次の日。
見滝原中学、2年□組に転校生がやってきた。
「は…初めまして…。柊うてなです。よ…よろしくお願いします。」
「テンコウセイカワイイヤッター!!」「オンナノコキタコレ!」「ヨロシクー!」
口々に見滝原中学の生徒たちが新たなクラスメイトを温暖な呼吸で包み込む。
まどか「わあ……連続でなんて珍しいね。」
さやか「ああ、あの謎の転校生、暁美ほむらかぁ。あたし、結局あの子とあんまり話せてないんだよなー。」
まどか「学校休みがちだしね。ほむらちゃん。今日は来てたっけ…」
まどかがほむらの席に視線を流すと、珍しく彼女はそこにいた。
そして驚きの表情を浮かべてうてなを見ている。
「うてなッ!?」
「あはは…ほむらちゃん。ビックリした?サプラーイズ…なんちゃって…あ…嬉しく…ない?」
「ううん、嬉しいわ。びっくりしただけ。」
担任の早乙女和子先生は空いている席に座るよう彼女を促し、早速教鞭を振るって朝の惚気スピーチを始めたのだった。
★
「面白い先生だね……」
「早乙女先生はいつもそう。男に完璧を求めすぎて、悉く裏切られる。」
休み時間、二人に興味津々な学友達の囲いを抜け出して、ほむらとうてなは屋上に出ていた。
そこに丁度、鹿目まどかと美樹さやかが現れる。
「お?転校生ズじゃん。早速この屋上に目をつけるとはなかなかやるな?でも残念!ここはあたしとまどかのテリトリー!幾重にもマーキングされた縄張りなのだ!」
「さやかちゃん!ストップ!ストップ!柊さん目を丸くしてるよ!」
否、泡を吹きかけていた。
ヒッソリ魔法少女オタク系女子が初対面の活発な女の子に絡まれて無事であるはずがない。
「ブクブクブク.。o○」
「うッ…うてなぁッッッ!」
死にかけのうてなをほむらが迫真のエフェクトと共に介抱する。
「はっはっは!ごめんごめん。あたしは美樹さやか。同じクラスだよ!よろしくね!」
「私は鹿目まどか。一応保健委員だよ?」
「……。」
「……あ、はいよろしくお願いいたします。」
楽しそうなさやかと柔和なまどかに畏まるうてなに対して、ほむらの方は物憂げな顔をする。
(おや?)
その含みのある表情に、うてなの魔法少女センサーが反応する。
内に眠る総帥が、しっとりとした視線を三人の少女に向けるのだ。
(そうか。この子達、前にコンビニで結界に迷いこんで巴マミに救出された…。)
うてなは立ち上がるとゆっくりと右手を出した。
「柊うてなです。よろしく…ね?」
「……暁美ほむらよ。自己紹介は不要だったかしら。」
「その言い回しだと、なんかの有名人みたいだよあんた。」
四人のアイスが僅かにブレイクするような気配をみせ、そのまま四人は他愛のない雑談に花を咲かせた。
担任の早乙女先生が男と長続きしない理由や、世界史の先生が極右派だとか、見滝原で囁かれる奇妙な噂の数々だとか…
話題が『それ』に移った途端、これまで聞く側に回っていたうてなが口を開いた。
「そういえば……」
「ん?」
「お二人は聞いたことがありますか?魔法少女の噂。」
その単語を聞いた瞬間、まどかとさやかは一瞬身を固め、顔を見合わせた。
「えっと…」
「あー、それなんだけどさ…」
さやかは周りを見渡すと身をかがめてほむらとうてなの肩をがっしり掴む。
「実はさ、あたしたち、見ちゃったんだよね。魔法少女と、魔法少女に勧誘してくる謎の生物を…」
「……っ!」
ほむらの目に鋭い光が宿る。それに遅れて、うてながリアクションを取る。
「…え…ぁ、ええ~~…うそ~…びっくり~(棒)」
うてなの渾身の大根演技を、真に受けていないようだと解釈したまどかがさやかの肩を持つ。
「あ!変な子たちだって思わないでね?嘘じゃないんだから…」
「信じるわ。」
「へ?」
「それで?二人はその誘いに乗ったの?」
ほむらの呑み込みの早さ、そしてその真剣な態度に若干困惑しながらも、
「いや~、それがさ。なんか……」
「うん。なんというかさ、大変そうだなって。『魔法少女』も。」
「だよねー?」
「え?」
ほむらの目が点になる。
「いやさ、凄いと思うよ?今どきの技術はさ。でも…あたしたちには絶対まだ早いというか。」
「まって。何の話をしているの?」
「え…何って、噂の魔法少女だよ。」
「え?え?」
違和感。
どうしてこんなにもこの二人は魔法少女やキュウべえに興味を示さないのか。
「だから、この前あたしたちはたまたま見ちゃったんだよ。魔法少女とものすごい格好した怪人が戦って、敗北した魔法少女が服を脱がされてエッチなことをされる、大人ビデオの撮影現場をさ!」
刹那の沈黙。
直後状況を理解する。
((魔法少女の戦いをエッチなビデオの収録だと思ってる!?))
二人が巻き込まれた戦いは、おそらくマジアベーゼと巴マミの戦闘だろう。
そしてマミは敗北し、マジアベーゼの手によって二人の目の前で辱められた。
あまりにも現実離れした光景に常識人かつ科学信仰現代人な彼女たちは、全ての非現実的な光景をCGによる演出、そして目の前の悲惨な凌辱をシナリオ付きのプロレスだと考えたに違いない。
否、むしろそう考える方が自然なのだ。
奇跡や魔法や呪い、犯罪や人類悪と無縁な人生を歩んできた一般少女である彼女たちからすればそういったものはフィクションの中にしかない。
せめて、戦っていた魔法少女が第二次成長期の少女らしい第二次成長期の少女であれば、可憐な芽が踏みつけにされるシリアスな事件現場に見えたかもしれない。
だが、その時弄ばれていたのは巴マミ(※中学生)だ。
巴マミ(※中学生)だったのだ。
誰がどう見てもハードなSMプレイに悶えるA℣女優にしか見えなかっただろう。
「それでさ、なんというか、すごかったよ。こう、でっかいおっぱいがボロンッと……CGと魔法少女?の女優の演技があまりにも凄くてさ!一瞬本当に魔法で戦うヒーローがピンチになってるのかと…」
「あのね?それでほむらちゃん、近くに落ちてた銃を拾ってCGの怪物を撃ったんだよ?『悪の手先め』って!」
「それは!だってもしかしたら本物の魔法少女と悪の怪人との戦いだったかもしれないじゃん!」
「それはないよ。ありっこないもん、そんなこと。それにしてもあの女優さん、綺麗だったなぁ…」
「え?カラダが?」
「チガウヨ!?」
「ぶ」
突然腹を抑えてうずくまるほむらは立っていられなくなりまどかに寄りかかる。
「ぷ…ふふっ…ぁはははははははは!はははははは!はひっ!はひぃい!おなか痛…」「「ほむらちゃん!?」」
「なんだよ急に。なんか変なキノコでも食べた?」
「なんでもな……ぁははははは…なんでもにゃぁ…にゃははははは!」
暁美ほむらは決して他者の不幸で笑い転げるような性格ではない。
だが、今回ばかりは安堵したのだ。
魔女と巴マミ、そしてキュウべえと接触したが最後、必ず、特に願いもないのに魔法少女になりたいなどと言い出す彼女が、至極まっとうな勘違いでそれを拒んでいるという事実に。
「クールキャラが笑い転げてる…我らが保健委員!出番だぞ。」
「え?え?」
「キャラ崩壊してる…。転校生にとっては致命的だ!ほら!」
まどかがおずおずとほむらの肩に手を置くと、ほむらはその手をギュッと握った。
「くふ…ふぅッ…はぁーッ…はぁーッ…良かった…貴女が無事で…本当に良かった…!」
「???…う、うん。私は平気だ…よ?本当に大丈夫?ほむらちゃ…」
「スン)大丈夫。私は平気。」
「うわあ!?急に落ち着くなぁ!?」
「落ち着いちゃった。心配は不要よ。まどか。さやか。」
「ふふ…ほむらちゃんって面白いね。」
「そうかしら。」
「くすくすくす、私もそう思います。」
「こらまどかー!浮気は許さんぞー!」
和気あいあいとした四人の空間に自然な時間が流れる。
ほむらにとってはもう二度と、決して過ごすことのなかったはずの時間が、ゆらゆらと無目的に彼女を包み込んでいたのだった。