天網のつくもがみ ~みゆきの蜘蛛糸電文禄~ 作:きないしょく
ネットバトル狂のレインは、日頃からネット上でネットバトルの情報をサーチしている。
二ホン全国の強いネットバトラーの噂話を漁るのも、レインの日課の一つだ。
暑苦しい男。
さすらいの魚屋。
ネット掲示板のクソコテ。
69連勝を果たしたネットバトラー名人。
そして、伊集院炎山。
世界最年少のオフィシャルにして、二ホン最強のネットバトラーとまで噂される稀代の天才小学生。
レインは、噂を聞いてオフィシャルのサイトを覗き、炎山のプロフィールを眺める。
だが、この卵の殻をかぶったような小学生がそれほどの強さを持っているという話に、レインは半信半疑であった。
しかし、現実に炎山がレインの目の前に存在した。
催眠事件が発生したパソコンの前で、目にも止まらぬ速さのブラインドタッチを続け、データの残骸を黙々と回収している。
そんな最年少オフィシャルの姿を目の当たりにしたレインは、小学生というだけで侮っていた自分の先入観を恥じるほかになかった。
「マジかよ伊集院炎山。噂は聞いていたが、まさかここまでとは。ザラ先輩やゆりこ先生よりも早いぞ」
「あんれー、レインってば、生オフィシャルが来てるんだから、もっと『バトらせろ』ってはしゃぐもんだと思ったけど、違うんだねー」
「いや、やめとくわ。ありゃステゴロの方も相当できるぞ。オフィシャルの訓練ってスゲーんだなぁ」
レインは
格闘能力に自信のあるレインから見ても、身長140cmほどの小柄の炎山が、並の大人なら簡単に取り抑えられる姿を容易に想像できる程に、その一挙手一投足には隙が無かった。
ドンとレインがこそこそ話をしていると、炎山が静かに席を立ち、通報人のザラに敬礼をする。
「終わりました。オフィシャル権限で問題のサイトへのアクセスを遮断しましたので、これ以上の催眠事件は起こらないでしょう。我々オフィシャルは、急ぎ容疑者の逮捕に向かいます」
「もう行かれるのですか?ネットナビを使った催眠行為こそ脅威とは言えますが、寂れた個人サイトの管理人など、そこまで急いで取り締まる事もないと思われますが」
「残念ながらそうのんびりはできません。
市立デンサン女子高等学校のパソコンの電脳には、ネットナビ・シャインマンによるアクセスとは別に、もう一つ不正なアクセスが確認されました。
さらに、このサイト『チョイナの閃光魔術師Dr.サイコ』に、過去半年の間でただ一度だけアクセスがあったのです。
この二つのアクセス元は同一であり、調査の結果、それがサイバーテロ組織・WWW
「WWW?」
炎山の口からその名前が出た瞬間、レインの表情が険しくなる。
WWWとは、ここ3年の間に台頭してきた国際サイバーテロ組織の名だ。
数週間前、レインのバイト先の喫茶店に突っ込んできたトラックも、後にこのWWW団員が撒いたウイルスの影響で暴走を引き起こしたことが判明している。
レインは思わず炎山に詰め寄った。
「まさか、このハゲがWWWと繋がっていると?」
「それはおそらく違います。シャインマンの残骸データからは、WWWの痕跡は見つかりませんでした。しかし、シャインマンのアクセスの直後に、まるでそれを追うようにWWW団員がアクセスしてきた。
Dr.サイコの動向、そしてこの学校からの通報も、彼らはある程度予測していたと見ていいでしょう
──WWW団員は、愉快犯まがいにメッセージを残していきました。これが、その証拠です」
炎山は横にずれて、レイン達にパソコン画面を見せる。
パソコン画面には、WWWのマークである"W3"の文字を手に取り、人を小馬鹿にしたような道下師のイラストが描かれたカードの画像が映っていた。
「野郎、喫茶店の時のヤツと同じじゃねえか、ふざけやがって」
「喫茶店──数週間前の痛ましい事件ですね。被害者の方々には我々オフィシャルもケアをしています。あの時の事件の犯人と同一人物という事なら、なおのこと迅速に対応しないといけません」
「そういうことなら致し方ありません。伊集院さん、引き続き捜査の方をよろしくお願いします」
事情を呑み込んだザラは、炎山にお辞儀をし、炎山もそれに応えるように再び右手を掲げる。
丁度その時、席を外していたみゆきとセリシーが教室に戻ってきた。
「遅くなってすみません。お話の方はどこまで進みましたか?」
「すべて終わったよ。フッ、伊集院さんに任せて間違いなかっただろう?」
ザラが鼻を鳴らし、自分事のように誇らしげに語る。
「それでは私はこれにて。協力に感謝します」
炎山が教室を退室する途中、みゆきとすれ違った時、少年の鋭い眼光がより一層鋭さを増して、みゆきを一瞬睨みつける。
レインが外で二人に何かあったのかと考える間もなく、炎山が教室のドアの前に通りかかる時、ザラは甘さを含んだ声で炎山を呼び止める。
「炎山くん」
「はい?」
急な名前での呼びかけに、炎山は年相応のあどけない表情でザラの方へ振り返る。
「今度はプライベートでじっくりネットバトルを楽しもうじゃないか。そう何度も私のレヴァの守りを崩せると思うなよ」
「──フッ、何度やろうと勝つのはこの炎山様とブルースだっ」
ザラが微笑を浮かべ、ネットバトルの約束を申し込むと、炎山は勝気に笑い、その誘いを丁重に受け入れる。
背伸びをしていようとも、やはり小学生らしい面があるなと思い、レイン達は炎山の後ろ姿を見送った。
「ちょっとザラせんぱ~い、もしかして炎山くんに気があるんですかぁ?年下好みとか隅に置けませんなぁ」
「なるほど先輩はショタコンかシ、通りで炎山と話シてる時ニヤニヤシてたシ」
「いや相手は子供っしょ、子供にしてはかっこいいかもだけど、ちょっとないわー」
再び女子だけの空間となった女子校の教室で、先輩の業深い性癖を感じ取ったドンが、からかうように声を上げ、レインとセリシーもそれに続いて先輩をいじり倒す。
「いけないのかっ?あんないい子を好きになったらっ」
「いやいや小学生ですぞ?それはいくらなんでも──」
「やめなさいよっ、好きだって気持ちをバカにするのはっ」
ドン達の先輩いじりに、突如みゆきが大声を張り上げる。
三人が驚いてみゆきの方を振り返る。
みゆきの頬は紅潮し、その瞳には怒りと共に微かな悲しみが混ざっていた。
「みゆき──うん、そう、だな。好きをいじっちゃダメだよな。ザラ先輩、ごめんなさい」
「ま、まぁ、私も君達には大人げない真似をしてきたからな。これでおあいことしようじゃないか。
──それはそうとだ、君達も今日一日騒動に巻き込まれて大変だっただろう?私の手元には丁度カラオケ屋の割引券があるのでね、先輩から後輩にカラオケをプレゼントしようじゃないか」
先輩後輩で謝罪を済ませると、ザラは鞄から『Never Ending Song』と書かれたカラオケ店の割引券を六枚取り出し、後輩達にひらひらと見せびらかす。
「え、私、歌は、その──」
「おーネバエンですかー、いいじゃん今夜はみんなで歌い明かそーっ」
「ネバ、シ?どこだかシらねーけどカラオケとか嬉シいシーッ。でも六枚ってあと一人どーするシ?」
「暇があるようならゆりこ先生を呼ぼうじゃないか。まだ仮入部の君達と違い、少なくともゆりこ先生はパソ研の顧問をやってくれるからね」
「うぇっ、先生も呼ぶんスか。まーネバソンじゃどのみち酒飲めねーか」
「あんた酒まで飲むわけ?本当にどうしようもない人ね」
今宵はパソ研部長と借り部員で、カラオケ店に行くことになった。
まだみゆきとセリシーが行ったことのない『Never Ending Song』で、ワイワイ歌い明かす運びだ。
「──それでは織田警部補、よろしくお願いします」
炎山がPETでの通話を終え、デン女の校門をくぐり抜けると、ブルースが炎山に問いかけた。
「よろしかったのですか?炎山様」
「何がだ」
「私と炎山様がフルシンクロした際、何者かの感覚が入り込んだ時のことを聞かなくても」
オペレーターとネットナビの心を一つにすることで、ネットナビのオペレートに無駄がなくなり、潜在能力を最大限まで引き出せる技術、フルシンクロ。
炎山は厳しい鍛錬の末、フルシンクロ技術を会得した。
ブルースの言う通り、セリシーとのネットバトルでフルシンクロを発動した時、炎山とブルースの間に第三者の意識が入り込んできた。
炎山はネット犯罪に立ち向かう際、何度もフルシンクロを使い、死線をくぐり抜けてきた。
だが、今までフルシンクロを使ってきて、自分達の心に見知らぬ誰かの意識が混入してきたのは、今日が初めてだった。
「ふん、フルシンクロは民間には極秘の技術だ。いたずらに広めるわけにはいかん」
「ですが──」
「誰が使ったかは目星は付いてある。仮にフルシンクロが使えることが知られたら、凶悪なネット犯罪対策への人員を欲するオフィシャルや織田警部補は、そいつをすぐにでも確保に入るだろう。一般人を巻き込むことをオレは良しとしない」
「ハッ、確かにその通りです、炎山様。私の任務は平和に暮らす市民を守ること」
炎山の答えにブルースは膝を下ろしてかしこまる。
もっとも、発言こそ本心からきたものではあったが、それ以外にも炎山は、自分の心に第三者が勝手に踏み込んできたことへの不快感があった。
(オレの心に入り込んだ意識──間違いなく、あの水色の髪の女のものだ。勝手にオレの中に入り込みやがって)
炎山は、水色の髪の少女への怒りを胸に秘める。
「それと、炎山様。もう一つ気になったことが」
「WWW団員のハッキング後のデン女の電脳に、何かが起こった形跡がなかったことか」
「ハッ、私は市立デンサン女子高等学校の電脳内を隈なくスキャンしましたが、WWW団員がハッキングしたにしては、異常らしい異常は一切見つかりませんでした。──あまりに正常過ぎるのです」
「オレ達の任務はDr.サイコの足取り調査とWWWらネット犯罪者の殲滅だ。余計な事は考えるな」
「──ハッ、炎山様」
炎山とブルースは、静かにDr.サイコ逮捕へと向かう。
炎山の背中には、人々を脅かすネット犯罪への敵意が滲んでいた。
カラオケ屋『Never Ending Song』はデンサン中央街に位置している。
はにかみ屋のみゆきは、これまでにカラオケ店を利用したことはなかったが、デン女の生徒をはじめ、若い女性たちに人気の有名スポットだという。
日が暮れ、街灯がぽつぽつと灯りはじめた頃、みゆき達は『Never Ending Song』のきらびやかな看板の前に立っていた。
ゆりこ先生は仕事が終わり次第合流するとのことなので、ひとまず先に一年生組とザラ先輩でカラオケを楽しむことにした。
「ネバエンに来るのも久しぶりだなー、メロディー、元気にしてるかなー」
「メロディーくんなら月に一度は会っているよ。いつだって元気いっぱいで実に可愛らしい子だよ」
「ヒトカラってやつかシ?てかザラ先輩、カラオケ好きだシねー」
三人が談笑する中、レインが建物から目を背け、ややせわしない様子で立っている。
(レイン、どうかしたのかな)
みゆきがレインを気に掛けながら歩き、カラオケ店の自動ドアをくぐる。
すると、みゆき達より一回り小さい少女が、屈託なく笑って出迎えてきた。
「いらっしゃいませ、五名様ですね。──って、ザラさん、ドンちゃん、来てくれたのねっ。お友達と一緒だなんて珍しいね。それにレインも久しぶりっ」
「お、おう、メロディー、元気、してたか?」
紺色のロングパーカーを纏ったメロディーという名の少女が、金色のツインテールを揺らし、レインの下へ駆け寄る。
メロディーが愛嬌たっぷりに見つめてきて、レインは戸惑いながら視線をそらす。
どぎまぎするレインの様子を、みゆきは少し滑稽に思った。
そして、メロディーとレイン達の関係性を、それとなく推測するのだった。
「もう、レインったら中学卒業以来全然会いに来てくれないんだから。高校では誰かに迷惑かけてないでしょうね?」
「か、かけてねぇよ、リアルが充実してて来る暇がなかっただけっていうか」
「なんだメロディーくんとは知り合いかい?君のような野蛮人がこんな愛らしい子と仲良しとは、世の中わからないものだな」
「ほらレイン、ザラさんがこう言うってことはやっぱり迷惑かけてるんじゃん。ダメだよ、悪い事しちゃぁ」
「う、うるせぇっ、これが久々に会う先輩への仕打ちかっ?」
ザラとメロディーに責め立てられ、レインは赤面する。
二人の遠慮のない会話から察するに、メロディーは特にレインとの交流が深いことが伺える。
「取り込み中悪いシが、アタシここ来るの初めてだシ。置いてけぼりにシないで欲シいシ」
蚊帳の外状態のセリシーが、横から拗ねたように割って入る。
すると、メロディーが慌てて今日初めて会うであろうセリシーとみゆきに向かって、礼儀正しく自己紹介を始める。
「あわわ、初めてのお客様もいるのにごめんなさいっ。綺麗なおねえさんと、海外の方ですね。はじめまして。私、"
メロディー。
一年後にデン女に入学し、みゆき達の可愛い後輩となる少女である。
ネット掲示板のクソコテ
やぁ、ゴエーツにいさんだよ!
織田警部補
鷹岬版に出てくる警部補
炎山の背中には、ネット犯罪への敵意が滲んでいた。
設定ではママは故人とのことなので、炎山くんはネット犯罪でママをなくしたんじゃないか疑惑
メロディー
ルナーラックスのレイン隊の一員
隊の中で最も攻撃が熾烈で、最も温厚な性格
人形集めが趣味
レイン隊集結