天網のつくもがみ ~みゆきの蜘蛛糸電文禄~ 作:きないしょく
火曜日 PM 3:40
来週から授業時間が半日までとなり、全国の学生にとって最高の一大イベント、夏休みも目前まで迫り、みゆき達も例外なく夏の大型連休に心躍らせる中、デン女の一年生でタダ一人、クラスで最もネットバトル三昧の毎日を想像しては舞い上がっていそうなレインだけが物憂げな様相で日々を過ごしていた。
(当然だよね、お世話になっていたバイト先が事故で無くなっちゃったんだから)
あの日、体育館裏でお笑いグループの二年生達と対立、和解した後、神妙な面もちでレインがみゆき達に個人経営の喫茶店にトラックが追突したとのニュース動画を再生し、事故にあったこの、喫茶店はレインが働いていたバイト先だと話す。
その喫茶店に通った事のないみゆき達にとっては所詮自分達の知らない場所で起こった他人事の事故でしかないのだが、現実に友達が事故により心を痛めている事実には胸が苦しくなるし、もしあの時レインが忘れ物をせずそのまま時間通りに喫茶店に着いていたらトラック事故に巻き込まれていたかもしれなかったと思うと、背筋がぞっとした。
「また明日な」
終礼後すぐにみゆき達に別れの言葉を投げ、学生鞄を肩に担ぎ今日もレインは一人で帰宅する。
直後にバーストマンがみゆき達のグループチャットに『明日もレインの側にいてやってくれ』と書き込む。
時によっては煩わしく感じる事もあるが、どれほど持ち主が塞ぎ込んでいようとネットナビが円滑なコミュニケーションを取れるよう手配をしてくれるのはありがたい事だった。
「そういえばさ、レインは実家が銭湯だって言ってたよね、こっそりあたし達で銭湯に行って励まそうよ」
「セントウ?みゆきもレインはセントウの娘って言ってたけど『セントウ』ってなんだシ?レインはサイヤ人なのかシ」
「海外の方が二ホン語を学ぶきっかけはドラゴンボールとセーラームーンだって言うけどアレは本当なのかしらね…、銭湯はお風呂、温泉に近いものよ」
「シ、温泉っ、じゃあもシかシてサウナもあるのかシッ」
「私、子供の頃に親に連れてこられてそれっきりだからわからないな。ドン、言い出しっぺなんだから調べてよ」
「アイアイサーっと。えーと、レインはデンサン三丁目だっていうから…、んと、これかな?『飛騨の湯』まんまですな」
ドンがPET画面をみゆき達に向け、画面内の縁に足をブラブラさせて座るアルエットが指を差す写真を見ると、立派な瓦屋根を構え入り口ののれんに「飛騨の湯」と書かれたレトロな建物が映し出される。
「多分これよね…、飛騨って確か君の名は。の舞台だったっけ、レインは東海の出身なのかな」
「なんでもいいシ、場所さえわかればすぐ家で準備シて集合だシ。シシシ、久々の温泉、皆の水着、楽シみだシ」
言うやいなやセリシーは学生鞄を肩に掛け、颯爽と教室を去っていく。
(水着?)
「セリシーもノリノリだしあたしも帰るか。じゃ、暫定レインの家でね」
セリシーを待たせまいとドンは学生鞄を背中に背負い、小走りで教室を出る。
(銭湯…嫌だな)
みゆきは両手で学生鞄を持ち、俯きがちに早歩きで校舎から離れる。
PM 5:00
帰宅後、チャットで待ち合わせ場所に指定した飛弾の湯最寄りの有料駐輪場にて、みゆきはドン、セリシーと一時間ぶりに再会する。
「遅いシみゆき、もっと早く来るシ」
「時間ピッタリには来たでしょ、そんなに急かさないでよ」
「急かすシ、アタシ皆とお風呂入るの楽シみだシ、ドンもみゆきも絶対カワイイシー、シシシ」
入浴前から落ち着かない様子のセリシーをよそにみゆきは愛用のママチャリを駐輪ラックに入れ、かごから銭湯用の持ち物を詰めた手提げ鞄を取り出してセリシー達に続く。
(私の裸なんか見て何が楽しいのよ)
銭湯で入浴するとは、つまるところ裸の付き合いをするという事だ。
幼少期こそ何の疑問も抱かずに
レインを元気付けたい気持ちに加え、二人が入浴に乗り気な以上水を差す気は起きなかったが、陰気な自分が魅力的な女友達の中に割って入るのにはどうにも腰が引けた。
みゆきが卑屈になっているうちに、写真で見る以上に大きな古風の建物「飛騨の湯」の門の前に三人は立つ。
「うへ~、すんごいおっきな建物、レインあたし達の中で一番お嬢様なんじゃね?」
「あいつがお嬢様?ないない、さ、早く入りましょう?」
飛騨の湯ののれんを潜り玄関のロッカーに靴を収納しスリッパに履き替え奥に進むと、正面に女湯男湯と書かれたのれんの間で番台を務めるレインの姿があった。
「いらっしゃいませー…、ってなんだお前らか、事前に言ってくれりゃタオルくらいタダで貸すのによ」
レインは突然の友達の訪問にやや眉を下げつつも発声に嬉しさを孕んで三人を出迎える。
「なんだはないでしょ、せっかくあたし達が来てやったっていうのにさー」
「へっ、おめーらなんか来なくても十分繁盛してるよ。…おおーいジジイー、ダチ来たから後頼むわー」
「かっ、それが親にものを頼む態度かってんだ、ほらさっさと行きやがれ」
乱暴なレインの呼び出しを聞き裏口から白髪の初老男性が現れ、レインは番台から降りてみゆき達の前に駆け寄る。
レインの言う通り、外観同様に広大な休憩スペースでは沢山の高齢者が集い他愛のない交流を楽しんでいた。
「PET用の充電器は向こうな、特製の電脳湯でナビ達も疲れを癒してやってくれ」
レインが左親指で位置を指し示す場にバーストマンのナビマークが目印の充電器が立ち並ぶ。
「それじゃぁまた後で、スカルマン達もゆっくりくつろいでね」
『みゆきも皆とお風呂の時間を楽しんでね』
『よく来たなお前ら、俺の入れた湯船でしっかり日々の疲れを癒すんだぜ?』
スカルマンの気遣いにみゆきは苦笑し、充電器傍の精算機のモニターに映るバーストマンについてレインに尋ねてみる。
「バーストマンは銭湯の電脳の風呂番か何かなの?」
「その通り、元々ウチの湯沸かしプログラムだったのを俺がネットバトル用にカスタマイズしたんだぜ?」
「俺っちのかわいいバカ孫の頼みとあっちゃあ断れなぇわな、バーストマンを通じてうるると仲良くしてやってくれや、ガハハハハッ」
「っせぇジジイ、人前じゃレインと呼べっつってんだろっ」
銭湯のフロントに年頃の少女と年の召した男性の会話とは思いづらい乱暴な言葉が飛び交う。
人前で遠慮のないやりとりをするレインとジジイの間には、互いの信頼を確信する親子の繋がりを感じ取れる。
「レインはジッチャンが大好きで微笑まシいシ、じゃあアタシ達もお風呂入るシ、ジッチャンお値段いくらだシ?」
「てやんでぇ、バカ孫の友達から金なんか取れるわけねぇだろぃ、タダで浸かっちめぇなっ」
「マジかシ、やったシーッ」
タダの一語に全身で喜びを表現するセリシーにレインがさり気なく問い掛ける。
「ところでよ、セリシー、おめー裸でも大丈夫なのか?」
「何言ってるシ、水着はちゃんと用意シてるシ、これからお湯浸かるのに水差すなシ」
やっぱりなとばかりにレインは頭を掻いてセリシーに銭湯のルールについて説明を始める。
「まー海外の方はそうだよな…。セリシーよ、悪いが二ホンの銭湯だと水着は着れねえ事になってんだよ」
「シ?それってまさか…ス、スッポン…」
「そゆこと」
「ハ、ハズいシッ、スッポンポンなんてイヤだシーッ」
レインから二ホン独自の銭湯のルールを聞き、セリシーは胸を両腕で覆い赤面し目に涙を溜め、部屋の隅で下着が丸見えの三角座りの態勢でうずくまる。
「普段からありがたみゼロのパンチラ披露しといて何今更恥ずかしがっとるんだね…」
ドンが呆れたように肩を竦める傍らで、みゆきはゆっくりとセリシーの元へ歩を進め、膝を屈めてがくがく震えるセリシーと目線を合わせる。
「…ほらセリシー立とう?本当は私も皆の前で衣服を脱ぐのは嫌なの。でも、セリシーもドンも皆でお風呂に入るのを楽しみにしていたでしょ?」
「そりゃそうだシが、ハズいのはハズいシ」
「大丈夫、私も恥ずかしいから。恥ずかしさも二人なら半分こになるでしょ?多分。一緒に入ろう?」
「なんなら一人用の窯風呂もあるからそっち入ればいいぜ、飛騨の湯名物五右衛門風呂だぜっ」
豪快なレインの一人用のお風呂紹介と、いつも通り無機質な表情の中に暖かみを含んだみゆきの呼び掛けにセリシーは落ち着きを取り戻し、みゆきと同時に立ち上がる。
「そんな悪い事ばかりじゃないっしょ、セリシーもみゆみゆのおっぱい見たいっしょ?」
「おっぱいでマスかっ」
椅子でくつろぐ見知らぬオタクが不意に立ち上がり前屈みで男湯へと進む。
「見てぇシッ、みゆきのおっぱい見てぇシッ」
「わ、私なんかのの何がいいんだよっ、バカッ…」
からかうドンと両の眼を輝かせるセリシーに声を荒げ、みゆきはせかせかと女湯ののれんを潜る。
(肌の見せ合いなんかあいつらだけでやってろよ)
PM 7:30
「皆、コーヒー牛乳は持ったかっ」
「イエッサーだシッ」
「腰に手を当てっ、両足を肩幅間隔で開きっ」
「イエッサーだシッ」
「天を見据えっ、一気にっ」
風呂上がりに私服に着替え、ドン、みゆき、レイン、セリシーと背の順に並び、ドンの号令の下に瓶に入ったコーヒー牛乳をゴクゴクと飲み干す。
「プハーッ、この一杯の為に生きてるなーっ」
「おじさん、本当にいいんですか?何から何までお金を払わなくて」
「いいって事よ、うるるのダチ公とあっちゃぁ粗末に扱う訳にゃいかねぇからな、ガハハハハッ」
「レインッ、レインっつてんだろジジイッ」
『面倒くせぇだろこいつ、こいつの世話代と思って有難く貰っとけや、バババババッ』
顔を真っ赤にして怒鳴るレインを見て豪快に笑うジジイとバーストマンの二人と一体の関係は、確かに血の繋がりと、持ち主に合わせた疑似人格を形成するネットナビの特性を強く反映させたものだった。
「お風呂はいい湯、サウナで整う、コーシー牛乳は美味かったシ、これで風呂上りにネットバトルできたら言う事ないシ」
「だよなージジイ、なぁいつも言ってんだろ、若い客層取り込むならこれからの時代ネットバトルだってよ、
「…ふん、最近の若いモンは何かにつけてネットバトルネットバトルと、少しはネットから離れんかい」
ネットバトルの情熱を語る二人の若者の間に、いかにも頑固そうな高齢男性が休憩スペースの椅子に座りながら苦言を呈す。
「転助おじさん」
「うん?あぁ、黒雪堂の娘っ子か、飛騨の湯の娘っ子といい、たまには二ホン伝統の遊びにも触れてみたらどうなんじゃ」
茶色い法被を纏い独楽を反転させたような帽子を被った高齢男性、匠転助はみゆきの住む骨董品屋、黒雪堂のお得意様の一人だ。
今年で独楽作り一筋48年で50の大台も間近という程に独楽作りに人生を捧げた職人男性で、みゆきは彼の匠の技術で魂を吹き込まれて作られた独楽が大好きだったが、このように最新のコンピューター技術については偏屈な態度を取るのが玉に瑕だった。
「ちょっと待つシ、今のは聞き捨てならねぇシ、ネットバトルの何が悪いんだシ」
そんな偏屈な転助に、セリシーがチンピラのように食って掛かる。
「ネットバトルなぞインターネットの延長じゃろうが、そんなのばかりやっとるから今時の若いモンは視力が悪いんじゃ」
「何言ってるシ、アタシ視力1.5以上だシ、ネットバトルに向けて視力トレーニングシてるから100m先で転んだ女子のパンツの柄も丸見えだシ、丁度ジジイの持ってるダッセェ木製ゴマも丸見えだシ」
「木製独楽がダサいじゃと?おぬしには最高の素材から生まれたこの魂の宿った木製独楽の素晴らしさがわからんか?」
「わかるわけねぇシ、今の時代コマと言ったらこのベイブレードだシ、最新のベイブレードはエクストリームダッシュでバラバラにするのがトレンディだシ、バラバラにもならねぇ木製ゴマとか時代遅れだシー」
「馬鹿にしおって、ベイブレードはこのワシも最近の子供達に合わせた独楽遊びとして製作に携わったわい、おぬしなんぞのベイブレードにワシの独楽が打ち倒せるわけがなかろう」
「お?言ったシ?じゃあ今からアタシのベイでジジイのダッセェコマ切り刻んでやるシ、負けたらネットバトルに謝るシーッ」
「ちょっとセリシーやめなさいって‐‐」
「いいぞセリシー最新のベイと旧世代のコマの性能差をわからせたれーっ」
「独楽作り48年匠転助、独楽勝負にて若いモンには負けん、返り討ちにしてくれるわいっ」
「ほっほっ、転助爺さんと若い女の子の喧嘩独楽とはこれまた見ものですねぇ」
みゆきの静止も虚しく、飛騨の湯の休憩スペースは海外の女子高生と頑固な独楽職人の熱意に呑まれ世代を超えた独楽異種闘技会場と化す。
セリシーが取り出したベイランチャーにベイをセットし、転助が木製独楽の芯にひもを巻き付けると、それぞれが独楽を回せそうな円形の台に対になって向かい合い構えを取る。
「3、2、1、ゴーッ…シューッ」
「息長勝問っ」
セリシーと転助の掛け声とともにベイと木製ゴマが円形の台で激しく火花をぶつけ合う。
「行くシッ、ぶっ壊すシーッ」
「負けるでないぞ、我が魂っ」
ギャラリーを交えて大盛況の独楽バトル会場の様子を見守りレインはフッとほくそ笑み、番台のジジイにそっと囁く。
「ちょっくら夜風当たってくるわ」
レインが静かに玄関から外出するのを確認し、みゆきはレインの後を追う。
飛騨の湯の夜は続く。
画面内の縁に足をブラブラさせて座るアルエット
Desktop Mateみたいな感じのもの
みゆみゆのおっぱい見たいっしょ?
見たいに決まっているものの、それはそうと実際の入浴シーンを書く場合にR18っぽくなりそうなので、本当に書く場合はR18用のものを新たに作って書くかと
匠転助
ユウコ、ポンタくんもそうなものの、4の個別ストーリーは熱斗くんが必ず辿るものではないと言う点を意識しての登場
ベイブレード
ベイブレードはスポーツです