(仮題)託された想い、透き通る空の下   作:Laplaaaaaaaaaaaace

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エーテル溜まりからこんにちは、私です。

ちょっとこれを投稿次第息抜きでかる~く他のブルアカクロスオーバー作品に手を出そうと思います。
都度都度こっちも更新していくので、ぜひ息抜き作品の方も暇なときにどうぞ!


進まない会議

 クライヴの過去を打ち明けた翌日、彼自身はと言うと、重い足取りでアビドス対策委員会の部室へ向かっていた。

 問題は疲労ではなく、自分の事。

 彼女達に自身の過去を打ち明け、何とか自分自身を知って貰おうと思った。あの時は、彼女達全員が「信じる」と言ってくれたが、よくよく考えてもみれば、目の前にいるのは沢山の人間を殺してきた《大罪人》。ただの人殺しだ。

 

 世界の為、人の為に戦っては来たが、人を殺したことに変わりはない。その事実は、何をどうしたって変えられはしない。一夜明けて、彼女達の考えが変わっていなければ良いが……。

 

 そんな思考の悪循環に陥ったまま、砂交じりの廊下を歩くと、とある部屋の前で足を止た。

 『アビドス廃校対策委員会』と張り紙のされた教室。中からは、楽しそうな少女たちの声が聞こえてくる。恐らく、ホシノ辺りが、セリカかノノミに引っ付いているのだろう。こうして情景を思い浮かべるだけでも、平和一色のアビドス廃校対策委員会の部室に、彼は足を踏み入れた。

 


 

「みんな、おはよう」

 

 クライヴが部屋の戸を開けながら挨拶をする。化物を見るような目で見られるかもしれない。だが、今更慣れたことだ。今までと同じ扱いに戻るだけ――

 

「おはよ~、先生。もうみんな揃ってるよ~?」

 

「うん、もう登校時間から1時間は経ってる。寝坊はホシノ先輩の専売特許だから、先生には適応されない」

 

「うへ……、そんなに寝坊してるかなぁ……?」

 

「おはようございます~、先生!今日も頑張っていきましょう!」

 

「……おはよ、先生」

 

「あはは……朝から騒がしくてすみません、先生……」

 

 という訳でもなく、いつも通りクライヴを迎え入れてくれた。同じ人として。

 ドミナントとして化物の様に扱われたり、人殺しとして恐れられることもなく、彼女達と同じ目線の人として、そして何より『先生』として、クライヴと接してくれていた。

 

「あんな話をしておいて何だが……怖く、ないのか?」

 

「先生の過去が何であれ、ここはキヴォトスだよ、先生。昔、先生がいたヴァリスゼアじゃない」

「なら、ここでは、先生として……生きていいと思う。……言葉にするとちょっと難しい」

 

「シロコちゃんの言いたいことはさ、先生。取り敢えず、自分を生きようってことじゃないかな?」

「おじさんに難しいことは分からないけど……」

 

 弱く、考えすぎていたみたいだ。

 思っていた以上に、彼女達の方が強かった。心も、身体も。クライヴが思っていたほど軟ではなかったということだ。自分を生きる……過去の役割に囚われず、今の自分を生きる事。

 

 それは、もう一つ、強固な自我を持つこと。人と繋がり、想いを託され、自我を強めていく。そうして、人は自分自身で全てを変えることができる。

 彼女達には、『対策委員会』という大きな繋がりがあり、そう簡単には破られない彼女たち同士の『信頼』もある。そして、そこに新たなピースとして『クライヴ・ロズフィールド』が加えられた。彼自身の自我もより強固になり、『先生』として生きられるようになる。

 

 しかし、過去を捨てるつもりはない。大事な仲間たちが、大切な繋がりがクライヴにもあったのだ。それを忘れることなく、前へ進んでいくことが出来たら。何者にも負けない、繋がりの力が証明される。

 

「先生?どうしたの?」

 

「いや……、アヤネの言う通り、君達は朝から賑やかだな……と思っていたんだ」

「遅れて来た所で悪いが、定例会議を始めよう。今日はその約束だったんだろう?」

 

 部屋の敷居を跨ぐクライヴの顔には、少しだけだが、笑顔が浮かんでいた。

 ヴァリスゼアを生き抜き、この世界を導く存在として、ここに呼ばれたのなら、その役目を全うしてみせよう。運命は、定められているかもしれない。だが、そこに至るまでの道程は幾らでも変えることが出来る。

 出来る事からで良い。ゆっくりと、でも確実に、進めていこう。

 

 

 


 

 

 

「と……いう訳で、アビドス対策員会の定例会議を始めます」

 

 各々が席に着き、アヤネを議長として、定例会議は幕を開けた。

 

「早速ですが、議題に入ります」

「本日は、私たちにとって非常に重要な問題……『学校の負債をどう返済するか』について、具体的な内容を議論します」

「ご意見のある方は、挙手をお願いします!」

 

 女学生の会議と聞いて、柔らかいイメージを想定していたが、思いのほか形式に則った真面目な会議の様だ。ホシノは相変わらずだらんとしているが、セリカ、ノノミはアヤネに対して視線を。シロコはパソコンを操作しているが、議事録の様なものでも作成しているのだろうか。

 

 と、クライヴが周囲を観察していると、セリカが勢いよく手を天に掲げ「はい!はい!」と声を上げる。

 

「はい。1年の黒見さん、お願いします」

 

「……あのさ、まず名字で呼ぶのやめない?ぎこちないんだけど」

 

「せ、セリカちゃん……。でも、折角の会議だし……」

 

 彼女達の付き合いを見ていれば、セリカの言葉にも頷ける。だが、ここは厳正な会議の場だ。少しくらい目を瞑ってもらうしかない。

 

「良いじゃ~ん、おカタ~い感じで。それに今日は先生もいるんだし」

 

「ですよね!なんだいか委員会っぽくてイイと思いま~す☆」

 

「はぁ……まぁ、先輩たちがそういうなら……」

「とにかく!対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は破産の寸前としか言いようがないわっ!」

「このままじゃ廃校だよ!みんな、分かってるよね?」

 

「うん、まあね~」

 

 セリカの言う通り、アビドスの負債総額は資料で確認もしたが、相当な額だ。ギル換算でも、簡単に返済できる額じゃない。彼女が会計担当というのは初めて知ったが、それほどまでに学校の事を考えているのだろう。

 ならば猶更、最初のあの不信感の理由がよくよく分かってくる、というものだ。

 

「毎月の返済額は、利息だけで788万円!」

「私たちも頑張って稼いではいるけど、正直利息の返済も追いつかない」

「これまで通り、指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり、ボランティアをするだけじゃ限界があるわ」

 

 ……確かに、セリカの言う通りだ。資金繰りは隠れ家を運営していた時の癖で、何よりも大事なものだと理解はしている。ヴァリスゼアでの場合なら、リスキーモブや、依頼を熟したり……換金できそうなものを売ったりと、様々なやり方があった。特にモブハントは大きな報酬が用意されていたな。スヴァローグを討伐した時なんかは、確か5万ギルだったか。

 

 ……譜面と呼ばれる嗜好品を買っていると、気づけば麻袋の中身が空になっていたこともあった。確か、ジルに何度かお叱りを受けたこともあったな。

 

「このままじゃ、埒が明かないってこと!なんかこう、でっかく一発狙わないと!」

 

「でっかく……って、例えば?」

 

 でっかく……一発。一気に雲行きが怪しくなってきた。それで成功するのは、一部の権力者だけだ。権威も何もない人間がソレに手を出せば、逆に痛手を見る結末が待っている。

 

 そういえば……、一度世界を跨いだ時。たしか、『エオルゼア』という大陸には、大きな賭場があったと聞く。賭場でのみ扱える通貨を稼ぐために数多くの冒険者が集い、毎週決まった日に、何やら大きな賭け事をしているのだとか。

 あの時エオルゼアを案内してくれた冒険者が、嬉々として語っていた。彼女は、まだその賭けに勝ったことが無かったようだが。また機会があれば、あの世界に行ってみたいものだ。

 

「これこれ!街で配ってたチラシ!」

 

 と、セリカが一枚の紙を机の上に乗せた。その紙にはデカデカと、派手な文字でこう書かれていた。

 

『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』

 

「ゲルマニウム麦飯石ブレスレット……ねぇ」

 

「そうっ!これでガッポガッポ稼ごうよ!」

 

 ……これは、指摘した方が良いのだろうか。静かにアヤネに目配せをする。苦笑いだ。さて、どうしたものか。

 

「この間、街で声を掛けられて、説明会に連れて行ってもらったの」

「運気を上げるゲルマニウムブレスレットってのを売ってるんだって!」

 

 気づけば、シロコもパソコンの画面から視線を外して、セリカの顔を見つめている。理由は言わずもがなだ。あからさまに怪しすぎる。

 どう考えても、というより……素人でもわかる。明らかな『詐欺』だ。ヴァリスゼアではもっと酷いものが横行していたが、この世界もレベルが違うだけで、本筋は変わらないのだろう。

 

「これね、身に着けるだけで運気が上がるんだって!で、これを周りの3人に売れば……」

 

「却下~」

 

 ホシノが食い気味に却下の判定を下す。

 

「すまないが、セリカ。それに関しては、俺からも却下を出したい」

 

「えーっ!?なんで?先生までどうして!?」

 

「セリカちゃん……それ、マルチ商法だから……」

 

「儲かる訳ない」

 

 セリカは対策委員会の面々から集中砲火を喰らう。まぁ、何とは言わないが、チラシのデザインや文言からして、人を騙す意識が感じ取れる。

 

「へっ!?」

 

 面食らう顔をするセリカだが、そこにアヤネが追い打ちをかける。

 

「そもそもゲルマニウムと運気アップって関係あるのかな……」

「こんな怪しいところで、まともなビジネスを提案してくれるはずないよ……」

 

 一人、チラシに手を伸ばし説明会会場の位置情報を記録しておく。大元の動きを抑えてしまえば、これ以上被害が広がる可能性はないだろう。シャーレに戻った時にでも、犯罪案件として、書類を纏めておこう。

 

「そっ、そうなの!?私、2個も買っちゃったんだけど!?」

 

 聞き捨てならない言葉が聞こえた。買ってしまったのか。値段を見れば分かるが、そこまで安物じゃない。といより、詐欺に使う商材なのだから、一つ一つが高いに決まっている。まさかそれにまんまと手を出してしまうとは……。

 

「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」

 

「可愛いで済めば良い問題だったな……。商材を買ってしまったともなれば、それ以上の値で売れる場所は殆ど存在しないものだ。諦めるしかない」

 

「まったく、セリカちゃんは世間知らずだね~」

「気を付けないと、悪い大人に騙されて、人生取り返しのつかないことになっちゃうかもよ~?」

 

「そ、そんなあ……。そんな風には見えなかったのに……。折角お昼抜いて貯めたお金で買ったのに……」

 

 そこまでして、彼女を突き動かすのは、この学校の問題を解決したいという一心なんだろうが……。今回はそれが失敗に終わってしまっただけだ。まだチャンスはある。

 

「これを糧に、また次の好機を逃さないべきだ。勿論、次はちゃんとした方法で、だが」

 

「セリカちゃん、大丈夫ですよ。お昼、一緒に食べましょう?私がご馳走しますから」

 

「の、ノノミせんぱぁい……」

 

「え、えっと……黒見さんからの意見はこの辺で……。他にご意見のある方……」

 

「はい!はい!」

 

 次はホシノか。最高学年で、この対策委員会の最高責任者でもある。きっとまともな案が出てくることだろう。彼女なら安心できそうだ。

 

「えっと、はい。3年の小鳥遊委員長。ちょっと嫌な予感がしますが……」

 

「嫌な予感……?」

 

「うむうむ、えっへん!」

 

 これほどまでにやる気に満ち溢れているというのに、嫌な予感がするとは……一体どういう事だろうか。委員長という立場上、セリカの様な詐欺に引っ掛かり、それらを周囲に撒き散らそうという様な方法はとらない筈だ。

 

 ホシノは大人という存在を異常に警戒する。その証拠に、彼女から向けられる視線には未だに、信頼が込められていない。今まで歩調を合わせられてのは、『向こう』が仕方ないからクライヴに合わせているだけで、クライヴ自身がおかしな動きを見せれば、即座に敵に回るだろう。

 クライヴはそれを意識しながら立ち回らなければいけないものだから、余計に神経を減らしている。

 

「我が校の一番の問題は、全校生徒がここにいる数人だけってことなんだよね~」

「生徒の数=学校の力。トリニティやゲヘナみたいに、生徒数を桁違いに増やせれば、毎月のお金でもかなりの金額になるはず~」

 

 ……ホシノの言うことに、間違いはない。ここに来てから、色々と調べていたが、トリニティやゲヘナはこのキヴォトスでも長い歴史を誇る巨大な学校という話だ。ハスミやチナツはこれらの学校出身らしいが、アビドスと同じくなにやら大きな問題も抱えているらしい。これも、いつか解決しなければならないものなのだろう。

 

「え……そ、そうなんですか?」

 

「そういうこと~!だからまずは生徒の数を増やさないとね~。まずはそこからかな」

「そうすれば議員も輩出できるし、連邦生徒会での発言権も与えられるしね」

 

「確かに、ホシノの言う事には一理ある。今現状、連邦生徒会でのアビドス高等学校の立ち位置は、とてもじゃないが良い立場とは言えない」

「生徒数が増え、学校としても力が着けられるのなら、このタイミングしかないだろう」

 

「確かに鋭い指摘ではありますが……でも、どうやって……」

 

「簡単だよ~。他校のスクールバスを拉致ればおっけ~!」

「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないとバスから降りられないようにするの~」

「これで生徒数がぐんと増える事間違いなーし!」

 

 ……前言撤回、力で解決しようとしていた。それをやったところで根本的な解決にはならない。ホシノの力なら不可能ではないかもしれないが、この世界の倫理観では成立しないだろう。

 

「それ、興味深いね」

 

 シロコが乗ってきた。なぜこうも力で解決しようとするんだ。せめて、なにか対話をしてみるだとか……。他になかったのだろうか。

 さらに、シロコは目を輝かせながら言葉を続けた。

 

「ターゲットはトリニティ?それともゲヘナ?ミレニアム?」

「狙いをどこに定めるかによって、戦略を変える必要があるかも」

 

「お?……え~っと、う~ん……そうだなあ、トリニティ?いや、ゲヘナにしよーっと!」

 

「ゲヘナは治安が最悪って聞いた。なら、騒ぎに乗じてバスをジャックした方が効率が良いかも」

「予め、バスのルート上に地雷を設置して、爆発と同時に強襲。うん、コレが良い」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!それで転校ってアリなんですか!?」

「それに、他校の風紀委員が黙っていませんよ……」

 

「うへ~、やっぱそうだよね~?」

 

「ん、残念」

 

「ホシノ先輩、シロコ先輩……。もっと真面目に会議に臨んでいただかないと……」

 

「バスジャックは却下されたけど、私にも良い考えがある」

 

「はい、2年の砂狼シロコさん……」

 

 アヤネが疲弊しきっている。会議でここまで疲れ切っている議長を見るのは初めてだ。それもこれも、マトモな案が先ほどから一つも出ていないことに起因するのだが……。次はシロコの案を聞く番だ。

 

「銀行を襲うの」

 

 シロコの発言を皮切りに、部室内に数秒程静寂が流れた。銀行と言えば、金銭を預ける場所だ。貸金庫と言った解釈が良いのだろうか。他者の金銭を預かり、保管しておく場所。……犯罪、ではないのだろうか。

 

「はいっ!?」

 

 静寂を切り裂いたのは、アヤネの驚いた声だった。それもそうだろう。他人の金銭が保管されている金庫を奪うといった感覚だろうが、そんなことをすれば、極刑だろう。生きて日の目を見れることは無い。

 

「確実簡単な方法。ターゲットも選定済み、市街地にある第1中央銀行が狙い」

「金庫の位置、警備員の導線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握済み」

 

「もしかして、さっきから一生懸命見てたのってそれですか!?」

 

「そう、何度か現地に足を運んでマッピングは済ませてる。さっきは現金輸送車のルートを分析してた」

「私の計算だと、5分で1億は稼げる。はい、銀行強盗用の覆面も用意しておいた」

 

 と、シロコが紙袋から取り出したのは、様々な色の目出し帽。額の部分には1~5の番号が刺繍されている。シロコはその中から2番の覆面を取り、被る。なにやらキラキラと目が輝いているが……

 

「うわ~、これ、シロコちゃんの手作り?」

 

「わあ、見てください!レスラーみたいです!」

 

「……」

 

 アヤネ、今日ばかりは君の苦労に共感しよう。確かに、これほどの問題児たちを統率するには相当な体力を消費するだろう。会議が終わったらゆっくりと休んで欲しいものだ。

 

「いや~、いいねぇ。人生一発でキメないと。ねえ、セリカちゃん?」

 

「そんなわけあるかー!却下!却下ーっ!!」

 

「そ、そうです!犯罪はいけませんっ!」

 

 シロコが覆面を脱いで、頬を膨らませながらアヤネに視線を送る。自分の案が即座に却下されたのを不満に思っているのだろう。最初に会ったときはクールな印象を受けたが、意外と感情を表に出す表情豊かな子だ。

 

「そんなふくれっ面をしてもダメなものはダメです、シロコ先輩っ!」

 

 後輩に指導される先輩の図……というのも、あまり見てこなかったな。そう思えば、新鮮な景色が目の前に広がっている。

 いそいそ、とシロコが覆面を紙袋の中に仕舞い込んでいる。どうやらノノミは自分の覆面姿を写真に収めている様だ。恐らく今後被る機会はないだろうから、撮るなら今の内だろうな。

 

「はあ……みなさん、もうちょっとまともな提案をしていただかないと……」

 

 アヤネの横に置かれているホワイトボードはその名の通り、どこまでも白く、今回の議題しか書かれていない。四隅には落書きがある始末だ。

 

「あのー!はい!次は私が!」

 

 撮影を終えたのか、今度はノノミが挙手をする。この会議でこれまで一度も案を出してこなかった人物だからこそ、彼女の提示する意見をしっかりと聞きたい。

 

「はい、2年の十六夜ノノミさん。詐欺と犯罪は抜きでご意見をお願いします……」

 

「はい!犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!」

 

「確実な方法か……。良いじゃないか、聞かせてくれ、ノノミ」

 

「は~い!それはですね……アイドルです!スクールアイドル!」

 

「ア、アイドル!?」

 

「そうです!アニメで観たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです!」

「私達全員がアイドルとしてデビューすれば……」

 

 アイドル……。此方に来てから、どこかで耳にした記憶がある。確か、歌唱を主目的に、ダンスを取り入れて集客をする者達の総称だったか。踊り子の様なものだろうな。一人ではなく複数人でパフォーマンスをするのが普通だと聞いてはいる。

 確かに、見た目が整っている彼女達ならば、相当の集客と金額は望めるだろう。もしかすると、これが今まで出た案で一番まともなのではないだろうか――

 

「却下」

 

いの一番に却下を出したのは、ホシノだった。理由は分からないが、やけに真剣な顔つきだ。

 

「あら……これもダメなんですか?」

 

「なんで?ホシノ先輩なら特定のマニアに大ウケしそうなのに」

 

 特定の、マニア……。あぁ、そういうことか。ホシノの体付きは、この年齢で言えばやや子供よりだ。身長も、最高学年にしては低く、肉付きも良い方ではない。銃はともかく、剣を振るような身体としては向いていない。

 ホシノの体形だと、子供を目当てにする様な輩が付きまといかねない。そうなれば、アイドル以前の問題だ。治安が余計に悪化してしまう。

 

「こんな貧相な体が好きとか言っちゃう輩なんて、人間としてだめっしょ~。ないわ~、ないない」

 

「決めポーズもしっかり考えておいたのに……」

 

 

 

「水着少女団のクリスティーナで~す♤*1

 

 

 

「どういうことよ……」

「何が『で~す♤』よ!それに『水着少女団』って!だっさい!!」

 

「え~。徹夜で考えてたのに……」

 

 ノノミが寝不足の様だったのはそれが理由なのか。まあ……借金返済のために案を出してくれたのは良いが、徹夜というのは少々いただけない。体調を第一にしてもらわなければ、それはそれで困る。

 

「ノノミ、考えてくれるのは有り難いが、徹夜は避けるべきだ」

「日中の活動におけるパフォーマンスが低下する。それに会議があるなら、猶更な」

 

「先生……」

 

 何やら輝かしい目で此方を見てくる。いいや、俺は決してアイドルという案に賛同したわけではない。あくまでノノミの体調を気遣って声を掛けただけ。絶対に賛成派ではない。

 

「あのう……議論がなかなか進まないんですけど……そろそろ結論を……」

 

 疲労困憊と言った様子のアヤネが、会議の進行について言及する。確かに、この会議始まって以来まともな案が出ていない。詐欺に犯罪、アイドル。これでは結論の出しようが無い。

 アヤネには悪いが、先生という立場からも、この案たちでは了承しかねる。

 

「それは先生に任せちゃおう~。先生、これまでの意見で、やるならどれが良い?」

 

「えっ!?この中の意見から選ぶんですか!?も、もう少しまともな意見を出してからの方が良いのでは!?」

 

「大丈夫だよ~。先生が選んだものなら、間違いないって」

 

「な、なんでそう言い切れるんですか!?その自信はどこから!?」

 

「まさか、アイドルをやれないんて言わないよね?」

 

「アイドルで☆お願いします♧」

 

 ……困ったな。とてもじゃないが、マトモな案が一つも出ていないこの状況下で、どう選択を取るべきか。オットーなら何を選ぶ……?ガブは、ジルとジョシュアなら……。ダメだ、あの案から選ぼうとしても誰もが顔をしかめる未来しか見えない。

 

「シロコ、無言で覆面を被らないでくれ」

 

 しゅんとするシロコを横目に、必死に考える。他校生徒の拉致……銀行強盗、アイドル。この中で一番マトモなのはアイドルだが、セリカとホシノは乗り気ではない。

 

 次に他校生徒の拉致。これは明確な犯罪行為……するとしても、アヤネの言っていた『風紀委員』の追跡から逃れ続ける必要がある。いくらシャーレという支援があっても、アビドス単体だけに回せる支援にも限りがある。

 

 最後に、銀行強盗。これも拉致と同じく確実な犯罪行為だ。恐らくこれをすれば、相手にするのは公的機関、自警団や、それこそ治安維持部隊が敵に回る可能性は高い。しかし、シロコの言っていた『1分で5億稼げる』と医文言、アレは誘惑的だ。借金の半分を1分で返済できると考えると、彼女達からすれば魅惑的な案だろう。

 

 それに……、前々から気になっていた、ヘルメット団の装備不法流通の件。シロコが狙っている銀行が関わっているとは思えないが、もしヘルメット団の金銭出納記録があるのであれば、真実に近づく手掛かりになる。銀行が記録を処分していなければの話だが……。ここは、仕方ない。

 

「……銀行を、襲おう」

 

 意を決して、クライヴはそう発言した。まさかの発言にみんなが目を丸くする。

 

「えぇっ!?本気ですか!?」

 

「あははは~!よし、決まり~!それじゃあ出発だ~!」

 

「きゃあ~☆楽しそうです!」

 

「ほ、ホントに?これでいいの?」

 

「うへ~、先生の決定だし、良いんじゃない?」

 

 ……そう、クライヴの選択だ。クライヴ自身が選び、掴み取る未来。それが例え、犯罪行為であったとしても、今回は別の目的もある。仕方のない事として、見逃してほしい。

 

「計画は大胆な程良い。でしょ、アヤネ」

 

「……い……」

 

「い……?」

 

「良いわけないじゃないですかぁ!!!」

 

 アヤネの怒号が、部室内に響いた。と、同時に、机がひっくり返される。咄嗟に避けたが、当たっていれば怪我をしていたかもしれない。

 彼女の苦労は身に染みるほど分かるが、仕方がないんだ!今回ばかりは……と口に出そうとするも、どうやらそんな雰囲気ではないらしい。

 

「出たー!アヤネちゃんのちゃぶ台返しー!」

 

 ……ホシノの反応から察するに、これが初めてではないのだろう。過去に何度か、この机はひっくり返っていることがあるようだ。

 机は消耗品ではないから、大事に扱ってほしいものだが……アヤネの苦労を知れば、そうも言っていられない。

 

「きゃあ!アヤネちゃんが怒りました!非常事態です!」

 

「うへ~、キレのある返しができる子に育ってくれたねえ。ママは嬉しいよ~ん」

 

「誰がママですかっ!もうっ、ちゃんと真面目にやってください!」

「いつもいつもふざけてばっかり!銀行強盗とかマルチ商法とかそんなことばかり言って!」

 

 シロコとセリカが何やら不穏な反応を見せた。主犯格はこの二人らしい。ホシノとノノミははしゃいでいるが、恐らく彼女達も例外ではないのだろう。

 この場は静観し、アヤネの怒りが収まるまで――

 

「先生もですよ!銀行強盗は立派な犯罪です!!アビドスに来て最初に会ったのがシロコ先輩だったからって、シロコ先輩の犯罪に加担するような発言は控えてください!!」

 

「いや、俺は――」

 

「言い訳はいりません!!皆さん、そこに正座してください!!!」

 

 

 

 そこから数時間ほど――、アヤネによる説教を受けた。途中何度か弁解をしようとしたが、あの眼力で睨まれては、下手に声を出せない。かえって刺激してしまう。

 気づけば、時刻は昼を回って、午後1時ころ。説教を受けるクライヴたちを、太陽は真上から見守っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 昼間も過ぎて、アヤネも何とか落ち着きを取り戻し、説教から解放された面々は、遅くなってしまったが昼食を。ということで紫関ラーメンにやって来ていた。

 ここのラーメンを初めて食べた時は、その美味さに舌鼓を打ったほどだ。そこから何度か足を運び、今では常連になってしまった。柴大将と友人の関係にもなり、ちょっとした世間話をする仲になった。

 

「いやぁ、悪かったってば、アヤネちゃ~ん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで。ねっ?」

 

「怒ってません……」

 

 アヤネはふくれっ面で、ツンとした態度を貫いている。目尻には涙を薄っすらと溜め、そっぽを向いてしまっていた。今回ばかりは、相当に堪えたのだろう。

 シロコの案に加担したクライヴもそうだが、マトモなことを言うかと思っていた大人がコレだったのだ。アヤネの気持ちも分からなくはない。

 

「はい、お口拭いて~。はいっ、よく出来ましたね~☆」

 

「赤ちゃんじゃありませんからっ!」

 

「……なんでもいいんだけどさ、なんでまたウチに来たの?」

 

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」

 

「ふぁい」

 

 彼女達の付き合いを見ながら、ひとりカウンター席で大将と話しながらラーメンを啜る。

 

「なんだ、先生。喧嘩でもしたのかい?」

 

「……あぁ、いや。その……、何と言えば良いんだろうな」

「少し、意見の相違があって。アヤネを怒らせてしまった……と言えば良いんだろうか」

 

「そうか。ま、若い内はそんなこと幾らでもあるさ。いい勉強だと思うことだな!」

 

 と、柴大将は言うが、彼は彼で一体何歳なんだろうか。見た目は獣人だから、年齢こそ分かり得ないが、どこか達観した言い方をする彼は、クライヴの良き相談相手でもあった。

 隠れ家のオットーを彷彿とさせるその立ち振る舞いに、クライヴも気を許せるようになったらしい。

 

「そういや先生。今度新作を作るつもりなんだが、試供品を食ってくれないか?」

「常連さんの意見ってのを欲しくてな」

 

「俺なんかが、良いのか?彼女達の方が常連だろう?」

 

「お嬢ちゃん達には今まで何度も頼んできたからな。偶には"大人の意見"ってのが欲しいんだよ」

 

「……分かった。予定を調整しておこう」

 

「あんがとさん。一応この日が……」

 

 柴大将が予定を教えようとしてくれたところで、がらがら と店の戸が開く。大将はその音にいち早く反応して「いらっしゃい!」と声を掛けた。

 

「すまんな、先生。後でも良いかい?」

 

「あぁ、問題はない。大将の都合が良いタイミングで教えてくれ」

 

 大将が厨房に戻っていき、セリカが来客の対応に回る。ここは飲食店で働く者として素晴らしい点だ。客を待たせずに、料理を提供する。隠れ家でも徹底していたことだった。

 

「あ……あのう……」

 

 入ってきたのは、どこか気弱そうな少女。ホシノと同じ種類の銃を大事そうに抱えながら店に入ってきたが……。特に襲撃などを企てている様子は見えない。

 警戒する必要はなさそうだな。とりあえず、ラーメンが冷めてしまう前に頂くとしよう。

 

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

 

「こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか……?」

 

「一番安いのは……580円の紫関ラーメンですね!看板メニューなんで、美味しいですよ!」

 

 セリカの言っている『紫関ラーメン』店名と同じ名前を冠するメニューだからこそ、この店一番人気のメニューである。かくいうクライヴも、紫関ラーメンの大盛を頼んで食べているが、スープの味から麵のコシ、トッピングは様々でカスタマイズ可能。

 

 そういった幅広い要素が人気の為、初めての客から常連まで、皆がこよなく愛するラーメンだ。それに、味のわりに値段も控えめで、学生も頼みやすい。大将の努力……と言ったところだな。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 ぺこり、と頭を下げてお礼を言うと少女は店を出て行ってしまった。これには大将とセリカも揃って困惑している。接客をしていたのに、その相手が居なくなってしまったのだ。

 どういうことかと、クライヴも様子を見るために顔を向けた所で、再度店の戸が開かれる。気弱な少女の友人だろうか、数人を引き連れて戻ってきた。

 

「えへへっ!やっと見つかった、600円以下のメニュー!」

 

「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」

 

「そ、そうでしたか、社長、何でもご存じですね……」

 

「はぁ……」

 

 社長と呼ばれるコートを羽織った少女がリーダー格……、他の三人が友人といった所か。しかし、社長か。珍しい呼び方もあるものだ。

 社長とは、会社を経営する上での最高責任者だと聞いている。企業を運営する上で、最終決定権を持つ、大きな権威を持つ存在だと。と、なれば……彼女達は会社を経営しているのだろうか。

 

 年端も行かぬ少女たちが、会社を立ち上げるとは……このキヴォトスでも、そこそこに珍しいんじゃないか。

 

「4名様ですね?お席にご案内します!」

 

「んーん、どうせ1杯しか頼まないし、大丈夫」

 

「1杯だけ……?でも……どうせならごゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので、空いてる席も多いですし」

 

「おー!親切な店員さんだね!ありがと、それじゃあお言葉に甘えて」

「あ、我儘のついでに箸は4膳でよろしく。優しいバイトちゃん!」

 

「えっ!?4膳ですか!?ま、まさか1杯を4人で分け合うつもり?」

 

 会話が此方まで聞こえてくるが……、1杯を4人で……か。ヴァリスゼアの貧しい家庭の子供、難民などはそうしていたこともあると言っていた。

 しかし、社長と呼ばれる彼女がいるにも関わらず、分け合う必要があるのか。会社を経営しているからには、それこそ巨額の資金を持っていると思ったが……

 

「ご、ご、ごめんなさい!貧乏ですみません!お金が無くてすみませんっ!!」

 

「あ、い……いや!別に、そう謝らなくても……」

 

「いいえ!お金が無いのは首が無いのも同じ!生きる資格なんてないんです!」

「虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません……!」

 

 途轍もなく自己肯定感の低い少女だ。自分の事を虫けら以下と表現する子供は初めて見た。何かつらい過去を背負っているのか……それとも。

 詮索したい気持ちもあるが、初対面なうえ、まだ会話もしていない。ここで無闇に声を掛けるのは不躾だろう。今はとりあえず、残りも少なくなったラーメンを味わうとしよう。

 

「はあ……ちょっと声デカいよ、ハルカ。周りに迷惑……」

 

「そんな!お金が無いのは罪じゃないよ!胸を張って!」

 

「へ?……はい!?」

 

 ハルカと呼ばれた紫髪の少女は突然の激励に驚いている。確かに、お金がない事は罪ではない。難民キャンプや貧困な家庭をいくつも見てきた。

 しかし、彼らはお金が無い状況を罪だとは思っていない。幸せだ、とも思わないだろうが、お金よりも大事なものは幾らでもある。それらが、彼らの心の支えだった。セリカの言っていることに、何ら間違いはない。

 

「お金は天下の回りもの、ってね!そもそもまだ学生だし!」

「それでも、小銭をかき集めて食べに来てくれたんでしょ?そういうのが大事なんだよ!」

「もう少しだけ待っててね。すぐ持ってくるから!」

 

「……何か妙な勘違いをされてるみたいだけど」

 

「まあ、私たちはいつもはそんなに貧乏って訳じゃないんだけどね。強いて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」

 

「『アルちゃん』じゃなくて社長でしょ?ムツキ室長、肩書はちゃんと付けてよ」

 

「ん?だってもう仕事終わった後じゃん?それに、社長のクセに社員にラーメン1杯奢れないなんて」

 

「今日の襲撃任務に投入する人員を雇うために、ほぼ全財産使っちゃったし……」

 

 ……待て、襲撃任務と聞こえた気がするが。ラーメンのスープを飲み干し、カウンターへ置く。口元を軽く拭いて、少し彼女達の話し合いに耳を傾けよう。盗み聞きになってしまうが、気になる単語が聞こえたため、仕方ない。

 テーブルに両肘をつき、全神経を耳に集中させる。

 

「はあ。ま、リスクは減らせた方が良いし。夕飯はなんとかしよう。今回のターゲットは、ヘルメット団みたいなザコを相手にする様には扱えないってことには同意する」

「でも、全財産をはたいて人員を雇うほど()()()()は危険な連中なの?」

 

 アビドスだと?聞き間違えじゃなければ、白髪の少女が『アビドス』と口にした。奴ら、アビドスを襲撃する気なのか……?

 見方を変える必要が出て来たな。奴らが『敵』になるかそうでないか……、続きの会話を聞くとしよう。

 

「多分アルちゃんのことだから、あんま良く分かってないと思うよ?だからビビッていっぱい雇ってるんじゃない?」

 

「誰がビビってるって!?全部私の想定内!」

「失敗は許されない。あらゆるリソースを総動員して臨むわ。それが我が便利屋68のモットーよ!」

 

 『便利屋68』……か。彼女達の部隊名もとい、企業名か。それにしても、襲撃をしに敵地に来ていると言うのに、全てを話しているところを見ると……あまり襲撃という任務には慣れていないと見える。

 こちらの戦力の把握、過去の戦闘歴……、戦闘における地形、そして陣形。戦闘に関する全ての事柄に於いて、下調べをしていないのだろう。一度学校へ戻って防衛策を練る必要がありそうだ。

 

「初耳だね、そんなモットー」

 

「多分今思いついたんじゃない?」

 

「うるさーい!じゃあ今回の依頼を成功させて、報酬が手に入ったらすき焼きにするわ!だから気合を入れなさい、みんな!」

 

 ふむ……依頼、か。彼女達便利屋にアビドスの襲撃を依頼した人物がいるのか。今までの会話で依頼主に関する情報は出ていない。依頼主の詳細も教えられていないのだろう。

 恐らく、今までのヘルメット団の襲撃といい、今回の便利屋の襲撃を依頼した者、その裏に立つ者は同じだろう。ここまでアビドスに執着するとは……理由はまだ分からないが、便利屋を辿っていけば……。

 

「す……すき焼きとはっ……!?それは一体!?」

 

「大人の食べ物だね。すごく高価な……」

 

「う、うわあ……っ!私なんかが食べていいんでしょうか?食べた後はハラキリですか……?」

 

「そんなこと言ってないでしょ!まあ、ウチみたいなスゴイ会社の社員なら、それぐらいの贅沢しないとね」

 

「へえ~。やる気満々じゃん、アルちゃん」

 

 

「アルちゃんじゃなくて、社・長!」

 

 

 と、ここで厨房からセリカがラーメンを持って出てきた。恐らく襲撃任務の話も一旦切り上げになるだろう。必要そうな情報は粗方得られた。後でアロナに頼んで記録しておいてもらおう。

 

「はい、お待たせしました!お熱いのでお気をつけて!」

 

 ダンッ!と大きな音を立てて置かれたラーメンは、まるで山の様だった。トッピングというトッピングが全て乗せられ、麺も超大盛。明らかに一人前という量ではない。

 

「ひぇ、ナニコレ!?ラーメン超大盛じゃん!」

 

「ざっと10人前はあるね……」

 

「こ、これはオーダーミスなのでは?こんなの食べるお金、ありませんよう……」

 

「いやいや、これで合ってますって!580円の紫関ラーメン並!ですよね、大将!」

 

 セリカが小さくウィンクして大将へ視線を送る。それに対し大将はと言うと……

 

「あぁ、ちょっと手元が狂っちまって量が増えちまったんだ。気にしないで食ってくれ」

 

「大将もああ言ってるんだから、遠慮しないで!それじゃ、ごゆっくりどうぞ~!」

 

「う、うわあ……*2

 

「良く分かんないけどラッキー!いっただっきまーす!」

 

 ……敵と呼ぶには、完全に呼びきれない……この感情は一体何だろうか。苦学生を見ている気分だ。だが、目を輝かせながらラーメンを食べる姿は、あまりにも敵とは呼べない。

 

「……大将、俺はあなたの優しさを学ぶべきなのかもしれないな」

 

「お、なんだい、アルバイトの応募か?悪いけど、ウチはもう人手が足りてるんだ。またの機会にしてくれよ、先生」

 

「いや、器量の大きさに感服しただけさ。流石は、柴大将だ」

 

「へっ、嬉しい事言ってくれるじゃねぇか、先生」

 

 大将との会話を楽しんでいると、座敷席からワイワイと声が聞こえてくる。便利屋の彼女達だ。一体何が起きたのだろうか。

 ちら、と視線をやれば、皆目を輝かせながらラーメンを食べている。

 

「お、おいしいっ!」

 

「なかなかイケるじゃん?こんな辺鄙な場所なのに、このクオリティなんて!」

 

 ……アビドス襲撃、なんて話を聞かなければ、ぜひともこのラーメンについて話し合いたいところだったが……。アレを聞いてしまった以上そうにも行かない。

 大将は大将で、喜びに打ち震えている。やはり料理人というのは、食べた者からの賛美が一番の褒美……なんだろうな。

 

「でしょう?でしょう?美味しいでしょう?」

 

 ノノミがスッと近寄り、便利屋の彼女達に話しかける。先ほどの話を聞いていたのかいなかったのか定かではないが、『客』として交流しているのだろう。

 

「あれ……?隣の席の……」

 

「うんうん、ここのラーメンは本当に最高なんです。遠くから態々くるお客さんもいるんですよ」

 

「えぇ、分かるわ。色んな所で色んなものを食べて来たけど、このレベルのラーメンはなかなかお目にかかれないもの」

 

「えへへ……私達、ここの常連なんです。他の学校の皆さんに食べていただけるなんて、なんか嬉しいです……」

 

「その制服、ゲヘナ?遠くから来たんだね」

 

「私、こういう光景を見た事があります。一杯のラーメン、でしたっけ……?」

 

「うへ~、それは一杯のかけそばじゃなかったっけ?」

 

 彼女達は仲睦まじく話している様だが、白髪の少女と大きなバッグを持った少女……確かムツキだったか。あの二人は気づいている様だ。対策委員会を見る目が、鋭い。標的を発見した時の目だ。

 ムツキ達は二人で話し合っているが、社長と呼ばれた彼女……アルはそんなことに目もくれず、一人楽しそうにしていた。

 

「うふふふっ!いいわ、こんな所で気の合う人たちに出会えるなんて!」

「これは想定外だけど、こういう予測できない出来事こそ人生の醍醐味じゃないかしら!」

 

 

 

 その後も、対策委員会とアルのラーメン談義は続き、ムツキ達は呆れた表情でアルを見ていた。これもまた、初めての事ではないのだろう。

 クライヴはと言うと、大将と試供品の試食日程を決め、退店の準備を始めていた……。

 

*1
なぜか「じゃ~ん!」という効果音付き

*2
ここのハルカ大好き




ダルメキアからこんばんは、私です。
空の文明の遺跡を探索していたら、野党に襲われて金品を巻き上げられました。

前書きで話した通り、今回から息抜きでぽろぽろ書き始めます。
ちょっと最近色々あって心のウィルゲージが削れ気味なので、息抜きさせてくださーーーーい!!!!!

こちらの更新もお楽しみに!!!!!では!
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