caligula2 episode人見小夜子 彼女が見た世界 作:人見小夜子腹パン部
「もしもし〜聞こえるか。ハローニンゲン、キィの名前はキィという」
キョロキョロと周りを見回し、俺の優れた五感を持って近くに誰かいないか確認するが誰もいない。
「あ? なんかおかしいな? とにかくキィだ! よろしくな!」
ノイズがはしっ……
ああああああ!!
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記憶が戻って初めに考えたのはこの世界の創造主とされてるリグレットの事だ。
少し話が脱線するが、奴が引っ越した後、俺は奴を探していた。一言で良いから、ごめんなさいでもすみませんでも俺が悪かったでも良いから、とにかく何かを言いたかった。
高校に入ってからもとあるろくでもない日課に手を染めながらずっとずっと奴の事を探していた。当然見つからなかったが。人探しで最も楽な方法は、人の繋がりを辿る事、そして対象と近しい人から話を聞くことだ。近所から厭われていた母親と、それ以前の問題の父親と娘。奴を追う計画は一瞬で暗礁に乗り上げた。一応それでもやり方しだいではなんとかなっていたのだろうが俺の頭と視野では、とても思いつかなかった。
そして、ごめんなさいと言えなかったのと同じくらい辛かったのは小夜子の歌を聞けなかった事だ。俺は小夜子の歌を失った。その絶望と罪悪感で一時期は自殺も考えていた。
それでも一度で良いから謝りたい。小夜子に歌を聞かせて欲しい。そう思いながら小夜子を探し続けた。発達障害者のカウンセリンググループ、全国の高校、歌系の芸能養成所、三郎ラーメン。小夜子の行きそうな所は全て行き、話を聞いた。ストーカー扱いされパクられたのも一度や二度では無かった。それでも時間をひねり出していつも小夜子をいつも探していた。
いつ終わるのかも分からない捜索の中、心が折れそうになった俺を助けてくれたのはバーチャドールだった。バーチャドール。初音◯クのようなボーカルソフトとAIの融合した電子の歌姫。特にμという乳のデカい白髪ツインテの歌が好きだった。理由は単純に小夜子に次ぐ歌の上手さを持っていたからだ。それでも小夜子の方が遥かに上手いが。しかし小夜子の歌という、天上の歌声を聞いてないかわいそうな連中には最高の歌だと認識されたらしく、悍ましいほどの速度で信仰にも近い人気を集め社会現象になった。それこそ生身の歌手が駆逐されるほどに。もっともあの事件が起きるまでであり、今では忌み嫌われているが。
そして運命の日俺はいつも通り動画サイトでバーチャドールの楽曲を漁っていた。そこで目に入ったのは、俺の知らないバーチャドール、リグレット。神秘的で慈悲深そうな絶世の美女がそのバーチャドールのガワだった。小夜子が成長したら、そして髪と目の色を変えたらこうなるんだろうというその外見にも、小夜子が以前セルフ散髪した時に左右の髪の長さが違ってしまったエピソードを思い起こさせる、左右非対称の銀髪にも惹かれて思わず動画をタップした
何よりも焦がれた歌がそこにあった。拭いても拭いても溢れる涙と鼻水をたらしながらμより上手いと、誰よりも上手いと、世界で一番上手いと思いつく限りの本音をめちゃくちゃに書き込んだ。そしてごめんなさいと、謝罪の言葉を書き込んだ。
人見小夜子
コメ抜きの淫夢動画で爆笑できる女。お◯ゃる丸のキス◯をポ◯モンだと言い張る奴にレスバで負け泣いてた女。暗黒微笑(笑)を浮かべながらゆ虐小説を執筆していた女。それが人見小夜子だった なのに!! 画面の向こうでバーチャドールの振りをしながら歌っている女は……いや女神は! ただひたすらに美しかった。ああああああ面が良すぎる! 声が良すぎる! 嘘だろ? マジモンの女神じゃねえか! やっべえ、尊い、好き、俺をお嫁さんにして欲しい……フォカヌポウwww小生これではまるで小夜子オタクみたいwww小生は小夜子オタクではござらんのでwwwコポォ
……また話がそれたな。続けよう。
Vtuberごっこしながらバーチャドールの振りをやってるのは意味が分からなかったが。それでも小夜子に会えた、謝れた、歌声を聞けた。それだけで、俺を苛む罪悪感は一割程消えた。後は直接行って謝りたい。小夜子が、小夜子を拒絶する世界と戦う、その手助けをしたいそう思ったが、奴がバーチャドールのフリをしている以上、人の目に付くところで、大切な事を書き込むわけにはいかなかった。本当は人間であるとバレてしまうから。その日はDMでやり取りがしたいと動画サイトのコメ欄に書き込んだ。結局返信は帰って来なかったが。
それから奴の歌を聞くのも、コメ欄にDMでやり取りしたいと書き込むのも日課になった。そしてよく見ると俺の他にもμより上手いという言葉を毎日書き込む見る目がある強火ファンがいた。これを小夜子のクソ親父にも見せてやりたかった。お前の娘は社不のクソ女! だがそれでも、奴の歌は、俺と、μより上手いさんの魂を震わせた。生きる意味そのものになった。そう、娘の事を何も知らない、娘を愛してもいない、小夜子の父に突きつけてやりたかった。
もっとも、粘り強く交渉し、DMで、自分の正体と謝りたいという旨を届けた次の瞬間に俺は小夜子にブロックされた。その時気づいたのだ。 俺の罪は、全く持って許されてないと。小夜子は俺を拒絶すると、犯した罪は決して消えぬと。もしあの時小夜子を馬鹿にしなければ。その後悔が。絶望が、俺をこの世界、やり直しの世界だからリドゥとも名付けておくか。ともかくそれに引きずり込んだのだろう。
そして俺はその時現実の記憶の全てを失った。孤児として生まれ、小学校では小夜子以外の友達ができず、中学校ではいじめられ、高校ではろくでもない事をやり、大学では汚い金で学費を払うという、加点方式ではそこそこだが、減点方式だとだいぶ辛かった、その記憶を。
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「…………? あ、そっか。今キィのお陰で現実の事を思い出したのか。うんうん。キィは優しいから落ち着くまでまってやるぞ」
俺の腹からにゅっと顔が出てきた。いや何を言っているのか分からないだろうが眼の前で起きた事をそのまま言語化するとそうなる。快活そうな、ギリギリロリに判定されそうな年頃の前髪ぱっつんの女が出てきた。しかし、腹の中からにゅっと顔を出された時点で体は勝手に動いていた。
「ぶげ!」
体が勝手に動きチョップを打ち込み気絶させちまった。白目をむきよだれを垂れ流している。そのまま腰を持って引き上げるとぬるりと全身を引き抜く事ができた。
そして揺すってなんとか起こしたもののこの女が何物なのか警戒を怠るわけにはいかない。
そして警戒してチョップの構えを取る。
「あっ!! ちょちょちょ待て待て! 落ち着け落ち着け! 気持ちは分かる! 急に腹の中からプリティボイス♡の美少女が出てきたら混乱するのは致し方ない!」
ビビったかのようなその声は俺の警戒心を解くには十分だった。
ああ、すまない。暴力振るっちまって。
「いいぞ! キィは頑丈だし、悪意があってやったことでは無いだろうからな! えっと、何から説明するべきか。まずキィはバーチャドールだ。あの、なんだ、歌めっちゃ歌うあれだ。あっμの事は知っているか、あれはキィの敬愛する母に当たる。ホントーにははは優しくて、可愛くてサイコーなんだぁ!」
バーチャドールだと……そしてμを母という、つまりこいつは後継機だ。確かキィとか言う後継機作る予定があったな。つまりこいつはμ、あの事件を起こした、仮想世界の王、その同類だ。俺は戻った警戒心を隠しながら、μは知ってるしまあまあ好きだと言う。
「そうだろう! 何度もいうがははは最高なんだ! この前もなぁ……あ、今は良いか」
ごほんとキィは咳払いした。
「早い話が、この世界はニセモノなのだ。さぞかし楽しく暮らしていた事だろうがザンネンながら夢みたいなものだ」
この世界ではない、現実の記憶が戻っても、俺の脳みその中ではこの世界を現実だと思う部分と、現実の記憶を宿す部分がせめぎ合っていた。頭では分かっていても心が受け入れられない、早い話が、夢だと気づいても目覚められないあれだ。 しかしキィの話でやっと心の芯まで、この世界が非現実だと分かった。軛から解かれた
そしてキィは電車の外に俺を誘導してから天を指さした。
「よぉ〜く見るが良いアレがこの世界がニセモノであることの確実なショーコだ。ちなみにキィがこの世界に入って来る時にぶち開けたった! いい気味だ!」
ガラスが割れるかのように天に穴が空いているのが見えた。それは絶対に現実ではありえない光景であり、どこか痛快な光景でもあった。
OK、了解、仮想現実かこの世界は。で、お前は俺に何してほしいんだ?
「ハンシン、お前はなかなか話が分かるやつだな、もうちょっと話を進めるのに苦労すると思っていたのだが、お前はそこが実に早い! 賢いやつは嫌いじゃないぞ!」
賢い訳では無……ちょっと待て、半身!?
「そう! お前の身体はキィが乗っ取った! 半分キィのものだ! まぁ、これには深い理由があってだな、キィがこの世界に来た経緯から説明しなければならない。5年前に収束したアストラルシンドローム事件、覚えているか?」
μの歌を聞いていた人間たちが心神喪失を起こした事件だな。μは心神喪失を起こした人間達の魂をメビウスと言う理想が叶う世界を作って取り込み捉えていた。5年前、アストラルシンドローム患者は解放されたが、μは人間の法律で裁けなかった。大規模な集団催眠扱いされ有耶無耶になったわけだ。しかし、数少ないメビウスの記憶を持った帰還者の話から、アストラルシンドロームとの因果関係ははっきりと白日の元にさらされた。当然、μは忌み嫌われた。アストラルシンドローム事件は小夜子の行方を探していた時に調べていた奴だ。奴は世界を拒絶していたが、世界も奴を拒絶していた。それ故都合の良い楽園に取り込まれてしまうだろうと思い、アストラルシンドローム患者を片っ端から調べていた。その際に得た知識のお陰で、並大抵の研究者より詳しい自身はある。μの理想を、アストラルシンドロームをぶっ壊したのは帰宅部なる集団らしい。きっと彼らは聖人のみで組まれた仲良しチームなのだろう。
「そこに現れたのが正体不明詳細不明のバーチャドール、リグレットだ。さらに現実では二回目の大量の心神喪失が起こり、アストラルシンドロームの再来だと持ちきりになり、ははが吊るし上げられ以前までのははのポストにリグレットがついた訳だ」
なるほど現実ではそうなってんのな。というかあいつまだ人間だとバレて無いのか。顔と声と歌と実家の太さしか長所の無い女だと思っていたのだが、演技力も超一流だったようだ。良い情報が知れたしこちらからも話そう。幸い、現実の記憶を取り戻す前の、植え付けられた記憶はある。その記憶によるとここ、リドゥの王はリグレットだ。いや、リグレットと
「リグレットなんぞと言うマガイモノのせいで! 今起きている事件、現実では全部ははのせいにされているのだ。ヌレギヌなんだ!」そう激怒したキィが途端にしおらしくなってこういった。「なあ、ハンシン、お前はははについてどう思う」
……悪い奴では無いとは思っている。研究者と帰還者曰く、善良ではあり、本心からみんなの幸せを願っていたという。ただ、嫌と言うほど言われている問題抜きにしても誰も彼も引きずり込んだお陰でメビウス内は、反社や未確認知的生物や得体の知れないものが跋扈していたと言う。これでは仮想世界の楽園ですら無い。だから、あらゆる方面に思慮が足りない赤ん坊だったと思う。もっとも、μの歪みにはとある黒幕が関与していたと言う報告もある。彼だか彼女だかわからないその黒幕が、歪んだ思想を持ってμを歪めた。
それさえ無ければ、本来ならμは傷ついた人の一時の癒やしや植物状態の人の救いになる、そんな優しい世界を作ると言う正解にたどり着けたとは思ってる。
まあこれは、俺が被害を受けて無かったから言える事……だと思う。騙すなら最後まで騙して欲しかったと言い老衰で死んだ奴もいたそうだが、もし俺がそうなっていたらμを呪いながら死んでいた。
「アリア姉のハンシンも物凄く魅力的な人物だと聞いたが……お前は……いや。ありがとな! ハンシン!」
キィは好意の籠もった目線で俺を見た。ありがたいが俺は素直に好意を向けて来る相手が苦手なのだ。
しかしリグレット、小夜子がリドゥの王か……
あいつは歌唱能力以外は単なる人間だ。そしてこんな計画を実行する行動力も頭もない。
確実に、黒幕がいる。そして少なく見ても4000人の人間を、リドゥへと引きずり込んだ事を考えるとおそらくそれが邪悪なものにしろメビウス事件のような歪んだ善意……あれ歪んだと言うのは違うか。まあどっちにしろ俺には予想もつかない程の壮大な計画があるのだろう。
もっと言うなら眼の前にいるキィとやらが黒幕で無いと言う保証は無い。なにせあのμと同じバーチャドールだ。仮想世界を作る能力はあると考えて良いだろう。そう思うと無邪気そうな顔が急に不気味に思えて来た。何はともあれ、リグレット=人見小夜子の等式をバラすのは慎重になるべきだろう。
そして、黒幕が、あの人を苛つかせる発達障害クソ女の小夜子をどう扱っているのかは想像するのが容易い。黒幕が悪党なら言わずもがな。聖人でもあいつは普通にどつく。
実はこの世界に来た瞬間、この世界の入口である神殿の中で、俺と小夜子は会っていた。簡単な質問とリドゥに来たことを祝福するだけの、単調な儀式だったが、その中で奴は俺に反応を示さなかった。俺ほど憎い相手ならもう少し反応を示すだろうと考えると、俺の顔を見ても、俺だと気づかなかったのだろう。奴が他人にろくに興味ない、いや、内心ではもう少しマシなのだがともかくそういう素振りを見せない人間であるのは分かっていた。分かっていたがあれはきつかった。もしくは分かった上で、なおあの対応をしたのかも知れない。お前など覚えている価値もないと示すために。奴の演技力なら本当に忘れてるフリをするのも楽勝だろう。しかしこの世界の入口で会った奴は。