天網のつくもがみ ~みゆきの蜘蛛糸電文禄~   作:きないしょく

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file.9‐2 クリームランド

 インターネット上には、思わぬ危険が数多く潜んでいる。

 ネット上では、メットールなどの自然発生型ウイルスによる感染や、人為的に引き起こされるサイバー犯罪が後を絶たない。

 今回の催眠術師のサイトを開いた際にPC教室の電脳に現れた、シャインマンが引き起こした催眠騒動も、サイバー犯罪に分類される。

 そして、シャインマンをデリートした瞬間、置き土産とばかりに社畜ナビの怨嗟を書き込んだスクリプトがモニター一面に表示され、パソコンが停止した。

 これはブラウザクラッシャーと呼ばれる、インターネット黎明期に猛威を振るったネットトラブルの一つだ。

 ザラとゆりこ先生は、パソコンがフリーズするほどのブラクラ現象に巻き込まれた一年生のナビを救助するのに時間を費やしていた。

 

「まったく、消滅(デリート)間際にブラクラを仕掛けてくるとはね、Dr.サイコとやらは余程ナビ使いが荒かったと見える」

 

「ゆりこも社会人だから、同じ労働者の恨み言を聞くのはしんどいかな。だからってゆりこの可愛い生徒達を巻き込むのは許せないな。──よし、これで復旧完了だよ」

 

 フリーズの原因となった端末以外からアクセスし復旧作業を行ったことで、パソコンは正常に動作するようになった。

 みゆき達一年生は急ぎ電脳内に取り残されたナビを回収し、無事再開できた喜びを分かち合う。

 

「しかし、手打ちで治すとはねぇ、俺だったら電源ごと抜いて戻すんだけど」

 

「ナビデータの残骸まで無くなる恐れがあるからね、君たちのナビまで取り残されていたら、なおさら危険だっただろう?」

 

「レヴァはどうしてフリーズシなかったんだシ?」

 

『私に組み込まれたファイアウォールプログラムを作動したのです。私はネットワーク保護を目的としてザラ様が制作したネットナビなのです』

 

 復旧したパソコンのモニターから、レヴァが礼儀正しく応答する。

 

「ネットワーク保護なんて大げさなものじゃないよ、単に快適にブラウジングしたくて、IT技術を磨いただけさ。ほら、角栓の広告なんか鬱陶しいだろう?

 そんな折にクリームランドのセキュリティ技術を知って、レヴァにそのプログラムを組み込んだのさ。あの国の技術力には本当に驚かされるばかりだよ」

 

「クリームランド、そのプログラムをどうやってレヴァに──」

 

「クリームランド?そこ、どこッスか?」

 

「馬鹿レイン、セリシーの生まれ故郷でしょ?たしか。それくらい覚えておきなさいよ」

 

「ふーん、そんな性能いいなら今度入れてみっかな」

 

「おぬし、それ前にも言ってなかった?まぁ、あたしも入れようと思っていつも忘れちゃうんだけどね」

 

「優秀なセキュリティーだから入れてみるといい。セリシーくんの話は噂ながら聞いているよ、今度クリームランドについて詳しく聞かせて欲しい」

 

「うん。──アタシでよかったら聞かせるシ」

 

 ザラのクリームランドの文化に興味あるという旨の言葉に、セリシーは小さくうつむいて答えた。

 隣のみゆきは、セリシーの陰鬱な横顔をそっと見守る。

 話にひと段落ついたと見たゆりこ先生が、どこかよそよそしい態度でザラに声を掛ける。

 

「んーと、ゆりこは今回の騒動を職員室に報告しなきゃだから、オフィシャルの件はザラちゃんに任せてもいいかな?」

 

 みゆきはオフィシャルの単語自体が本日初めて聞くものだったが、今回の事件の性質的には確かにオフィシャルに捜索を任せるのが筋だろう。

 どこか子供っぽい部分はあっても、基本的にしっかりした先輩のザラなら、ゆりこ先生抜きでも質疑応答は問題なくできるはずだ。

 

「もちろん大丈夫です、先生には学校側に説明をお願い致します」

 

 席から立ち上がり敬礼をするザラを確認すると、ゆりこ先生は慌て気味にPC教室から退室する。

 

「アタシもさっき服脱いで身体冷えたから便所行きたいシ」

 

「いやそこはせめてトイレって言おうよ」

 

 ゆりこ先生の後を追うようにセリシーも場を離れる。

 

(セリシー、なんか寂しそう)

 

 セリシーのどこか空虚な後ろ姿を見送ると、PC教室に軽快なアイドルソングが響き渡る。

 

 ♪~はずむココロ 飛ぶようなテンション さぁConnectしよ~

 

「ん?誰のだ?スクドル、だよな?」

 

「あ、これ私の着メロ、ばぁばからだ」

 

「おや君も天王寺璃奈推しかい?彼女の歌声と科学技術のツナガリには、私も常にインスピレーションを貰っているのだよ」

 

「い、いえ、私はタダりなりー推しなだけで、と、とりあえず電話に出ますねっ」

 

「みゆみゆ、前から思ってたけどなかなかのドルオタですなー」

 

 まさかのアイドルなどに興味がなさそうな先輩と、推しが被っていた事実に気恥ずかしさを覚えたみゆきは、セリシーの件で気になる事もあるので、ある意味タイミングが良かったと思いながら教室から飛び出した。

 

「ところで、先輩はなんでレヴァの事を黙っていたんですか?」

 

「ふん、私が精魂込めて作り上げたレヴァのどこが女騎士の"ような"だというのだね。君達の見る目の無さときたら──」

 

 

 水洗トイレの水音が響く。

 洗面台の蛇口をひねって手を洗い、セリシーは鏡に映る憂鬱な自分の顔をじっと見つめた。

 

「暗い顔してるな、アタシ」

 

『おおかたクリームランドのことで塞いでいるんだろう?異国で暮らすってのは、そういうものだ』

 

 デン女三階の女子トイレでの会話は、クリームランドの公用語で交わされていた。

 セリシーは日本語が達者だが、家族やペンギーゴと二人きりのときは、慣れ親しんだ母国の言葉で会話をする。

 

「まあ、そうだよね、いくらネットの発展で外国との交流が盛んになったと言っても、現地の人は自国の文化を追うので精一杯だよね」

 

 セリシーの生まれ故郷のクリームランドは、地球儀から見て北方に位置する、二ホンのホッカイドウよりやや大きい程度の面積を持つ小さな島国だ。

 小さいと言っても、豊富な海産資源に冷涼な気候に合わせた農産業、活発な地熱活動からくる温泉業など、巨大な先進国にも引けを取らない独自の魅力を持った王政国家である。

 そんな小さいながらも活力に溢れたクリームランドは、インターネット黎明期に他国に先んじてインターネット技術を導入し、世界有数の先進国として一躍注目を浴びることとなる。

 だが、他国もそれにならいインターネット技術を続々と導入していくと、クリームランドの発展は妨げられる。

 クリームランドの衰退が決定的なものとなったのは、今から四年前に起きた世界有数のネット犯罪が原因だ。

 クリームランドが制作したセキュリティプログラムを搭載したクリームランド発アメロッパ行きの飛行機が、ハッキングにより誤作動を起こし海上に墜落し、乗客とともに海の底に沈んだ。

 世界報道でほぼ一方的に事件の責任を取らされたクリームランドは、先進国から一気に没落。

 当時の働き詰めで疲労困憊だった国王もこの事件が決定的なものとなり病に倒れる。

 そのような状況下に置かれても、病に伏した国王の娘のプライドが若くして国家元首の座に就き、敬愛する国民達の力を借り、衰退した国の再生に尽力する。

 プライドは衰退の原因となったインターネット技術の進化に力を入れ、諸外国からの信頼を取り戻すべく外交に手を抜かなかった。

 特に、現代インターネットの礎を築いた、今は亡き光正博士存命の頃から交流を続けてきた島国、二ホンとの外交に一層注力する。

 そうすることで、一度は枯れたクリームランドという花に、再び発展の兆しが芽生える事となった。

 

「私二ホンが好きだよ、プライド様が他国に追いつくよう一生懸命頑張って、色んな国と交流して、その過程で二ホンの文化をいっぱい持ってきてくれて。

 それで二ホンに憧れて、留学して。それもこれもプライド様の力、プライド様のおかげでアタシは二ホンに来られた、プライド様がいたからアタシはもっと二ホンが好きになった」

 

『確かにプライド様のおかげもあるかもしれないがそうじゃない、セリシーが二ホンに来たいと思ったから今のセリシーがあるんだ』

 

「そうなのかな、アタシバカだからよくわかんないや」

 

 ここまで来れたのはあくまで自分自身の力によるものだと諭すペンギーゴの答えに、セリシーは言葉を窮す。

 

「でもさ、アタシがどんなに二ホンが好きだと思っても、二ホンの方達はクリームランドなんて気にも留めないよね。

 デン女の皆も街の人も、アタシのことを海外から来た子って見るだけで、クリームランドそのものに興味を持ってくれる人はほとんどいないんだ。

 みゆき、レイン、ドンもアタシの事は友達と思ってくれてるけど、二ホンで初めてクリームランドって国に興味を持ってくれたのは、ザラが初めてだったなって」

 

『ならもっとクリームランドの売り込みでもしたらどうだ?それは恥ずかしくてできないんだろ?』

 

「それはセールスマンみたいでイヤかな、プライド様に言いづらいよ。あーあ、どうしたら皆プライド様とクリームランドに興味持ってくれるのかなー」

 

 故郷への想いが胸に迫り、思わず熱い雫が頬をつたった。

 セリシーは蛇口をひねり、流れる水で涙をすすぐ。

 そして、そっと頬をさすり、気持ちを落ち着かせる。

 

「あーやめやめ、悩むなんてアタシらしくないよ、もっとシャキッとしなきゃ」

 

 セリシーは、自分でも学業は得意ではないと思っている。

 新しい環境に来て、当初は知的でクールな自分を演じようとしたが、クラスの皆には早々とバカな事がバレた。

 開き直っておバカキャラを演じてみると、それが功を奏し、ムードメーカーとしてあっという間に人気者になった。

 クラスに受け入れられたことは嬉しかったが、悩みのない子と見なされている自分に、歯がゆさと孤独を覚えた。

 

 

 セリシーが女子トイレを出ると、放課後の静かな廊下にかつかつと足音が響いた。

 足音のする方を見やると、一瞬、白い卵の殻のようなものが視界に入った。

 

「ん?なにこれ?」

 

 奇怪に思ったセリシーが、目を凝らして対象をじっと見つめると、それは、真っ白で汚れひとつない髪をした少年だった。

 

「なんだ、カリメロみたいな子。お姉ちゃんを迎えに来たのかな?」

 

 セリシーが小さく呟いたクリームランド語が耳に入ったのか、少年は不機嫌そうに眉を顰め、赤いジャケットから手帳らしきものを取り出し、セリシーに見せつける。

 

「留学生の方ですか?私はオフィシャルネットバトラーの伊集院炎山です、市立デンサン女子高等学校からの通報を受けて、急ぎ駆け付けました」

 

「オフィシャル?君のような子どもがプライド様と同じオフィシャルだなんて言うの?かっこつけても、背伸びしたい年頃なのね」

 

 セリシーは目前に立つ年の割に大人びた風貌を持つ少年、伊集院炎山の流暢なアメロッパ語での発言を、格好つけたがりの子供の冗談だと決めつけ、同じアメロッパ語で皮肉を返す。

 サイバーテロ対策連盟"オフィシャル"は、ネット犯罪対策のために世界規模で設立された組織だ。

 プライドは昨年、地位向上の一環としてオフィシャルに加盟。

 その後は連盟内での発言権を高めるため、血の滲むような鍛錬を重ねてオペレート能力を磨いた。

 セリシーも海外留学の際に便利であり、また敬愛するプライドの役に立ちたいと、オフィシャルネットバトラー認定のラインであるプライドと並ぶSランクライセンスの取得に励んでいた。

 しかし、Sランク試験は腕と知識を兼ね備えていなければ突破できない。

 セリシーはすでに二度受験して、どちらも不合格だった。

 世間的な評価では、最低ランクのBランク保持者というだけでも十分優秀なネットバトラーとされるのだが、セリシーは決してAランク程度で満足できる性格ではない。

 オフィシャルネットバトラーのハードルの高さは身をもって知っている。

 にも関わらず、手帳という巧妙な小道具まで使ってオフィシャルを名乗る少年の悪ふざけに、セリシーは小さな憤りを覚えていた。

 

「プライド様──なるほど、クリームランドからの留学生ですね、プライド様の粘り強いオペレーティングと、ナイトマンの鉄壁の守りには、私とブルースも切り崩すのに苦労させられました」

 

 炎山としては、純粋に優れたオペレーターであるプライドと、プライドを生んだクリームランドという国をリスペクトしての発言のつもりだった。

 だが、若きオフィシャルの目の前に立つ愛国心溢れる少女には、少年の言葉はリスペクトとはまったく違う意味合いを持つ言葉として受け取られた。

 

「プライド様とナイトマンの守りを切り崩した、ですって?よくそんな嘘を言えたものね」




角栓の広告

もし自分が作品に一つメッセージ性を込めるなら「角栓広告許すまじ」です

天王寺璃奈

そもそもみゆきのコミュ障ぶりは天王寺を参考にしています
みゆきと熱斗くんのいちゃLOVE1000%を目的としていないのなら、ロックマンエグゼfeat天王寺璃奈を書いていたことでしょう

伊集院炎山

見知らぬ人からやれ子供だカリメロだと罵られていたら、そりゃあ不貞腐れるでしょう

クリームランド

2でプライドがオフィシャル会議に呼ばれていた辺り、プライド自体がオフィシャルだったのでは
その他は元となったアイスランドを参考にしてみました
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