」
「ただし、このウイルスデータは貴女方のPETに転送させていただきますわよ。一度転送されたデータは時間が来るまでは転送も解凍もできませんの。ゆり公の授業に合わせて解凍されたウイルスを指示通り撒けばそれで良し、撒かなかった場合は更に時限式で貴女方のPET内に解き放たれるように設定しておりますの。変な気は起こさないのが身の為ですことよ」
「そっ、それは…」
「そうと決まれば早速転送っと、さぁーて明日ゆり公のナビが『パンを尻にはさんで右手の指を鼻の穴に入れて左手でボクシングをしながら「いのちをだいじに」と叫ぶ』様を見て困る顔が目に浮かぶぜぇー」
『や、やだ…』
「や、やめ、ホ、ホホホホホ」
PETを取り返そうとするみゆきとドンをたま子とムリーが再びくすぐり、おきんがウイルス入りのSDカードを中のアルエットに見せつけるようにゆっくりとドンのPETに近づけ、SDカード差込口に挿入しようとする瞬間、おきんの腕が何者かに取り押さえられ、突然背後から刃物らしきものを見せつけられたたま子とムリーが悲鳴をあげる。
「ヒ、ヒーッ」
「な、何者ですのっ」
「そりゃこっちの台詞だろうが、てめぇら俺のダチに何してくれてんだ」
「校則でナイフの持ち込み禁シでよかったシ、でなけりゃお前等切り刻んでたシ」
「あ、貴女方は‐」
「レインッ、セリシーッ」
みゆき達の危機を救った二人の少女、それは筋骨隆々の今時ギャルレインと、クリームランドの色白転入生セリシーだった。
レインは不機嫌さを隠さず怯えるおきんに詰め寄る。
「あ?あぁ、誰かと思えば入学式から絡んできたお笑いグループじゃねぇか、あん時ネットバトルでわからせた程度じゃ物足りないってか?」
(あの話の新入生はレインだったのか、まぁレインだしなぁ)
みゆきは、噂で入学初日から二年生と非公式のネットバトルをして大目玉を食らった新入生がいたという話を聞いた事がある。
入学早々騒ぎを起こすなど、噂話にしても荒唐無稽だと聞き流していたが、目の前で当事者が、ましてや友人のレインが例の騒動の話をしているのを聞くと、なんとも呆れたような気分になる。
「何故貴女がこの場に?貴女のスケジュールは把握して今日はバイトの日のはず」
「忘れ物取りに来たんだよ、そしたら教室の窓からみゆきとドンが見慣れねぇ奴等に連れられてんのが見えたから探してみて途中キモい笑い声のする方に来たらこれだ」
「アタシはレインに付いてみた結果だシ、お前等シぬ覚悟できてんのかシ」
レインとセリシーの通学路はみゆきとドンとは反対の方角で、二人はよく一緒に登下校をする仲となっていた。
そしてレインは小遣い稼ぎにバイトの仕事をしており、シフトが入っている日は終業時間を迎えるとすぐ帰路に着き、セリシーもその日は一人で下校するのが日々のローテーションだった。
(それにしてもレインのスケジュールがって事は、レインがいない日を狙って私を呼び出したのか。本当なら私だけでよかったのに、ドンには悪いことをしたな)
みゆきがドンを巻き込んだことを申し訳なく思っていると、たま子とムリーはおきんの下に集い、各自PETを構えまたも怪しげな決めポーズを取る。
「くっ、あの時は後れを取りましたが今度は負けませんことよ、フロプシー出番ですわよっ」
「モプシー、女意気見せてやれっ」
「カトンテール、仏恥義理だオラーッ」
やる気十分といった三人組にレインは冷ややかな眼差しを向け、気だるそうに頭を搔いて三人組に一つアイディアを出す。
「んーまぁ俺一人でも問題ないがどうせなら団体戦といこうや。って事でとりあえずみゆき達のPETを返しな、俺とセリシーとみゆきで相手してやるよ」
「そういう事なら喜んで返してやるよ、ほらよっ」
ムリーが二人のPETを手渡しするのを受け取り、無事自分の手に戻ったPETの中のスカルマンを暫く正視すると、みゆきは臨戦態勢のレイン、セリシーに頭を下げる。
「…助けてもらって嬉しいけど、ごめんなさい。私、個人の喧嘩にネットナビを巻き込みたくない、理科室でレインと喧嘩した時にスカルマンを巻き込もうとした後はずっと胸が苦しかった…」
一触即発の場でいきなり頭を下げたみゆきの姿にドン以外の全員は始めこそ面食らったが、まずレイン、セリシー、続いて三人娘と興を削がれたように気を緩ませる。
「…まぁみゆきの言う通りだな。てぇ訳だ、今回はこれで終わらせてやるが、二度と俺のダチに手ぇ出すんじゃねぇぞ」
「言われなくてももうしねぇよ、クソ、調子狂うぜ…」
ペースを乱されたまま体育館裏を去ろうとする三人娘をみゆきは呼び止める。
「あのっ、先輩っ」
「…なんですの?」
みゆきは三人娘との会話中、ずっと引っ掛かりを覚えていた事について尋ねてみる。
「ユーモアセンスウイルス、というのは?」
「ユーモアセンスウイルスはユーモアセンスウイルスですわ、ネットナビに強制的にユーモアセンスを植え付ける恐ろしいウイルスでしてよ?」
「それはおかしいです、あの時に発生したウイルスは電気属性のウイルス、ビリーでユーモアとは繋がらないものでした」
「んな訳ねぇだろ、ウチらはちゃんと中身について尋ねて厚化粧ババアから買ったんだ、そんな物騒なウイルス撒くかよ」
「まずんなもん買うんじゃねぇって話だがそれは違うな、俺もハッキリ確認したからな」
「疑り深い奴等だな、だったら今すぐ確かめてやんよ」
たま子がSDカードを取り出し自らのPETに差し込みタッチ操作をしていると、苛立ち顔が怪訝な表情に変わり、やがて焦燥感に駆られ出す。
「ほらこれ変なウイルスじゃ、ん、妙に容量デカいな、とりまロック外して…、…クソッなんだこれっ、…なっなんだっ、うわっ」
突然たま子が嘆声を上げ、投げ出されたPETが地面に落ちコトリと音を立てる。
両翼に立つ二人が訝しんでPETを覗くとたま子がと同じように慌てふためき、その様子を見て異変を察したみゆき達は急いでPETの周りに駆け付け画面内を確認すると、みゆき、レイン、セリシーがPETを取り出したま子のPET内に各自のネットナビを送り込む。
「プラグイン、スカルマン.EXE、トランスミッション」
「プラグインッ、バーストマン.EXE、トランスミッションッ」
「プラグインッ、アイシー・ペンギーゴ.EXE、トランスミッションッ」
たま子のPETの電脳に無事転送されたスカルマン達は、電脳空間で恐怖に立ち竦むたま子のノーマルネットナビ、モプシーの姿を確認し、その視線の先に目を向けると、モプシー同様ヘビに睨まれたカエルのように身体を強張らせる。
『な、なんだクワこのデカさはッ』
『俺の何倍のデカさなんだこいつはっ』
『…大きいね、ぼく達の攻撃が通じるのかな』
電脳に鎮座する山のような巨体のウイルスが天高く身体を伸ばし、頬まで裂けた口から細長い舌をチョロチョロと出して唇を舐め回す。
緑色の鱗を纏った体躯をクネクネと流動させ電脳間のネットナビを獲物のカエルを狙うかのように縦長の瞳孔を光らせるその姿はまるで伝説に出てくる大蛇のようだ。
‐大蛇のよう?
否。
それは大蛇そのものだった。
白泉たま子
大丈夫だとは思うものの「白泉たま子」を襲名しているだけです
七代目デン女メタルヒロインズ
イギリスの害獣ウサギの妹達&虚圏の三獣神も入っているものの、まんま埼玉紅さそり隊
厚化粧のババア
エグゼ世界の学校トラブルでありそうな話をイメージして書きました