彼女は開口一番にこやかな笑みを浮かべ、ほむらに話しかけてきた。
「ごきげんよう。魔法少女。私の名前はベーゼ。マジアベーゼ。すべての魔法少女の悪となるもの。」
馬鹿みたいな格好にそぐわない、上品な笑みだ。そのちぐはぐさこそ不気味である。
「……貴方の目的は何?」
ただ簡潔にそう問う。必要以上に会話をすれば彼女に呑まれてしまいそうだったから。
「目的……?決まっているじゃありませんか。」
ベーゼは目一杯両手を広げる。
「世界征服です!この世界を……
くだらない嘘だ。言の葉が軽い。
これ以上の会話は無意味だろう。おそらく彼女はもう本当のことを話さない。
ならば、吐かせるまで。
『時間停止』
全てが凍りついたこの世界は、誰にも侵されない自分だけの空間だ。
両手を広げたまま虚空を見つめ静止しているベーゼに足早に近づいたほむらは、マシンガンを容赦なく無防備なベーゼに向けて放つ。
相手はあの巴マミを辱しめた存在だ。加減はしない。
ベーゼが空中で静止した弾丸に埋もれて見えなくなって、そこでようやくほむらは世界の流れを溶いた。
「私の手中に…ぶべべべべべべべべべ!!」
ベーゼの身体に大量の銃弾が直撃し、掠め、めり込み、ベーゼの構造組織を破壊し尽くす……までは至らなかった。
ベーゼは吹っ飛び、身体が背後の電気コードの魔女に受け止められる。
「っっっぐっっはぁあ!なんですか?なんなんですか今のはァ!?」
吐血しながら彼女はそう吠えた。だが彼女の頑健な肉体は銃弾の侵入を拒絶し、打撲痕と軽い流血のみにとどめている。
(……硬い!ならば!何かしらの有効打を持って来るまで!)
「魔法少女!貴方、一体どんな能力を……!」
「うるさい。」
『再び世界は凍りつく』
ほむらは結界の外まで走り……周囲を見渡す。
彼女のタフネスに有効打を与えられるような何かを求めて。
★
わけがわからない。
全く動きが見えなかった。何にどうやって攻撃されたのかも分からない。
気がつけば全身に鋼の雨が降ってきた。
十中八九、目の前の魔法少女、暁美ほむらの能力だろう。
「魔法少女!貴方、一体どんな能力を……!」
考えられる可能性は無限だ。異能の子細などどうでもいい。
おそらくすぐにまた次が来る。
今はその対策を……
まただ。またこの感覚だ。動画をスキップしたかのように視界が急変し、その直後には"それ"が来る。
ベーゼを、絶対悪を倒さんとする、より強力な一撃が。
ほむら「ロードローラーだッ!」
タンクローリーだった。
純粋な質量の暴力が頭に既に触れている。
わざわざ彼女はタンクローリーを結界の中までスタイリッシュ無免許運転で運び込んだ。そこからアクセルとハンドルをガムテープで固定し、タンクの上に乗って、ベーゼ目掛けてこの鉄塊を突っ込ませた。
一秒も経たぬうちにベーゼは下敷きになる。もう遅い、脱出はおそらく不可能だ。もし避けられてもまた時間を止めて解決策を探すだけの事だ。そう考えての一手だった。
だがそれは『悪手』だった。
マジアベーゼが魔法少女暁美ほむらの能力を知らなかったように、ほむらもベーゼの能力を知らなかったのだ。
ベーゼのフルスタドミネイトがタンクローリーに打ちつけられ、彼女の異能により瞬時にそれが傀儡の魔物と化す。
「なっ!?」
タンクローリーの化け物は主人を潰さないようタイヤを脚のように伸ばして自らの身体を支え、その上で自分の背中に掴まっているほむらを振り落とす。
「がっ!」
そしてタンクローリーは間髪入れず追撃に移行する。一秒前ではベーゼが受けるはずだった凄まじいボディプレスが地面に倒れたほむらを容赦なく押し潰した。
「ぁあああああ゛っ!!」
メリメリメリメリ!
彼女の全身の骨が悲鳴をあげる。
マジアベーゼのヒールの音が耳許まで迫って来ていたが、そんなことを気にしている余裕が今のほむらにはなかった。
彼女の能力は、一度捕まってしまえばそこからの逆転は難しい。
タンクローリーにのしかかられ、ベーゼに見下ろされる彼女はまさしく、まな板の鯉であった。
ほむらちゃんがタンクローリーをワルプルギスに突っ込ませるシーン大好き侍