天網のつくもがみ ~みゆきの蜘蛛糸電文禄~ 作:きないしょく
今思い返せば、店内に入り浸る幼いみゆきの視界に映るお客様が常に良き人々で溢れていたのは、曾祖父母が努めて良き骨董品屋であろうとしていたからに他ならない。
良き手入れ良き接客は良き諸人の目に触れ良き言伝となりてより良き縁を紡いでいく。
ある赤子連れの母親は深い悲しみから一歩踏み出す為に白い花瓶を手に取り、ある背丈の小さい新婚夫婦はお腹に宿る新しい命の為に茶色の額縁を掴み、ある片目に傷を負った大柄の男性は疲れ切った瞳に一縷の望みを持って武者鎧から別れを告げ、そして、あるスーツ姿の男性が過去から決別する為に読経と水晶玉を手放したその日、みゆきはユウコと出会った。
「おねえちゃん、ポンタくんは役にたってる?」
ユウコは小さい体でみゆきを見上げて尋ねる。
「もちろん、シンプルに便利な機能が揃ってるからすごく扱いやすいよ」
みゆきはブレザーをポールハンガーに掛け、ユウコに答える。
「とーぜん、なんてったってパパがくれたナビなんだからね」
ユウコはえっへんと胸を張る。
「ユウコちゃんのポンタくんの力と、私のオペレーティング技術がシンクロして向かうところ敵なしだね」
みゆきはふかふかのベッドの縁に腰を掛ける。
「
「WWWが来ても私とポンタくんがユウコちゃんを守るから安心してね」
洋室に模様替えされた空間に他愛のない会話が響き渡る。
「ふーん、そんな悪い人から助けてくれた人がいたんだ」
「海外の人とのコミュニケーションは難しいけどね」
「そういえばユウコは学校の新しい友達の話がききたいな」
「私はそれよりもユウコちゃんといる方が楽しいかな」
「えー?たくさんの友達といるよりユウコといる方がたのしいのー?」
「ちょっと待ってて、今お線香焚いてあげるから、今日はいちごみるく味だよ」
みゆきはユウコの問いを遮るように立ち上がり、勉強机からの引出しからお線香箱を取り出し、ユウコの目の前でカラカラとお線香箱を振って見せる。
「わぁい、いちごみるくだ、ユウコいちごみるくだいすき」
みゆきは床にあぐらをかいて座り、二人の間にお香立てを置き、お線香に火を焚く。
「えへへ、あまくておいしいな」
ニホンから見て、海を越えて西方に位置する国【アジーナ】より伝わったとされる教えでは、身体を失った魂は、お香の香りを嗅ぐことで空腹を満たすというが、実際に嬉しそうにお香を嗅いでいるユウコの姿を見ると、みゆきは趣味から得た雑学をこうして役立てた事に喜びを感じた。
「私ね、一人っ子だからユウコちゃんといると妹ができたようで嬉しいんだ」
「えへへ、ユウコもおねえちゃんができたようでうれしいよ」
ユウコが我が家にやってきて一ヶ月が経つ。
これまでも、器物に宿る魂の他に、クイズ好きの魂といったユニークな魂達とは沢山触れ合ってきたが、まだ小学生に入ったかどうかという程幼い女の子の魂との出会いは今回が初めてだった。
同じ女の子として女の子らしい趣味を共有し、ユウコと共にやってきたポンタくんとの繋がりで、ネットナビのに関する話題で盛り上がり…。
みゆきはもし夢が叶うならば、これからもずっとユウコと一緒にいたいと願った。
だが、長きに渡り愛されて受け継がれることで生じる器物の魂と違い、人の魂とは往々にして心残りあってこの世を去ったもの。
ユウコもまた未練を断ち切る為に、
「ねぇ、私明日から二連休だからさ、どこか出かけようよ、ユウコちゃんはどこか行きたいところはある?」
「うーん、あ、そうだ、おねえちゃんがいない間インターネットみてたんだけど、明日ネットバトル大会があるんだって。ユウコそれいきたい」
「ネットバトル大会?どこで?」
「まってて、パソコンつけて、と。…てあれ?」
ユウコがみゆきの勉強机に置かれたパソコンのデスクトップに視線を向けると、ひとりでにパソコンの電源が付くーと同時に、ベッドの枕元の台に置いてある水晶玉が赤く変色する。
「はぁ、ナビ幽霊か」
ユウコと共にやってきた読経と水晶玉に不思議な力を感じたみゆきは、ばぁばに無理を言ってこの二品を譲って貰ったのだが、この水晶玉には電脳空間にさまよう不慮の事故でデリートされたネットナビの成れの果てーナビ幽霊ーを感知する力があった。
電脳に現れたナビ幽霊は放っておくと電子機器に異常を生じさせるため、見つけ次第読経で成仏させる必要がある。
「やれやれ、ユウコちゃん少し待ってて」
みゆきは水晶玉の側に置かれた読経を手に勉強机へ向かい、パソコンのロックを解除しー
「萌え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛」
「ユウコちゃん集中したいから押し入れにいってて」
「う、うん」
「ファイアウォールワンタイムパスワードブロックブロックセキュリティー…カーッ」
「サスガダァ」
部屋いっぱいに読経が響き渡り、ナビ幽霊は満面の笑みを浮かべて電子の海から成仏する。
「どうしてイレギュラーは発生するんだろう」
「ゴメンね、おねえちゃん」
失意のみゆきの背後から、もう出ても大丈夫とばかりに押し入れをすり抜けてきたユウコが申し訳なさそうに声を掛ける。
「インターネットにいっぱいナビ幽霊が出たのも、おねえちゃんがこの一ヶ月ずっとナビ幽霊を成仏させてるのも、ユウコがこの世にあらわれたから」
「そんなのユウコちゃんが謝ることじゃないよ」
みゆきはナビ幽霊が消え、正常な画面に戻ったデスクトップを見つめたまま、低い声音で話し出す。
「ユウコちゃんはやり残したことがあったから、果たしたい夢があるから、まだ子供なのに、悪いことしてないのにしてないのに、こうしてこの世に留まってるんだよ。ナビはデリートされたからって、持ち主がちゃんと残骸を拾って処分なり修復なりしてれば幽霊にならないんだよ。ユウコちゃんがだらしない持ち主なんかの為に気に病むことなんてないよ」
ユウコが幼い姿でこの世に現れた事実は、ユウコが幼くしてこの世を去った無情な真実を突き付けるものである。
こんな可愛らしい子供が未練を残していなくなるのに、この世では不慮の事故でデリートされたネットナビを放置するオペレーター、凶悪なサイバー犯罪で人々の生活を脅かすWWW、新品同然のPETを粗末に扱う若者、そして、因果な運命を辿った幼女の存在と出会えて愉悦に浸る疚しい自分と、現世は不義理な人々で溢れている。
そんな理不尽な現実を憂うみゆきの後ろ姿を見て、ユウコはぽつりと呟く。
「ユウコ、こわいおねえちゃん好きじゃない」
「え、わ、私怖かった?ご、ごめんなさい」
みゆきは慌てて椅子から降り、俯くユウコの目線に合わせてしゃがみ込み、指で口角を上げて無理やり笑顔を作って見せる。
「怖がらせちゃってごめんね、私、ユウコちゃんが笑顔になれるよう頑張るから、ほら」
「…ぷ、あはははっ、変な顔、にらめっこするの?ユウコおもしろいおねえちゃんだいすき、ほらあっぷっぷ」
「わ、笑わないでよっ、私真面目なのに、ユウコちゃんの意地悪。ほ、ほら、ネットバトル大会の事調べましょう?えーと、これかな、んと、秋原町?」
無邪気にはしゃぐユウコを後に、みゆきは改めて椅子に座り直しパソコンを操作し、みゆきには検索した覚えのない「ネットバトル大会 近所」と打ち込まれた検索履歴を開くと、検索予測に「秋原町こどもネットバトル大会」と書かれたサイトが出てきた。
秋原町というと、デンサンタウンから電車で15分程掛かる位置にある、そこそこの自然に囲まれた高級住宅街で、確か世界的に有名な大富豪綾小路家の邸宅も秋原町にあったはず。
その秋原町の公園で午後1時から、幼稚園児~高校生までを対象にしたネットバトル大会を開催するとの事だ。
「うーん、面白そうではあるけど、一般人向けのネットバトル環境ってまだそんなに普及されてないから、人が集まるかどうかはなんともかな」
「なんだろうな、ユウコね、ここにはユウコがもとめてるなにかがある気がするの」
(それって…)
脳裏に浮かんだ悪寒を振り払い、みゆきはこのネットバトル大会について思索する。
大会に出場すると、参加賞として「リカバリー50*」、優勝賞品で「リカバリー120*」のバトルチップが貰えると書いてある。
別にリカバリーの文字だけなら特別注目する程ではないのだが、重要なのは「リカバリー」の文字列の後に「
が、この大会の運営がチップコードの記載を外さない=バトルチップの価値を理解しているという事であり、そういうことなら運営体制の方も期待が持てるだろう。
問題は、参加者自体が集まるかということと、集まったとして、参加者が中学生以下の子供で溢れかえり、高校生がデンサンタウンから来た陰キャ女子の自分だけだったらどうしようということだが、そこはせっかくユウコが行きたいと言うのだ、一肌脱ごう。
みゆきの心は決まった。
「よし、行こうか」
「やったー、おねえちゃんとおでかけだー」
「そうと決まれば早速準備しなきゃ、お洋服何着るか考えて、バトルチップも整理して…」
この一ヶ月、ユウコとは何度かお出かけした事はあったが、ここ二週間程は高校入学に向けて立て込んでおり、中々ユウコとお出かけする機会がなかった為、久しぶりにユウコとまとまった時間を取ってお出かけすることが出来て、みゆきは今から胸が躍っていた。
「あ、そういえばさっきおしいれでみたんだけど、忍たま乱太郎のきり丸と土井先生はつきあってるの?」
「そうなんじゃない?この事は二人だけの秘密だからね」
「ひみつひみつ~、じゃあじゃあ滝夜叉丸はだれとつきあってるの?」
「んー喜三太じゃない?」
「それいけボーン一家のグライドは女のひと?」
「あれはオネエっていうの」
「Dr.リンにきいてみての四条万里は男の子ー」
「それはダメッ!ダメダメダメったらダメッ!」
「みゆきや、晩御飯ですよー」
「はーい、ばぁばー。と、とにかく押し入れには私が言わなきゃ勝手に入っちゃダメだからね、メッ!よッ!」
新たにいちごみるくのお線香を焚き、みゆきは一階の食卓へと降りていく。
線香の煙が漂う洋室に取り残された魂は、一人佇む。
「あしたがきっとさいごのバトル…」
雲一つない快晴の下、秋原公園は子供達の活気ある喧騒が轟く。
秋原公園のシンボルマークであるリスの置物の周囲には、大会運営が設置したポータブルネットバトル装置によるバーチャルホログラム技術により、現実世界に視覚化された二体のナビの激しい攻防戦が繰り広げられていた。
「バトルチップ、カウントボム1、ステルスマイン1、スロットイン」
水色の髪をツインテールに束ねた、高校生程の少女の冷静な声を起点に、ホログラム上に数値の描かれた巨大な爆弾が設置される。
「ここだ、ロックマン、バトルチップ、スプレッドガン、スロットイン!爆弾を破壊しろッ」
『任せて熱斗くん、はぁッ』
大きな青いバンダナを巻いた小学生程の男の子、熱斗の掛け声と共に、青色のネットナビ、ロックマンが銃砲型の右手を前に突き出し爆弾目掛けて散弾銃を放つ、と、四散した爆弾を起点に、間近にいたノーマルナビもろとも誘爆する。
「うぉぉぉぉ流石熱斗、秋原町ナンバー2ネットバトラーなだけはあるぜッ」
「あんたさっきあのお姉さんに負けたじゃない、なんでそんな偉そうなわけ。それにしても光くんの判断力は勿論、お姉さんのあのステルスマイン、やるわね」
「へっ、熱斗がそれしきでやられるわけ、ってなんだッ」
相手の地形破壊と置物設置により自由な移動を阻害されつつも、なんとか対峙するノーマルナビとの間合い取りに専念するロックマンが突如爆炎に包まれる。
見えない地雷、ステルスマインを踏んだのだ。
「クソッ、リカバリー30、これでなんとか持ちこたえてッ」
爆煙からギリギリで生還したロックマンは、熱斗が転送したリカバリーを使い身体を癒す。
「さぁ長きに渡る激闘の中、お互いのバトルチップも残り僅か。白熱の秋原町こどもネットバトル大会もいよいよ終わりが近づいて参りました」
カエルの帽子が愛らしいお姉さんの済んだ声が公園中に拡がる。
「二人とも大雑把でマスが、バトルチップを出し惜しみせず使う姿勢は、一瞬の判断が勝敗を決めるネットバトルの真髄をよく理解しているでマス」
大きなマスクで顔を覆ったボサボサ髪のオタクが、子供達に紛れて蘊蓄を垂れる。
「あのカエル帽のお姉さんかわいいな、たまたま通りかかって本業の練習になるからってボランティアで実況してるんだって」
「それにひきかえ観客のあのオタク気持ちわりぃな、誰もお前の話なんか聞いてないっての」
公園に集まった人溜まりは、大会参加者の8人と観客を合わせてせいぜい2、30人前後といったところだが、運営の男女に加え、実況を買って出た美人のお姉さん(それと謎の蘊蓄オタク)によって、大会はなかなかの盛り上がりを見せていた。
「かわいいっていうと、ユウコさんもかわいいぞ。丸眼鏡で大人しそうなのに、ポンタくんなんてかわいい名前のノーマルナビで相手をなぎ倒して、かわいくて渋かっこいいんだ」
みゆきはユウコとお揃いの紺色のワンピースに、大きな丸眼鏡と厚手の黒タイツを着用し、ユウコ名義で大会に参加していた。
懸念通り大会参加者は自分以外は小学生だけだったが、参加してしまった以上それは仕方ないし、これだけ変装していれば万が一、骨董品屋のお得意様や、デン女の生徒に見られても、正体がバレることはないだろう。
(それにしてもあの熱斗くんって男の子、凄いな)
8人のトーナメント式で開幕された、本大会の1回戦の相手の星河との試合は、最初の数手であまりの実力差を感じた為にみゆきが接待プレイをせざるを得ず、続く2戦目のモヒカンのような髪型が目立つガキ大将風味の男の子、デカオの持つ黄色い配管工風味の巨体ナビ、ガッツマンとの試合は、見た目通りの巨体によるこちらの攻撃をものともしない強引なパワープレイを、バグのような目標との焦点が合わない怪しげな挙動で本来の力を出しきずに勝敗が着いた。
これが小学生を相手に無双する高校生の図かと、客観的に見てみっともない気持ちになったのだが、決勝戦の少年、熱斗がオペレートするロックマンとの試合は、みゆきの地形を利用し、時間を掛けてじっくり相手を追いつめる戦法に対して、スタンダードなバトルチップフォルダ構成に、持ち前の反応速度と咄嗟の判断力で相手の戦法に柔軟に対応する戦い方で、みゆきとポンタくんのバトルチップフォルダを空になる寸前まで追い詰める。
熱斗とロックマンとの試合は、2戦目までに感じていたみっともない気持ちを忘れさせ、みゆきの心も身体も熱くさせるものだった。
『熱斗くん、ポンタくんも限界だけど僕もそろそろ限界だよ、次で決めるよッ』
「任せてロックマン、残りのチップ4枚、これで一気に決めるぞッ」
(私のチップは残り3枚、手持ちは…よしッ)
「ミニボム、エリアスチール、ソード、ソード、スロットイン!」
「ソード、ワイドソード、ロングソード、スロットイン」
「ムム、この順番は」
「おおっと、熱斗くんユウコちゃん共に最後のバトルチップを切ったぁ、お互い近接戦で決着を付けるつもりですッ、チップ数的には熱斗くん優勢ですが、ユウコちゃんはこの攻撃を凌ぎ切れるかッ」
先に動いたのは熱斗とロックマンだ。
最初にミニボムを投擲しポンタくんを前方に動かし、間を置いてエリアスチールでロックマンをポンタくんの目前へ転送し距離を詰め、それ予測していたポンタくんが先手を打って手にしたソードで斬り掛る。
それをロックマンは同じソードで切り払い、時間差で投擲されたミニボムの爆撃地点へ押し返そうとするも、すんでのところでポンタくんは軌道をずらし、ギリギリでミニボムの爆発を避ける、と同時に前へ出て、ロックマン目掛け2連続の斬撃を放つ。
ロックマンは初撃を後方へ下がり回避し、続く二撃目を横に避ける。
この時、ロックマンは2連撃で放たれたソードの形状に違和感を感じたのだが、最早手持ちのチップが空になり攻撃手段を失ったポンタくんは敗北を待つだけの身であり、ロックマンも熱斗も、目前の勝利に血気にはやっていた。
とどめの一撃とポンタくんへ迫り、最後の一枚のソードを振りかぶりー勝負は決した、ロックマンを一刀に斬り捨てるポンタくんの姿をもって。
「プラグアウトォォォォォッ、チップを最大限まで活用した長き闘いを制したのはこの二人、秋原町こどもネットバトル大会、ユウコ&ポンタくん優勝ですっ」
「ーシッ」
みゆきは汗ばむ手で握りこぶしを作り、心の中でガッツポーズを取る。
「あ、あれれ、ユウコさんのチップ計算間違えたかなぁ」
熱斗はどっと地面に倒れ、丸眼鏡のお姉さんを見上げる。
「プログラムアドバンス」
みゆきは勝利の余韻に浸りつつ、熱斗の疑問に答える。
「へ?プロ、なんだって?」
「そこのマスクのお兄さんが詳しいと思う、お姉さんマイクを、お兄さん説明お願いします」
みゆきは実況のお姉さんのマイクを指差し、子供達の間から出てきたオタク青年に深々と頭を下げる。
「は、はいわかりました、ではお兄さん前へ」
「あ、あー、コホン、【プログラムアドバンス】とは、複数のバトルチップを決められた順番で送信することで、全く性質の違う一つの超強力な技に変化する現象、いわばネットナビの必殺技でマス」
公園中にどよめきが起こる。
「ユウコちゃんが使ったのはベータソードと言って、これはソード、ワイドソード、ロングソードの3枚のチップで計6回の斬撃を放つ、剣豪を目指したいオペレーターにはもってこいのものでマス。プログラムアドバンスはベータソード以外にもいっぱいあるようでマスので、皆もプログラムアドバンスを探してみるでマスよ」
「へー必殺技だってさ、ユウコさんそんなの知ってて凄いなー、俺もプログラムアドバンスを覚えたらユウコさんみたいに強くなれるかな」
熱斗は、今からネットバトルのことで頭いっぱいとばかりに、丸眼鏡のお姉さんに輝いた視線を送る。
(そんな目で見ないで、恥ずかしい)
みゆきは、恥ずかしい気持ちを悟られないよう目を瞑る。
『いたた、ごめんね熱斗くん、負けちゃって、でもポンタくんもユウコさんも強かったね』
熱斗のPETから先程プラグアウトしたロックマンの声が聞こえる。
「お疲れ様、無理させちゃってゴメンなロックマン、痛いところはない?」
「大丈夫?ちょっと見せてくれるかしら、ここだと集中できないから向こうのベンチに行きましょう」
「は、はい」
「はい、マスクのお兄さんありがとうございました、それではこれよりユウコちゃん&ポンタくんの表彰を、ってアレ、ユウコちゃんと熱斗くんどこにいくんですか」
みゆきはもともとネットナビのメンテナンスは好きだったし、熱斗という男の子の屈託のない明るさはみゆきの目には可愛らしく映り、熱斗少年への純粋な好意によりロックマンの点検を買って出たのだが、みゆきの思惑はそれだけではなかった。
この秋原町へやってきてから感じる違和感は、今の今までみゆきの側から離れずについてきているユウコのものと同じ、優しい感覚。
それは秋原公園に近づくにつれ、徐々に強くなっていき、決勝戦にはその優しさの感覚はより強くみゆきの肌を包み込む。
そして、メンテナンスの為に、日陰で涼しい木の下のベンチにて、熱斗のPETにポンタくんを送信したその時、みゆきが感じた魂の輝きはこの青いネットナビ、ロックマンから発せられるものだと確信する。