「で、どうして貴方が私の家にいるわけ?」
コンビニの魔女とマジアベーゼを倒したマミが、疲労困憊(主に精神面)のためコンビニ弁当をドカ食いしようと三つもそれを買って家に帰ると……
ほむらが当たり前のようにマミの部屋に居座り、彼女に負けず劣らずの優雅さでティーカップを傾けていた。
「状況が変わった。手を貸して欲しい巴マミ。」
「……場所を変えましょう?ここじゃ…」
「ダメ!」
大きな音を立ててティーカップを皿に置くその手は僅かに震えていた。
「キュゥべえが…多分あれはもうキュゥべえなんかじゃない…」
「……。確かにいきなり魔法少女のルールの変更を言い渡されたり、魔女の振り撒く呪いが極端にくだらなくなっていたり…面食らうことばかりが続いているわ。」
マミはコンビニ弁当を置くとそのまま湯を沸かし始める。
「なるほど。キュゥべえがキュゥべえでなく、魔女が魔女では無くなったといわれた方がまだ納得出来るわね。」
マミはほむらの震える手を握ってやる。ほむらが目を見開いてマミを見る。マミも自分の行動に少し驚いているようだった。お互いに、自分が思うより大きな不安を抱えている状況なのだと再認識させられる。
「……。」
「いつもさかしら顔を崩さない貴方がそんなに動揺するなんて…何をみたの?」
「……歯を見せて嗤うキュゥべえ。」
「それは…想像するだけで夢に出てきそうね。」
マミはほむらに買ってきたコンビニ弁当を差し出す。
「お財布は持ってる?手数料込み、一つ2000円でお譲りするわ。」
「……鉛弾でいいかしら?」
一夜にして目まぐるしく変わった魔法少女を取り巻く環境は、相容れないはずの二人に妙な和みの場を与えたのだ。
★
友達……といえる仲ではないが、同世代の女の子が自宅にやってきて食卓を囲むなど、久々のことだった。そのためかマミは感情のコントロールが不安定になっていた。
「キュゥべえが別人だったとして、魔女は依然として人々を困らせるわ。私たちがすることは変わらない。」
「……。今日まどかに会ったはずよ。」
「鹿目さん?確かに、魔女の結界に迷いこんでいたわ。でも何故あなたが……まさか!見ていたの!?」
「…??え?」
マミの予想外の過敏な反応にほむらは目を丸くする。
「そう。あなたも見ていたのね…私の…(あの無様な痴態を)」
「し、知らない…」
「とぼけないで!そんな気遣いいらないわ。私は確かに、あの不審者とその手下の魔女に負けたのよ。」
「不審者?」
「(この反応、本当に見られてない?)この世の終わりみたいな格好をした変態よ。多分女子中学生。マジアベーゼと名乗っていたわ。」
「マジアベーゼ……」
ほむらは全ての別時間軸での記憶を呼び起こすが、間違いなく聞いたことがない名だ。此度の異変に関係があるとみて間違いないだろう。
「それで?他に何か情報は?」
「ふえ?」
「そいつがどんな発言をしてたか、どんな行動をしたとか、何されたとか…」
「ナ!?………ないわ。」
「巴マミ、ふざけている場合じゃない、敵はきゅうべえに化けられるかも……いや…それなら奴らが黙っていない。奴らと交渉した?あり得るの?連中は人間なんて家畜くらいにしか考えていない。まさか……」
「最初にマジアベーゼに会ったのは昨日の晩。いつも通り魔女と交戦していた時。」
マミはコンビニ弁当を食べ終え箸を置く。
「最初は魔女の結界に迷いこんだ一般人かと思った。でも…彼女は魔女を手懐けていた…ように思える。」
「そんな事不可能よ。」
「……なんにせよ、彼女は魔女の身体からグリーフシードを抜き取り、私に手渡してきた。意図も、正体もわからない。凄く気味が悪かったわ。」
マミはビニール袋に弁当箱を突っ込むと立ち上がった。
「だから制圧してきゅうべえに聞こうと思ったの……」
「そして失敗し敗北した。」
「二度目は撃退したわ!二度目は…」
マミはほむらから顔をそらす。
「最初に戦った時…彼女は植物を操って私を拘束したわ……」
「…で?その後は?」
マミは完全にほむらに背を向けるとぼそりと言った。
「言えない……。」
「………は?」
「思い出したくもないわ。」
「何を?一体どんな事を?あなたらしくもない。それでは何もわからない。はっきり言って。」
「いっ…言えない……」
「言いなさい!それが互いのためよ!」
ほむらは立ち上がり、マミの襟首をつかむ。
「このっ……」
貴重な情報を出し渋るマミにほむらは焦りを隠せない。彼女を責める言葉を探して息を吸って…喉元まで出かかっていた八つ当たり達はハッと霧散する。
彼女は頬を紅潮させ、目に涙をため、唇を噛んでいた。屈辱、悔恨、羞恥……。ほむらは、そのとき全く抵抗できない状態だったマミが変態にナニをされたのか、薄々察してしまう。
「巴マミ……」
「ぐすっ……スカート…捲られて……それで…うぅ……」
「……。」
「恥ずかしい事…たくさんされて…」
「……恥ずかしい事?」
「うぅ……むっ胸…」
「……なに?」
「胸を視姦られた!弄ばれた!お尻叩かれた!これで満足かしら!?」
(私の時もそうだった……あのきゅうべえは私を殺そうと思えばいつでも殺せたはず。攻撃というよりおどかすのが狙い?そんな事をして、誰になんのメリットがあるの…)
「……な、なんとか言いなさいよ!沈黙されたら私は!死ぬしかないじゃない!…ぅう…」
若干自棄になったマミがほむらの肩を掴み揺さぶる。ほむらはその手を軽くあしらうと、
「巴マミ。次の魔女狩りは私も同行する。連絡先の交換を……いえ、今夜は部屋をお借りするわ。」
「んぇっ!?」
「どうせ部屋はたくさん余っているのでしょう?一つくらい貸しなさい。貴方にもメリットがある話よ。共にこのイレギュラーを乗り越えましょう?」
「え?待って…そんな…いきなり…!」
「何か?まさか、女の子にエッチな事されたばかりだから意識しているのかしら。大丈夫、心配しないで。私は…
「ティロ・フィナーレッ(物理)!」
ほむらは怒り狂って変身したマミに窓から外に放り出された。
ほむら「わけが分からないわ…」
落下しながらそう呟いてみる。否、本当は分かっていた。
何度も繰り返されるループの中で、いつのまにか自分は人の心を踏みにじる事に慣れてしまっている。今まではきゅうべぇという、感情も命の尊厳も全く理解できない異星人のせいで、相対的に甘く自分を自己評価していただけ。今この状況で人外に最も近いのは暁美ほむらなのだ。
「現に私は、今回のイレギュラーもチャンスではないかと考えている。インキュベータの魔の手から鹿目まどかを救う為の。」
だがそう口にした途端、確かな違和感が脳につかえた。そう、彼女はマジアベーゼの悪意に触れて思い出してしまったのだ。本来全て命がも持っているであろう、原始的な感情を。
「私は、怖い。」
口に出した途端ダム決壊のように溢れて止まらなくなる。
「なに…あれ。あんなの知らない…こんな世界線、今までなかった。しかもこんなに早く分岐するなんて…分からない。私は何をすればいいの?」
まどかへの接触よりも先にこの分岐の原因究明を優先するべきか。
町の夜景を切り裂きながら、ひとしきりぶつぶつと舌を回したところでふと気づく。
今夜はどこで眠ろうか。