全く覚えてないんだけど、俺多分原作主人公の兄貴殺してるわ… 作:生牡蠣
『あ~、負けちゃったかぁ…本当に強くなったね、レウィシア』
身体に付いた土埃を払いながら彼は笑いかける。
口では残念がっている様なそぶりだが、その表情はどこか嬉しそうでもあった。
『う~ん、今日はコンディション抜群だと思ったのにこの負け様…こりゃ引退も考えるべきかな?』
思ってもない事を言う彼に、私はつまらない冗談はやめろと言う。
私をここまで満足させてくれるプレイヤーは彼以外に居ない。引退なんて、許すものか。
それに今回の敗因は彼自身にはない。彼とチームを組んでいた者たちの動きが悪かったからだ。
あの雌犬共…『彼が勝ったら私の眷属に迎え入れる』という話を盗み聞きしてわざと手を抜きましたわね……!
………せっかく彼を合法的に私のモノにできるチャンスでしたのに…
『……ははっ、レウィシアにそう言われちゃ、まだまだ引退はできないなぁ』
彼は一瞬、虚を突かれたような表情を見せたが、またいつもの様な余裕たっぷりな笑みを浮かべた。
…そう、貴方はこのレウィシア・アクアブルーの隣に並びたてる唯一の殿方。いつでも余裕の笑みを浮かべているべきですわ。
『………でも、ごめんね。僕はもう、頑張れなさそうだよ』
しかし、彼は次の瞬間、私が見た事もない寂しそうな表情を見せた。
やめて。貴方のそんな言葉なんて聞きたくない。そんな貴方の姿を見たくない。
『本当にごめん、じゃあね』
そう言って彼は私に背を向けて何処かへ歩き始める。
待って、そっちに行っては駄目。
私も走り出し、手を伸ばすが彼は離れて行くばかりだ。
止まりなさい!そっちに行ったら、きっと二度と戻る事なんて出来ない!!
私の出来ない事を一緒に見つけてくれるって約束したじゃない!貴方はこれからもワタsの元へいないと駄目なの!!だって、まだ貴方に伝えきれていないことが……!
『さようなら、レウィシア』
「ッ! マイッ!!………?」
気付くと、私は見た事もない部屋で虚空に向かって手を伸ばしていた。
荒くなった息を整えながら、今の出来事が夢だという事を自覚する。
……嫌な夢だ。彼が私を置いて行くなんて、あり得るわけがないのに。
それに、彼は今……
「すぅ…すぅ…」
ふと、小動物の寝息の様な音が聞こえ、視線を音の方へ向ける。
そこには、ピンク髪の見知った顔の少女が、私が寝ているベッドに顔を埋めて眠っている光景があった。
「………バカアイドル?」
その人物の正体が意外で、思わず呟く。
彼女は私も良く知っている人物であったのだ。
名前?……バカアイドルで充分ですわ。
呼び方でも察せられる通り、私と彼女はあまり仲が良くない。ボンバーバトルでは同じブロッカーの役割な為敵対することが多いし、何よりいけ好かない。具体的に表現はできないが、本能的にウマが合わないという奴であろう。
………それに、同じ人物を想いあっているというのも、対立する原因なのだろう。
そんな仲が良くない相手が、私の寝ていたベットの近くで寝ている。この状況に訝しむなという方が無理な話である。
「失礼します……ッ!お、お嬢様ッ!?」
現在私が置かれている状況について考えていると、見知った人物が部屋に入って来た。私の従者であるメイドだ。
「……あぁ、そういう事ね」
メイドの姿を見た瞬間、私は眠る前の記憶を思い出し、この状況についてある程度察した。
……どうやら、彼女には色々と迷惑をかけた様だ。
「お、お嬢様ッ、その、お身体は……」
「何ともないわ。むしろ久しぶりに休めたのもあってか快調なくらいよ」
心配そうに駈け寄るメイドに対し、威厳を込めた余裕の笑みで返す。
その表情で私が回復した事はメイドに伝わった様で、彼女も安堵するように息を漏らした。
そして、私はそのままメイドに向かって頭を下げた。
「…色々と迷惑を掛けましたわ。精神的に余裕がなかったとはいえ、納めるべき家を離れてこんな辺境の星まで貴方たちを付き合わせるなんて、次期当主とあろう者の行動ではありませんでした。なのでここに謝罪を「やめてください」……」
「私達はアクアブルー家に……レウィシア様に仕える使用人です。どんな状況だって、主に着いて行く覚悟は出来ています。ですから貴方様は頭を下げるのではなく、これからも自分を信じて着いて来いと言えばいいんです。それだけで、私達は地獄の果てまでお供しますよ」
メイドの言葉に、私は虚を突かれた。
……ふふっ、どうやら私は当主としてはまだ未熟らしい。
こんなにも優秀な使用人たちに恵まれているのだ。彼女らが私に仕える事に胸を張れるよう、もっと精進しなければな。
「ありがとう。約束しますわ、私はもう間違えない。だから私に着いてきなさい」
「仰せのままに」
メイドが軽く頭を垂れる。その時、私のベットに顔を埋めるピンクのバカが視界に入ったようで、思い出したかのように「あぁ!」と声を上げた。
……そういえば、このバカアイドルの事を忘れてましたわ。
「……それで、なんでコイツはここに居ますの?まぁ、大方ボンバーバトルで無名の相手に負けた私を煽りに来たんでしょうけど」
「いえ、とんでもない!モモコ様はアクア様をお見舞いに来たんですよ!!」
「……お見舞い?」
メイドから出た意外な言葉に、私は思わず同じ事を聞き返してしまった。
「えぇ、そうです。ネットニュースでアクア様が入院なされた事を知って遠路はるばる来て下さったんですよ。移動で余程疲れたのでしょう、アクア様が大事ないと“ホッ”となされてそのまま眠ってしまわれたんです」
「起こすのも悪いと思い、そっとしておりました」と続けるメイド。「それはそれでどうなんだ…?」と思いつつバカアイドルの寝顔に視線を戻す。
見舞い、か……元々そういった筋を通す律儀な面もある事は知っていたが、嫌い合っているはずの私にもそうするのは正直意外だ。
よく見ると、いつも何時間も掛けて整えているはずの髪やメイクにも粗が見える。それは彼女がそんな時間も惜しんでここまで来たという事を物語っていた。
「そう…」
「…あぁ、そうですわ!他の使用人たちにも連絡をしなければ!!アクア様、失礼いたします」
そう言って退室するメイドに目もくれず、私はバカアイドルを見続けていた。
……どうやら、私は意外と彼女にそこまで嫌われていなかったらしい。それが何故だか、少し…本当に少しだけ嬉しいと思えてしまった。
これを機に少し仲良くしてみるか…いや、やっぱり無理。それを想像しただけで背筋に冷たいものを感じるもの。
「うぇへへ…そんなとこ触っちゃ駄目よマイティ♡モモぴゅんはぁ、皆のアイドルなんだからぁ…♡」
「………」
“ベシぃっ!!”
「痛ったぁっ!?!?」
人のベッドで眠りこけている不届き者に、私は
そう、これはマナーを知らないバカ犬へのしつけですわ。……決して寝言がムカついたからではありません事よ。
「痛っつつ…いきなり何すんのよ!……って、なんだ、起きたのあんた」
「ええ、おかげさまで」
見舞いに来たとは思えない様な淡白な会話。しかし、私達の関係では、こんな会話でも普通のことなのだ。……むしろバカアイドルが少し安堵の表情を浮かべているのが気持ち悪いまである位ですわ。
「……体調は、どうなの?」
「貴方に心配されるほど悪くはありませんわ」
「は、はぁ!?誰があんたなんかの心配なんかするかっ!モモぴゅんはただ通りかかっただけなんだから、勘違いしないでよねっ!!」
そう言って顔を背けるバカ。その顔が真っ赤に見えるのは、窓から照り付ける夕焼けのせいだけではないだろう。
昔、彼がこのバカアイドルの事を『ツンデレ』と言っていたが…なるほど、これがそうなのか…
「あらぁ、そうですの。こぉ~んな宇宙の端っこにあるような星に偶然通りかかるなんて、貴方以外と暇なのかしら~?」
「な、なんですってぇ!?」
椅子から立ち上って怒りをあらわにするバカ犬。
ホホホッ、メイドから真っ先にここに来たと聞いているとも知らずに必死に隠そうとしているなんて、これはこれで実に愉快!こんなの、からかいまくって遊ぶに決まってますわぁ!!
「ひ、暇なんかじゃないしぃ!?モモぴゅん達は宇宙規模で大人気のアイドルグループだしぃ!?き、今日の事は…そう!活動休止中の休みを利用した旅行の最中で―――」
「―――そう、活動休止しましたのね」
私の言葉にバカアイドルは“ハッ!”とした仕草を見せた。
そして、先程までの勢い等嘘のように静かになり、俯きながら再び椅子に座ったのであった。
私がバカアイドルと呼んでいる通り、このバカ犬はアイドルとして活動している。
しかもソロ活動ではない。こいつの他にも毛色の違うバカが3人おり、そのバカ達と『プリティ・ボンバーズ』というアイドルグループを組んでいるのだ。
私はそういったものは興味はないので詳しくはないのだが…全員がボンバーバトルのトッププレイヤーというのもあって知名度は非常に高く、一人一人が個性豊かで見ていて楽しい、歌もダンスも超一流という今を時めく全宇宙で一番推せるアイドルグループらしい(下僕様談)
私はアイドル活動もあのバカ達の事もあまり好きではないが、彼女達一人一人がそれぞれ熱意や信念を持ってアイドル活動をしている事は知っていたし、その点については、悔しいが評価もしていた。
そんな彼女達に惹かれたファンも多く、テレビCMや街頭の広告でも偶に見るくらいには人気があるらしい。デビューしてまだ1~2年しか経っていないらしいし、下僕様のいう事もあながち間違いではない様だ。
そんな虎が翼を得たかのようなプリティ・ボンバーズ。しかし、その勢いは嘘のように消え去ってしまっていた。―――
「………仕方ないでしょ。あんな状況で、ファンの前に顔なんて出せるわけないじゃないの」
顔を伏せながらポツリポツリと語り始めるバカアイドル。
「ふふっ、おかしな話よね。皆に笑顔を届けるのがアイドルの仕事なのに、どんな時でも辛い顔なんて見せちゃいけないのに…今まで出来ていた事が全くできなくなって……パインもプルーンもメロンもおかしくなって……」
聞いてもいない話を一方的に続けるバカ犬。
…いや、これは自分でも歯止めが利かなくなっているのだろう。大切な人がいなくなって、仲間たちも塞ぎ込み、自分の好きだった事さえただ辛いだけのものになってしまう。それがどれだけ苦しいのか、想像に余りある。
他のメンバーもそうだが、このバカ自身も、もういっぱいいっぱいなのだ。
「………大変でしたわね」
「………ふんっ!あんたに心配させるほどモモぴゅんは堕ちちゃいないわよ!!」
思わず労いの言葉を掛けると、バカアイドルはわざとらしい程に勢いよく顔を上げた。
「……今はちょっとした充電期間!ここから不死鳥のごとく復活して、またトップアイドルの道を突き進んでいくんだから!!オリコンチャートランキングをプリティ・ボンバーズの曲で埋め尽くす日もそう遠くないんだから!!」
そう言って私に向けられた彼女の顔は酷く痛々しかった。
目の下のクマは化粧では隠しきれておらず、自然のモノとは程遠い引き攣った様な笑み。とてもアイドルがしていい顔ではかなった。
「さぁて、あいつがいつ戻って来てもいいように頑張らないとね!モモぴゅん達の真の実力、思い知らせてあげるんだから!!」
彼女がそう言った瞬間、私の脳内にとある記憶が浮かび上がった。
それは気を失う前のボンバーバトルの記憶。
対峙するのはどこの馬の骨とも分からないアンドロイド。そのはずなのに、あの方の使う物と同じボムを、力を使っていた。
そして、ボムの風圧で自らを宙に浮かせるという独自性と意外性の塊の様なプレイング。
彼を知ったのはつい最近、接した時間で言えば数分間だけだろう。
しかし、私は確信していた。
………本当はこの情報は私の中だけに留めていきたい。そうすれば、彼を独占できるかもしれないのだから。
しかし、独占よりもまずは捕まえる事だ。
あの人はこちらの気持ちも知ろうとせずにすぐに何処かへ行ってしまう、仕方のない人なのだ。ならばまずは逃げないように、手の届く範囲にがっちりと捕まえておかなくては。
二度と離れないように、何処かへ行ってしまわないように。大切に。
「………ねぇ、
その為には―――
「……んん!?あんたが私を名前呼び!?頭でも打ったんじゃないの―――」
「彼を、マイティを見つけましたわ」
―――彼を追う手駒は、多い方が良いだろう。
「――――――詳しく話なさい」
そう答えたモモコの瞳は何処までも吸い込まれてしまいそうな程に暗く、まるで深淵を覗いているかのようだった。
〇ゼロ
今回出番なし。
〇アクア様
どうやら大切な人を見つけたようです。いったいマイティは何処に行ってしまったんだ…?
ちなみに最後のセリフの時はモモぴゅんと同じ目をしていた模様。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いてるんだよなぁ…
〇モモぴゅん
ボンバーガール回のアイドル兼常識人枠といったらこの人。
色々あってメンタルボロボロだけど、大切な人の手掛かりが目の前にあるよ。良かったね!
ちなみにプリティ・ボンバーズのメンバーの中では一番軽傷な模様。他の3人?……ハハッ(ミッ〇ー)
続き書かないといけないのに某麻雀ゲーの30代(推定)魔法少女ママにうつつを抜かして更新できなかったバカがいるらしいよ(自己紹介)
マジでやべぇよコ〇ミ…一生推すわ……
次回こそはアタッカーかシューターの娘出したい…でも夏場は暑くて書けないから涼しくなってからかなぁ……
ここまでご拝読ありがとうございました