ホテルにて快適な一夜を過ごしたほむらは、ホテルのロビーにて優雅に朝食をとり、朝日を浴びながら見滝原市を飛び回っていた。
その肌には血色と艶が戻り、目許の隈も消えていた。
昨日、新しい友達が出来た。
彼女を最初に見たときは『怪しさ全開』以外何も思わなかったが、話してみるととても人に害を与えるような性質の人間とは思えなかった。
『彼女を疑いたくない。』
そんな潜在意識が調査範囲をホテルエノルミータから別の何かへ向けさせる。
そう、あのホテルの他に何かあるはずなのだ。この見滝原が、魔女が、きゅうべぇが突然変異した原因が。
昨晩のきゅうべぇのおぞましき笑みを思いだす。あれを直視した後、ずっと震えが止まらなかった。
だが今は違う。
「もう何も怖くない。」
そう呟いてみせる。
彼女はもう一人ぼっちではないから。
彼女の帰りを待つ人がいるから。
★
ビルからビルヘ、家屋から家屋へ。ただひたすら街を見回る。すると、見滝原市の小学校、その運動場が異様な雰囲気を放っている事に気付く。
魔女の気配。
校庭には多くの生徒がいる。
(まずい。早く魔女を倒さないと大勢の子供がどんな目に遭うか…!)
近づいてみると、小さな天使のような使い魔達が小学生の蹴るボール投げる球にしがみつき、その起動を校舎の屋根の上か、生徒の顔面、でなければグラウンドの外に誘導しているのが見えた。
「あれは……」
そして少し様子を見てみる。使い魔達はあくまでボールをあらぬ方向へ飛ばして、落ち込み、争い、嘆く小学生達を見てカラカラと嗤っていた。
放っておいても大きな害はないように思える。もう少し見張って、特に危険が無さそうだと判断したら、マミとの合流を図る。
女子中学生にも関わらず歴戦の魔法少女である彼女は本来、このくらいの慎重さを持ち合わせているはずだった。
だが…
(…ぁ…あれは……な…なんてことを!)
ほむらの脳裏に蘇る、淡くてほろ苦い記憶。
もともとほむらは心臓が弱く、体育の授業などでは見学に回っていた。本人のドジっ娘属性も相まって、ボールを器用に扱う自分など到底想像も出来なかった。
だから何度も考えた。他の子も自分と同じようになればいいと。目の前で楽しそうに走り笑う子達が心底妬ましかった。
過去の、小さく醜悪でちっぽけな自分だ。
それがあの使い魔達に重なって見えた。
だからこそ許せなかった。度しがたかった。
さらに、今のほむらは…怖いものなど何もなかった。
(なんて悪質な魔女かしら。一刻も早く駆逐しないと、この子達の危険が危ない!)
ほむらは自らのIQ低下に気付かず、単身魔女の結界に飛び込んだ。
★
身体が軽い。こんな気持ちで戦うなんて初めてだ。
使い魔達を蹴散らし、結界の最奥、魔女の巣へ直行する。
やがて開けた空間……バスケットネットが複数備わった体育館のような場所へたどり着く。
その中央にそいつはいた。
何百、何千本もの電気コードが束ねられたような触手を持った魔女。全身が乱雑に、不規則に絡まったコードとアダプターで形作られており、胴体や頭部、四肢が視認できない。
さらにその魔女の上に置かれた荘厳な玉座に、悪魔の翼を生やした少女が座っていた。
彼女はそこから威風堂々地に降り立って、ほむらに邪悪な視線を向ける。
(こいつが巴マミの言っていた『変態不審者』で間違いなさそうね。)
どう考えても必要のない露出の多さ、歪んだ瞳に宿る狂気。とても同じ歳くらいの女子とは思えないほど雄弁な強者のオーラ。
全身の細胞が訴えかけてくる。逃げろ、と。
だが同時に安堵している自分もいた。
彼女の顔は、柊うてなと似ても似つかない。※1
最悪の可能性、『柊うてながマミの言っていた変態怪人マジアベーゼである』という可能性が今消えたのだ。
であれば、やるべきことは一つだろう。
(この怪人を倒して、情報を吐かせる。)
ほむらは自らの腕についた円盤盾に手を掛ける。
魔法少女まどか☆マギカにおける作中最強の魔法が今、一人の変態女子中学生に振るわれようとしていた。
※1 マジアベーゼの衣装の効果、認識阻害により、誰であろうとマジアベーゼを柊うてなだと判別出来ない。